そこにある花‐その先へ‐   作:待兼山

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第2話

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夏の日射しが屋内から出たばかりが一番きつい、そんな風に感じながら私は裁判所を後にする。

特に今日は、黒いスーツとアスファルトに近いパンプス。

目眩を起こしそうな予定をずっと、こなしてきたから小休止をそろそろ入れたかった。

戻る前に、涼もうと喫茶店に入った。

スマホを取り出して電源を入れ、新着メッセージと留守録確認。

親友から強制的な誘い。

気遣いに有り難くも、心苦しくなる。

こうして一週間~二週間に一回は必ず、誘ってくれる。

祐巳が居なくなった事実、真実が私を仕事へと逃避させるから。

 

甘えられる立場だった私は、甘える立場に。

 

紅茶を飲みながら、思い出す。

祥子はあれから、会社の執務室に飾っていた向日葵の絵をどうしたのだろうか?一時、外していたのを指摘したら私が来た時も、祥子自身も辛いからと言っていた。

向日葵の光りと影を上手く表現された、それだけの絵。

それだけなのに、江利子が紹介したギャラリーで祥子と二人、気に入った。

 

祐巳の最後の顔、涙。

祐巳が福沢祐巳だったら、リリアンに通ってたら...のたらればの言葉。

私たちは出会えた?

 

 

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江利子、聖を指定された場所で待つ。

昔からあの二人は時間の概念があるのか。部下たちに同情する。そう思っていると、聖が人目を引いてやって来る。

「やあやあ、聖さんだよ。」

呑気に、部長らしくない恰好で現れる。今日、平日よね?

「見れば分かるわよ。」

大げさにため息を吐く。

「江利子は?今日、午後から適当な仕事しかないって言ってたのに...」

聖が少し不満気に、私の言葉を流しながら呟く。

「さあ...ね。あら、来たんじゃない?」

江利子が淡い黄色のワンピースにサマーカーディガン、これまた会社のトップと言いにくい恰好で。

「買い物してたら遅れちゃった。ごめんなさい」

言葉とは裏腹に、顔は嬉しそうだ。

「どったの?可愛い店員でもいた?」

聖が私の気持ちも含めて聞く。

「懐かしい顔を見つけたのよ」

江利子が好奇心を満たす猫のように笑う。

「ふむ。誰だね?待つんだ、江利子くん。まずは、ビール。それを片手に聞こうじゃないか」

聖が最近ハマってる、海外ドラマの聖オリジナル訳の聖が大好きな脇役のように江利子に言う。江利子は、「誰が、江利子くんよ」とハイヒールで器用に蹴ってる。

騒がしい二人に挟まれると、落ち着く。

祐巳とたった一度、重ねた体温がまだ私を不安にさせるから。

 

 

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江利子が最近見つけた東南アジアの無国籍料理のお店は結構、女性人気で軽い喧噪があって今日の話題的には良かった。

「ふ~ん。武嶋蔦子、ね。」

聖は思い出せないのかしら?

「眼鏡に、カメラ。聖が良く、からかってたあの子よ。志摩子や由乃ちゃんと同学年の」

私が聖にキーワードを出す。何か引っかかったのか。

「ああ!あの子ね。それで、江利子、どうしたの」

少し大きな声で言うもんだから、近くの女性客がこちらに顔を向ける。

「聖。もう少し静かにね。風景とか自然やその中で生きる人々を確か、撮ってるんじゃなかったかしら、今。」

聖を窘めつつ、おぼろげにしか分からない彼女の情報を言ってみる。

「そうみたいね。知り合い伝いに、一度仕事したんだけれど良い仕事はするのよ。人が風景です、そんな写真だけれど。」

江利子が苦笑いを混じらせ、言うってことは彼女は人に興味がないってことかしら。

「へ~。変わり者だね。江利子は興味対象バンバンだね」

聖は、ビールを飲み話に興味が薄れ店員にお代わりを注文しだした。

「まぁ、プライベートや昔なら、ね。」

江利子が醒めた口調で言う。今、芸術というかアーティスト関連は迷走してるのよ。そう、深酒を江利子がしたのは一週間前。聖は、コーヒー豆や日本に未入荷の食品や雑貨の買い付けに海外を飛び回っていた週だった。だから、江利子の仕事が停滞してることは知らない。

空気の違和感を聖が察知し、何か言いかける前に遮るように。

「武嶋さんがどうしたの?」

江利子が視線に感じ、いつものように笑ってみせる。

「私たちにとって、どうしたらいいのか...って思わせる写真を持ってたの。○×国で、通りすがりの人物を撮ったらしいのだけれど」

聖はさっきの違和感に顔を顰めてる。内容次第では、江利子の話を優先すべきね。

「そう。どんな?リリアン在学だった人かしら?お姉さま方とか」

料理に箸を伸ばしつつ、優先を思案する。

「江利子、もったいつけすぎ。」

聖が、会話を切り上げて違和感を感じた話に移りたくて野次を飛ばす。聖がここまで野次馬根性を出すとか、親友想いだとかそんな面を見せだしたのはあれからかしら。

人間味を身に着けれたのかしら。

「私も、思うわ。でも、安易に言えないし...ただの空似かもしれないし」

江利子の視線が私だけを捉える。

心臓が何故か、ゆっくりになり耳元で聞こえる。

「蓉子に関することなわけ?で、誰?」

聖が、私と江利子を交互に見る。心なしか、江利子はらしくもなく言うか言うまいか考えてるようだ。

「江利子、内容や誰かは分からないけれど、言ってもいいわよ。私はあんた達二人に、祥子やみんなに支えて貰えたんだから」

あれから半年、小林くんに渡された手紙から一か月。

仕事を詰め込むことに変わりはないが、徐々に受け止めだせる準備は整いだしている。

江利子は深く息を吸い、吐き出した後、お決まりのシャンディガフを飲み干した。

「この写真みて。武嶋さんに見せてもらって、さっきまでは何だか夢を見ている感覚で。いざ、ってなったら少し怖い」

仕事のこともあり、江利子は弱気を見せる。

三人だから見せる面。

誰かが加われば、プライドが邪魔する。

それは聖も私も持っている。

 

その写真には、判別が付きにくいではなく分かってしまうくらい知りすぎて分からない人物が映っていた。

「なにこれ...どうして」

聖が掠れた声を出す。急いで、ビールに手を伸ばしている。

「武嶋さん、風景みたいにしか人は写さないのに、この写真だけこの人物と子どもたちにピントがいったんですって。ビザ関係で、撮った日に帰国しないといけないから何枚か連写して手続きに行ってそこに舞い戻ってみたらもう居なかったらしいわ」

だから、公的な出展も自身の写真集にも載せないそうよ。と付け加え、三人分のドリンクを注文している。

私はただ、その写真を手に抱えて、見ているしか出来なかった。いや、したくなかった。

「江利子、それでどうしろと...」

聖が戸惑いを江利子にぶつけている。二人のやり取りはもう、BGMでしかない。

 

これが私、いや、私たちの運命を動かしていく。

 

 

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