そこにある花‐その先へ‐   作:待兼山

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Kの計らいからか奥山やその他諸々との席が設けられた。ただ、いつもなら翌日には一席...の状態だが、今回は一週間という珍しい間隔があった。Kなりの気遣いなのかもしれない。邪推すれば、腹を括るためのリミット。

私はそれでも、いつも通りの毎日を過ごしていた。

最近、蓉子さんたちは忙しくなりつつあるらしく、頻繁に集まることはなかった。

それでも、蓉子さんは私が蓉子さんの部屋に居ることが嬉しそうにして帰宅するし、出勤前には予定を聞いてくる。

島津さんにしても毎日メールが入る。

佐藤さんはごろんた二号の今日の写メをくれとか送ってくる。

それが私の、しばらくの仮初めだった。

でも、変わるのかもしれない。

望まぬとも望むとも、私は境界線上に立ってしまった。

出来れば、今この同じ時間に鳥居さんの声で集まっているであろう、皆とそれに参加していない小笠原さんと支倉さんに火の粉が降りかからないように動くしかない。

 

「女王、ご帰還なされたからには立たれるおつもりと考えてよろしいか?」

長老支持派で私が跡継ぎをするのが当然と考えるこのうさん臭い、日系人の元締め的な男。私は何も応えずに、出された酒に口を付ける。

「しかし、驚きました。女王が一時的にしろ身を置かれた場所がまさかのッ。」

まさに大多数に従いながら権力に靡くしか出来ない、卑しい奴と長老に評されていたこの男は下品に笑った。蓉子さんたちは嫌いなタイプだろうな。

豪華絢爛とはいかなくとも、日常的に、そして奮発しようと意気込んでも私の年齢では経験できない場所と料理の質。

蓉子さんたちクラスなら、一年に一回はあるかもしれない。

さっきから私は蓉子さんたちと、意識をしている気がする。

奥山は一言も発しないで酌に回っている。

それを横目で見ながら、脂ギッシュな料理に箸を向ける。

私も長老も進まない味付け。

健啖な長老だからこそ、こんな料理は好きではなかった。そして、素朴な味を謳い色んなモノでごまかした料理や大それた看板の店を避けていた。

 

「私は私なりに動く。それが嫌なら蹴落とせ、歯向かえ。ただ、ギャラリーを巻き込むな。以上」

口上でも宣言でもなく、警告を簡潔に述べ席を立つ。

汚らしい呆気に取られた奴らの顔。

入り口手前で奥山を振り返る。気付いてもらえた安堵がありありと顔に浮かんでいる。

「お送りさせて下さい。」

秘書自ら運転をする車に乗り、しばらく無言の車内。

流れる景色は少し違って見えた。

「お気に召さない、店で申し訳ございません。」

掠れる声は居もしない人間に怒られてきたから、区切る場所も分からずに言い放っているようで。

「早々に、動かれるとは考えが及びませんでしたから...。確認もせぬままで。」

自分より年下で、過去にあんな関わりがあったのにも関わらず、一心に忠誠を誓う奥山。その心は何を思っているのだろう。長老が居た頃は、こうして二人での会話が皆無に近かったせいか奥底を垣間見ることがなかった。

「気にしてない。たまには、毒も入れないと判断出来ないしね。」

視線を走行先に変えて言う。奥山が口を開く前に更に私から訊ねる。

「シールーの時、ありがとう。小林やKと連絡、取ってくれたんだって?」

奥山は積極的に小林とKとは関わるつもりはないようだった。泳がしておく、長老のように何かあれば駒のように使うまではいかなくとも分かる手札にはしなかった。

「ええ。加減が分からない人間ですし、現在、お住まいの周辺は警察関係の方もいらっしゃいますから。なにより、騒がられてそらみたかとなるのは避けたかったので。出すぎた真似をしてしましました。」

申し訳ございません、と頭を下げる奥山は何を考えているのかは分からない。

分からないが、忠誠心とやらは高い。高すぎて長老は私と接触を避けさせた。

「ある程度は、奥山の好きにしていい。今日みたいなおままごとは嫌いだ。私は長老のように立ち回れないし、立ち回るつもりもない。」

赤信号で停車した時に、見覚えのある顔ぶれを歩道に見つけた。

私にも神経が逆立つということがあるのだと思えた。

「分かりました。ですが、何かの際に使えますでしょうからこれはお受け取りください。」

初期操作でしか使われてない新品のスマホ。蓉子さんに渡されたのはガラケーと呼ばれる電話やメール、簡単なネット検索が出来るもの。

しかめっ面でもしていたのか奥山が慌てだす。

「このメーカーはお嫌いでしたか。すぐに代わりのものをご用意します」

長老にかなり可愛がられた奥山は私の表情をそう捉えたようだ。笑いながらポケットにしまい、信号が変わる前にドアを開ける。

「いいよ。ただ、スマホの使い方が良く分からないからね。じゃあね」

言い終わると同時にドアを閉めて馴染みある顔ぶれのところに向かう。

 

 

 

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香辛料やそれらを使った料理の匂いが充満する店内は賑やかで、香辛料による刺激が杯を重ねさし熱気をもたらせていた。

私の座る卓はそこから間反対に位置するかのように寒々しい。

「で、祐巳ちゃんは蓉子の連絡を無視して今までどこで不良少女をしていたのかな~」

空気を変える為におどけているが、佐藤さんは言わすつもりでいる。鳥居さんに至ってはにやにやしているが、いつどのタイミングで毒を含ませた言葉を出そうか図っているようだ。

「あのね、祐巳さんが趣味とか持つのを咎めているわけじゃないのよ。ただ、蓉子さまに連絡ぐらいは入れなさいよ」

島津さんがほんとうに、もうッと酎ハイを口に運びながら間に入ってくれる。

「確かに、祐巳が外に目を向けていくのはいいけど...この前みたいに気が気じゃなくなるのは勘弁ね。」

蓉子さんが強制的に空気を変えて、私の皿にも椀にも料理を取り入れて言うけど、今日の皆が行った、美容と健康なんちゃらの為のエステのようなものには参加出来ないことは朝にも言ったし少し疑問ばかりが残る。

何となく携帯に手を伸ばす。

「あ...。」

しくじった。この尋問会は、お夕食どうですか。の返事がないことだったみたい。

「もしかして、祐巳ちゃん。携帯見てなかったの?」

このタイミングで鳥居さんは発言をして楽しみを増大するつもりか。

「意識してないと携帯ってどうしても疎かになるものね。」

ふふって笑う藤堂さんがちょっと憎らしい。その発言は今の場では凍らせるだけだし。

「呆れた。遊びに出る時は時間を気にしなさいって言われなかった?」

島津さんがそんな事を言うけど、まず遊ぶとかしたことなかったしなあ。

「祐巳ちゃん、マナーモードの設定をバイブレータ機能にしてもらっておきなよ、蓉子さんに。」

佐藤さんがにやにやしながらオヤジ満開で言うのを蓉子さんが呆れた目線で窘めていた。

「そうします。」

何とか場を取り繕ったけど、つっかえが残るような気がする。これを後ろめたいって言うのかもしれない。

皆が笑う、そこにいつ爆弾が落とされてしまい、壊されるか分からない。

私が長老の跡を継ぐにしても、何がしかの抗争はある。

逆に、継がないにしても。

 

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