知らないドラクエ世界で、特技で頑張る   作:鯱出荷

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2月中のことですが、誤字報告機能を用いて誤字の指摘をされた方がおりました。

直接ご連絡するのも失礼と思い、この場を借りてお礼させていただきます。
ありがとうございました。

【2017/02/26 追記】
あまりに作者の誤字が多く、ご指摘いただいた方が増えているため、話ごとに累計を記述させていただきます。

本日までに、7名から誤字脱字のご指摘をいただきました。
ありがとうございます。
(一部意図的に適用していなかったり、修正している場合もございます)

また今後ご指摘をいただいた際は、基本対象の話にお礼の言葉を書かせていただきます。



【第28話】ギャグ補正→捨てる「それを捨てるなんてとんでもない!」

----バランSide----

 

力が欲しい。

竜の騎士だった頃から幾度となく思ったことだが、以前持っていた力を失った今ほどではなかった。

 

仲間を殺してまで死体を作り、その死肉を部品として用いて自身をパワーアップさせるという非道な行為を行ったザボエラに対して、何もできない自分の非力さを嘆く。

 

「何をしているのですか、竜騎将バラン。レイザー様が戻れば、容易く状況を変えられます。それまであなたの指揮が必要なのです」

 

超魔ゾンビを暗黒闘気で押さえつけるクーラが、体力が尽きた私を叱咤激励する。

 

この精霊は先ほどまで戦っていた魔界のモンスター達にもそうだが、ミストバーンの『闘魔滅砕陣』までも使いこなし、私と違って地上に残ったメンバーの主力となっていた。

そして今も、懸命にザボエラを暗黒闘気で縛りつけていた。

 

その間にも何名もの人物が超魔ゾンビに攻撃をするが、その肉体の毒素で武器は腐食し、ダメージを与えられる者はいない。

 

「先ほどレイザー様の『ビックバン』が見えました。ならば既に決着は付いているはずですので、もうひと頑張りです」

 

【イタイヨー!コレ、ハズシテヨー!】

 

「…買いかぶり過ぎだ。確かに竜の騎士だった頃の知識はあるが、私がこれまで知りえなかったことまではわからない」

 

【エルフダッテ、イタイトカ、ツウカクハアルンダヨ!?イタ、イタタ!イタイッテバ!!】

 

知識だけでなく、かつて存分に振るえていた剣術や体術も今の能力では体がついていけず、完全に宝の持ち腐れだ。

老いというのは、こういった感覚なのだろうか。

 

「ヒ~ヒッヒッヒッ…!随分とか細い暗黒闘気で粘るが、いつまで続くかのぅ…?」

 

クーラの『闘魔滅砕陣』が徐々に弱まっていることがわかっているため、ザボエラは強くは抵抗せず、焦燥感に駆られる私達を見て楽しんでいた。

 

ミナカトールは魔を退ける効果があるため、ザボエラを抑えるほどの威力を出し続けるのはクーラでも厳しいのだろう。

 

「っ…!まだまだです!!この程度で音を上げては、レイザー様にお褒めの言葉を受ける資格はありません!!」

 

「もう音を上げてよ!さっきから私、クーラさんの暗黒闘気に巻き込まれているんだけど!?」

 

気合を入れ直したクーラに、先ほどから意識して無視していたエルフの娘が叫び声を上げて抗議する。

 

当初このナーミラは皆に『ハッスルダンス』をしていたのだが、ナーミラのそれは対象の視覚に入らないと効果がないことがこの場でわかった。

そのため弓による援護に切り替えていたのだが、クーラによって超魔ゾンビの側に放り投げられ、ザボエラ諸共、『闘魔滅砕陣』の餌食になっている。

 

「ねぇ、いる!?私、今この場で縛られる必要ある!?」

 

「私の暗黒闘気を維持するには、何かモチベーションが必要なのです。レイザー様に『ハッスルダンス』を使えると堂々とアピールしときながら、土壇場で使えない報いを受けなさい」

 

「報いって言った!?ぜったい私怨入ってるよね!?それにレイザー君もこの踊りの欠点に気づかなかったし、仕方ないと思わないかな!?」

 

「私の前でレイザー様に責任転嫁するとは、思ったより余力がありますね。さすが脱がなくてもひどいと噂のエルフですね。これで私も、まだまだ頑張れそうです」

 

「またエルフの悪口言った!!というか何か暗黒闘気の出力が上がっt…痛い痛い痛いってば!いい加減、私でも怒るよ!?私はレイザー君に指導するように怒られるのが好きで、こういった痛みは好きじゃない…痛い痛い痛い痛いごめん!ごめんってば!!」

 

言い争うクーラとナーミラだが、当のナーミラは怒声を上げながらもいつも通りの満開の笑みを浮かべているため、演技なのか本気なのか判断に困り、助けを出しにくい。

 

更にザボエラがこのやり取りに爆笑していることから足止めが出来ているため、ますます止めるべきか踏ん切りがつかない。

 

「珍しいな。即断即決の竜騎将様が、そんな表情をするなんてよ」

 

どうすればいいかと迷っていると、上空からレイザーが現れて私の横に立つ。

遅かったことに対して何か言うつもりだったが、レイザーの様子を見て言葉を失くす。

 

「ヒッヒッヒッ…。随分と酷い様子ではないか。さすがの貴様でも、自分殺しは堪えたようじゃのう?」

 

私と同じくザボエラはレイザーの身なりを見て、愉快そうに笑う。

 

レイザーの服と顔は焦げや煤だらけで、肩には乱暴に包帯が巻かれて、傷口からは血がにじんでいる。

更に片腕をダランと垂れ下げている様子から、そちらの腕は上げることができないのだろう。

 

慌てて『闘魔滅砕陣』を解いたクーラと解放されたナーミラが近寄るが、レイザーは「そのうち治るため心配は不要」と言い張る。

 

「転生元になった魔族の体が優秀らしく、もう少しで動かせそうだから気にしないでいい。…それよりも、その変な巨人からする声はザボエラか。お陰様でだいぶ苦労させられて、見ての通り簡単な踊りをするので精一杯だよ」

 

「限界に近いのは見てわかるが、そんな状態でも踊らずにいられないのか」

 

クロコダインが諦めたような表情で問う。

レイザーは片手しか使えないにも関わらず、以前見たメダパニを引き起こす踊りとは違う踊りを披露している。

 

「悪いが踊りは、俺にとって生きがいなんだ」

 

「…おい、ザボエラ。俺にロモスで寄越した魔法の筒のイルイルやマホトーンの応用で、こいつの技能を封じる研究をしてきたとかないか?」

 

「なんと…!脳筋とは思えない案じゃ!まったくの盲点であった…!!」

 

「やめて!俺のアイデンティティを奪わないで!!俺から踊りを取ることは、ホイミスライムからMPを奪うようなことだぞ!!」

 

ザボエラとクロコダイン達の会話に、ノヴァは恐る恐るといった様子で私に聞く。

 

「あの…魔王軍とは昔から、あのような職場環境だったのでしょうか?」

 

「私をあの愉快な一味に入れないでくれ」

 

ハドラーや、噂に聞くミストバーンはともかく、私は決して違う。

 

はっきりと意見を言う私を見て、レイザーは踊りながらほくそ笑む。

 

「少しやる気が戻って来たみたいだな。もう一つおまけとして、アンタ宛てに伝言だ。…『必ず勇者ディーノ様と共に大魔王を討伐し、あなたの元に戻る』と、魔族のもう一人の息子さんから」

 

レイザーの言葉に、驚きで目を見開く。

私のもう一人の息子として手紙を残したのは、この世界に一人しかいない。

 

そのことを確信し、手元の刃こぼれした剣を握り直す。

 

「…余計なことをしおって。貴様のせいで、意地でも息子たちにこのような姿を見せられなくなったではないか」

 

「それは悪かった。だがアンタがいるだけで、士気が上がるんだから頑張ってくれ。…それよりもバラン。お前、家族はダイと亡くなった奥さんが一人いるだけって言ってたよな?隠し子がいる奴とは思ってなかったぞ」

 

「お前は一体何を想像したのだ!?」

 

「うるさくは言わない。ただあいつのことを、実子って認めてやれよ。少し世間知らずっぽいけど、好青年に育っていたんだから。な?」

 

「ディーノが私とソアラの子であることに間違いないが、お前が会った魔族は私にとって息子のように大切な者という意味だ!」

 

酷い勘違いをしているレイザーを、怒鳴りつける。

 

だが私が奴の認識を叩きなおす前に、フローラ女王がレイザーに頼み込む。

 

「いいところに来ました。レイザー、あなたの力を貸してください」

 

「いや、女王様。俺来たばかりなんで、現状を教えてくれません?」

 

「ほら、レイザーさん。包帯巻き直してあげるから、頑張って」

 

「ありがとう、マリン。ついでに現状を教えてくれるとありがたいんだが」

 

「レイザー君。治療は私が頑張って『ハッスルダンス』を続けるから、皆の手助けしてあげて。あと踊っている間は、私を見てね?」

 

「だから、ナーミラさん。とりあえず、どうなってるか…。それとクーラ、目が怖いから一旦ステイ」

 

「すまん、レイザー。ロン・ベルクからの新しい斧もザボエラの新兵器に腐食されてしまった。お前の悪知恵に頼りたいんだ」

 

「その、クロコダイン…」

 

畳みかけるように好き勝手言う面子に対して少し迷った後、レイザーは袋から何かを投げながら言い放つ。

 

「…よぉぉし!よくわからないけど、後は俺のお助けモンスターに丸投げだ!俺の代わりに働けぃ!!」

 

「貴様らには多大な借りがあるため力を貸すのはやぶさかではないが、だからといってこのような場面でワシを頼るな!」

 

レイザーが投げた玉から現れた者の姿に、チウは腰を抜かし、私はまた目を見開く。

 

「お、お、おまっ!お前は!?」

 

「…驚いたな。レイザーの能力は把握したつもりだが、こんな手駒もあるとはな」

 

「久しいな。チビ助に竜騎将バラン。そして港を襲撃した際の面子もいるようだな」

 

レイザーが投げた水晶玉のような物から現れたのは、ダイによって倒されたはずのハドラー親衛騎団の一人、フェンブレンだった。

 

「ワシがこの場に立っていることが皆許せないことは、重々承知している。だがワシの夢のために、バーン討伐に参加することを許してほしい」

 

最期に戦った際とは打って変わって、真摯にこちらに訴えるフェンブレンを警戒しつつ、その目論見を探る。

 

「ふん…。どういった夢かは知らないが、それは私達に協力する理由になるのか?」

 

「なる。ワシは大魔王を倒した世界で、魔王軍やハドラー様の部下でもなく、ただの武芸者として生きたいのだ。当然誰かを無意味に傷つけたり、奪ったりせずにだ。だからこの世界で生きていくことを許してもらう贖罪を…」

 

「…許す!」

 

拙い言葉で本心を語ろうとするフェンブレンの言葉を遮り、チウが叫ぶ。

 

「キミがどうして魔王軍を離れ、ボク達に協力する気になったかは知らない。そしてボクや部下達を傷つけたことを無かったことにするつもりはないけれど、過ちを反省し、純粋に生きたいと思い直したのなら、キミを責める理由はもうない。だから誰が何と言おうが、正義の味方になることを選んだキミをボクが許す!!」

 

「…ありがとよ、チビ助。期待の分だけでも、仕事はさせてもらう」

 

改めて超魔ゾンビに向き合うフェンブレンに、レイザーはエルフの入れ知恵で完成させたという飲み薬を使って魔力を回復しながら、忠告する。

 

「フェンブレン、無理すんなよ。その禁呪法は所詮ハドラーの猿真似で、付け焼刃。倒れたとしても魂は別の復活の玉に移せるが、俺の実力では傷ついてもオリハルコンの体は修復できないし、その体の媒体に使ったのは敵から奪った駒だから、もう予備はないぞ」

 

「つまり大小の傷にかかわらず、ワシの体はもう替えがないということだな。…望むところだ。ワシは大魔王を討伐後に、やり直しの利かない生涯を送るのだ。この戦いが、呪法生命体での仕納めだ」

 

「わかればいい。あと魔力は俺と共有になるから、あまり一気に使うなよ」

 

「承知した。…バギクロス!!」

 

「早速極大呪文を使うな!お前これまでの事、根に持ってるだろ!?」

 

ザボエラを真空呪文によって処刑場の壁面に叩き付け、フェンブレンは高速で襲い掛かる。

 

その間にクロコダインは、更なる助力をレイザーに求める。

 

「レイザー。あのときバーンに使った、装備を外すアイテムはもうないのか!?」

 

「ポップ達と合流してすぐ、根こそぎ奪われて灰にされたよ。シャナクだけでなく、バイキルトとか役立つカードもあったってのに…」

 

気落ちしているレイザーを無視してフェンブレンに向き直すと、フェンブレンはザボエラとの距離を詰め、超魔ゾンビに剣を振り下ろす。

その一撃を超魔ゾンビは腕で防ぎ、フェンブレンの腕となっている剣は食い込むだけで斬撃を止められる。

 

「ど、どうじゃ!例えオリハルコン製といえども、貴様のような2流が相手でワシの超魔ゾンビは…」

 

最後まで言い切る前に、フェンブレンは食い込んだ腕を回転させ、超魔ゾンビの腕に食い込んでいた剣を肉ごとえぐる。

慌ててザボエラはフェンブレンから離れるが、腕をえぐられた箇所は決して小さくない。

 

「…どうやら貴様の毒素でも、ワシのオリハルコンを多少腐食させることが限界のようだな。ハドラー様のように肉体が再生する超魔生物であれば多少の傷は回復させられ、終わりが見えない戦いであったはず。しかし再生能力がないゆえに、ワシはお前と戦えそうだな。…ワシの体が腐り切るか、貴様の肉をえぐり取るのが先か、勝負だ!!」

 

勢い付いたフェンブレンが、全身の刃物を使って超魔ゾンビの肉を細断にかかる。

 

何度も超魔ゾンビの血肉が辺りに散らばる中、マリン達からザボエラの能力を聞いて様子をうかがっていたレイザーに、フローラ女王が尋ねる。

 

「レイザー。何か気付いたことがあるようですが、アドバイスがあるならしてもらえませんか?」

 

「まだ分析の途中で『だからどうした』と言われたらそれまでなんだが…」

 

自信なげな様子だが、レイザーは考えを口に出す。

 

「あのザボエラが、超魔ゾンビを二本足の体にした理由を考えてみたんだ。ああいった巨体を二本足で支えるのは重心の関係で難しく、特に理由がないならメタルハンターのような四本足。もしくはいっそのこと馬車のような車輪にしたほうが楽なのに、ザボエラはわざわざ二本足にしている」

 

レイザーが言う知識は私にはわからないため判断できないが、それが正しいと仮定して話は続く。

 

「もう一つ。超魔ゾンビに刺さった剣を見てみると、攻撃を受けてもダメージはないはずなのにやけに顔への傷は少なく、また顔面を庇うかのように腕の傷が多い。…以上のことから恐らくザボエラが超魔ゾンビを動かすためには、出来るだけ自分の体に近い状態じゃないといけないんだろ。だから超魔ゾンビの視覚は、目の部分だけに依存してる可能性が高そうだ」

 

合流して間もないにも関わらず、その洞察力に感心する。

竜の騎士を蘇生させるという、出鱈目なことが可能なだけのことはある。

 

フローラ女王の言う通りふざけているのは演技で、恐らくフレイザードに転生したときからそれを続けていたのだろう。

そして自分の研究をいざという時まで隠し通すため、私や魔王軍幹部の目を誤魔化し続けたということか。

 

どうやら感心していたのはフローラ女王も同じようで、感嘆の声を上げる。

 

「あなたの本質を見抜く力には、脱帽ね。とうとう本気を出してくれる気になったのかしら?」

 

「だから勘違いしてるみたいだけど、俺はいつでも全力だ。さっきの考えもキラーマジンガやメタルハンターを研究する際に、たまたま同じ悩みに当たっただけだよ」

 

レイザーはこれ以上アドバイスをする気がないかのように、フローラ女王から顔をそむける。

 

ここまでお膳立てをしてくれたのだ。

せめて対抗策は私から出そう。

 

「ならば超魔ゾンビの首を落とすか、一斉に弓や槍投げで重点的に顔を攻撃するぞ。ザボエラは武芸者ではないため周囲の気配を探るすべはなく、視覚を封じればその本体を表に出すしかなくなるはずだ…!」

 

「…せっかくの意見だが、超魔ゾンビの顔面を狙ってる時間はなさそうだ。あのメタリックだが思ったより腐食が早く、このままではへし折られるぞ」

 

ロン・ベルクの言葉に慌ててフェンブレンを見ると、先ほどまでの勢いは衰え、全身に錆びが浮いてしまっている。

 

「キ~ヒッヒッヒッ!まったく、驚かしおって…。いかにオリハルコンといえども、所詮武器の使い手はダイ共と比べれば素人。ワシの超魔ゾンビの敵ではないわっ!」

 

フェンブレンの体は超魔ゾンビに斬りかかった時だけでなく、腕を回転させる際に浴びた返り血によっても腐食されたため、その腐食の速度が予想以上だったことが敗因なのだろう。

 

「惨めじゃのぅ…。それにしても、幾ら呪法生命体といっても多少痛覚はあるはずじゃ。これだけワシの返り血を浴びてもまだ向かってくるとは、お主は正気か?」

 

「貴様はダイやポップ達が会う度に強くなっていく様を見て、何も思わなかったのか?…ワシは弱者をいたぶるのではなく、ただあやつらのように苦労して強くなりたいだけだ。だからこそワシはその目的を叶えるため、自分より強い相手と全力で戦えている今に満足しておる!!」

 

体が朽ちていっても一歩も引かないフェンブレンの闘志に、その心情を理解できないザボエラは攻めあぐむ。

 

それに感化したのか、ノヴァも自身の命を削る生命の剣を展開しようとする。

しかし、ロン・ベルクがノヴァの行動を止める。

 

「よせ。どうせ命を削るなら、お前達より長く生きた俺の命を使う。…レイザー、お前に預けていた剣を寄越せ」

 

「…いいのか?あの剣は試しに作ってみて、そのまま俺に押し付けた物だろ」

 

ロン・ベルクが言うことを半信半疑な様子で、レイザーは踊りながらも二本の剣をロン・ベルクに差し出した。

その剣は、水晶のように透き通った見たこともない剣だった。

 

「俺が作った『星皇剣』は数十年放置していたものだから、体への負担を考えればこの剣の方がマシなはずだ。…そうは言っても、放てるのは一撃だけ。そのための隙を作ってくれ」

 

ロン・ベルクが構えを取りつつ、レイザーに頼み込む。

しかし、レイザーはその言葉を断った。

 

「お前は俺を馬鹿にし過ぎだ。…言われなくても、もうその仕事は終わってるよ」

 

レイザーがそう言った途端、超魔ゾンビの動きが急激に遅くなる。

 

「な、なんじゃ!?魔力が思うように練れん…!?」

 

「甘いんだよ、じいさん。俺がさっきから、何を踊っているか気づいてなかったのか?」

 

「踊り…?ま、まさか…それは『不思議な踊り』か!?」

 

「その通り。始めに踊ったのが『不思議な踊り』。そしてこっそり『不思議な踊り2』に昇華させ、今踊っているのが最高レベルの『不思議な踊り3』だ!!気付かなかったようだな!?」

 

「気付けるか、この残念将軍が!!」

 

ザボエラが怒鳴りながらも何とか魔力を絞り出そうとする中、フェンブレンも動き出す。

 

「ワシから目を離すとは、余裕だな!…『ツインソードピニング』!!」

 

高速で全身を回転させながら超魔ゾンビの足に突撃し、フェンブレンの体はその巨体に突き刺さるかのようにして止まる。

ザボエラが何とかしてフェンブレンを抜こうともがくが、逃れられない。

 

抜くことを諦めたザボエラがフェンブレンを力尽くで折り曲げようとするが、そうはさせまいとフェンブレンは必死に叫ぶ。

 

「ロン・ベルク!どうせワシの体は、こやつの毒素のせいで長くはない!なればこのまま足止めをするから、何かするつもりならワシごとやれぃ!」

 

「見事な覚悟だ。噂でしか聞いていないが、お前にもハドラーの意思が受け継がれているじゃないか。…『星皇十字剣』!!」

 

ロン・ベルクが両手の剣を振り下ろしたのと同時に、先ほどまで腕などに突き刺さるのが精一杯だった超魔ゾンビの体に深い十字傷が入る。

その傷は瞬く間に広がり、超魔ゾンビの体はとうとう4つに割かれた。

 

勝利を確信した皆が歓声を上げようとしたが、突如ロン・ベルクが持っていた剣が砕け、更にロン・ベルク自身の腕も泥人形のように崩れ落ちる。

慌ててノヴァがロン・ベルクを支えるが、その傷はどうすればこうなるかわからない程、ひどい有様だった。

 

しかし皆がその腕の様子を見ていると、まるで時が巻き戻るかのようにゆっくりと修復されていく。

 

「な、なんだ?何が起こっているんだ!?」

 

混乱するノヴァを落ち着かせるように、支えられながらロン・ベルクは説明する。

 

「俺が全力で剣を振れない理由がこれだ。俺が全力を出せば、今のように剣と腕が崩れ落ちてしまう。…それを少しでも軽減するための剣がさっきの奴だ」

 

先ほどまで持っていた剣を、ロン・ベルクは顎で指す。

 

「これはレイザーの助力で作った、『ガラスの剣』だ。元々作っていた剣のように、振るった際の反動を無理に剣に耐えさせるのではなく、最初から剣に反動を集中させることで担い手の負担を減らそうと考えた剣だ」

 

ロン・ベルクの言葉に、レイザーも補足する。

 

「それとロン・ベルクの傷が少し治ったのは、この『ガラスの剣』が時の砂で作ったガラスだからだ。完成していれば腕だけでなく、剣も修復されるはずだったんだが…」

 

「その剣よりも、ダイやヒュンケルの武器を鍛えることを選んだのは俺だ。だから、そんな顔をするな。本来なら治るのに70年かかった怪我で、この程度だったら10年程度だろう。ぶっつけ本番での結果としては十分だ」

 

「ちなみにインパスで診たところ、『ハッスルダンス』で治療させてくれるなら毎日数時間したとしても数年で治りそうだぞ」

 

「それはますます朗報だ。…どうやら生きているうちに、まだダイ達に武器を打てるようだな」

 

安堵した様子のロン・ベルクの後ろで、星皇十字剣を喰らった超魔ゾンビの側でチウが大声を上げる。

 

「フェンブレン!しっかりしろ、おい!!」

 

「因果なものだな。まさか真っ先にワシに声をかけるのが、チビ助とはな…」

 

叫び声のする先にいるフェンブレンに、私とレイザーが駆け寄る。

ザボエラとロン・ベルクの攻撃でフェンブレンの体は、原型は留めているが体のあちこちに亀裂が入り、もう軽い衝撃でも砕けてしまいそうな状態だった。

 

その様子を見て、レイザーは懐から何かの玉を取り出す。

 

「お疲れ、フェンブレン。『復活の玉』に再送する準備は出来ているからまたコアを砕くが、いいか?」

 

フェンブレンが頷いたのを確認してレイザーがイオラを放とうとするが、チウがそれを止めた。

 

「ま、待ってくれ!…なぁ、レイザー。フェンブレンのコア、ボクの手でも壊せないかな?」

 

「…そうだな。ワシも出来れば、チビ助にしてもらいたい。やはり償いといっても行動だけでなく、直接何かしてもらったほうが良い」

 

チウとフェンブレンの言葉に、レイザーは袋から魔人の金槌を取り出し、チウに渡す。

 

「…わかった。例えオリハルコンでもこれだけ腐食しているなら、これで砕けるだろう」

 

礼を言ってチウがレイザーから金槌を受け取ると、チウはフェンブレンに向かってその金槌を振り上げる。

 

「少しの間、さよならだ。…今回の活躍に免じてキミがこの世界に蘇ったときは、隊長権限の推薦枠で獣王遊撃隊見習いにさせてあげよう」

 

「寝言は寝て言うのだな、チビ助。…ワシを部下にしたいのなら、目覚めるまでにせいぜい腕を磨いておけ。それと後は任せたぞ。…兄者」

 

フェンブレンがコアを砕きやすいように地面に倒れたのを確認して、チウはその金槌を振り下ろした。

 

 

 

【10分後】

 

「それっ!また外した。…もう1回だ!次こそ、ちゃんと砕くからな」

 

「こらぁ!チビ助!!何度コアを外せば気が済むのだ!?さっきから真綿で首を絞めるようにワシをじわじわと痛めつけて、意趣返しのつもりか!?」

 

両手両足や頭部の一部を金槌で砕きながらも、何故かコアにだけは当たらず、必死に金槌を振り下ろし続けるチウと悲鳴を上げるフェンブレンがいた。




【追記1】
超魔ゾンビの「二本足だった理由」や視覚について、また「魔力が足りないと動きが鈍る」などという点は、完全に独自解釈になります。

原作でのロン・ベルクの攻撃直後に超魔ゾンビが自分の手を見ていたことによる、それっぽい妄想です。

【追記2】
「超魔ゾンビに特技の『グランドクルス』すれば?」とお思いでしょうが、レイザーは片手が不自由なため使用できず。
またクーラも暗黒闘気を使うダークサイドに「全速前進だ!」状態のため威力は低く、使ったとしても効果は薄いため未使用となっております。

【追記3】
ガラスの剣については既に感想で意見が出ていて、皆様のRPG知識に冷や汗をかきました。
もう半分の時の砂で作ったことは、武士の情けか書く方がいなかったため、首の皮一枚繋がりました。

【追記4】
私事ではありますが、今回で掲載開始してほぼ1周年を迎え、掲載合計文字が100,000文字を超えました。

他作者様と比べると「鈍足」や「亀」と言われても反論できないペースですが、広げた風呂敷は畳むつもりですので、完結までお付き合いいただければ幸いです。

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