そこにある花‐その先へ‐   作:待兼山

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第7話

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雨脚は急速に衰えをみせ、もう止むかのような気配をみせている。

私たちは屋内で、一間と奥まったもう一間だろうか、途方に暮れていた。私が三人に声を掛けようと、口を開きかけた時。

ノックがあり、戸が開いた。祐巳が先ほどとは違う子どもを連れて入ってくる。

「どうぞ、使ってください。新品ではありませんが。後、シャワーはないですが湯浴み程度が出来ますので少しおまちください」

そう言うと、子どもに何やら話しかけまた、出て行く。

私たちは無言で渡されたタオルで水分を、どうしようもなく濡れた服や体に押し当てていく。

 

戻ってきた祐巳がホットミルクのようなものをテーブルに四人分置く。

「皆さんが飲み慣れてるミルクではないので、口に合うかわかりませんが。」

祐巳が向日葵のような笑顔を私たちに向ける。それぞれお礼を言い、口を付ける。

「美味しい。少し、ブランディを入れて、くれたの?」

追いかけてる際に言葉を発したきりの私は上手く、言葉が紡げない。

「ええ。臭み消しも兼ねて」

祐巳は窓辺にある丸椅子に座る。

「美味しいわ、ありがとう」

何を喋ればいいのか分からず重ねて言うしか出来なかった。横の聖が、江利子と由乃ちゃんを見やる。由乃ちゃんは俯いたままで、カップを両手で持っている。気まずさがあるのだろう。激情的な由乃ちゃんを久しぶり見た。

江利子が優しい苦笑いを浮かべる。

「ねえ、さっきの子どもと雨のときの子どもって」

聖が部屋の空気を変えるように、祐巳に声を掛ける。煤汚れた窓の外を見ていた祐巳がこちらを見る。

「ここは楽園のゴミ置き場です。裏、表。光と影。光陰。良い面、悪い面。何でもいいですけど、どうしても出てしまう隠したくなるモノの置き場所です」

祐巳は解説するようにただ、話す。

「それって...」

由乃ちゃんが何か思い当るのか声を出す。

「色んなコトしに来る、国外の人らの知らない『子ども』たち。東南アジアの楽園と言いつつ、親が子どもの手足を切って物乞いしてある日、捨てられるんです。ここのばあさんが面倒見てます」

私たちは処理が追いつかないまま、祐巳を見つめる。

窓が叩かれる音に、祐巳が立ち上がる。

「お湯、沸いたみたいです。使ってください。電気、一応通ってるので」

 

奥まった所がタイルが敷かれた浴場のようで、ドラム缶のような筒状からお湯を掬い水で適温にする。

思っていたよりも身体は冷えていた。ただ、祐巳に会いたい。その気持ちが優先され、声が聞きたいが次になり...それが果たされた今からはどうすれば...?

その考えを脇にやり、程々で出る。

順番に使い、祐巳が用意してくれた着替えに袖を通す。

祐巳が子どもに声を掛け、何かを渡す。

「ホテル、どこですか」

有無を言わせない口調に由乃ちゃんが顔を上げる。江利子が由乃ちゃんの肩に手を置く。

「祐巳ちゃん、少しだけでいいから時間をくれないかしら?蓉子だけでも」

江利子が真剣に言う。聖も緊張を顔に張り付かせ、頷く。

「構いません。ここは、何もないですし何処かで」

祐巳は苦笑い気味に、言う。

「それならそうと言いなさいよ。」

由乃ちゃんが皆の苦笑いを引き出す。

 

「ホテルから近かったんだ。祐巳ちゃんの家」

聖がホテル近くになるとそう口に出す。

「あの場所はマップでも車での行き方でしか出ません。でこぼこ道で、タイヤがパンクしやすい原因だから」

祐巳はそう言い立ち止まる、ここで待ってますからと言って。

「本当に待ってなさいよ。蓉子さまのために」

由乃ちゃんはまるで、そうまるで昔みたいに、祐巳に言う。祐巳は笑っていた。

着替えや化粧をするのがもどかしく、でも、祐巳に会えて嬉しく念入りにしたい気持ちが交差する。

これが最後にしたくない、祐巳と帰りたい。祐巳が生きてくれてた。

その気持ちから震える心と指先は、一人になったからこそ表れている。

なんとか支度を整え終わり、フロントに下りた時、聖が待ってた。

「江利子と由乃ちゃんは先に。」

そう外に視線を向ける。

「なんだか夢みたい。こうも簡単に会えるなんて、ねえ聖。祐巳よね?」

泣きそうな気持ちを抑え、聖に聞く。

「抓ろうか?祐巳ちゃんだよ、恋い焦がれた」

聖がおちゃらけた態度を前面に出し、言う。

「さ、おひーさまのところに行こう」

出会ったばかりの頃のように、聖は祐巳をおひーさまと呼んだ。どう転んでも、終わり良ければ全て良し。であるような気がしてくる。

 

 

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祐巳は江利子を挟んで由乃ちゃんと志摩子と向かいあっていた。

「志摩子、いつこっちに着いたの?」

私は驚いて、挨拶もそこそこに聞く。

「お姉さま方がホテルを出られた後です」

ふんわり笑い、答える。

「聖、言いなさいよ。」

ちょっと聖に八つ当たりをする。聖には明確な日にちが連絡されてただろうし、聖の悪い癖で誤魔化したかった。

祐巳がそのやり取りに笑う。

聖が、お姫様と向日葵のような笑顔だからおひーさまと言っていた。その言葉が間違いではないことを体現するように。そして、江利子が場を和ます、調和すると初対面で言ってた通りに五人はいつもより明るかった。

 

「祐巳ちゃん、どこに連れてってくれるのかしら」

江利子が前夜のリベンジだと言わんばかりの姿勢で聞いてる。

「お嫌いなものは?」

祐巳はもう決めてあるのか、好き嫌いの確認を私たちにする。

「ないよ~。美味しくない店は論外ね」

聖が江利子と違ったプレッシャーを祐巳にかける。

「辛すぎるものとか食べ慣れてないから。」

由乃ちゃんが自身の持病だった為の不慣れを言う。祐巳は知ってるのだろうか。長老だとか言う、老人が知ってるなら祐巳も?

「私も特には。強いて言えば、あっさりしたものが食べたいかしら」

志摩子が自身の好みを伝える。祐巳の視線が私にくる。私も無いし、おすすめで大丈夫だと伝える。

 

連れられて入った店は現地の人たち御用達に感じられる店だった。

○×国料理もあり、隣国の有名な料理も一応出している、日本でいうところの居酒屋のようなファミレスのようなそんな店。

祐巳はスタッフの案内もなしに店の奥に行き、席を私たちに促す。

「ここ、いつも来るの?」

聖がそんな祐巳に訊ねる。

「まあ、それなりに。居候は肩身が狭いですから」

祐巳は笑いながらメニューを開けた。私たちに大まかな料理の説明をしていく。一通り終えたタイミングでスタッフがやって来る。

「飲み物、どうしますか?」

祐巳が聞き、それを伝える。

「祐巳さん、凄いのね。」

志摩子が感心して、言う。祐巳は曖昧に笑う。そこにドリンクを持ってスタッフが来る。行きわたると祐巳が私たちが選んだ料理を伝える。

「ねえ、ちゃんと選んだの?自分の分」

由乃ちゃんが気遣うように聞く。

「日本で言うところの、雑炊を頼みました。」

江利子や聖が特に、気になる料理をかなり選んでたから祐巳が頼んでなくとも大丈夫だろう。

続々とテーブルに並んでいく料理は江利子、聖を満足させ、もちろん私たちも満たされるものだった。

「しかし、夜になればなるほどに増えていくね」

聖が魚のから揚げみたいなものを頬張りながら思っていることを言う。

「ここの国の大半は観光で成り立ってますから。勤務前の人や勤務終わりの人、大体、この時間なんですよ」

祐巳はこの国特有の焼酎を空けながら答える。先ほど、江利子と聖が興味から祐巳に貰って驚いていた。

「祐巳さんはこの国のこと、詳しいのね」

志摩子はお酒は聖と同じ、ビールしか飲まない。公的になると、飲まないかワインを少しだけ。由乃ちゃんはカクテルかチューハイしか飲まない。

「私にとって、ここが故郷で、ばあさんが居るあそこが家ですから。」

祐巳は答えながら、私が無理に取り分けた料理に手を付ける。

「その方は祐巳とはどうゆう関係なの?」

祐巳の皿の空いたスペースに、まだまだ残ってる料理を取りよそいながら四人にも取り分ける。

「高校を卒業して、長老が世界を見ろって言ってきたんですよ。定時制は四年、母親が死んだのが入学して間もない頃。全額面倒を見てくれました。母親の昔の男が、長老の親戚だったらしく、死ぬ間際まで私の心配してたから様子を見にきたらしいです。どんな人か覚えてませんけど」

祐巳は焼酎に口を付ける。

「東南アジアから大陸、主要な国は行きました。で、帰る前に寄れってところがばあさんの家でした。長老とどんな関係なのか、なんで子どもの面倒をみているのか知りません。噂、それは無数にありますけど」

祐巳は通りがかったスタッフに私たちのお代わりを伝える。スタッフが祐巳に何かを言い、祐巳は笑顔で答える。

「五人とも綺麗だね、って。有名な壁画の女性に似てる、って」

祐巳は向日葵の笑顔で先ほどの会話を私たちに伝えてくる。祐巳に言われた錯覚をしてしまう。

「感情がないなら、学べ。子どもは純粋に出してるだろう。早くに心を失くしたなら幸せだ、皆大人になってから切り刻んでいくんだから。そう言われました。長老はいつも、あの人間は何故ああゆう顔をするのか?と問いかけてきました。認識、だった事が違う側面で捉えることを知りました。だから、ばあさんは家族かもしれません。食べる事も、きちんと教えてくれましたし。長老は時間で動く人だったから」

祐巳の話は、私たちに当たり前を知らしめるようなことだった。

何故、祐巳はこんなにも私たちに話してくれてるんだろうか?

語り口は淡々としていて、瞳は澄んでいて。でも、窺いがしれない。

 

「どうして、教えてくれるのよ?あんな消え方したのに」

由乃ちゃんは皆の代弁をする。何かに耐えるかのような、無理に抑えてるようなそんな顔つきで。

「どうしてでしょう。不思議ですね」

祐巳は困った顔でそう答える。ため息を吐くと、そのまま黙る。

何か言わなきゃと思えば思うほど、何も浮かばない。

祐巳の瞳はいつかみた、透明度が澄んでいくようで泣きそうになる。

「多分、あなた達に出会えたからだと思います。」

祐巳がそう、言った。

来て良かったのだ、祐巳に会いに来て良かったのだ。

もう迷わない、触れられない場所を抱えていようが苦しみもがいても、ただ、祐巳に安らぎを。

 

 

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