そこにある花‐その先へ‐   作:待兼山

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閑話休題-リリアン-

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祥子は気もそぞろに校内から薔薇の館に向かい出た。今日もお姉さま方に妹に関しての話題が何処かで入れられるだろうと思うと少し、重たい足取りになる。

まだまだ姉である蓉子に甘えたい。安心させて引退と卒業を飾らせたい。そんな相反する気持ちがせめぎ合い、反抗的になってしまう。

蓉子には伝えてある。来年上がってくる付き合いの長い、小笠原家所縁の家の子が居る事を。

だが、聖や江利子は納得しないとゆうよりも、それをからかうのだ。

所縁がなければ、妹も作れないのかと。

蓉子に甘える祥子は、心の何処かでいつも誰かを欲していた。その〝誰か〟はいつもおぼろげで、そして蓉子もその〝誰か〟を求めているように祥子には感じれた。

似た者姉妹、追い求めるものが分からない内に近くの道を歩んでいた二人が姉妹になった。お互いに必要ではあるが、絶対的かと問われるとお互いに確信的に言えない。

江利子や聖のように、特徴的な何かがあるわけではないが蓉子も祥子も、姉妹になったのは代償行為にも似た点があるように感じれた。

バラバラになりそうな心が綻ぶのを、蓉子は皆のお姉さまとしてや持ち前の優等生気質からの歪み、祥子は小笠原の娘やストイックに生きてしまう性質からの軋みを必死にかばい合うかのようで。

少しでも祥子は蓉子を安心させたいが、ここには、リリアンにはその人間でなければならないと言う必然的な人物は居ない。

所縁の子もわかっているようで、申し訳なく思うが仕方ないのだ。

山百合会が無ければ、妹は作らなかった。

いや、誰も寄りもしないだろう。大層な冠が付いた人間を“姉妹”として選ぶ、選ばれるのは、蓉子ぐらいなものだろう。

そんな事を考えていると、薔薇の館に着いていた。

祥子はらしくない、そう自嘲して深呼吸した。そして、小笠原祥子に相応しい毅然とした足取りを取り戻して入って行く。

 

 

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ごきげんよう、そう声を掛けられる。それに自動的に応える。中等部の頃より、距離を置かれていることもそうしているのが自身の態度にもある事を志摩子は知っていた。分かっていながらに、ため息は漏れ出る。

ぽっかりと空いた穴が薔薇の館の住人全員にはあるように感じられる。

特に、紅薔薇姉妹。

失くしてしまったパズルの代用に、予備の何も描かれていないピースをはめ込んだかのような物足りなさが何かの瞬間に出る。

お姉さまや江利子さまが何かの際に、二人は遊び心がない。そう評していたのを思い出す。それを埋めるのは祥子さまの妹だろうか。でも、今年の一年には居ない。

気難しいや高嶺の花などと言われているが、祥子さまには蓉子さまという毛布だけでは心許ないのだ。じんわりと心も身体の芯から温まれる温泉のように、馴染みながらも空気のようで、それでいて存在感が確かな人物ではないと。

そこまで考えた所で、薔薇の館に辿り着いた。

志摩子は二階が少し騒がしく感じられながら上がっていく。

また、祥子を江利子と聖がからかい、蓉子が宥めながら煽っているのかもしれない。

来年はどうなるのだろうかと憂鬱に感じれながらドアを開ける。

 

令さまと由乃さんと視線が交差する。

また、始まった。そうお互いに視線だけの会話をする。

「お姉さま方、祥子。ミルクティで気分を落ち着かせてください。」

令さまがふんわりとした香りを漂わせて、各々の手に取りやすい位置に配っていく。

白熱と言うか、紅薔薇姉妹は気が立った母猫と雄猫のやりとりのようにまだまだ終わりを迎えない。

お姉さまは肩を竦めて、カップを手に取る。

「妹のことでからかったらこうなっちゃった。」

悪びれることなく伝えてくる。

「まあ...。」

会話の内容がお互いに聞こえてしまっているし、ここまで来る最中に考えていた事のせいもあり感嘆詞だけに志摩子は留めた。

「来年は志摩子と祥子に令、由乃ちゃんだけだと中和する人間が居ないわね。蓉子みたいな真面目さはいらないとしても、ねえ」

江利子さまがそう呟くとも、からかうとも言えない事を仰った。目敏く紅薔薇姉妹がこちらに顔を向かせて指摘をしてきた。

そう、志摩子にしてみればそれも憂鬱ではあった。

結束力がある振る舞いなどは割り切れば何とかなるが、見えない絆とでもいうのか、それによる芯のある固い地盤がない山百合会が来年から迎える。

毎年が芯があるわけではないと思うが、近年の山百合会を知っている人間が見れば、何処の学校でもありがちな生徒会でしかなくなるのだろう。

 

 

 

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もうすぐ迎える卒業に何かを見出せるわけもなく、江利子は帰り道を歩いていた。

こうして18年も手段は違えど、通い慣れた道を歩き回想という行為をしてみていた。普段なら、結果が考えている最中から見出せるが兄たちをどうからかおうか考えたりしている。今日はそれをしないで回想行為をしている。

感傷に浸っているのかもしれない。

そう考えた。

少しは私でも寂しいのかもしれない。

そうも考えた。

高等部に入学して、お姉さまに出会い“姉妹”になり、気が付けば黄薔薇に確実に蕾が開いている。その中で令に出会い、ロザリオを授けて着実に大輪を咲かそうとしている。だが、何かが足りない。言葉に出来ないが、こんなもどかしい気持ちが自身の経験したこともないせいで面白いが案内板もない照明もない鏡張りの迷路を攻略しようとしているかのような気分なことは言える。

江利子だけでなく、蓉子も聖も〝何か〟を求めているような気がする。

聖は結局、親や教師を巻き込んだ久保栞への想いを只の友達で済ませて、自身から手を伸ばさずに終わった。

聖の姉や蓉子はそれでいいのか、と何度もしつこい位に訊ねて聖がしばらく、薔薇の館から距離を置いた。

気が付けば聖は、飄々としながら軽薄というマントで自身を守ることを身に着けていた。

蓉子もそれ以降、薔薇の館の人間以外には模範でありながら麗しい紅薔薇を咲かすが、底を見せようとしない乳白色の海外の何処かの湖のようなものに変わった。

私はどうだろうか。

江利子は自身の事を考えた。

結局私も、周囲の人間以外はどうでもいいのかもしれない。

『私』を見ようともしないんだから。

自己中だとしても、私の事を聖、蓉子、令に由乃ちゃんはもちろんの事、祥子に志摩子は知っているし知ろうとはしてくれた。逆も然り。だから、それぞれによってからかい方を変えていた。面白いだけではなく、連鎖によって誰かの息苦しさと自身の息苦しさを霧散させるように江利子は計算させていた。

蓉子とは違った縁の下の役目として、お姉さま方が江利子と聖、蓉子が珍しくうたた寝をしてしまった時に話していた。それを江利子はおぼろげに聞いていた。

だから、祥子をからかいながら来年の準備をさせる。

線引きをはっきりと意識させる為に、四人だけになるここが見ようともしない人間に覗かれないように。

 

だが、やっぱり江利子が導き出す方程式の基準は面白いがなければならない。

しんみり考えていたのが嘘のように、明日は誰をからかおうかそれとも新発見をしに出かけようかと軽快な足取りで自宅の門をくぐった。

 

 

 

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