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令の家で聖と令の料理研究の相手をさせられる。
最近、私自身で料理をすることが少なくなっている。こうして過ごす時間に、日常の疲れは和らいでいく。
どこかで、傍に向日葵のようなあの子の笑顔があればと感じてしまう。そんな気持ちはあるけれど。
「それで、聞けたの?」
江利子が由乃ちゃんがピックアップした音楽雑誌からファッション雑誌を流し読みしながら聞いてくる。
他人のピックアップで先を読んでいくのだ、と由乃ちゃんを説き伏せていたが共通の会話を見つける為だろう。令を抜きに会話をしたい、江利子の不器用な由乃ちゃんへの包む優しさ。
「そっけなく、ね。私たちが遠ざけるように、彼も思うところがあるだろうし」
コアなファンが付いているらしい、バンドが復活する特集ページを開いたまま江利子は私を見る。
「あいつ、いけ好かない男ね。だから、振られるのよ」
滅多に感情をむき出しにしないから、由乃ちゃんは同じように小林くんに敵意を出している。江利子と由乃ちゃんは、親娘のようだとあの時以来感じる。親はからかいながらも愛情を、娘は猫かぶりを外し、感情の解放を親に出す。
令が一番、気苦労をしているだろうがのらりくらりと気にしないことで二人に愛情を示している。
「彼もまた、まともで壊れても居たのよ。だから、ああして気持ちを整理しているのよ」
彼の気持ちが分かるわけない。でも、置き換えてみることは出来る。
「蓉子さまは、それでいいんですか?!」
由乃ちゃんが声を荒げる。
一瞬、誰に向けられたのか分からなかった。由乃ちゃんもなんらかの変化をしている、良い方向に。
あの向日葵のような笑顔のお蔭だろうか。
「由乃ちゃんが怒るのも、皆が思う気持ちも分からないでもないわ。それでも、大人でさえ一人の人生を根本から変えていくには思うよりも途轍もない、お互いに労力がいるわ。本人の協力も、本人が傷ついて傷つく場所がなくなるくらいに。周りもひたすら傷つくわ。」
聖の視線、令、江利子のやるせない顔つき、由乃ちゃんの唇を噛み締めた悔しさ。
痛いほど分かる。
ただ、恋をしているだけではない。私は、彼女と生きたい。その為に、考える限りの道を。過去に、常人には抱えれないくらいの闇をその手にしていても。
人間、これからがあるのだ。私たちにだって、触れらない場所を抱えている。
「それはそうだとしても...誰かが傍に居てくれる強さは必要だったはずです。男とか女とかよりも」
由乃ちゃんは自身の、痛みを重ねているのだろう。
「ええ、由乃ちゃんの言う通りよ。だから、もし、彼女だったら由乃ちゃんが友達として傍に居てあげれるじゃない」
その言葉に、四人は盲点を突かれた顔になる。
「蓉子の言う通りね。由乃ちゃんの良いお友達になるわね」
江利子がからかい気味に言うが瞳は優しさが込められている。令は泣きそうになっている。
「うん、志摩子もお願いしないと。あの子は殻に籠りやすいから。私と一緒で」
聖が自身の事を、言葉にするなんて。
それから志摩子もやってきて、話が色んな方向に飛ぶ。だけれど、最後には○×国と彼女の話に。
ちょうど、志摩子が来月○×国の隣で新たな非営利団体と提携を組むらしく行くそうだ。それに合わせて、休暇のバラつきはあるものの五人で行くことに。
祥子はスケジュールが最近合わない。
柏木さんの交友関係の顔出しに付き添ったり、祥子自体の仕事関係と聞いてるこっちが倒れそうな毎日を送っている。
話を聞いた祥子は、残念そうにしていた。
あなたに会いたい。
木漏れ日のなかで一緒に、微睡んでみたり。
ゆっくり出来る日には朝から、お弁当を持って出かけたり。
誰かと出来るから、幸せを充満するような日々を贈りたい。
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休暇の話を上司にすると退職への伏線と思われたようだ。仕事への不満、希望、展望を延々と言わされそうになった。
求められるのは嬉しいし、水野蓉子と認められた錯覚を実感する。本当は祥子の威光が何処かで邪魔する。江利子と聖がリリアンの温床の理不尽な代償を払うように、私も小笠原祥子の姉妹制度での姉としての代償を払っている。
リリアン出身と言えば、姉妹制度を持ち出され同年代の有名人を出され、納得顔をされる。
そんな歯痒い思いを何度やり過ごして来ただろう。
あの時の七人全員、言葉にしないだけで味わってきたはずだ。あの時の事もあり、その何とも言えない社会の納得に私たちは疲弊していた。
だから、向日葵のような笑顔に手を伸ばしたかったのだ。野草花だからこそ、心に響くものがあると。
○×国に向けて準備をする。
迷いなんてこれぽっちもなかった。
小学生の頃、感じた遠足前の高揚感。
約束するでもなく、聖、江利子と集まる。
そんな気分のなか、かち合ってしまった彼には寛容な態度で居られた。三人とも。
唐突に、そう、テロのように気分を低下させる一言を放った。
「なんでそんな事言うのよ。あなた、蓉子の気持ち考えなさいよ」
静かに江利子は小林くんに、感情をぶつける。
小林くんはただ、俯き言葉を探してるだけだった。
「なんとか言え。お前は、おまえらは利用してただけだろ」
聖がなんの気遣いも、ましてはリリアン出身であるまじき言葉遣いできつく、怒りを示す。
「俺だって、あんたらのように...薄暗いもん抱えていながらも、傍に歩み寄りたかったさ...あの頃のあいつは、ただ生きてたんだ、呼吸をするから脳が指令を出す。それに従うように。誰も見なかった、誰もガラスの中に入れなかった。それなのに、瞳は澄んであの、あの...笑顔で」
小林くんは言葉を紡ぐ行為すら、傷に沁みるかのように吐き出す。
先ほど、「あなた達は会ってどうするんだ?あいつが何故、店に残ったか考えたのか?」とは違い、自身と闘ってるかのように。
「だからって、私たちにまで制限をかけないで。付き合いが長いから、本心が分かるとは限らないわ。これからが私たちにもあるし、あの子にも。もちろん、あなたにも」
私は、触れられたくない場所を晒すかもしれないことへの考えも滲ませて話す。
「だから、あいつがあなた達に揺さぶられたんだろうな...福沢も俺も、長老すら負けたんだ。」
親に見捨てられた子どものように、小林くんは顔を歪める。
聖と江利子は何かを言いかけ、口を開きかけた。
その時、思ってもいない人物たちがやって来る。
「おい、小林。学習能力がないのか」
普段からは考えられない声色で柏木さんは言った。横の祥子も表情は険しい。
「先輩、わかってますよ。気分が優れなかったから辞するタイミングを失ってたんですよ」
弱々しく言う小林くんは柏木さんに向きながら、立ち上がる。
「お姉さま、何のお話をなさってたんですの?」
祥子がそんな小林くんに思うところがあり、聞いてくる。
「何故、行くのか。聞かれたのよ」
江利子が先に答える。
「お互いに、きちんと分かちあえるか否かを話し合ってたの」
聖が小林くんに先ほど向けた感情を仕舞い、付け加える。
「で、お前は泣かされたのか。」
柏木さんは指摘する。だから、好きになれない。真実ではなく、事実を。感情ではなく、結果を優先するように見せかける。周りを考えた彼なりの優しさは伝わりにくく、時に刃物のようにもなる。
「先輩、泣いてはいませんよ。俺はね、福沢のように壊れたかった。」
店員が二人のオーダーを聞きに来る。
一旦中断された小林くんに席をもう一度勧める。
飲み物が揃ったところで、柏木さんが促す。
「福沢は腹違いでも、戸籍で繋がってなくとも姉と弟だと分かっていながらハマっていく自分に...守る術がなかった。しかも、親父さんと関係があったときた。高校時代の福沢の瞳、いつもいつも憎しみで一杯だったんですよ」
誰も何も、口出しが出来ない中、小林くんはウィスキーロックを口に含む。
「傍観者であれ、お前だけは。今後も、祐麒が外を見れるまで面倒をみるけど外を向いた時に傍観者であるお前が必要だ。そう言いやがるんですよ」
思い出が彼に痛いのだろう。泣いてはいないが、泣いているように見える。
「ある日、連絡がつかなくなって俺と福沢がは焦っていた時。叔父貴に連れられた親団体の裏カジノで長老の横に居るあいつを見た。問いただしたら、ケロっと母親が死んだ、だから助けてもらった。仕事を手伝っている。お前の仕事にも祐麒の仕事にも役には立つだろう。私は闇でしか生きれないし光ある場所にはいけないし望んでもいない。その日、俺は寒気と吐き気がずっとしてました。なにがあっても澄んでいるあいつの瞳、あの笑顔。」
祥子が叩いた日を思い出す。空白に感じたあの変化のなさ。
「でもね、俺は今、もしかしたら感謝してるんですよ」
私たちを見て、普段より弱々しくはあるが、やり手風を見せる。
「あいつの周りを囲むガラスにヒビを入れて、光を触れさしたんだから。抵抗することを教えたんだから。どうあの爆発から逃げたのかは知りません。あいつの独自のルートがあったんでしょう。○×国の住所はあいつが行方不明期間に居た場所です。無理やり聞いてたんです。その時、私が死んだらそこに知らせてくれって。そこが私の墓場になるって。認めたくなくてずっと連絡してませんが。」
そう言うと立ち上がり、先輩ごちそう様。と言い、店を後にした。
小林くんの思い出話は結構きたけれど、私たちの表情は前を向いていた。
本当に彼女なら、迎えてこれからを一緒に向いて歩き出そうと。
小林くんは壊れることを自らも禁じて、必死に支えれる自分であろうとしたのだろう。親友と愛した人とを。
自身に置き換えてみる、江利子と聖。
私は出来るのだろうか?
あなたは小林くんの優しさを利用しただけではないのよね?
世の中がその当事者だけで回っていないから、無情にそう突き離したのよね?