俺の事が好きなのであろう人形使いが毎回付きまとってくるのだが一体どうすればいいのだろうか? 作:エノコノトラバサミ
俺は悪くない。絶対悪くない。
「結婚しましょう」
「嫌です」
彼女から俺に送られた第一声がこの言葉だった事は、今でも鮮明に覚えている。
飛脚。外の世界では確か『タクハイビン』って呼ばれてた気がする。集積所に集められた便りや依頼された荷物を運び、相手に届ける仕事だ。
幼い頃から寺子屋を抜け出しては遊び回っていた俺は、他の子より脚も速く、体力もあった。その代わり、頭は悪かったけれど。
走るのが好きだった俺にとって、この仕事はとても楽しい。森で妖怪に遭遇したりもするけど、何だかんだで襲われたことは無いし、逃げ切れる自信もある。
だが、この仕事に就いて後悔した事もある。いや、絶賛後悔中だ。今、この場所で。
俺は今、仕事の真っ最中だ。目的地は博麗神社。依頼主は鈴奈庵とかいう店から。という訳で、俺は博麗神社へ繋がる森を駆けているのだが……
背後、おおよそ三十メートルという所か。
なんか付いてきてるし。木の裏に隠れてるつもりがバレバレだし。
「……おい!」
「──!?」
あ、頭引っ込めた。
そう、俺は今、ストーキングされている。しかも、これが初めてじゃない。なんかほぼ毎日いるし。
俺をストーキングしてる奴の名前はアリス・マーガトロイド。魔法の森に住んでいる人形使いだ。
何故俺がストーキングされてるか、その覚えは大いにある。無論、俺は悪くない。絶対悪くない。
ある日、俺は彼女に届け物をした。
魔法の森の魔力に耐えながら、なんとか彼女の家に着いた。魔力って毎日少しずつ浴びてると、段々と慣れてくるんだよ。
彼女に届け物をした。
「結婚しましょう!」って言われた。
断りました。
ハイ以上。もう、完全に好かれちゃいました。しかも人間的な意味じゃなくて性的な意味だし。最悪だよコンチクショウ! なんで俺好かれたんだよ!?
話し掛けようとすると逃げるし、全力で走ってもなんか付いてきてるし、これもうどうしようもねぇよ。つーか空飛んでるじゃん。羨ましい、メッチャ羨ましい。
という訳で後ろのストーカーを気にせずに森を駆け抜け、神社へと到着。パッと見、人の姿は無い。留守なのか?
居間を覗いてみよう。
「スゥ……」
寝てるし。タイミング悪ッ。どうすればいいものか?
仕事上、相手に確実に渡さないといけない。もし何処かに置いて誰かに盗まれでもしたら、信用ガタ落ちだ。起こすのもアレだし、起きるまで待つしかないか……
縁側で休ませて貰おう。勝手に入るのも悪いから、お賽銭でも入れとくか。
「あら、いらっしゃい。ゆっくりしていってね!」
賽銭入れた瞬間起き……なんで後ろにいるんだよ!?
「お届け物です」
「あら、ありがとう。疲れたでしょうから、中で休まない? お茶、出してあげる」
「いえ、結構です」
「あらそう。何か困ったことがあったら、またここに来て頂戴。この博麗の巫女が解決してあげるわ」
現金な上にナルシストかよ……そうだ!
「あの……実は、一つ困っている事が……」
「何?」
「最近、金髪の人形を使う魔法使いにストーキングされてまして、退治して欲しいんですけど……」
「え!?」
なんか遠くで「え!?」って聞こえたけど気にしない。
「分かった、アイツね! クゥオォラァぁぁ!! ぶち殺したるわァァァァ!!!」
「いや、ちょ、来ないでよ霊夢、イヤァァァァア!!!!」
……よし、帰ろう。
次の日。この日は生憎の雨。けれど俺は休んではいられない。雨具を身に付け、今日も手紙を届けに走る。
雨の日というのは、皆家に籠りがちだ。いつもは活気に道溢れてる大通りでさえ、雨が降ると人の声はあまりしなくなる。外に出なくなると、皆他人と会話をしない。こういう日に限り、便りは多くなる。
この日はひたすら里中を走り回った。途中から下半身が完全に濡れてしまったけれど、残り数件で今日は終わりだ。
雨はだんだんと強くなる。とうとう嵐に近くなってきた。梅雨時には早すぎないか?
「うォッ!?」
足元を滑らせ、うっかり転んでしまった。手紙は何とか大丈夫だが、上半身まで泥だらけになってしまった。これでは風邪をひいちまう……
残り数件を訪れ、何とか自宅へと帰る。
「おかえりなさい、ア・ナ・タ。ご飯にする? お風呂にす……まあ大変、泥だらけじゃない!? さあ、早く脱いで、一緒にお風呂、入りましょ♥」
……不法侵入者発見。直ちに排除する。
「ちょっと、何するの!? そんなに激しくしないで!!」
「出てけ変態野郎。もう一度巫女に退治されろ」
「もう、酷いわよ。霊夢ったら、私のア○○を○ったのよ♥」
「アタマを殴ったんだろ顔に痣あるから分かるよ伏せ字にすんなよ変態女風邪引いて引きこもってろ」
「アァン♥」
……俺が風邪引くわチクショウ。