そこにある花‐その先へ‐   作:待兼山

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後ろから掛かる声は一先ず置いておいて、スマフォを確認する。Kがわざわざ通話機能を介してくるなんて珍しい。そう思って出ようとしたタイミングで腕を取られる。

「祐巳、待ちなさい。話を、させて」

振り返れば蓉子さんが涙を必死に堪えていた。

「分かったから、待って。電話。」

焦ってしまった。

奥山が、その視点から私を人形やロボットを卒業したアンドロイドだといつぞやか柔らかく言っていた。首を傾げたけど、それがこの事かもしれない。

頷きとも言いにくい、顎先を微かに動かした蓉子さんを確認して出る。

「もしもし。どうしたの」

聞こえてくるKは必死に何かに耐えている声だった。

「申し訳ありません...失敗、しました。奥山さんと、私...少し、雲隠れします...」

その言葉を最後に切断される通話。大体の予想は分かっている。シールー側の人間がずっと戦争を仕掛けてきていた。最小限のやり取りしかしないこちらの動きが面子に関わり、馬鹿なプライドを傷つけられた腹いせに奥山の事務所だかを襲撃したのだろう。

「蓉子さん、お願いがあるんだけどさ。このビルの上にあるペットショップ、ごろんた二号がいるから。引き取りに行って欲しいです。今日は無理だけど、きちんと連絡するから。」

微かに眉間に皺を寄せて、私の言葉に耳を傾ける蓉子さん。本当に綺麗だと思う。だから、笑顔を向けて約束を私から取り付けてしまう。

「必ず、蓉子さんのところに帰らせて?皆にも謝らせてください。」

私の言ったことに瞠目して、優しい綺麗で○×国で縋った女神のような蓉子さんの笑顔が咲いた。

「待っているわ。今、何が祐巳に起きているのか、想像しかできないけれど。後で話なさいね」

何がなんでも話させるような口ぶりに苦笑いする。

この向こうに行きたい。

そう自然と身体の底から思う。何があるかなんて分からないけど、蓉子さんなら大丈夫だと感じる。それに皆の優しさも、心強く思う。

笑顔で、焦りを見せずにその場を離れて、タクシーに飛び乗る。

向かう先は憶測で選択し、告げる。

何キロか走らせていると後ろから衝撃を受けた。派手な衝撃で身体が押し潰される感覚。運転手は何も発しない、多分即死。そこでドアが破壊され、再度間接ではない衝撃を受ける。

 

くそっ。私はまだ、蓉子さんに何も伝えてない。皆にも謝ってもいない。でも、力は何処にもなかった。暗くなる視界に身を任せるしかなかった。

 

 

耳障りな言葉を聴覚に捉えて、意識が仕事をし出す。

もう随分聞いてなかったその異国の言葉のようであり、親しみ深い言葉のような気持ちになる。

身じろぎをしようと思うけど、身体に力も物理的にも無駄を感じる。

視界は全く役に立たない。何処なのか、臭覚を使おうとしたけど、鉄の匂いしかしないと考え直した。気配が動き、私に声を掛けてくる。訛りの強い言葉で一瞬、何を聞かれたか分からない。多分、目覚めたか。だと思う。

「Kと奥山は見逃せ。私の指示で動いたまでだ。全責任は私、それ以上でも以下でもない。」

丁寧にゆっくりと発音する。そうしないと、舌すら使いものにならないから。

今度は別の誰かがそれに応えた。

てめえの心配をしろ。か。

したくても、私は抱えたものが多すぎた。

大切なものが多すぎた。

巻き込んだものが多すぎた。

私が、物語のように違う人生を歩んでいて、皆にそして、Kにも会っていたら何かが決定的に違っていただろう。

だけど、こんな人生だからこうして思い起こすことも出来たこともあった。

 

何かを擦り合わせるような音を聞きながら、思い馳せてみる私の人生。

真っ先に思い浮かべるのが、蓉子さん。好き、ってこういうことなんだ。○×国で言ったことを訂正しなきゃ。おばあさんになる前に分かったよって。

 

 

 

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私は年々、暑くなり続けるこの季節が苦手になった。いや、真冬から春になる一月から二月も苦手。苦手なものが増えた気がする。その切っ掛けを呼び起こすと苦手にカテゴライズされていく。だから、隣の席に座ったカップルの一人がコーラを飲んでいる姿を見て、コーラも苦手に分類されてしまった。嫌い、嫌悪、拒絶ではないから視界に入っても大丈夫だけど、連想ゲームよろしくで起こさせる。ずっと待っている。そう言った人間を。待ってて、必ず帰るからと言った人を。

その日から何年経っただろうか。

ごろんた二号も私も帰れば真っ先に、お互いを確認する。

待ち望んだ人物ではないか、帰って来ているのではないか。

でも、現実は残酷だと知る。それでも、飽きもせずにそれを毎日する。

最後に見せた笑顔が余りにも、綺麗で抱きしめていたいと思った。そうするのは、戻ってからにしようと歯止めをかけた。あの時、実行していれば良かったと何回思ったか。

 

「お待たせしました。」

令がそう言って、向かいに座る。

「ちょうど私もさっき座ったから大丈夫よ。」

向かいに座る令に何の非もないけれど、祐巳だったら笑顔でも出せていたかもしれない。令は察したのか、少しバツの悪そうな顔をしていつもの愛想笑いをする。

「由乃からも、僅かながらの情報を貰ってきました。」

お互いの仕事の為か、カモフラージュに由乃ちゃんがよく買い物をする店のショッピングバッグに入れられて渡された。

「それにしても。久しぶりね、令に会うのは。」

奥山さんの会社が襲撃を受けて、私や皆の周りも少なからず言葉などで被害があった。良くて半身不随で、最悪植物人間だと診断されていた奥山さんが意識を奇跡的に取り戻した時に私たちへの被害を止ませた。そして、由乃ちゃんがあらゆる手段を取り、消させた。結果、江利子の会社も聖の立場も何もかも回復への動きになった。

小林くんはもう、いない。

襲撃の際に、犠牲になった。

彼は、福沢くんと再会して色々話しているだろうか。

「それにしても、暑くなりますね。由乃やお姉さまには中年太りやらメタボになったからだって言われるんですよ。」

女性らしいハンカチで汗を拭う令。何故だか、一部の女性客が不思議そうにしているのが可笑しく感じられ、笑ってしまう。

「ふふっ。令、確かに不規則になってお腹まわりのラインが少し、ぼやけたわね。」

濁してからかえば、途端に焦り出す。そこからは聖の話になったり、祥子の話、志摩子の天然さを話した。最終的に行き着く話はどちらも切り出さずに、どこか余所余所しく別れた。

 

帰宅してごろんた二号と戯れ、シャンプーの日だとカレンダーを見て入れる。

ついでにとばかりに私もシャワーを済ませる。ごろんた二号は祐巳が使っていたタオルを慣れた形で巻きつけて、リビングの定位置に落ち着いていた。一鳴きして、挨拶をしてくる。私も返して、寝室に入る。

由乃ちゃんがどんな気持ちで『コレ』を入れたかは分からない。

令がどんな想いで携えて来たかも。

本当は手に取るように分かるけれど、目を瞑りたい。

目を開ければ、事実を見るから。

現実に立ち向かわないといけないから。

いつか、直視出来るまで『コレ』を作り物のお話だと思って眺めていよう。

そして、夢では祐巳と木漏れ日の中を歩いたり、皆とする予定のバーベキューをしたり。ごろんた二号と無邪気に遊びながら、私の邪魔をしたり。

 

 

 

眠りにつく前の浅い意識は、気だるげな微睡みの中で祐巳が消え入る声で語った言葉が、表情が再生された。

 

 

『蓉子さん、好きが分からないのにずっと居たいって思ってくれてありがとう。私もいつか、お返ししたいって純粋に湧き出るようになりたいな。』

 

『もう充分、苦しんだって蓉子さんたちは言うけど。その分、どうしようもないこと、でもそれに対してそうは思わない人たちを多く作ってきたんだ。だから、蓉子さんの優しさを受けるのが、いつか蓉子さんたちを苦しめるかもしれない。嫌だな...』

 

 

 

 








随分考えましたが、これが完です。
出しきれてないメモもあるので、閑話休題で投稿するかもしれません。完結扱いも未完設定もしないままにします。
ここまでお付き合いして頂きました、お気に入り登録者さまや覗いてくださった方々に深くお礼申し上げます。

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