そこにある花‐その先へ‐   作:待兼山

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間章

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蓉子たちが○×国を離れた日の夜、未だ野辺送りから戻らないばあさんを迎えに祐巳は市場に行った。

お兄ちゃんが働いていた量り売りの惣菜屋、夜はばあさんが良く酒を飲みに来る。祐巳が蓉子たちを紹介した店ではばあさんには広すぎる、そう言っていたのを思い出す。

「ばあさん、子どもたちが心配してるよ。帰ろう」

喧噪の中でも祐巳は静かに言う。そんな祐巳が忌々しいものであるかのようにばあさんは視線を逸らし、欠けたその店愛用のコップを見つめる。

「ユミか。帰れば良かったものを、まだ、ここに居るのか」

日本語と現地の言葉のミックスでしっかりと言うばあさんの顔は憂いが染みついている。

「ばあさんも知ってるでしょ。日本に私が居たら、“戦争”だって。長老亡き後、色んな人間が跡目を狙う。成りたい奴らで勝手にやってればいいんだ」

祐巳はばあさんだけが知る、吐き捨てるような言い方をして席に着く。

「誰が座れと言った?」

凄みを見せるが親しみを込めるような、孫を叱る祖母の優しさで祐巳を見る。

「早く帰らないから。ねえ、ばあさん。感情ってどんなの?」

祖母に甘えるかのように、祐巳はばあさんに聞き飲み物を頼む。ばあさんはそんな祐巳が珍しく、少し時を止める。

「わかんないことが増えて、持て余すんです。どうやって楽になれるのか考えるのに、あの人たちは優しくてでも、生きる世界は交わってはいけないんです」

そんな祐巳をただばあさんは眺める。先ほどと違い、一切の感情を送らずにただ、眺める。

「お前は、選ばれなかった人間だ。そして、選ばれた人間に選ばれた。境界線上にいる、痛ましい人間なんだ。可哀想に、お前はあの男なんかと出会うべきではなかったのだ」

顔には悲しみを湛えているが、声は冷酷さを醸し出していた。

「ねえ、ばあさん。あんたは、もともと『闇の女王』であったんでしょ」

祐巳は何も浮かべずにばあさんに言う。

「さあ、な。ばあさんはばあさんだ。」

そう笑うと立ち上がり、店内に入って行く。入れ替わりに祐巳の背後に長身だが、気配を失くした女が立って居た。

「Kか。どうしたの?『闇の女王』ではない私はお呼びでないんじゃないの」

自身さえも嘲るように祐巳はその女に訊ねるが、ただ伝達する欠陥高性能のアンドロイドかのように女は言葉を吐きだす。

「長老と『闇の女王』亡き今、騒がしいです。お帰りになられるには不向きです。反も支持も、かなり血気立ってます」

肩を竦めて祐巳はコップを手に取り、その女に差し出す。

「わかってたさ。私には選択肢がないんだから。」

店内からばあさんと店の主夫婦がこちらにやって来るのを捉え、その女はコップを取り飲み干す。

「私は『闇の女王』でなくとも返り咲こうともどうでも良いのです。どうかご無事で」

そう告げ、人波に紛れ消える。

まだ店主と話すばあさんを確認し、祐巳は夜空を見上げる。かつて祐麒が良くしていたように、その向こうを求めるかのように。口ずさむのはいつもの童謡で、不在を紛らわせるように。

 

 

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日本では、祥子が目を覚ましカウチに身体を預けていた。柏木と結婚し、名目上二人で暮らしている家で。お互いに夫婦揃っての出席の帰りでしかこの家には足を向けない。そこには不都合も不便さも今は感じさせないから、祖父ですら口を挟んでこない。

そして、祥子は夢を見た感覚からやり場のないため息を吐く。

リリアンでの自身の生活、そこにはいつも義務があった。今でも義務は付き纏う。平坦で、江利子がいつぞや言った、面白味の無い人生。だが、夢の中の自分はハラハラし、人生に彩りが加えられていた。経験したことのないあり得ないそれは、何故自身の夢の映像で見たのか不思議だった。

知る人物たちも皆、楽しそうで、そう誰もが毎日笑って居たのだ。

知らぬ間に微笑んでいた。瞳子や柏木ですら、そして姉の蓉子ですら余り目にしない表情で。

 

 

 




祐巳、帰国にあたりこれはどうしても入れたいと感じられて...自分でも思うのは“未完”のままにしないでいられるのか?です...

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