そこにある花‐その先へ‐   作:待兼山

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第6話

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朝食を摂り、化粧などの身支度を整え江利子とホテルを出る。

大人になり、親友と旅行なんてしたことがなかった。近すぎないように、遠くならないように。そう、戒めたのは私だ。あの時、冷静でいれる人間を担う。そう思い、行動して破裂しそうな心を必死に宥めた。

誰もが夢であって欲しいと望んだ。ずっと、十年以上思い今では何もかも残っていない。私たちの記憶や感触以外。

そう考えていると、江利子の顔つきも沈んでいるように思えてくる。

「江利子、気分悪いの?」

窺うように、信号待ちで聞く。

「ううん。夢を見たの。」

少し苦笑い気味の江利子。

「夢?」

続きを促すと、江利子は欧米スタイルのカフェを指し、入ることを提案してくる。

一旦会話は中断し、飲み物を持ち席に。

「さっきの続きだけれど」

ストローをグラスに差し、江利子がまたもや苦笑いして言ってくる。

「話して。軽くなるなら、どんな話でも」

親友だから、私たちは。だから、○×国にまで、あなた達は着いて来てくれた。

「大学時代に付き合ってた人居たでしょう?私が高校時代に惚れた、花寺の臨時講師。父親と兄らが敵意むき出しにしてた」

ああ、江利子の初恋と言っても過言ではないあの人か。

江利子の大学卒業と共に、別れた。理由は頑として、江利子は話さなかった。

「別れるちょっと前から、その人の就職というか臨時だけど考古学に力を入れてる私大から誘いを受けているって言われてたの。」

目を伏せた江利子はあの頃では見せなかった顔をしている。

「でもね、付いて行く気になれなかった。私は、怖かった。由乃ちゃん大事さもあったけど...四年近く居る相手に、隠し事をし続ける。ましてや、子どもにすら見せれない自分を見続けるのが怖くて。」

あの後、柏木さんが人伝に結婚したと聞いたことを祥子から聞いた。

江利子の気持ちは私たちは、経験している。幸せになることの戸惑い、躊躇。実際、結婚したのは祥子以外いない。ストップをかける、当時の私たちが私たちの中に存在する。

「それに、由乃ちゃんを盾にする自分が居るのも、許せなかったの。だって、付いて行かないのは私でしょう?由乃ちゃんが言ったわけじゃないし」

江利子は、良く冷えたカフェラテを飲む。

「だから、理由を言わなかったの?言葉にすると、そう聞こえそうで」

ブラックを口に含む。江利子の苦さを共有するように。

「そうかもしれない。でも、どうしてだか、言いたくなかったの」

江利子は優しい、好奇心を優先しがちで見えにくいけれど。

「それで、夢なんだけれど。別れの日に、荷造りを手伝ってたの。今考えるとそれくらい、好きだったのよね。」

自嘲的に懐かしむ江利子は、年相応の疲れを滲ませている。

「二人で行った動物園や子どもと三人で行った場所が映像として飛び出してくるの。夢だからなんでも有りでね。」

ふふ、と無邪気に笑う。

「子どもがそこにやって来て、言うの。嘘つき、江利子さんの嘘つき。お母さんにはなれないかもしれないけど、理解者になろうって約束したのに。って」

カフェラテを飲むともするでなく、江利子は口にする。

「当日は、居なかったんだけれどね子ども。でも、居たかのようにリアルで...安定を望む恋愛なんて、それ以来してないからこそ見てしまったのかもしれないわね」

江利子はそう締めくくった。

「話してくれてありがとう。どうにも出来ないけれど、江利子が弱さを見せてくれてほっとしてる。自身の弱さは誰かに言うのが怖いもの。仕事とかは自身だけじゃないでしょう?恋愛や人間関係って本当の意味で自分との対峙でもあるから。だから、私も怖かったの。現実や認める自分が」

江利子に、喧嘩の原因になった態度を伝える。今回、私は自分と対峙をしなければならない。

「ええ、蓉子が幸せにならないと私たちがつっかえたままだからね」

江利子は晴れ晴れしい笑顔に変わっていた。

 

 

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聖と由乃ちゃんが乗った便が予定通り到着するならと考えて、昼食を軽く済ませ空港に迎えに行く。

夕方にどうやらスコールもどきがふりそうだと、江利子が仲良くなったバックパッカーのイギリス人が言うようにむわっとした気温に変わりつつある。

「日本離れたのに暑いですね。」

由乃ちゃんが江利子と似たような事を言う。それが可笑しくて、少し笑ってしまう。

「蓉子さま、どうしたんですか」

由乃ちゃんは不満をそのまま口調に表す。

「ごめんなさいね、江利子と似たようなこと言うもんだから」

そう言うと、眠たげにしていた聖が

「遺伝だね、黄薔薇の」

得意げに言う。

「令が来たら、遠回しにまたまた言うよ。想像よりもなんだか蒸しますね、とかって」

重ねて言う言葉は容易に想像つくことで、不満気の由乃ちゃんも笑っている。

それから、空港を出て、ホテルに戻り部屋に荷物を置く。

ホテル近くのカフェでどうするかを考える。

「なんかさ、由乃ちゃんとだけで移動したの初めてで緊張しちゃった」

聖がセクハラおやじ仕様でカラカラ笑う。

「聖さま、ずっと寝てたじゃないですか。」

由乃ちゃんは呆れながらも言いつつ、つられて笑う。

「呆れた、由乃ちゃんの相手しなかったの。聖」

江利子が由乃ちゃん馬鹿丸出しの様にして言う。

「江利子さま?私を子どものように言うの止めて頂けません?」

由乃ちゃんは不満気に江利子を睨む。江利子は気にする素振りも見せない。

「だって、由乃ちゃんが可愛いのは事実ですもの。30でも可愛いままとか、良いことよ?」

からかい気味に江利子が言い、

「そうそう。見せかけの子は居るけど、内面は年相応で、会話もできるのは由乃ちゃんぐらいだよ」

聖も加わり、褒め言葉を。由乃ちゃんはテレからか黙ってアイスティーを飲む。

「そうね、志摩子や由乃ちゃんを見ているだけあって、同じ年の子らに物足りなさを感じる時があるわね」

私も褒める。仕事柄、色々な年齢の人間と話すが比べてしまう。お互いにしこりとなって、仕事に障るかもしれないのに。それをやりこめるのに大変だった時期もある。本当は向いてないのではないかと考えたこともある。学んだ先がこれでした、の前に私たちは触れられない場所を作ってしまったのに。

「なんだか、もう言わないでください。三人に褒められると子ども扱い受けてる気がしますから」

若干、赤くなり由乃ちゃんは視線を逸らす。

私たちは優しく笑った。

 

「でさ、蓉子の聞いた場所なんだけど。こっから歩くとも、車で行くともいえない距離みたい。」

事前に知り合いに聞いてくれてた情報からスマホを見える位置に置いて、聖は言う。

「明日かしらね。雨、降ってきたわよ。凄い雨脚なのに、明るいわよ。」

江利子が外を見やり、告げる。

「本当ですね、ザアザア降ってるのに平然と歩く人たちもいるんですね」

由乃ちゃんが感嘆の声を上げる。

視線を平然と歩く人らに向ける。現地の人だろうか、小さな子の手を引きながら雨を楽しむかのように濡れることも気にせずにいる。

その人が子どもに向けた顔はここに来た目的の人物に似ていた。

咄嗟に立ち上がり、外に行こうとした。その私の手を、聖と江利子が捕まえる。

「蓉子。こんな雨の中、どうしたのよ?」

江利子が厳しく言い、

「何が、どうしたの」

聖が戸惑いを隠せずに言う。親友たちの気遣いが今はもどかしく。

「お願い、離して。祐巳が、濡れながら歩いてる人、祐巳よ」

切羽詰まり言う、そんな私に吃驚したのか緩んだ隙に外へ飛び出る。後ろから、三人の声が聞こえた気がした。

 

先ほどの人物は数メートル先に、明るいのが功を奏して見つけれた。

雨が邪魔をして上手く走れない。こんな時に、ヒールの少しでもある靴を履くんではなかった。

ずっと距離は縮むことも開くこともない。

「祐巳!お願い、祐巳待って!」

そうであって欲しくて、雨に遮られると思いつつ声を出す。

何度も何度も、息が上がる。声を出しながらのせいか、先ほどよりもきつくなる。後ろからは聖の声がする。

これで最後と思い、

「祐巳、お願い!祐巳!」

その時、ふいに立ち止まる子どもとその人。

こちらに振り返る様はスローモーションで、私を見ると吃驚し、段々と微妙な表情に変わる。

先ほどの雨が嘘のように、一段と明るくなって緩やかな雨脚になる。

後ろから、江利子と由乃ちゃんの声も聞こえる。

 

「なんで来たんですか」

追い付いた私たちに祐巳は、無機質に放つ。表情はまるで無い、さっきの表情の変化を微塵も感じさせずに。

「それはないんじゃないかな?」

聖が苦笑いで言う。その時、

「あんた、蓉子さまの気持ち考えなさいよ!」

いつかのデジャブ。息が上がりながら、由乃ちゃんは祐巳に掴みかかる。祐巳はなんの変化も見せない。されるがままで、

「わかりません。だから、放してくれませんか?」

そう言いながら、由乃ちゃんの手を緩めようとする。由乃ちゃんは更に力を込めながら、

「わからないって考えなさいよ!」

そう言いながら祐巳を叩く。

江利子と聖が必死に由乃ちゃんと祐巳を宥める。私は、ただ眺めるしか出来ずに。観客席にいるかのように。

更に、更にと由乃ちゃんが詰め寄るなか、祐巳が連れてた子どもが泣き出した。ハッと三人と私が見やる。

祐巳が意に介さないように目線を子どもに合わせ、現地の言葉で何やら言っている。

「とりあえず、近くなんで来ますか?乾かすか、車呼ぶかしないといけませんし」

祐巳が子どもを抱き上げ、私たちに声を掛ける。その時に、祐巳の髪の毛が子どもの手により上がり、見える。爆発の痕を感じさせる、火傷が。

「祐巳ちゃん、どうやって...」

聖が無意識にか、思っていることを言う。私はさっきから一言も声が出せない。

祐巳はそんな私に、向日葵のような笑顔を向ける。

聖の問いには答えないまま。

私たちが着いて来るかの確認をしないまま、祐巳は歩く。店でも歌っていた童謡を抱いている子どもと一緒に口ずさみながら。

 

「着きました。右手の家に入っててください。私はこの子をばあさんのところに。」

祐巳はそう言うと、現地の言葉で子どもに話し掛け一番大きな家に向かって行く。

ああ、会えた。祐巳に会えた。拒否とも取れる言葉を言われたが、ずっと会いたかった彼の人に会えた。

拒否でも拒絶ではない、そう言い聞かせ私は先に入った三人に続き家屋に。

 

 

 

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