そこにある花‐その先へ‐   作:待兼山

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島津さんの顔がすぐ真上にあり、ガーゼに覆われた片側では島津さんと私のやり取りを止める為に鳥居さんと蓉子さんが居るのが何となくで分かる。

「利用、あなた方の考えるものとは違います。私は闇に生きてきました、」

言い終わらない内に島津さんが水滴を滴らせる。

「そんなの今からでしょ?!こだわりすぎなのよっ何で、私たちの記憶以外消したのよ?どうして消したのよ!?これからを望んでいないならしないでよっ。」

木漏れ日の様に温かく、真綿で首を絞められるを体現するかのように、〝何か〟が私の身体の何処かを包み、苦しめる。

泣かないで欲しかった。

「由乃ちゃん、興奮しないでよ。ごろんた二号が吃驚してるし、祐巳ちゃんも。祐巳ちゃんも、もう少しだけでも私たちの気持ちというか、それに少し目を向けて欲しいな...」

佐藤さんはいつになく真剣に顔も瞳もさせていながらも、優しさを纏っていた。

エゴの押し付け、そう瞬時に思考した。それが悪いわけではなく、人間とはそうでしか積み上げれないこともある。

それを重ねて、優しさや好意や大切さを表すこともあるんだろう。

ふいにばあさんの顔が浮かぶ。

子どもらと一緒に市場に出す野菜を洗っていたら、温かい陽だまりの様な顔で見守っていた。

「ちょっ...由乃っ。退いてあげて?祐巳ちゃん、痛がっているよ」

慌てだす支倉さんに、吃驚して退く島津さんに良く分からなくなる。佐藤さんにごろんた二号と名付けられた温もりが何故か、私の顔を舐めてくる。

「もしかして、祐巳ちゃん分かってない?」

鳥居さんが瞠目して聞いてくる。何が分かってないのか分からない。

「祐巳、あなた泣いてるのよ?痛いの?」

蓉子さんが顔の真横に座り、私の顔を優しく拭う。

「泣く?...ばあさんを思い出したんです。火が燃え盛る中、完全に眠っていた子どもに少しでも安らかに逝けるようにしていた。私が子どもらを抱えようとしたら怒って...お前は生きる選択しかない。日本に帰って、お前が手に出来なかった事をしてもらえ、身に着けてしていけそして、手にしろ。それがお前の仇討になる。そのまま屋根が崩れ落ちる時に、Kがやってきて私を連れ出したから...」

一気に喋ったら泣く行為によって出た水分が傷口に沁みた。

「泣きなさい、これから取り戻せる事を考える為に。大丈夫、私たちが傍に居るから。安心して、お願いだから」

蓉子さんは自身に言い聞かせるように言って、綺麗な顔を歪ませた。見れば、皆泣いていた。もうぐしゃぐしゃに、皆綺麗なのに台無し。支倉さんに至っては、小さな子どもみたい。思わず笑ってしまった。

「皆さん、綺麗な顔が台無しっ...あはははっ」

お腹を抱えて、この場の空気を変えてみる。だって、こんなにも私の為に泣いてくれてるから、泣くことは自身を着飾る為だと長老は言っていた。だとしても、この人たちがそうだとしても、私には...何?温かい気持ちがじんわりとせり上がる。

「ちょっと、笑い過ぎよっ。笑い泣きなのか、嬉し泣きなのかも分からないけどあんたも泣いてるんだからねっ!」

顔を真っ赤にして抗議する島津さん、他の皆はもう泣き止んでいて微笑んでいた。

泣いてくれたお礼を言うと、蓉子さんが頬を赤らめ俯かせ、ごにょごにょ言っていた。

 

 

 

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立ち上る湯気にも香りがあって、この人たちの育ちが表れていた。

曇りがあろうとそれは、人間と言う仕方がない動物だからあるわけで。日々、誰かや生き物を下敷きにしているのと一緒なのだろう。

「Kは平たく言えば、高校の後輩です。長老が拾ってきたから、お互いに興味もなかったんですが...ある日から情報屋として活躍してるんです。」

かなり端折って言った。それに鳥居さんと佐藤さんは苦笑いしていた。

「かなり簡潔ね。そこまで深いの、その...Kさんの闇というか」

言いにくそうに蓉子さんが探り探り聞いてくる。

「まあ、そうですね。Kは気にしないように装ってますが、あなた方のように支えてくれる者たちも居なく反対に全て否定されてしまったんです。それに、Kにしてみれば本人不在の席で話題に上ることに何も思わないはずありませんから。私は閉ざす口をきちんと持ってますから。」

弟や生物学的父親とも寝るような女だけど、陰口やそれに付随されることは嫌悪する。いつも小さい頃から近所で噂になっていた、悪い方向に。

「そうだね、私たちもその気持ちを知らないわけじゃないのにしてたよ。」

彫の深い顔に憂いを滲ませて佐藤さんが真面目に言う。オヤジ満開じゃないと惚れ惚れするくらいに観賞用だ。

「どうしても、仕事の癖とかが抜けませんね...」

いつも控えめな支倉さんがため息を吐きながら、良く通る女性にしては低い目の澄んだ声で何も飾らないことを言った。

支倉さんも男性的な顔の線があるけど、所々女性である華やかさが彩りを添えてて綺麗。

「ゆ、祐巳ちゃん?そんなに見つめられると困るんですが...あの蓉子さま、その、砥ぎ石は...なんでしょうか」

困惑気味な声に、蓉子さんを振り返れば美しい顔を思い切り歪めてた。

「なんだか...佐藤さんと支倉さんが人気あった理由探しみたいな気分になりまして。島津さんは可愛らしいお姫様タイプで、鳥居さんは和風美人なのに気だるげな表情がいかにもそそるんだろうなと。じゃあ、二人は?って」

ごろんた二号を抱き寄せて説明を蓉子さんにする。微妙な顔になっているけど、まあ気にしない。

「祐巳さん、だからって見つめ過ぎよ。」

苦笑いに怯えを含ませて島津さんが何とかしろと言外に伝えてくる。

「蓉子さんは、素というか非凡さを失くした瞬間が一番いいんですよね。多分、私が皆さんと同じ時間枠に学生をやっていたら、私は皆さんを遠巻きに眺める平凡側だったでしょうけど」

これが、蓉子さんへの今想う気持ちだと思う。

利用したくない、強がりで利用なんだと言ってしまったことの解。

少しずつ〝何か〟を重ねていっている。

「それはないでしょう!お姉さんたちが捕まえちゃうから、逃がさないぞ~」

オヤジ佐藤が降臨した。

「そうねえ、紅薔薇チームにはもったいないし、白薔薇なんてもっての他だし。由乃ちゃんのお友達ポジション決定ね!黄薔薇チーム加入よ!」

爛々と鳥居さんが嬉々として暴走しだした。蓉子さんは呆れかえってるけど、なんやかんやと話に加わっている。

子どもみたいに私にリリアンのしきたりや『薔薇の館』、山百合会を説明してくる島津さん。支倉さんも行ったり来たりして会話をしている。

これがばあさんの言っていた手に出来なかったものかな。

こんな時間を手にしてもいいのかな。

 

 

「疲れた?」

皆が帰ったリビングでごろんた二号のベッドを作成し終わった所に、風呂上がりの蓉子さんが声を掛けてくる。

「ううん、連絡しなくてごめんなさい。温もりに安心しちゃって、心地よくて」

二人になると何から何まで問い質されるかと思ってた。

「聖の言う通りなの。祐巳がその子に手を伸ばすのが、ヤキモチ妬いちゃった。」

照れるようにして俯く。普段はキリリとしているから、その仕草が酷く少女のままのようで見つめてしまう。

「多分、気持ちの整理出来ないままなのかな。どうしていいのか、わかんない」

見つめたままそう言えば、眉間に皺を刻んで優しく頭から抱きしめられた。

「まだまだ、分からないことばっかりでも大丈夫。知らないなら知っていけばいいのよ。そうよ、手にしていくことが弔いなのよ。いつか、振り返った時に幸せだったな、って思えるように重ねていきましょう」

だから、強張りを解して。そう言われた。

出来るか分かんないけど、そうしていこうと思う。

託されたこれから、それがいつか託されたと自身の湧き出る想いと共になればって。

 

 






待兼山の頭の中が今、どえらいことになってます。
難産でもありました、この話書きながら色んな祐巳が話しかけてきたりと...やばいですねえ。
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