俺の事が好きなのであろう人形使いが毎回付きまとってくるのだが一体どうすればいいのだろうか? 作:エノコノトラバサミ
いつもの朝。いつもと同じ風景。そして、いつもと同じ仕事。変態共に振り回されながら、日々楽しく過ごして……楽しくはねぇな。
という訳で、今日もまた仕事。もうこの下りメンドクセェな。次話からカットしていい?
集められた便りの内容を確かめる。昨日サボッちまったから多いな。まあ、幻想郷の皆さんは優しくから少し遅れても──!?
「おい、妹紅!!」
「なんだよ、今から体中のありとあらゆる首を切断しようとしてたのに」
「そんなことしてる場合じゃねぇ!! 速達だ!!」
「……分かった、今すぐ準備する」
そう、俺が見た物は速達の印が押された手紙。それも、宛先は永遠亭。間違いなく、病人だ。それも相当症状の重い、命に関わる病。
「飛べ妹紅! 全力で付いて行く!」
「OK! 見失うなよ!!」
こういう日は、もう他の手紙になど構っていられない。最速で届ける。これが俺の仕事。俺の取り柄、脚の速さを皆の為に活かせる唯一の方法なんだ。
「永琳さん!!」
なりふり構わず永遠亭へと入る。返事と共に鈴仙が現れた。
「永琳さん、居るか!?」
「え、師匠なら、今取り込んでますが……」
「速達だ! 上がらせて貰う!」
「あ、ちょっと!?」
診察室にいた永琳は、もう明らかにヤクを吸ってラリっていた。今はそんな事してる場合じゃない!
「永琳さん、急患だ! 今すぐ来てくれ!」
「……そろはな……あおいくふりろっれ……」
「この薬だな!!」
棚の手前にあった青い瓶にある液体を、永琳に飲ませる。
「……ウッ、ゲフッゲフッ!!」
「おい、大丈夫か!?」
「……ええ、心配ないわ。行きましょう」
ヤクが切れた、流石医者だな。
「案内する! 付いて来てくれ!!」
人里の大通りから少し離れた、平屋の住宅街。便りの届け主はこの家だった。若い夫婦に少年が一人。家族構成はごく普通。そして、病を患わせているのは、よりによってその少年だった。
「……長期間の熱、血痰の伴う咳……結核の可能性が高いわ」
永琳さんの宣告を、俺を含めたその場にいる全員が静かに聞き届けた。
結核。一言で言えば『死ぬ可能性が高い難病』。主に肺を蝕み、少しずつ破壊していく。大人でも過酷なこの病を、こんな子供が……
「……治す方法はあるんですか?」
「…………」
その沈黙が、何よりの答え。質問した少年の母親は、泣き崩れてしまった。
別室から、少年の酷い咳が聞こえる。枯れそうな声で咳き込んでいる。とても辛く、苦しそうだ。
……俺に、何か出来ないだろうか? 最早仕事なんてどうでもよかった。
「一度永遠亭に戻って、薬を持ってくるわ。症状を落ち着かせる薬なら、すぐに作れるから」
「ええ、お願いします」
家から出ていく永琳さん。今、少年は部屋に一人だ。結核は空気感染する。不死ならともかく、普通の人間が移ったら非常に危ない。少年にとって赤の他人である俺でも、彼の傍らに居てやれない事が心苦しい。
「……ぇ……な……の……」
「ぼ……し……ぅ……」
ふと気が付けば、話し声が聞こえてきた。枯れた少年の声と、もう一つ、永琳さんではない誰かの声。不思議に思った俺は、襖を少しだけ開け、覗いてみる。
「へぇ、新太郎っていうんだ」
「うん……おねぇちゃんは?」
「私はアリスって言うの、よろしくね」
「アリス……おねぇちゃん……」
お前、何してんだよ……
「調子はどう、新太郎くん?」
「少しだけ……良くなった……」
「そう、おねぇちゃんのおまじないが効いたわね」
俺は二人のやりとりを、ずっと覗き見ていた。恐らく今、俺は行くべきじゃない。
「新太郎くんは、欲しい物とかあるの?」
「……ないよ……お母さんやお父さんに……迷惑かけちゃうもん」
「……良い子なのね」
「うん……僕、おばあちゃんと約束したんだもん」
「おばあちゃん?」
「おばあちゃんが良い子にしていれば、きっとまた会えるって……僕、約束したんだよ」
「そうなの……」
二人の話をある程度聞いていた俺は後、母親に質問した。
「あの子のおばあちゃん、どうしたんですか?」
「それがね……去年、亡くなってしまったのよ……」
「…………」
「それまでは元気だったんたけど、ある日眠るように冷たくなっててね……私も驚いたわ」
「……ありがとうございます」
結局、出来る事がほとんど無いと悟った俺は、永琳さんが戻ってくると同時にそこから出ていった。
帰り道、俺はふと立ち止まった。
「アリス。お前はどう思う、あの子の事」
「……何も出来る事は無いわ。あの医者でも治せない病気を魔法でどうにかしようなんて思わないでよ」
「いや、そうじゃない」
「じゃあ何?」
「……死んだ人にもう一度会う方法、知ってたりしないか?」
「…………」
「だよな……当たり前だ。そんな事が出来る訳ねぇよな」
「……閻魔様なら知ってるかもね」
「たまに幻想郷に降りてくるって話は聞くけど、時間が無い。直に死んで会いにでも行かな──!!」
「どうしたの?」
「……いるじゃねぇか、いつも死んでばかりのイカれたモンペ野郎が!!」
……え、いつもと違う? 気のせいだ。