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さっきまで小洒落た街並みに居たのに、なんで蓉子さんの部屋に帰って来てるのか。この人たちはパーソナルスペースを大事にしてるのか。もしかしたら、聞かれたくない配慮かもしれない。○×国は日本語で話しても理解ではなく、どう応対していいのか、を考える手段でしかされない。
わいのわいのと佐藤さんと鳥居さんがキッチンで何かをしてて、蓉子さんは部屋着に着替えに行って、私はリビングのテーブルに居るようにきつく言われた。逃走なんて分が悪いし、した所で何があるんだろう。
「祐巳、疲れた?」
肩に優しく手を添えられ、蓉子さんの気遣う声が耳横で聞こえる。
「ほどほどに。佐藤さんと鳥居さん、何やってるんですか」
視線をキッチンに向けて興味があるともないとも言えないことを聞いてみる。
「ああ、ご飯よ。聖は朝食メニューが得意で、江利子は美容関連には特化してるから。味は保障するわ」
こちらに背を向けてる二人を良いことに蓉子さんは抱きしめてくる。
「お二人は、興味がないと本当に動きませんね」
後ろから抱きしめられてるから、首筋に蓉子さんの顔があった。息が大きく吸い込まれ、吐き出される。
「私もよ。祐巳が関わる以外の事に、祐巳が生きるのに必要な事以外はどうでもいいのよ。」
結構、蓉子さんて真面目なイメージが先行してるけど、実は飲めり込むと...。体温が離され、佐藤さんと鳥居さんがこちらに向く。同時に、子どもが嬉しそうに笑うように満面の笑みをくれる。
蓉子さんが二人に色々、言いダイニングテーブルに移動する。
まあ、いいか。そう思い、私も向かう。
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関西風のだし巻と関東風のだし巻、お豆腐とわかめのシンプルなお味噌汁、鮭ときのこのバターホイル焼き。それに人数分以上のサラダ。ドレッシングは作り置きだろうが、手書きで味の表記シールが貼ってある。
「ささっ。祐巳ちゃん、食べたまえ。素朴な料理ほど難しいのだよ」
佐藤さんが講釈を打つ。長老も似たようなことを良く言っていた。
「ドレッシングは私のと令のがあるからね。当たれば、絆が深まるわね」
鳥居さんが実は先ほどのシーンを見ていたのかと意味深なことを言ってくる。
「はいはい、ありがとうね。江利子に聖。祐巳、気にしなくていいわよ」
ご機嫌麗しくない女王様ってところか。最近、起伏の変化が激しいように感じられる。○×国でもそうだったのかもしれないけど、私には奥の奥まで読み取れるほどの力があるわけでもない。
箸を手に取り、長老が良くやっていたようにお辞儀をし、頂きます。と言い、十穀米も入れられたご飯が盛られた碗を取る。何故だか視線を感じ、顔を上げる。
「どうかなさいましたか?」
三人がこちらを向いている。不思議な行動でもしただろうか、自身の常識は他人の非常識と言っていた長老が浮かぶ。
「祐巳ちゃんって、お箸の持ち方や挨拶を欠かさないとか礼儀正しいよね」
佐藤さんが感心したかのように言ってくる。年下だけど、そこまで年下ではないのにな。
「そうですか?気にしたことないので分かりません」
蓉子さんの顔を見れば微笑んでる。
「お箸の持ち方なんて、聖より綺麗じゃない」
微笑みが更に満面の笑みになり、我が事の様に佐藤さんをけなすとも言えることを言っている。
「そうそう。聖の持ち方って癖有りすぎよね。蓉子が変えようとしたらお節介。で一蹴されただけだし」
鳥居さんが思い出す様に笑ってる。佐藤さん、こてんぱんの立ち位置は変えようないんですね。
「母の見よう見まねです。だから、米粒は掴めないし、行儀作法なんて知りませんよ」
笑顔を添えて事実を伝える。でも、三人は少し戸惑いを隠せないままの表情を浮かべている。疑問に思うけど、敢えて聞かない。
「見よう見まねって...。幼稚園やお母さんとかが教えなかったの?」
ほら、蓉子さんが聞いてくるから。
「幼稚園は行ってません、義務教育じゃないから。母は、私に何かを教えることをしませんでしたし。家には子ども用のものが無かったから」
家と呼べるか曖昧な質素な部屋から、広すぎる部屋。付き合う人によって住む部屋がいつも変わった。苗字すら変わることもあって益々、私の存在はいつも薄くなりながらも影が濃くなっていた。
「本当に祐巳のお母さんは失格ね。」
普段、口調にも気を付けながら言葉を選ぶ蓉子さんは、吐き捨てるように言った。これに驚く鳥居さんと佐藤さん。顔には「あの蓉子が?」と書いてあるようだ。
曖昧な笑みを出しながら、出し巻を口に入れる。美味しかったから蓉子さんのを奪って空気を変えておく。
蓉子さんが食洗機を、鳥居さんがドレッシングの保存やらに、佐藤さんはコーヒーを淹れてる。
こうして背中を見れば、写真にある高校時代から続く交友関係が羨ましく感じる。
卒業して三人は違う大学に進学し、後輩によって強固にならざる得なかったとしても、災い転じて福となす、だろう。違うかもしれないけど。
ぼんやりとばあさんの家から持ち出した絵本を見てると、三人が戻って来てソファに座る。
「さてと。祐巳ちゃんには昨日のことを説明してもらいましょうか」
佐藤さんがコーヒーを配ってくれて、鳥居さんが聞いてくる。気になったときに、直ぐに聞かないのは大人だからか猶予なのか。
「全部とはいかないかもしれませんけど。少し巻き込みましたし、説明します」
全部ではないというと三人が、三人とも顔を顰める。
「名前とか、知らなくてもいいことは知らない方がいいんですよ」
突き放すように敢えて、言う。それは必要なこと。死すまで寄り添えるとは限らない、この縁。そして、それが私の選んできた人生の道だから。