そこにある花‐その先へ‐   作:待兼山

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この青い空に手を伸ばせば、何処かに行けるのだろうか。電線とビルが邪魔する点なんて私が生きている意味と一緒じゃないか。こんな私に今、縋ってくれる存在なんて居るのだろうか。

ごろんた二号が小さく鳴いた。

大して無い荷物の引き上げと渡されていた鍵と携帯を返しに蓉子さんのマンションに行った時に、ごろんた二号が一心不乱に身体を擦り付けて来た。蓉子さんのところの方が安全で不確かでも、愛情があるはずなのに。

『祐巳が面倒みるのよ』

その言葉が頭に響く。

だから、その存在の行為に頷き、抱き上げた。

ごろんた二号と共に戻った時に、奥山とKが来ていた。目を見開き、申し合わせたかのように「猫を飼うのですか」と言いやがった。まるでそんな本能を持ち合わせてないように言うから、睨んでおいた。確かに、ここ最近の私は長老以上に冷静かつ何の綻びも見せない。隙間を見つければ、どんな存在かを徹底的に選別している。戒めの様に、〝無〟でいるように見せつけている。

 

「なんだ、お前でも手を合わせることが出来るんだな。」

出会った頃は少し高くもあり、男と男子の境の声だったがいつしか、タバコと酒や不規則な生活によって掠れた声に変わっていた。

「小林か...元気だった?」

少しゆっくりしすぎたかもしれない。祐麒と福沢夫妻の墓前。何の感慨も抱けないのに。

「出てくる言葉は、そんな事か。お前は、何故手を離したんだ。」

ぎりぎりに吐き出されたその言葉。瞳は鈍い光ではなく、いつしかの怒りをため込んだ眼差し。

「...こんな人間だから、ね。皆、仲良くの生活なんて無いんだ。誰かが、言われのない言葉や理不尽な行動を押し付けられる。」

小林が唇を歪めて、わざとらしく舌打ちをした。

「だからって、お前が背負い込むなよ?!水野さんらはお前を、お前の気を緩めようと何とかかんとかしてくれてたじゃないか。祐巳、今からでも間に合う。もう、人形ではなく人間として愛されろよ」

いつでも小林はちゃらける癖に、お節介をしかけようとしたり、第三者が居たらそれを利用する節を見せている。こいつなりの、祐麒や私への和まし方だった。こんな素振りを見るのはいつ振りだろう。

「私は、私の意志でこうしている。もうお前の顔も見飽きたし、水野さんという避難場所に居る意味もないから。切ったまでだ。」

ごろんた二号を抱えなおして歩き出す。

「待てよ!お前の顔、ひでえぞ。そんな偽りの付け方も忘れた顔で、そんな言葉言っても説得ないぞ。水野さんはずっと待ってる、だから連絡ぐらいしろ」

どんな顔だ。そして、お前はどんな顔を知っている。

「支倉さんの元上司とお前の叔父貴と兄貴がいけ好かない野郎って言ってた石井、洗うと楽しいかもね。」

会話にならないことを返して去る。小林は何か言っていたが、耳には風音のように流れていった。

 

 

 

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これが神の思し召し、というやつなら私でも歯車としての機能があるってことなのだろう。

普段、このターミナル駅は利用はせずに、各停もある多少不便なもう一つ先を使っている。前回の小笠原さんは仕方なくとして、七人からしたら利便性の高いこの駅は使用頻度が高いから使わないようにしてきた。電車としての足も愛車使用時の駐車確保としてもかなり小回りが利く。だから、私は使わないようにしていたが今回は祐麒の墓参りを思い立ったから使わないと行きようも帰りようもなかった。

ネット社会により、私の存在は濃厚だと出張ホストの奴が媚びを売って来ていた。それならば、私が何らかのアクションを取れば尚更だ。そう考えると車で行けば良かったのかもしれないが、Kや奥山に詮索されるのが面倒でしたまでだった。

 

駅ビルとしての顔を持った西改札口から先に雑貨屋やイートインコーナー併設のパン屋、花屋、本屋と多種多様な人々に向けられたその階の雑貨屋にその人は心有らずであり、でも、真剣に食器だかを見ていた。

私は見惚れた、その言葉が当てはまるのかもしれない。

何かを感じたその人は、視線を巡らす。早くここから去らないと、頭の指令が行動に向かう前に視線は私に止まった。

「祐巳...」

か細く発したその言葉。

私はそのまま行き先を変えようかと足に力を入れる。

「今まで、何処に居たの...?少し、痩せたんじゃない?」

言う人の方が痩せて、雰囲気も変わっているのに微塵も見せずにお母さんかってくらいに心配してくる。蓉子さんらしい。私はくすぐったく感じられるけど、振り払う準備を始める。

「どこのどなたかは存じ上げませんが。私は祐巳さんじゃありません。人違いなさってます。」

声帯に傷を付けて声を変えた。だから、人違いでも通じるはずだ。

「...そう。ごめんなさい、勘違いついでにお詫びにお茶を奢らせて。」

私が勘違いで通すなら、お詫びに付き合えか。

「すみませんが、次が迫っているのでお気持ちだけお受け取り致します。失礼します。」

付き通すなら墓場まで。私は良い死に方も出来ないけど、この人にだけはもう関わって欲しくないから。

それなのに、手首を掴まれ悲痛な顔とも厳めしい顔とも言える表情で首を振っている。

「お願い。」

言外に拒否権の選択はないと言っている。瞳を見れば、拒否した場合のこの人の選択が見えそうな位に力が宿っている。ため息を吐き、言葉なく頷く。

 

駅ビルの小洒落た居酒屋風の店でお茶?まあ、そこしか空いてもおらず、駅ビルから出たくもなかったから腰を落ち着けた。

ほぼ蓉子さんが料理の選択をし、今日は車というのもありお酒に手を出さなかった。

「元気だった?」

人違いに付き合ってくれるんではないのか。

「いえ、ですので」

言い終わらない内に、軽く左右に揺れる頭。

「あなたが、どうして姿を消したのかぐらい検討はつくわ。見くびらないで頂戴。」

空気を読まないが仕事に忠実な店員が、飲み物とサラダと作り置きの惣菜であろう料理を並べていく。中断された会話は宙にぶら下がり、もどかしそうだが店員に笑顔を振る舞う蓉子さん。

店員が卓から離れた隙に、私に向き直る。

「小林くんから少し話は聞いたし、祥子からも。私も少し伝手を使って、ね。」

この店に入ってから何かを取り戻したかのように、良く知る蓉子さんにチェンジしている。

「だったら、どうなんですか。」

やけくそ的に言い放つ。押し付けたわけでもないが、そういう見方も出来る行動。大切だから手を離す。自虐的な思考回路は、もしかしたら母親譲りかもしれない。

「まるで子どもね。でも、嬉しいわ。そんな行動、とかは私と出会えたからかもって思えるもの。」

優しく笑う蓉子さんは、記憶の中の微睡みの笑顔と一緒で懐かしくも感じられる。

盛大にため息を吐き、視線を離す。そのタイミングで店員が料理を持って来る。今回は褒めたい。蓉子さんは少し恨めしそうにしていた。一通りの料理を並べ、伝票の確認と客への確認をして定型通りに言葉を掛けて店員は厨房に戻って行く。

「先に食べませんか。食べごろを逃すと胃にも優しくないでしょうし。」

店員が離れたから口を開きかけた蓉子さんに牽制を掛けてみる。ため息と共に、そうねと頷いてくれる。

 

咀嚼をして、思案する。

レトルトをアレンジして作った、妥当な味。

妥当を認めてくれなさそうな、眼前の人はまるで今まで通りに甲斐甲斐しく私に惣菜やメインであろう料理をよそう。

まるで、そう今まで通りのようなこの状況。

「私があまりにも押し付けていたから、祐巳が気を遣うのも当たり前だって。やっと半年離れて分かったの。」

何皿か空にして、店員が下げやすいようにしながらぽつりと零した。何となく、これは独白に近いと察して言葉を挟まないことにする。

「無理に当てはめる癖というか、そんな所が私にはあるのよね。結果は確かに、それが良いのかもしれなくても、当人には過程の緩急も大事だって分かっているのに。」

だめねって小さく笑って、ウーロン茶に手を伸ばす。

さっきと打って変わっての弱々しさに、逃げ場の計算が狂う。

「次があるので。もし、何かお困りがあれば連絡ください。では。」

ほら、こんなことを言ってしまっている。律儀に紙ナフキンに番号を書いてそう考える。

自分が分からなくなる。

伝票を手にレジに向かい、精算をして店を出る。

ポケットに入れているスマフォが振動する。それを手にすると同時に後ろから声があたる。

 

 

 

 

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