そこにある花‐その先へ‐   作:待兼山

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いつかこうなると思っていた。○×国にも仕事などで来れないと言っていたし、あの団らんのような席でも余り突っ込んで来なかったし。

でもなあ...。

蓉子さんの部屋も高級マンションだけど、この人のマンションはハイクラス以上だろう。

「祐巳さん、どうかリラックスなさって?お飲物は、本当に紅茶でよろしくて?」

ひっそりとため息を吐く暇さえ与えてくれずに、部屋の主が聞いてくる。

「ええ、大丈夫です。小笠原さんと一緒のもので、お手間を取らせるのは私は好きではありませんので。」

凛とした美しさが気品と共に存在する女性は、生涯でこの人しかお目に掛かれないだろう。かと言って、蓉子さんの美しさが霞むわけではなく、其々がそれぞれにその人だからこそがある。

「そういえば、猫をお飼いになられたんですってね。お姉さまが、蓉子さまが仰ってらしたわ。」

カップとソーサーを用意しながら振ってくる。どれも高そうで、長老があれこれと言っていたが聞いてなかったことが少し悔やまれる。

「はい、水野さんのマンションのエントランスに居た子なんですけど。」

小笠原さんは茶葉を開かせながら、印象と違った顔付きで口元に笑みを浮かべた。

「お姉さまのこと、“蓉子さん”って言ってらっしゃるんでしょう?遠慮なさらずに、私の前でも普段通りで。私だけ仲間外れは止してちょうだい」

後半はまるで悪戯っ子のように、でも本当に仲間外れは嫌だと言っていた。

「分かりました。この前の席では、その言えなかったんですが...馬鹿にしたような態度をブルームーンでしてすみませんでした。」

先に年下からお詫びを入れる。これが一番の円滑な方法だと判断した。だって、私に出会ったから一瞬でも寂しさを覚えさせて手を上げさせたんだから。自惚れでもいい、蓉子さんと関わり続けるにはこの人は切り離せないから。

「なんだか...私の方が悪いみたいだわ。手を上げたのは私だけど...前のままの祐巳さんだったら、こうして部屋に招待しなかったわ。」

これは和解をする為の何かだろうか。結構、お嬢様のなかのお嬢様である小笠原さんは良く分からない。お嬢様扱いが嫌いだと蓉子さんが笑いながら言っていたっけ。

「お互いが悪いでいいんじゃないんですか?小笠原さんは蓉子さんを想って、私がどうとでも取れることを言ったことがその気持ちを踏みにじったことが許せなかったんですから。私も、変化していく自分にどうしたらいいのか分からなくて客観的さを失ってましたし。」

多分、これが今、私が出来る精一杯だ。

いつの間にか淹れられた紅茶にお礼を言い、手を伸ばす。

「あなたって良く分からないわ。憎たらしいぐらいに、こうも先手を打たれるのに悔しくもあるけど、そうねって頷いてしまうんですもの。」

ため息を吐きながら、笑う。それは、苦笑いなのに違う言葉があるかのようで。

「本当にごめんなさい。大人げなかったわ、出来たら私とも仲良くして欲しいの。打ち解けるのは、祐巳さんのペースがあるでしょうし。」

席を立ち、謝罪と共にお辞儀をされた。

「やっ、止してください。そんな事されるまでのことじゃないですしっ。」

慌てたら吹き出された。

「そこまで、あなたでも慌てられるのね。」

くすくすと笑いだされた。なんだか遊ばれてるような気がする。その時、小笠原さんの携帯が鳴って中断した。

 

私も失礼がないように蓉子さんに持たされた携帯を取り出してメールを確認する。登録は蓉子さんと伝いに聞いた六人しか入ってない。

〝まだ祥子の部屋に居る?今日は遅くなりそうなんだけど、ご飯とかどうしようか〟

蓉子さんからで、知らない日常が増えていく。

眠りにつく前に、ぽつりと蓉子さんの口から『只の毎日が重なることは慣れきって、怠惰になるかもしれないけど。それも幸せだって思えたら、いいなって』そう溢された。そのまま蓉子さんは眠りに入ったから私からも蓉子さんが続きを言うこともなかったけど、覚えてる。

午前中観た、ロボットと人間の映画みたいだとちょっと思う。

私はいくつ、蓉子さんの気持ちや皆の笑顔に応えれるだろうか。

 

 

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予定が埋まってしまった小笠原さんに途中まで送ってもらい、蓉子さんとの待ち合わせまで時間を潰す。

大きな複合型書店があったから気まぐれに入ったら、まさかで出会う。

「落ち込みますよ、結構。」

見上げるしかない身長差だから、お互いに距離は保ったまま。昔から、いつでもこの距離は存在させている。

「お互い書店でかち合うような行動範囲じゃないからね。」

私が顔に出さずとも分かるKは、私がサイクルの大半を知っている。小林や祐麒ですらそこまで知らないことでも。

「そうですね、何をお探しで?」

ここの常連なのだろうか。Kは店内を案内する素振りを見せる。

「ここ、良く来るの?暇つぶしに、小説とか読もうかと。漫画はめんどくさいし、置き場所ないし。」

何となく言えば、驚いた顔をしたままKが停止した。こいつはやっぱりアンドロイドかもしれない。

「何?暇つぶしとか本を読むとか駄目なの?」

女王のマスクを被ってしまう。どんなに切り離そうとしても上手くいかない。

「いえ、どことなく楽しそうでなによりです。」

こいつは私をいつも観察していた。先回りして、でも私の言葉を待っていた。なんの感情も持てないままだけど、今回もお世話になったし。

「笑えば、お前も可愛いというか綺麗だよね。」

少し距離を詰めて、お互いに何もなかった十代を過ごした。寂しくて恨みを込めてたこいつに何も掛けてやれなかった。

「...あなたは、あの方々によって良い方向に変わっているのかどうなのか。まあ、ひよこに成り下がったのだけは確実ですね。」

見下す様に笑うこいつも、あの頃からは変わっている。数ミリ、面倒くさい位に。

「ありがとうは言うけど、怒りもごめんなさいも言わないよ。お前と私はいつだって対等でも上下でもない。対岸で向き合ってるのかどうかも怪しいしな」

何も込めずに言えば、悲しそうな顔をしている。

「ええ、存じ上げております。」

短く告げるKの顔はいつか見た、寂しそうな顔だった。蓉子さんや島津さんが私の言葉に対して向ける表情に似ているなって思った。その時、ポケットに入れていた携帯が震えだした。多分、蓉子さんであろう。

「女王、奥山さんや小林さんにはご挨拶のお時間をお取りするべきだと思います。その方々とのお時間も大切でしょうが、それを設ける為には、」

分かっていることをこうも、突きつけられるから舌打ちをして遮ってしまう。響き渡ってしまい、近くの人間が振り向いてくる。立ち去りながらKに、簡潔に下す。

「分かっている。奥山に、段取り聞いておいて。」

注目を集めることも勢いから決めることも、初めてで戸惑う。私はどこに向かうのか、何を欲して何を手にしたがっているのだろうか。バランスが上手くいかない。

ごろんた二号を抱きしめたかった。あの絵本を眺めたかった、覚えたての拙い言葉で読む子どもたちを思い出したかった。

 

 

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