そこにある花‐その先へ‐   作:待兼山

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第二章
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空港からモノレールに乗る。それまでの間もこれからも、ひっきりなしに視線を感じる。この独特な視線、反長老派であり、私支持であった人物が抱えている人間のものだ。ため息を吐く。

今日帰国することは蓉子さんに伝えたが、平日の昼間にしたのはこれがあるから。蓉子さんは中抜けか、半休を提案してきていたが断った。要らぬ悩みを抱え込みたくない。

人ごみに紛れさす間、記憶を頼りにと伝えられた指示通りに蓉子さんのマンションに行くのは容易い。ばれるのは、蓉子さんや他の人たちに迷惑が掛かる。

(迷惑が掛かるか。甘ちゃんの考えだね)

そう考えて、尾行者に笑い掛ける。

バツの悪そうな気配を感じる。正当に武道を習得し、支持しているあいつの警護に付いてる人間自ら発されたものだろう。

少しかき回したくなり、若者が多い駅で降りれるように乗り換える。

何処かでネット回線を使うか公衆電話を使うか。

考えが歩調を鈍らすことはない。そして、尾行者も気を張りすぎることなく平日の休みを満喫してる、そんな素振りを醸し出しているのだろう。

乗り換えの駅に目的の電車が着く。乗り込み、路線図を確認する人間よろしく見上げながら周囲をざっと確認する。空港からの尾行者しか今のところ居ない。

路線図から電子公告に目を移すとチェーンのネットカフェが映されていた。会員ではないせいで時間が掛かる、その間に尾行者に接触されてあいつにご対面なんてことになり兼ねない。

考えを巡らせながら、目的の駅で下車する。吐き出される人間と乗り込む人間が多すぎてしばらくは稼げるだろう。

 

あてもなくぶらぶら歩く。さも目的があるかのような気配はさせる。キャッチやナンパ、尾行者に捕まるのは気が進まない。

人波に飲まれてると百貨店に入ってしまい、思いもしない人物たちにまさかのご対面をしてしまう。

「あっれ~?今日だっけ?」

アクセサリーコーナーでは購入目的ではなく、この声の主とその連れ目的かもしれない人間が視線を送ってくる。

「まっすぐ蓉子のところに行かないで、道草は駄目じゃない」

言葉は注意をしつつ、顔には好奇心と期待からかにやりとしている。

「ええ、まあ。とりあえず、協力してください」

とりあえず以降は小声で、経験上佐藤さんではなく鳥居さんの近くに寄る。

「え?マジで?」

佐藤さんは伝わったのか怪しいことを言う、もしかして鳥居さんの側に寄ったことに対してかもしれない。鳥居さんを見やれば、少し視線を入り口に。

「あら、祐巳ちゃんたら変な虫に好かれるのね。ちょっと待ってね」

最後は小声だが、尾行者に聞こえてるであろう。鳥居さんにしたのも間違いかもしれない。

購入する為に店員に話しかけ、佐藤さんと鳥居さんは何か会話している。入ってくる人波の誰かに紙片を押し付けられる。

“ご連絡をお待ちしております。私はあなたの味方です。O”

蓉子さんたちに出会い、私は経験したことがない尽くしの積み重ねをしている。

 

落ち着いた雰囲気の喫茶店に入って二人に説明を求められ、話しだそうとすると先ほどの男とあいつの秘書が入ってくる。この喫茶店の雰囲気からして行動は起こさないだろうが、油断は出来ない。まな板の上のなんとやら。

「おお~い?意識飛ばすのは場所が違うんでない?」

佐藤さんのオヤジが顔を出してきてる。

「聖、ドン引きするわよ」

鳥居さんが顔を顰めてる。二人がやり取りをしてるところに後ろに気配がする。

「差支えなければ、ご一緒に来て下さいませんか」

あいつの秘書の声が耳障りに聞こえる。私はこうも何かを分別するような、複雑な仕組みを持ち合わせていたことにばあさんが言っていた胸が熱くなる気持ちを場違いにも抱いた。

「嫌だと言ったら?」

私が見当違いのことを話しだし、そして後ろの人間に驚いた二人の顔。

「御大がお待ちです。来て頂かないと、実力行使をせざる得ません。お連れ様である女性のお二方にもご協力頂いて」

差支えなければ、そう断りを入れておきながら実力行使をすると言う。矛盾だ、丁寧でありながら有無を言わせない口調。あいつが可愛がる秘書は有能だが、女性受けはしないだろう。佐藤さんは確実に、鳥居さんまでもが顔を僅かに歪ませてる。

「行けば、この二人は協力しなくていいんだね?」

秘書に笑い掛け、立ち上がる。

「勿論で御座います。御大はあなた様がお戻りになられること、そしてその歓迎を手厚くなさりたい一心で探されておりましたから。」

私の中の空白にぽつんと、小石が落とされる。

「というわけで、今日は遅くに伺わせて頂きますとお伝えください」

展開に付いていけてない二人に笑顔で言ってみる。

「は?本気?というか、なんなのこの人たち」

不快感からくるであろう、機嫌の悪い鳥居さんはその感情をぶつけてくる。佐藤さんに至っては男たちを睨みつけてる。

「昔の知り合いですよ、正確に言えばその部下。心配しなくてもいいですよ」

多分、この人たちがもう見ることが無かったはずの『闇の女王』で言う。息を飲む、双方からその気配が感じられる。気にすることなく足を入り口に向ける。

「20時になっても来なければ、こっちも相応の手段を取るわよ。連絡が有ろうが無かろうが、きっかり20時、よ。」

鳥居さんが機嫌を更に悪くさせて私と秘書どもに言い聞かせる。店内の客が何事かと注意を向けてる、これは目撃者を作ってもいるんだと知らしめてるのか。

「だって。これ以上悪くさせたくないから手短に終わらせたい。手強い人ばっかりだからさ」

秘書に話しかけたのが、鳥居さんにも佐藤さんにも聞こえてたらしく鳥居さんを佐藤さんが宥めている。珍しい光景、明日は雨かな。

 

 

/

蓉子さんのマンション前に支払いが済まされてるタクシーでやって来た。メーター近くにある時計に目をやれば、19時45分を少し過ぎた頃。この抱く思いが憂鬱ってのかな。

鳥居さんと佐藤さんにより、話はいってるはずだし二人も部屋に居るはずで。共感や同調などの作られたため息でなく、どこからかの場所から湧き出るままにため息を吐く。来訪チャイムを鳴らす。

「はい?」

毅然としつつも警戒の色がある声が聞こえる。

「来ました、祐巳です。一人です」

ただ伝えたのがいけなかったのか、間がかなりあった。

「...解除するわ。上がって来れる?」

剣が見え隠れする。

「はい。」

言い終わらない内に開錠される。エレベータで蓉子さんの住まいの階に、人感応式か何かで静かに流れるクラシック。ここのセキュリティは小笠原グループなはず。姉を想い、ここを勧めたのかもしれない。

目的階になるとモニタに階廊下の様子が映し出され、女性には安心サービスってやつかな。直ぐには進まずに、耳を澄ましてみる。どこかで犬を飼ってる。平和ボケした日本、ふいに長老が浮かぶ。

気にすることなく蓉子さんの部屋に付き、チャイムを鳴らす。インターフォンが取られることなく、ロックが外される。ドアに手を掛け、蓉子さんは仕事からの疲れを滲ませる顔とスーツのままで迎えてくれた。

「色々、聞きたい事だらけだけれど...お帰り。」

言い終わるや部屋に引き入られる。鳥居さんらの靴は無い、でも仄かに飲食店の匂いがするからご飯を共にしてたのかも。

「ただいま...蓉子さん、痛いよ。放してとは言わないから、緩めて?」

強く抱きしめられ、お願いしてみたものの首を横に振られ却下される。深く息を吸い込む、吐き出す前にキスされる。軽く、でも深い。

「心配させないで、江利子たちが居なかったらどうなってたんだろうって」

そう言うと蓉子さんは泣き出した。

「ごめんなさい。どうしてもって言うからさ、それに何かあったら嫌だし。」

まるで街中で交わされる浮気を誤魔化す人間の定型文。小笠原さんに知られたら、瞬殺かな。

引きずられるようにリビングに、ソファに落ち着くと何かに気付いた蓉子さんが口を開く。

「祐巳、荷物はそれだけ?」

まさか、とでも言いたげな顔を裏切ることになるけど。

「これだけ。必要になれば買うから」

ボストンバック一つ、それだけあれば大丈夫な生活しかしたことがない。

「さっきもそうだけれど、常套句だらけね。」

ため息と微笑みを同時にやっても蓉子さんは様になる。他人事のように感じられてたが、私はこの人とこれからの見えない時間を向き合うのだ。

「明日、買い物に行きましょう。祥子も会いたがってるから。」

そして、この人たちに関わるしかないみたい。

 

 

 

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