こういった話は、どこまでやっていいかわからないので難しい…。
----レイザーSide----
『昨夜はお楽しみでしたね』。
ドラクエ世界で、一度は言われてみたい言葉である。
それがまさか『昨夜は命拾いしましたね』と心から思うとは、予想もしていなかった。
ダイ達と別れ、一人旅をする際に行くつもりだった店がバレて号泣するクーラに、「生身の肉体に転生して3大欲が出来て…」という言い訳をしたのがいけなかった。
何か琴線に触れたらしいクーラに「そんな店で出来ることぐらい、私がやります!」と、色々わかってはいけない叫びと共に押し倒された。
いつ意識を失ったかわからないが、クーラに手や足を絡められながら、更に翼に包まれて、捕食される寸前の餌のような状態で目を覚ましたのがついさっきだ。
こういう朝に目覚めたときは、相手がまだ寝ているか、こちらへ微笑んでいるのを期待していたが…
<●> <●>
顔文字で表現するとこんな感じで、まばたきもせずにこちらをガン見していた。
…もうクーラを怒らせないようにしよう。
それでもやっと話が出来るまでに落ち着いてくれたらしく、今後について話し合うこととなった。
「私『も』愛しております。それと一姫、二太郎、三なすびがいいと思います」
「落ち着いて、クーラさん。今後とはそういったことではないです。そもそも、いつ俺がそんなこと言いました?」
「…初めてだったのに。あんなに尽くしたのに」
それはこちらも同じだが、男性と女性では意味が違うため、それについては反論の余地はございません。
「いや、その…。こ、子供とか出来たら魔王退治どころじゃなくなるし…」
「わかりました。婚約ということで手を打ちましょう」
あれ?何かドツボに嵌まってないか?
「気のせいです。それよりも今後必要なことを考えましょう。えぇ、早く。目先のこととしては、私に預けられた装備でレイザー様向けの物はほとんどないという問題があります」
袋をひっくり返すように中身をぶちまけると、剣が幾つかあるだけで、防具はほとんどなかった。
後は色々な失敗作。
インパスを使って調べたところ、『ぬるい水』『復活の玉(空)』『なんかの雫』など、回復アイテムの出来そこないだけだ。
「クーラが剣メインとなると、俺は呪文とかのほうがいいか…」
そうなるとこの世界の極大呪文は両手を使うことが多いため、剣で手がふさがれるというのも問題だ。
「レイザー様は私と違って武器を選ばないので、武闘家のように手甲はどうでしょうか?」
それで問題ないだろう。
特技については隼切りなど明らかに剣でしかできない技も、斧でも鞭でも出来るため、武器に悩まないという意味でも便利だ。
「どうせなら、氷炎将軍時代みたいに自作するか。…となると、魔族と精霊がいて差別されない、武具を作る工房を貸してくれる場所が次の目的地だな」
レミラーマを使ってみると、地図上で光ったのは3箇所だった。
一つ目、ロモス王国。
「…人が多いところは怖いです」
クーラが怯える様に言う。ここは止めとこう。
二つ目、パプニカ王国。
「いや、ついさっき別れたばっかりで、戻るのは気まずいだろ。ここは最後の手段だな」
そして三つ目、ギルドメイン大陸のどこか。地図上に地名はなかった。
「レオナ姫からもらった地図は、主要都市だけ記述されていると聞きました」
ということは、ここは大きな街ではないということだ。
レミラーマに反応したということは、それほど外れた結果にはならないはずだ。
少し遠いが、自分はトベルーラがあるし、クーラは飛べる。
それほど時間をかけることなく、この場所に行けるだろう。
----クーラSide----
「…人間はやっぱり怖いです」
レイザー様から聞いた、夢である特技の施設を作るため、魔族や私のような精霊が世間にいるということをアピールしておきたいという理由で、この旅の間は可能な限り人通りが多い道を歩いていた。
だが人の視線は檻に入れられた時のことを思い出し、レイザー様の腕に抱きついて顔を隠す。
「あの…クーラさん?お願いですから、強くしがみつかないでください。その胸部装甲は脅威です」
「嫌です。離れません。…氷炎将軍だったころは触りたくても触れませんでしたから、その反動です」
怖いというのもあるが、ずっと触れたかったというのも本当だ。
「それに…私達は恋人なのですから。愛する人とこうするのは自然なことです」
正確に言えばまだ返事をもらっていないが、旅費の節約のため宿を同室にする理由などで、私達は婚前旅行中ということにしている。
それとレイザー様を変な店に行かせないためにも、常に一緒にいる必要がある。
もっとも毎晩、私が愛している証拠を行動で示しているのでそんな体力が残っているはずはないが。
「まぁ、喜んでくれるならいっか。…それよりもさっき道具屋で買った、目的地周辺の地図を確認しよう」
人の告白を流されたことに苛立つが、私が顔を隠している間に道具屋の場所を調べ、買い物も済ませていたため、文句は言えなかった。
これまで人間に接する機会は私よりも少なかったはずなのに、レイザー様は先ほどの買い物や酒場などでの情報収集をたやすく行う。
それどころかステージに上がっておひねりをもらうこともあり、私達が立ち寄った場所は「陽気な魔族と陰気な天使がいる」と有名になっていた。
私は人間に対して苦手意識があるとはいえ、ここまで適応能力に差があると自信をなくす。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、レイザー様は一層明るい声で地図を指す。
「あった、あった。『ランカークス村』…の近くか。ここが目的地みたいだな」
踊り系は戦闘中は大不評ですが、飲み会では人気の特技です。