そこにある花‐その先へ‐   作:待兼山

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第3話

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昨日のことはあれからあんまり覚えてない。

だけれど、はっきりしているのは二人は泊まったこと。寝る前に着替えたこと。

私は今日、休みだけれど二人の予定は知らない。起こすしかないか。

「江利子、聖。起きて、朝よ。九時よ、ほら、起きて」

すやすやと眠っている二人は気の緩んだ寝顔を晒してる。本当、二人は姉妹のようだ。だから、反発も言い合いも結構な頻度である。気になるから、お互いに。家族や親友への想い。

「聖、お腹空いたわ。パンケーキにソーセージ、目玉焼きが食べたい。」

聖が得意な朝食メニューで起こしてみる。朝食メニュー以外、作るのは面倒らしいから特化し続けるのは当たり前だろう。

「え?!今日何日?」

相変わらずの変わった起き方。

「江利子ー、野菜ジュース作ってー」

あれから泊まりで江利子が気遣いを見せたりするなかで、美容にやたら口を出してくる。ジューサーもその一つ。それを使ってみせる。

「スムージー、よ。なにがあるの?」

江利子は起きてたのかしら。目は起きたてのようだけれど。

 

キッチンを二人に任せて、私は二人に予定を聞きながら前夜の遺跡らしきものを片付ける。

「蓉子ー。野菜室、空っぽになったからね」

江利子がジューサーを動かしながら伝えてくる。

聖が目玉焼きを焼いてるであろう音と匂いを出している。

一人だとあまり使わないキッチン器具たちが喜んでいそう。

 

「さあさあ、召し上がれ~聖さん特製のメニューですよ」

聖がテーブルに置いていく。

「なんだか新鮮ね。蓉子と朝ごはんを囲むことはあるけど」

江利子は聖がいる食卓に、笑いながら言った。

「高校時代、聖は昼休みは来るけれど、朝や放課後に来ないとか。その反対とかは良くあったけれど」

続けて、懐かしい思い出も出してくる。

「いやいや、修学旅行、居ましたからね。大人に、なってから親友と囲む食事って晩ごはんが多いもんね」

聖が優しい目をして、江利子の話に軽く乗る。

「そうね。これからもあるかしら」

私は、ないともあるとも言い難いことを二人に伝えるでもなく言う。約束なんて、親友だからこそ、出来ない。

「あるわよ。例え、おばあちゃんになってもね」

江利子が確信をもって言う。その自信はどこからくるのかしら?三人とも独身なんて、笑えないわよ。

「で、昨日の続きだけれどさ。どうするの?」

聖が昨日の蒸し返しをしてきた。

「聖、朝食くらいゆっくり味わわせてよ。」

江利子が嫌そうに言う気持ちは分からないでもない。

「そうね、先ずは美味しく頂きましょう」

聖に笑顔で言ってみる。聖は、分かった。と頷き、令と今度料理研究をするとか他愛もない会話を江利子とし出す。

 

私は、彼女に、かもしれない彼女に会いたい?

昨日はあれから二人とどんな会話をしたの?

 

 

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「蓉子、昨日のこと、覚えてる?」

食器洗浄機に後は任せて、久しぶりに江利子の淹れる紅茶を味わう。聖は窺うような顔を今度はして聞いてくる。

「そう...ね。憶えてないの。写真を見て、その前から心臓が予感を告げてたけれど」

曖昧に抽象的に、私らしくなく言う。聖は、頷く。

「そう。衝撃が大きすぎたわね。もう少し、慎重になれば良かったわ」

社会に出て、謙虚さや思案するということを身に着けれた江利子はしおらしく、私に向ける。

「江利子の行動は昨日、言い合ったから今日は言わないけどさ。蓉子はどうしたいの?」

聖が江利子に、視線をやりつつ私に言う。

二人の視線はいつかの、懐かしいデジャブのようにやりあう。

「わからないの...急に、消えたでしょ...?今も、整理、してる最中に。その写真、でしょ?会いたい、でも、怖い」

つっかえつっかえ言い、二人の見えない優しさに縋る。

「会った方がいいよ。少しでも、会いたい気持ちがあるなら。空似なら、観光でいいじゃん。東南アジアの楽園が近くにあるし」

江利子が考えなし。と聖に軽く叩く真似をする。ああ...昨日のことが霧が晴れるように、思い出せる。

聖の優しさと、江利子の優しさの食い違い。その振る舞いの矛盾を。私は言われるまでただ、涙を流していた。

二人の優しさで一向に収まらなくて、結局、私の部屋に。

 

今でも思い出す、彼女の向日葵のような笑顔。男だとか、女だとか関係なく私は惹かれて。一緒の気持ちなら嬉しいな、って年頃の女の子のような想いを抱いていた。

福沢くんも小林くんも、そんな気持ちから...小林くん?

「ねえ、小林くんに聞いたらいいんじゃないかしら」

柏木さんに制裁を受けたと聞いたが、手紙を律儀にも持って来てくれたりとしてくれた彼なら知ってるかもしれない。

その名前を聞いた二人は双子のように顔を顰めた。

「本気で言ってるの?蓉子」

「マジで?あんな奴、柏木よりも会いたくないね」

確かに、荒んでる環境・裏の顔を知りながら側に居た彼は相応の対応が必要だろう。

だけれど、彼は守りたかったはずだ。それが出来ないと思いつつも抵抗し、結果を悔やんでいるはずだ。

福沢くんは狂気に飲まれてしまった。後で小林くんは、福沢くんと彼女の関係や育った環境を話した。

何故、やくざになったのか、も。

「ええ。私は許す許さないとかの問題ではなくて。お互いにしこりを残したくないから。それで知らないなら、もう関わることもないしね」

江利子がため息を吐き、目を伏せる。

「蓉子がそう言うなら。私は、今暇だしね」

江利子は仕事の停滞状況を言外に含ませて笑う。

「まあ、蓉子が決めることだし...」

聖は江利子の言い方にも気になりつつ、渋々答える。

二人は私が、あの日あの時に率先したことへの何かを未だ、感じてるのだろう。

二人が江利子の仕事の話をしている間、軽く令から聞いたあの時の件の消失を思い出す。

記録さえも書き換えられ、後日、あの場所で不審火があり、物的証拠も燃えたであろうこと。

私たちの記憶だけしか残ってない。

 

ねえ、どうしてそこまでして店に残ったの?

小林くんの言うように、私たちみたいな人間はどんな罪があろうと生きなきゃいけないから?

それなら、あなたが私にその気持ちを言って。感情がなくとも、空白でも、闇しか知らなくても。

 

 

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祥子にお願いをして、柏木さん経由で小林くんに連絡を取ってもらった。

祥子も江利子や聖のような反応をしていた。

言葉にも表情にも、態度すら二度と聞きたくないのに、私から聞かされた名前にどうしたものか。と語っていた。

私を皆、支えようとしてくれている。向日葵のような彼女は誰か、今、傍に居てくれてるのだろうか?

そう考えていると、隣の席に誰かが座る。

「お久しぶりです。伺いもせずに座ってすみません。」

私の職業もあり、気遣いをしない気遣いを見せる。彼はそれが、その世界で出世出来た処世術なのだろう。

「構いません。私が無理を言ったから気にしないで」

平日の学生に人気のチェーンカフェはそこそこの雑音をくれている。会話も、気にならないだろうがそこそこ気をつける。

「それで、用件は?祐巳のことですか?」

ビジネス鞄から手帳とタブレッドを出し、本題を切り出す。彼は彼なりに私に思うところがあるのだ。

今日もない交ぜの感情をやり過ごして来たはずだ。

「ええ。気になる写真を手にして。○×国、ご存じですか?」

小林くんに合わせて、用件を伝える。数学しか能がないと、自嘲的に笑っていた彼は機転が利く。だから、あの店に駆けつけて親友を解き放ち、私たちを外に出したのだ。

「それで?何をして欲しいんですか?」

眼鏡越しの彼の瞳は突き放す。何を今さら、嫌われ役を託された人間がどんな気持ちなのかわかるのか、と。

「探したい、女性がいるの。探して、これからをきちんと歩んで行きたいの。二人が分かつ運命だとしても、進むために。空似だったらそれはそれよ。」

只の水野蓉子として、小林くんに気持ちを。三人で迎えた日曜日から今日まで考えていた気持ち。

小林くんはタブレットを操作し続ける。喧噪が一気に遠のくような、数秒間が数時間に感じられ、口を開いた。

「俺は探偵じゃありません。それに、俺自身、あいつの思い出は辛すぎます。いつもガラスの中で俺たちをただ、見もしなかった。それがあいつなりにもがこうとして抱え込んだ。もう居もしないんですよ。それでいいじゃありませんか」

彼はその世界特有の目つきで私を見る。

ここで逃げたくはない。彼は何かを知っている。彼女と長い付き合いから察知したのか、事前に最悪事態への対処を打ち合わせしていたのか。

氷が音を鳴らす。長い沈黙。

「ライバルとしたらここで、切り上げるべきでしょうね。」

眼元からの笑みを見せ、やり手サラリーマンさを醸し出す。

「でも、俺は負けを認めてしまった。甘々だ、ってあいつに笑われるんでしょう。ここに、眠ってます」

いつの間にやら書き留められた大まかな場所。

颯爽と店を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

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