そこにある花‐その先へ‐   作:待兼山

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蓉子さんから帰宅の連絡を受け、部屋でぼんやりする。こんな生活、したことがなくてどうしていいのか分からなくなる。けれど、それに弾む自身も居る。

腕の中の温かみが心地よくて、ばあさんの子たちを思い出す。

その子らが大事にしていた怪物の絵本に、無意識の内に手が伸びる。

 

〝怪物は自分が怪物だと知りませんでした。

みんなと同じ、人間。いいえ、人間という言葉もあまり知りませんでした。とにかく、命あるもので対して区別ないものだと思っていました。

毎日、笑って鬼ごっこや駆けっこに泥んこ遊びにお昼寝を楽しんでいました。〟

 

何度も何度も読み返しては戻る。その最中に腕の中の温もりが軽く身じろぎした。

セキュリティのしっかりしたこのマンションでは、エントランスで開錠すれば室内にサインが点る。同時に蓉子さんに渡された携帯に連絡が着た。佐藤さんや鳥居さん、島津さんに支倉さんが一緒だと。

少し苦笑いが零れる。この温もりをどうしようか。

 

 

支倉さんと蓉子さんがキッチンで忙しなく動く中、鳥居さんは重そうな雑誌を流し読みをし、島津さんはぶつくさ言いながらあちこちに電話を離れた場所で掛けている。

佐藤さんはと言うと、

「ねえ、祐巳ちゃん。この子、名前は決めたの?」

軽いノリで聞いてくる。蓉子さんの視線と鳥居さんの忍び笑いが視界に入った。

「野良かどうかも怪しいので...」

言い終わらない内に島津さんが不機嫌そのままに戻ってくる。

「聖さま、飼うかどうかは蓉子さまが決めるんですよ」

噂の島津秘書主任だろうか。鳥居さんが楽しそうに雑誌から顔を上げてこちらを見ている。

「祐巳さん、どうして蓉子さまに伺わなかったの?勝手にしたらこの子が一番困ること、考えなかったの」

不機嫌な島津さんを支倉さんが宥めようとキッチンからこちらに来ようとしたが、鳥居さんが止めていた。

「由乃ちゃん、怖いよ~?ここ、ペット不可ではないし、分譲買いしたって蓉子が言っていたから大丈夫でしょ。」

あっけらかんと言う佐藤さんは、拒否されたら私が飼うから大丈夫だよごろんた二号。とか言っていた。

「ねえ、祐巳ちゃん。どうして拾ってきたの?」

楽しそうに鳥居さんが説明を求めてくる。さっきから蓉子さんは口を開いていない。帰って来て、私の腕から抜け出したこの存在を見て時を止めて難しい顔をしたきり。

「飲み物切れてたから買い物に行った帰りに、エントランスに居たんです。このマンションの住人のペットかと思って一緒に入って、管理人さんが電話中だったから言えないままで。気が付いたらエレベータホールに居たから、この階が利用出来るエレベータ使ったら乗って来たからまあいいかと思って全階押したら降りなくて。」

話してる途中から支倉さんは困り顔、島津さんは不機嫌のままで佐藤さんと鳥居さんは楽しそうに、蓉子さんは呆れ顔。佐藤さんに撫でられ気持ちよさ気にしていた仔は、何かを察して身体の緊張を見せた。

「あのね、祐巳さん。まるで浮気の言い訳よそれ」

不機嫌さを解したものの、呆れを押し出して島津さんは私の横に座る。

「蓉子さんは、猫嫌いでもアレルギーでもないし、いいじゃん。祐巳ちゃんと一緒に飼ってあげなよ~。祐巳ちゃん一人だと寂しいでしょ」

佐藤さんが当事者でもないから、それともごろんた二号が気に入ったからなのか言う。私は蓉子さんの顔を窺い見る。

「...飼いたいの?」

蓉子さんも野良だと決めつけるかのような言い方で、ごろんた二号と名付けられた仔は佐藤さんから離れて私のところに来る。一鳴きすると腕の中におさまる。

「きちんとした、飼い主が居ないなら。無理なら、あてはあるのでそっちに譲ります。」

佐藤さんは最終手段で、連れて来てしまった責任は取ると意思表示をする。

私は、寂しいのかもしれない。

そんな気持ちがどこからやって来て、どんな気持ちかは分からないけど。ばあさんも、子どもたちも居ない。この世に存在しない今、バランスを取れない複雑な足場はいつ、崩壊するかは予測出来ない。

奥山やシールーは、○×国の事を知っていて、この人たちは知らない。

明日、私が『闇の女王』に返り咲いてしまうかもしれない。

「そう...。まあ、いいわ。祐巳が面倒みるのよ?ダイニング以外、あまり寄り付かせないようにお願いね」

ため息を少し、苦笑いとも羨ましい表情とも言える、何とも分かりにくい顔をしてキッチンに戻る蓉子さん。それに鳥居さんと佐藤さんが笑いを堪える。

「蓉子は羨ましいんだよ。ごろんた二号が祐巳ちゃんの腕の中で安心していることも、祐巳ちゃんが自ら手を伸ばしたことも。まあ、あれだ。嫉妬、やきもち」

佐藤さんは多分、聞こえているであろう声量で言い、鳥居さんは頷きながら人差し指を口に当てている。

「聖っ。聞こえているわよっ」

ほら、蓉子さんが恥ずかしげに声を荒げて抗議している。

 

 

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あながち間違いではないな、親友って凄いなと感心しながら蓉子さんが聞きもしないで私の皿に料理をよそいでいく様を眺めていた。

「蓉子、さっきから祐巳ちゃんを構いたいのは分かるけど。やりすぎじゃない?」

鳥居さんが見かねて口を出してくれた。

「祐巳は食べなさすぎなのよ。お昼も食べているか怪しいし」

そう言うと小笠原さんと松平さんとの顔合わせの時の話をしだす。それに佐藤さんと支倉さんは苦笑いして、島津さんと鳥居さんは栄養の話をして蓉子さんにあれやこれやと教えている。

こんな毎日が気恥ずかしくも生まれて初めての心地よさを感じる。誰かに構って貰えてる。それがこんなに浸透するぐらいに心地いいとは思わなかった。

蓉子さんは生粋のお節介らしいから、佐藤さんは学生時代にうざく感じれた時期もあったと言う。鳥居さんも苦手が少しあった、とも言っていたっけ。

「祐巳ちゃん、それで色々聞きたいんだけどさ。いいかな」

皿に盛られた料理と内面の変化に格闘していると佐藤さんが聞いてくる。有無を言わせない、そう顔に書いてあるかのように。いつか聞かれるだろうと思っていた。K、シールーの話は避けれない。

「お答えできる範囲でなら。」

そう呟くように言い、蓉子さんが作った煮つけに箸を伸ばす。支倉さんと蓉子さんは時短料理なら和食、そんな会話をしていた。蓉子さんのお母さん直伝で確かに美味しい。

「じゃあ、言える範囲で全部言いなさいよ。巻き込まれたくないとかじゃなくて、何か出来るかもしれないでしょ?」

言葉は突きつけるようでも表情は少し赤みが差していた。

「ありがとう。でも、知らない方が良いことって世の中にはたくさんあるんだよ。例えば、親が自分の先輩に手を出していたとか。例えば、金の為に誰かの僅かな幸せが消えたとか。些細な事でもそれがその人の憎しみや怒り、悲しみを抑えるには充分過ぎる程だったから。」

島津さんのその気持ちを振りほどける程の強さは私には無かったのかもしれない。情、それは不要なものだと長老は言っていた。そして、付け入るにはとても役に立つとも。

「祐巳は、抱え過ぎよ。預けなくても、寄り掛かることぐらいしなさい。どうにもこうにも出来ない時に、息をつく場所を持ってほしいの」

蓉子さんが目尻に雫をちらつかせながら、俯き言う。その気持ちも、利用するべきなのだろうけど出来ない。こんなに私は弱かったのか。そう考える私は甘ちゃんだ。

ばあさんの死、燃え盛るあの家。

Kが知らせに来なければ私も焼かれていた。

その方が良かったのかもしれない。こうして内面の変化にびくつき、返り咲けないままで伸ばされた手を上手く掴めないままで。

元々何も無かった私には、シールーの気持ちもKの世への接し方も皆の想いもどうしたらいいのか分からない。こうして日本に帰ってきたのは、理由も説明も出来ない。ただ、何処かに行かないといけないから。

蓉子さんの嬉しそうにする様を見ると逃げ出したくなる。蓉子さんの気持ちを利用しています、って。

「抱え過ぎでも、これが私がしてきた事です。だから、ばあさんも子ども殺されました。私が『闇の女王』の冠を捨てても逃げても、必ず追いかけてきます。何処までも、地獄ですら私は行けませんよ。私は利用できるもの全てをする。感情がないから、人を簡単に利用出来る、そんな風に囁かれてきた人間ですよ。」

皮肉にも聞こえるであろうことを言った。それでも、これが真実で付き纏う事実。そう簡単にこの人たちを巻き込みたくなかった。

「死んだって...」

島津さんが口だけが先に動いたかのように言う。皆、絶句していた。

「ええ、私への見せしめか。火は強烈な思いを表すんですよ。焼身自殺とかはそれです。自己完結出来ない想いを知らせたくてするそうです。する人たちはそこまできちんと考えが回らないでしょうけど。」

多分、仕事柄支倉さんや蓉子さんは知っているかもしれない。背景を見れば、賢い人間なら共通の痛ましい強い思いを読み取れるから。

「雲隠れというか、利用する為にここにいるんです」

自身に言い聞かす様に、お互いに深入りをしなくて良いように。でも、それは許されなかったみたいで、島津さんが私を押し倒して引っ叩いていた。涙をぼろぼろ溢していた。

「なんで平気そうなのよ、こんな時は泣くのよ?誰かに聞いてもらうのよ?蓉子さまが居るなら甘えるのよ!?利用だっていいじゃない。何が悪いのよ?みんな誰かに利用されてるんだから、してるんだから」

激情に駆られやすいとは知らなかった。長老がデータ、データと言っていたがそれは間違いでもあると修正しておこう。

 

 

 




佐藤佐藤さんと書いていた箇所がありまして...修正しました。すみません、佐藤さんは好きなんですが待兼山には難しくて、その気持ちが出てしまったみたいです。
申し訳ございませんでした...
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