知らないドラクエ世界で、特技で頑張る   作:鯱出荷

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【2017/03/4 追記】
本日までに誤字報告機能にて、5名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

ありがとうございます。


【第15話】レイザーは、元上司と戯れている

----レイザーSide----

 

「驚いた。少し見ないうちに、随分パワーアップしたんだな」

 

ダイが勇者とある程度は確信していたが、実際にあの巨人を破壊できるほどとは思っていなかった。

今のダイを相手にするなら、自分が覚えていない特技を含めて全部駆使しても、その場しのぎが精いっぱいだろう。

 

ふとミストバーンを見ると、よっぽどあの巨人を倒されたのが悔しかったのだろう。

これまでのイメージと違い、ただただ叫び声をあげていた。

 

「…おっと。今のうちに、皆を回復しとくか」

 

ヒュンケルを筆頭に皆の傷は深く、自分も『誘う踊り』で腰が痛い。

 

備えあれば憂いなし。

治療できるうちにしておこう。『ハッスルダンス』で。

 

「レイザー様。回復なら私がベホマをしましょうか?」

 

全員がミストバーンに注目する中、クーラだけは違い、別の作業をしていた。

 

「?…クーラ、そんなの何に使うんだ?」

 

返事が来る前に、隙だらけのミストバーンへポップがベギラマを放つ。

それをミストバーンは、正面から無防備に受ける。

 

嫌な予感がする。

その直感を信じ、俺は皆をかばえる位置に移動して防御魔法をかける。

 

「全員、俺を盾にしろ!『マジックバリア』!」

 

特技が展開したとほぼ同時に、ミストバーンが受けた呪文をはじき返す。

その威力は強く、軽減は出来たもののバリアを貫通して熱風に吹き飛ばされてしまう。

 

「俺のベギラマを返した!?いや、むしろ増幅してやがるぞ!」

 

ポップが返された呪文の威力に悲鳴をあげる。

俺達に一矢報いたことでも気が晴れないのか、ミストバーンの怒気も大きくなっていき、自身の衣に手をかける。

 

「もはやここまで…!貴様ら全員、このミストバーンの真の力で塵一つ残さず、この世から消滅させてや『スト~ップだよ。ミスト』…!」

 

衣を脱ごうとするミストバーンの首に、巨大な鎌を突きつける妙な男が現れる。

ポップが言うには、あの男はキルバーンというらしい。

 

「ヒュンケル、それにレイザー。お前らも六大軍団長の一人だったのなら、知っているだろう。奴こそが六大軍団長を始末することが役目の、死神だ!」

 

クロコダインの言葉で思い出した。

自分は失態を犯した際はハドラーから魔力が断たれるが、それ以外の奴には死神という狩人を放たれ、死を贈られるという話だ。

 

キルバーンは元軍団長のヒュンケル達を一瞥し、踊る俺と眼が合うと「え?何コイツ」みたいな視線も送りながらも、ミストバーンに話しかける。

 

「ダ~メだよ、ミスト。君の本当の姿は、いつ・いかなる時でもバーン様の許しがないといけないんだろう?」

 

キルバーンの言葉に、ミストバーンがビクリと飛び上がる。

慌てて脱ごうとしていた衣を着直す。

 

「そ、そうであったな…。お前の言う通りだ。キル」

 

「そうとも、そうとも。なぁに、新しい勇者の剣という未確認の情報があったんだ。仕方がないさ。それより恥の上塗りを避けるため、ここは一度退くべきじゃないかな?」

 

キルバーンの言葉に、ミストバーンは黙って頷く。

もうミストバーンは以前のように、言葉を発する気はないようだ。

 

ミストバーンを説得して満足した様子のキルバーンは、俺達に声をかける。

 

「と、いうわけで皆さん。君達の努力に免じて、ボク達は失敬してあげるよ。ダイ君にも、よろしくアーンド剣の完成コングラチュレーションズって伝えておいてくれ。それでは、See you again♪」

 

軽口を叩くと、キルバーンとミストバーンはルーラで飛び立つ。

…ん?団長を始末できるくらいのレベルなくせに、リリルーラを使えないのか?

 

その挑発する態度に我慢の限界を迎えたポップが、マァム達の制止も聞かず、キルバーン達を追いかけてしまった。

 

「あの馬鹿ものが!…レイザー、クーラ!今この場にいるメンバーでレベルが一定以上、かつ飛行できるのはお前達とダイだけだ!すぐにポップを連れ戻してきてくれ!!」

 

クロコダインが大声で言うが、その心配は無用だ。

 

「大丈夫だって。俺は仲間と合流する呪文、リリルーラを使えるからすぐ追いつけるよ」

 

俺の言葉にマァム達がほっと胸をなで下ろす。

そんな中、クーラがふと思いついたことを聞いてくる。

 

「レイザー様。リリルーラには仲間と認識するための契約儀式が必要ですが、いつ済ませたのですか?」

 

「…」

 

「……おい。なんだその沈黙は?」

 

「お前、まさか…」

 

クロコダインとヒュンケルが睨んでくる。

 

「………クーラ、急ぐぞ!ついて来てくれ!」

 

「馬鹿ぁー!早く行きなさーい!!」

 

マァムが叫ぶ中、慌ててトベルーラを使ってクーラと共に飛び立つ。

 

すぐにポップに追いつくつもりだったが、ルーラと違ってこの世界独自の呪文と相性が悪いのか、ポップが急成長したのか。

本気で飛ぶポップに追いつくどころか、どんどん引き離されていく。

 

俺にとってトベルーラは魔法のじゅうたんのように移動用と思っていたため、速度を追求していなかったのが悪かった。

クーラも翼があることからトベルーラを覚えておらず、速度は俺と同レベルだ。

 

「仕方ありません。撃ち落としますか」

 

『火柱』を放とうとするクーラを必死に止める。

そんなことしていると、後から来たダイに追いつかれてしまった。

 

「レイザーにクーラ!マァム達から事情は聞いたよ!俺は先に行くから、二人とも後でね!」

 

それだけ言うと、俺達の返事を待たずに追い越していく。

 

「仮にも呪文主体の俺が、勇者よりも遅いなんて…。新しい呪文や特技だけでなく、もう少し呪文の精度も上げないと駄目だな」

 

「てっきり私のスピードに合わせてくれていると思ったのですが、違ったんですね」

 

俺の呟きに、クーラからステータス的に傷つく言葉を受けた。

…ポップを連れ戻したら、また修業に戻ろう。

 

俺達がようやくダイ達に追いついたときには、キルバーン達以外にもう一人敵対する人物がいた。

雰囲気が違うが、どうやらハドラーのようだ。

 

「その精霊と居て、死体だった魔族が動いているということは…。バーン様が言っていたが、本当にフレイザードのようだな」

 

「ミストバーンにも言ったが、初めましてさ。ハドラーさん。また手柄を求めて、出て来たようで」

 

「くくく…。以前の俺ならそうだな。それと初対面で俺の名前を呼ぶとは、少しは隠そうとしろ」

 

俺の嫌みも、さらりと流されてしまう。

以前なら少し踊っただけで怒り狂っていたというのに、何があったのだろうか?

 

「レイザー!今のハドラーは超魔生物とかいう、獣系のパワーと魔族の魔力を持つ、規格外な改造を施された奴だ!おまけに変な炎で、魔法剣みたいな技を持ってるぞ!!」

 

ポップが剣を抜いたダイを肩に担いだまま、大声で言う。

あの剣を使ったダイをここまで弱らせるほど、ハドラーは強くはなかったはずだが、本当に変わったのだろう。

 

「フレイザード…いや、レイザーとか言ったな。今の俺の標的は、ダイだけだ。踊りたいなら下がってろ」

 

一応俺以外にクーラもいるというのに、ハドラーのその視線はダイしか見ていない。

俺は「まぁまぁ」と近づきつつ、敵意はないことを踊るような身のこなしでアピールして、ハドラー達をあやす。

 

「ダイは疲れてんだ。この場はお開きにして、お互い回復してから再戦しません?」

 

「確かに全力のダイと戦いたいという望みはあるが、俺個人の意思などバーン様への貢献と天秤にかければ塵に過ぎない」

 

「そうですか…よ!」

 

ハドラーへ攻撃が届く範囲まで近づくと、躊躇なく悪魔の爪を装備した手で『疾風突き』をする。

だが爪によって軽い切り傷をつけることはできたが、効果はそれだけだった。

 

「早い攻撃だな。全く反応できなかったぞ。…だが、その成果がこれでは俺の間合いに入っただけだ!」

 

ハドラーが剣を振り下ろす。

だが俺が先ほど踊っていたのは、『身かわし脚』。

 

余裕をもってその攻撃を回避しつつ、距離を取りながら両手に魔力を込める。

 

「それでは、全力をお見舞いしますよ。…フィンガー・フレア・ボムズ!」

 

半ば問答無用で、最大レベルの呪文を放つ。

だがハドラーはそれを避けようともせず、涼しい顔で立ちつくす。

 

「…知らなかったのか?超魔生物になる前から、俺に炎系は『二連打ぁ!』何!?」

 

始めの炎が燃え切る前に、もう一度フィンガー・フレア・ボムズを撃つ。

さすがに合計10発のメラゾーマに、ハドラーが怯む。

 

「まだまだ!バギマ!!…生半可な風は、炎を舞い上げるぞ!」

 

フィンガー・フレア・ボムズで発生した炎は、バギマによって渦を巻き、竜巻になる。

 

天災である火災旋風を呪文で再現したもので、下手なモンスターならこのまま、骨まで焼き尽くす現象だ。

 

「どうだ!練習中に森を焼野原にしかけ、エルフ族に殺されそうになってまで覚えた攻撃だ!」

 

「死神のボクが言うのもあれだけど、エルフ族を怒らすって相当なことだって自覚してる?さすがのボクでもしたことないよ」

 

なんかキルバーンとその使い魔から、畏怖を含んだ目で見られる。

 

失礼な。ちゃんと周囲のモンスターを全滅させるということで、和解したぞ。

3時間働かされて、俺もクーラも魔力はほぼ0になったが。

 

「…はぁぁ!」

 

だがせっかく作った炎の竜巻も、ハドラーの気合い一つで消し飛ばされてしまった。

愉快そうに笑いながら、こちらに歩み寄る。

 

「やるな、レイザー。俺が魔炎気を使えるようになっていなかったら、そのまま火あぶりにされていたぞ」

 

こちらができる最高レベルの攻撃が防がれ、クーラも攻撃に参加しようとする。

しかし実験通りなら、いい加減効果が発揮する頃だ。

 

その祈りが通じたのか、突然ハドラーが立ちくらみを起こしたように前のめりになる。

 

「ぐっ…!レイザー、貴様何をした!?」

 

「さっきの爪の攻撃さ!あれには色んな毒が混ざってて、あんたの症状から麻痺毒になったみたいだな」

 

「ザボエラと同じ攻撃か…!」

 

ひどく不名誉なことを言われるが、この機会を逃すわけにはいかない。

両手を天に掲げ、周囲の被害がひどくて普段は使用できない天災系の特技を使う。

 

「クーラ!俺かポップ、どっちかに掴まれ!」

 

俺の叫びに、クーラは迷わず俺にしがみつく。

その結果に苦笑いを浮かべる。

 

「どうせここは敵の本拠地。好き放題させてもらう!…『津波』!」

 

特技名を叫ぶと、死の大地を覆い尽くさんばかりの大波が迫る。

 

「貴様、自然までも操るか!?」

 

さすがのハドラーも、この特技には驚いたようだ。

同じく驚いて身動きが取れないダイ達に、俺は叫んで次の行動を促す。

 

「ダイ、ポップ!俺達はこのまま撤退するから、お前達もこの隙に逃げろ!」

 

「わ、わかった!礼は後でな!…ルーラ!!」

 

ポップが呪文を唱えたのを確認する。

 

「…悪いな、クーラ。付き合ってもらうぞ」

 

「はい。もう離れるのは嫌です。どこまでも一緒にいます」

 

なけなしの魔力で、トベルーラを唱える。

波に紛れてこの場を去るのが、魔力の少ない俺たちができる精一杯だった。




【追記1】
ポップの魔力は、クーラが暴れたことで原作より余っている状態のため、ルーラの使用ができました。

【追記2】
「言葉を発する」を変換すると、真っ先に「言葉をハッスル」になる自分のPCは、色々と手遅れな気がします。

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