そこにある花‐その先へ‐   作:待兼山

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第9話

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翌朝、いつも通りに起きてしまい、暇を持て余して朝食を摂るにも皆の起きる時間から考えると早いが、カフェテリアに向かった。

ビジネスマンやバカンスとも言えなくない男女がちらほら居る中、マイペースさをずっと貫いている志摩子が居た。

「おはよう、志摩子。座らせてもらうわよ」

そう声をかけ、ルームナンバーを分かりやすく置く。

「おはようございます。どうぞ、お早いんですね」

志摩子はふんわり笑み、食器などを隅に寄せる。

「志摩子こそ、早いんじゃないかしら?」

皮肉にならないように、優しく笑ってみせる。

「私は仕事もあったので、どうしても小さい頃からの習慣は抜けませんし」

苦笑い気味に志摩子は言う。ウェイターが私の注文を確認にやって来て、志摩子は紅茶を頼んでいた。

その後、少しの沈黙が流れた。志摩子は沈黙に、気まずさを感じさせない空気を作り出すのが上手かった。リリアンの頃から、江利子ですら黙って紅茶を飲んでいたり、景色、参考書を見ていたりしていたくらいだ。

私の朝食、志摩子の紅茶が揃いウェイターが離れた時、志摩子が口を開いた。

「こうして蓉子さまと二人、テーブルを囲むのは随分久しぶりですね」

「そうね、リリアン以来よね。それでも無数にあったわけではないけれど」

そう、聖の代わりに江利子や私が仕事を教えたりしたが、祥子が率先してからは二人というのは余りにも少ない。由乃ちゃんとよりも多いけれど。

「そうですね。何も、何も知らなかったあの頃が、幸せだったのでしょうか。」

朝から、少しヘビィな話題を志摩子は選んだ。でも、私たちはずっと抱えてきた疑問だったのだ。

「知りすぎる、知らなくとも良かったことは確かに多いわ。でも、ずっと幸せでは居られないのよ?歯痒い思いややるせない思い、それこそ不幸せを感じてこその幸せなのよ。だから、私は戻りたいとも今が嫌とも思わないわ」

自家製ベーコンを一口大に切りながら、私は自身に言い聞かせた。弱っている時に、部屋で一人勝手に流れる涙がたまにある。志摩子の言葉とは少し違うが、思いは一緒なのだ。

「蓉子さまは、お姉さまと違う言葉をくださいますが、何処がで欲している言葉で。お姉さまが今を踏みしめる言葉なら、蓉子さまはこれからを見据えようと思えます。」

志摩子は迷いが吹っ切れたような笑顔になって言った。

「江利子は?江利子が拗ねるわよ」

悩みを詳しく聞かず、もう一人の親友を出す。志摩子は茶目っ気に笑い、

「江利子さまは息抜きを考えれますね」

私と志摩子は少し、声を出して笑った。

 

「祐巳さんは強いんですね、あんなことがあって。それに、由乃さん、昔以上に自分を祐巳さんが居ると出しているし」

志摩子は途中で○×国にやって来たが、江利子と由乃ちゃんに聞いたのか。

「ええ。私は、どうして惹かれたのか今でも説明は出来ないの。でも、そんなことよりも、祐巳が傍に、私が祐巳の傍に居て、少しでも満たしたいってお節介にも思っているの。」

私は志摩子だからこそ、言える気持ちを話す。

「祐巳さんにも伝わってますよ。」

志摩子はそう優しく言ってくれた。

 

 

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江利子、由乃ちゃん、聖の順番で起きて朝食ともブランチとも言えない食事を摂ったらしく、内線で集合はロビーになった。

祐巳はお昼前に迎えに来ると言っていた。休暇中の私たちに気を遣ったのだろう。詳しい時間は言わなかったが、問えば11時半前後と答えてくれた。

「聖、二日酔い?結構、飲んでたものね」

江利子がからかうように言うが、江利子も眠たげだ。

「今日はご飯が食べたかったよ~」

聖は来て間もないのにホームシック発言を、普段、出張中はどうしているのかしら?

「聖さま、普段の出張はどうなさっているんですか?」

由乃ちゃんが代弁してくれた。でも、泣く子もだまる某出版社秘書主任バージョンはちょっと...

「志摩子~由乃ちゃんがいじめる~」

ほら、ややこしくなる。江利子は面白げにしているが、由乃ちゃんは意識はどこへやら。

「令ちゃん、今日の夕方にもしかしたら飛行機乗るかもみたいです。それか、明日の朝で」

令からの連絡事項を、しばらく見てなかった由乃ちゃん本来の気取らない、仮面のない優しさで伝えてくれる。江利子も優しく見つめながら微笑んでいる。

「令が来たら吃驚するでしょうね」

江利子はかの有名な猫のように笑いながら言う。

「私も驚いたけれど溶け込んだのでもしかしたら、令さまもそうかもしれません」

志摩子は自身の時の気持ちを言いながら、少し悪戯っ子のように。

「どういう意味ですか?」

由乃ちゃんが不満気に言い、聖が口を開きかけた所で

「あのね、ロビーで注目に晒されたくないのよ。ささっと外に行くわよ」

私が話を引き取り、歩きだす。後ろから茶化す声が聞こえるが無視をする。

 

祐巳はホテル敷地外の公道に子どもと一緒に居た。

今日はタンクトップを重ね着し、黒のジーンズを履いていた。コンバースらしき靴の上に可愛らしい女の子が祐巳がよく口ずさんでいる童謡をメロディをなぞっていた。

「おはようございます。よく眠れました?」

祐巳は向日葵のような笑顔で迎えてくれる。

「今日は露出度高いね~」

聖がセクハラおやじ仕様で祐巳に近づこうとした。志摩子が聖の手を握り止める。それを見た祐巳が

「佐藤さんは相変わらずこてんぱんですね。昨日のように、強い雨が降ると次の日はうだる暑さって決まってるんです。」

だから、日傘やサマーカディガンがあれば取って来てください。と言い、子どもの注意を自身に向けた。

三人が各自の服装に追加をしに行ってる間を志摩子と私、祐巳と子どもで待つ。

「祐巳さん、その子は耳が聞こえないの?」

子どもは祐巳が自身を向いた時にしか話さないし、子どもは異国の言葉と言えども無関心すぎていた。

「ええ、施設の職員にやられたみたいです。兄と一緒に路上で居たところ、ばあさんが家に。私がここに戻ってきた時は聞こえてたんですが、もう完全に聞こえないようです」

祐巳は淡々と言い、その子どもの髪を梳きながら唇を読ませるように顔を向かせる。

「その施設は、団体や名称がわかれば...」

志摩子は自身の仕事を通して、報いをしたいのだろう。私も何か、と思ったその時。

「それで、どうするんですか?」

祐巳は無機質な顔を私たちに向けた。

「この子は兄と離されて、そちら側の幸せを押し付けられて頭を押さえられて生きるんですか?」

極論だが、何が幸せかを本人以外が決めてはいけないと示す。

「この子は太陽が真上にあって月が静けさを支配し、その中に兄が居てばあさんや他の子どもが居るそこに安寧を生みだしたんです。今はそれでいいんです」

志摩子と私が黙るなか、ホテル敷地内から三人の賑やかな声が聞こえた。

 

 

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少し気まずい思いをしながらも、聖や由乃ちゃんが賑やかさを出してくれていた。

市場に行くと言い、江利子をはしゃがせながら気が付くと志摩子、私、祐巳、祐巳が手を繋ぐ子どもという並びになった。

「さっきはごめんなさい。私の基準を言ってしまって」

志摩子が顔を俯かせ言う。

「こちらこそ藤堂さんのことを知りながら、きつい事を言ってしまいすみません。」

祐巳は志摩子と私に向けて謝る。

「感情がないと言いながら、謝るのはおかしいですけど」

少し場を和ますように、祐巳は優しくおどけてみせる。

 

市場はお昼時のせいか混雑していた。

「気になる店があったら私に言ってください。スリや吹っかけされたければご自由に」

祐巳の言葉に江利子ですら少し、自重する気にはなったかもしれない。でも、由乃ちゃん可愛さからかもしれない。

「水野さん、手、繋ぎます?」

私が志摩子や由乃ちゃんを見ていたからだろうか。祐巳は微笑みながら、子どもと繋いでる手とは反対側の手を差し出す。

「蓉子、繋ぎなよ~」

聖がいち早く感付き、からから笑う。

「あら、良い機会じゃない」

江利子も一緒になって言う。

「お店までもう少しだから恥ずかしくないですよ」

祐巳は気遣ってか、私の気持ちが分かってないからなのかそう、向日葵の笑顔で言い、繋いでくる。

子どもは祐巳を見上げ、そして私を見、笑った。

 

 

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市場内にある屋台の体をしながら、惣菜らしきものを量り売りしつつご飯屋さんのような営業もしているその店に到着した。

祐巳は私たちを席に座らせ、子どもと共に奥に入って行った。

しばらくすると青年とも少年とも言い難い子と先ほどの子どもと三人で出て来た。

二言三言交わし、二人は人ごみに消えた。

「メニューはないので、適当に頼みました。気になる物あれば言ってください」

祐巳は聖と江利子が仕組んだように、私の横に座る。

「匂いでお腹が空いたわ」

二人、いや、四人が見守る中、私は祐巳に身体ごと向け言う。

「でも、子どもたちは良かったの?」

気になることを訊ねる。江利子も気になってたらしく、

「そうね、皆で囲めば良かったのに」

「あの子、可愛かったし」と聖もオヤジ発言で加わる。

「今日はお兄ちゃんが昼から休みだから、飴細工かばあさんへの土産を買いついでに買い食いでもしたいんでしょう」

祐巳は私たちに炭酸水を開け、果実が入ったデカンタに注いでいく。

「美味しいですよ、この気候だからこそ。料理がきたら、ビールか何かに変えてもいいですし」

聖を見やり、にんまり笑う祐巳に心が跳ね上がる。

 

料理がやって来ると、会話があるものの集中しだす四人に私は苦笑いを送る。油で揚げていても非日常がそうさせるのか、本当にそうなのか曖昧だがお腹に収まる。

お粥と揚げ物、炒めもの、酢合え、麺類。六人には少し多いような量。私が取りよそわずに各々が勝手に箸を。

「祐巳はこの後、どうするの?」

今日最大の気になることを聞く。鼓動は早くなり、少し目を逸らしながら。

「夜の薬浴まで暇です。所謂、ニートです。ここの店主にガイドでも始めたのかと言われるくらい、居候で有名です」

祐巳は先ほどから、お粥と少量の料理に手を付けたきり。誤魔化すように、自身のついでに祐巳の皿によそう。

「強引ですね。どこか案内しましょうか?」

苦笑いしながら祐巳は江利子と由乃ちゃんの会話、聖が志摩子に着いて来るように言い聞かせていることから察知したのか聞いてくる。

「そうね、私不勉強すぎて何処ってのが思い浮かばないの。何があるかしら?」

祐巳がグラスに口を付ける。

「佐藤さんと藤堂さんが行く、東南アジアの観光市場もいいですが。昨日、店のスタッフが言っていた壁画を見に行きませんか?年配の観光客が多いですが」

そう言い、向日葵を咲かす。

聖と江利子に、信頼のあるガイドとタクシーを紹介すると祐巳は話し、気侭に会話は散らかっていく。

私は、心が躍るのを久しぶりに経験した。

祐巳が今日の、これからの時間も一緒にいる事が嬉しく、離したくないとさえ感じた。

 

 

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