そこにある花‐その先へ‐   作:待兼山

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由乃や蓉子視点の混在です。
最後にちょろっと祐巳視点が入ってます。


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由乃ちゃんから何度も着信を受けていた時から嫌な予感はあった。いや、今日家を出た時から蟲の知らせとして飲み込めないつっかえがあった。

それがなんだか分からなかった。今日の裁判が長引くとか、緊急案件が出るとかかもしれないと考えてやり過ごそうとしていた。

勝手に開けられた箱の中身は、祐巳との時間を過ごしているであろう由乃ちゃんからで。

休憩の度に画面を見るが増える一方で、合同で担当している部下たちに声をかけようとした時、江利子からの着信で決定的になった。

「藤沢君、悪いんだけれど...前に担当した案件がぶり返したみたいなの。任せてもいいかしら?」

私と同年齢の藤沢君は、遅れて資格を取ったが、机上だけではどうにもならないと分かっている。

「もちろんです。今日だけでは決着つけれませんしね」

そろそろ席に戻らないといけない時間になり、足早に行く人に聞こえないようにしながら理解を示し言ってくれる。

「ありがとう。報告書などは私が引き受けるわ。埋め合わせも」

急く気持ちをおくびにも出さないように気を付けながら私は、後にする。

建物から出て、直ぐにスマホを出し江利子に掛ける。

『遅いっ。今どこ?とりあえず、落ち合って話すから』

珍しく慌てた江利子の声にあの日を思い出す。

タクシーを運よく捕まえて、行き先を聞きだし伝える。

「小林くんにも連絡してみるわ。この前に連絡先、聞いておいたの」

聞いておいて良かった、そう安堵すればスマホの向こうで唸る江利子が顔を見せていた。

『こんな時じゃなかったら会いたくないけど、緊急事態よね』

言い聞かすように言う声に少し笑い、声を掛けて切る。

訳のわからない事態、でもこれは祐巳に関わる事だと理性と本能が告げている。

 

 

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令ちゃんが仕事の顔つきになり、道路向こうが目的の店だった。そこから騒がしさが聞こえてきた時に、祐巳さんに関わることだと判断を下した自分を誇らしく思いながらも焦りを感じた。

だってまた離れ離れは嫌だし、これからを挟む人間は祐巳さんの前に現れて欲しくないから。もう十二分に苦しんできたはずだ。心が感情がない、そう言う祐巳さんでもどこかで苦しんでただろうから。

蓉子さまは連絡がつかない、さっきから。何度か掛けては切り、掛けてを繰り返し、らちが明かなくなり江利子さまに掛けて状況を伝える。

「あのバイク、祐巳ちゃんの知り合いかな」

令ちゃんがおとぼけとも言えないことを言う。確かに、祐巳さんらしき人間が乗ったバイクを運転していた人間はまるで、このことを分かっていたかのよう。

「令ちゃん、集合するわよっ。よく分からないままは、全てを無にすることが有るから」

令ちゃんは仕事柄分かり切っているのに、優しく頷いてくれる。

 

集まった皆に令ちゃんが率先して話をしている。

蓉子さま、江利子さま、聖さまだけだけど。

「わかったわ。祐巳、かもしれないのね」

蓉子さまは、あの日のように冷静を押し出していた。でも、手は震えていた。

聖さまが祐巳さんが帰国した日のことやその説明を真剣に話していた。それを聞いた私も令ちゃんも、口を閉ざしていないと怒りと悲しみを無意識に出してしまいそうで。

「蓉子、小林くんはどうって?」

江利子さまが飲んでいる紅茶がさも苦みがあるかのように渋い顔をさせながら言う。江利子さまお気に入りの紅茶専門店で、適温に淹れられた紅茶なのに。

「放り投げて来てくれるそうよ。途中で情報を拾って」

珍しく主語の欠けた言葉を今度は震える声で言う蓉子さま。

「やるじゃん、小林のくせに。」

聖さまが場を和まそうとおちゃらけた口調で言う。

「気になるわね、そのバイク。令、性別はわかった?」

いくぶん取り戻した蓉子さまが令ちゃんに訊ねている。

「性別までは...。結構、早かったので。ナンバーとかは今、照会してもらってます」

令ちゃんは冷静に対応して、非番中に起きた街中の騒動を管轄の署の知り合いに連絡していた。私も記者やフリーで動いている人間にそれとなく聞いている。

それぞれがそれぞれに考えを浮かばせていると、不似合いでありながらもおばさま受けしそうな人物がやって来た。

「遅れて申し訳ありません。」

自分の不似合いさを分かっているらしく、低姿勢で話しかける。

「もう少し早く来れないものかしら」

江利子さまが嫌味をそのままの口調で言う、それくらい嫌っているのだろう。聖さまに至っては視線を向けただけ。

「勘弁してください、新幹線車内で連絡受けたんですから。」

苦笑い気味にあくまで落ち着いて対応する男が私も気に食わない。

「それで、小林さん。分かったんですか?」

仕事口調で私は訊ねる。聖さまがにやりと笑った。

「多分、この男でしょう。シールー、本名かは分かりません。25になりたて。母親同士が昔仲良かったみたいで、祐巳を慕っていたみたいです。」

店員がやって来たので一旦切られる会話。

「よくそこまで分かりましたね、蛇の道は蛇ですか」

令ちゃんは現場に立つことはないのに、そんな目で小林さんを見る。

「ええ、まあ。掴めたのはそこまでです。あんまり刺激したくないのですが、奥山さんに連絡を取っています」

小林さんは、神経を店内に回している。

「奥山さんって、誰」

聖さまが真剣な眼差しで聞いている。

「水野さんに連絡受けた際、聞いたんですが。空港から祐巳の後を追っていた人間の飼い主です。地方の風俗産業を発展させた、ボンボンでありながらのやり手です。祐巳と一緒に居る時に声を掛けたら、祐巳は良い顔しませんでしたが紹介してくれました。手懐けてる人間は何人かいるんでしょう。バイクの人間もそうでしょう、そうでありたい」

言い終わると懐を探り出す。

「ここ、禁煙よ。」

江利子さまが先回りして言う。なかなか刺のある言い方に皆、笑いを溢す。

「いらいらや緊張するとどうも」

小林さんは苦笑いして答える。確かに微かに汗が浮かんでいる。

「お前でも緊張するんだ」

聖さまは呑気に言っているけど、どこか警戒している。

「そりゃしますよ。裏社会とか言われてますが、俺の生きる世界は表をなぞるとこがあります。祐巳が知っている世界は、全て覆されますから。生き死にに躊躇すること、即ち己に死あるのみ。」

俯かせていた顔の中で瞳だけが鈍い光を点らせている。店員が注文の品をテーブルに置いて立ち去るまで黙した場。

「祐巳は今、微妙な立場でしょう。祐巳支持派、反支持派。俺も叔父貴や幹部連にそれとなく聞いてきましたが...舞台に上げられる事は必須の状況です。」

紅茶専門店でコーヒーを頼む小林さんは、置く方も置かざる得なかったのだろうが、水の様に飲む。

「奥山さんは、敢えて舞台に上がらせて有無を言わせない様にしたがってるようです。祐巳にとってそれが一番の生き方だと。」

そう言い終わるや携帯を片手に立ち上がる。

「連絡ありましたので、一旦出て来ます。」

 

 

「困ったわね、祐巳ちゃんはどうも...逃れられないのかしら」

江利子さまが本当に困りながら言い、蓉子さまを窺う。

「そうね...でも、祐巳を支えれるのは私たちだけよ...」

か細くなる声をそのままに言う蓉子さまを初めて見たかもしれない。

「そうだよ、祐巳ちゃんは立派に私たちの仲間だよ」

聖さまが心強い言葉を言い、皆を見渡す。

「そうですよ。由乃の初めてのお友達ですし」

令ちゃんが腹が立つことを言う。

「ちょっと!何よそれっ」

反論したら皆に笑われた。でも、確かにそうだ。祐巳さんは不思議と私の友達であると胸を張って言える。志摩子さんとは同窓生や親しかった人、そんな遠慮があるのに。

 

 

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私はKのバイクの後ろに乗りながら、今後を思案する。鬼ごっこ、そう言ったからこそ適当に道を走ってもらっている。でも、限界は来る。

不思議と蓉子さんや今日、一緒に会うはずの島津さんや支倉さん、鳥居さん、佐藤さんの顔が浮かぶ。どうしてだろうと思うと同時にバイクのタイヤにパスっと気の抜けた音が入る。

「くっそ。K、お前は行けるとこまで行って。小林、わかるな?そいつに連絡して」

言い終わると私は受け身を取れるように体勢を作り、バイクを飛び下りる。転がる自身の身体に鈍い振動を受けて、こちらに来るかつて一緒に過ごした弟のような人間を仰ぎ見る。

「姉さん、タイムアウト。」

嬉しそうに言ってくるこいつにため息を吐く。

「シールー。もっとスマートに遊びの誘いしたら?」

立ち上がりながら言うと、歯の欠けた並びを見せてにんまり笑う。

 

 

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