知らないドラクエ世界で、特技で頑張る   作:鯱出荷

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【第2話】ザボエラは、恐れおののいている

----ザボエラSide----

 

「まったく…。六大軍団長は、能無しの宴会芸を見るために結成したのではないのですぞ?」

 

バーン様からお声がかかり、何事かと思えば、最近おかしくなったフレイザードが研究していた戦闘技術の成果を発表するとのことだ。

 

あのようなガサツな奴が、研究とは笑わせる。

バーン様の命令とはいえ、ここまで時間の無駄と思えることはなかった。

 

「…大魔王様のお言葉は、すべてに優先する」

 

ミストバーンが呟く。その言葉にクロコダインも頷くが、二人ともつまらない物を見せるようならただでは済ませないという怒気を出している。

 

殺伐とした雰囲気をバーン様は楽しむように、フレイザードを促す。

 

「では、フレイザード。人間達に攻め込むのを放棄し、精霊をかばってしていたという研究を見せてもらおう」

 

どうやらバーン様も同じお気持ちだ。

そんな空気にも関わらず、フレイザードは近頃と同じくふざけた様子で答える。

 

「了解ですよ。それではまず、補助系呪文を紹介しましょう」

 

そう言って唱えたのは、捜索系呪文『レミラーマ』だった。

たしかにこれは古代呪文ではあるが…。

 

「…そんな手品みたいな呪文、ワシらを馬鹿にしておるのか?」

 

初めからこんな役に立たない呪文では、文句を言いたくもなる。

 

「まー、待ちなって。この呪文が便利なのは、ここからだよ。…クーラ、手伝いよろしく」

 

助手として攫ってきたという、精霊の女に指示して世界地図を机に広げさせる。

 

「この呪文が便利なのは、唱えた奴がわかる方法で探し物の場所がわかることだよ。…バランさん、今竜騎衆の所在地は知ってます?」

 

「…当然だ。それがどうした」

 

そして再度レミラーマを唱えると、地図の一部が光る。その結果に、バランが眉をひそめる。

 

「今光った場所が、竜騎衆の現在地ということでどうでしょう?」

 

フレイザードが尋ねると、バランは苦々しく「…正解だ」と呟く。その言葉に、周囲がざわめく。

 

竜騎衆はバラン直属の部下。フレイザードなんぞに、前もって教えるとは思えない。

ましてやあのバランが口裏合わせなど、もっとありえない。

 

それがわからないはずもなく、ハドラー様はフレイザードに命令する。

 

「…フレイザード。後でアバンの居場所を探るのを手伝え。出来るな?」

 

「お安いご用で。じゃあ、次は攻撃技だな。…ところでザボエラじいさん、あんたにとって勇者が使う魔法といったら何だ?」

 

「な、何じゃと?…回復呪文か、デイン系といったところかのぅ」

 

正解と答えた後、フレイザードは指を高く掲げ、激しく振り下ろす。

 

「『稲妻』!」

 

叫びと共に、指をさした方向に電撃が走る。

 

「馬鹿な!」

 

複数の軍団長が驚きの声をあげる。

今いるのは鬼岩城の室内であることに加え、勇者など一部の者しか使えないはずのデイン系を易々と放ったのだ。

 

「欠点は呪文と違って、誰が使っても威力は変わらないってことぐらいだな。そんで攻撃系は、もう1個あるぞ」

 

驚愕するワシらを尻目に、次の技を説明し出す。

 

「こいつは光の闘気ってやつを、魔力で再現したものだ。ちょっとタメが必要だけど、威力はあるぞ」

 

腕を十字に組み、壁に向かって光を放つ。

 

「そら!…『グランドクルス』!」

 

激しい閃光が放たれ、それが止むと壁には深い十字傷がつく。

その技にヒュンケルは見覚えがあるらしい。

 

「これは…アバンと同じ技か!」

 

先ほど放ったのは光の闘気。こいつのような悪意の塊なんかができるはずもなく、それどころかワシら魔王軍で同様の技を使える者は皆無だろう。

 

軍団長のほとんどが絶句する中、バーン様が口を開く。

 

「…素晴らしい。まさかこれ程とは、余の想像以上だ。褒美として、妖魔士団と同等の研究環境を与えてやろう」

 

バーン様がほとんど口にしない、ワシですら言われたことのない絶賛だった。

 

「じゃ、じゃがお前だけが出来ても仕方なかろう!?他の者も使える見込みはあるんじゃろうな!?」

 

机に乗り出して文句を言う。

フレイザードが答える前に、横の精霊が動く。

 

「『稲妻』」

 

結果、先ほどフレイザードが行った事と同じく、指をさした先に電撃が走る。

 

「…私はフレイザード様の右腕。フレイザード様が習得された技のほとんどを、私も習得しております」

 

つまりどのような手段かわからないが、他の者も使用できるということだ。

 

「ぐ、ぐぐ…!わ、ワシでも出来んことをこんな簡単に…!」

 

魔王軍一の頭脳を誇る、妖魔士団の名がすたる。

何とかこやつの成果を奪わねば…!

 

「生みの親である俺も鼻が高いぞ。それで、その技を俺達も使えるようになるのは何時だ?」

 

「まずは妖魔士団に資料渡すから、それからですね」

 

なんじゃと!?この結果を、ワシらに渡すじゃと!?

 

「いやー、さすがにモルモットが俺らだけでしょ?ここはぜひ妖魔士団の力を借りたいんだけど…」

 

晴天の霹靂だが、渡りに船でもある。

 

「ヒ…ヒッヒッヒッ。これほどの成果を見せてもらったんじゃ。特別に協力してやろう」

 

丸ごと奪うことは出来んが、これからは苦労せずこの技術が入ってくるのだ。更に妖魔士団の強化にも繋がるし、ワシの評価も上がる。

正に言うことなしだ。

 

「おー、助かる。そんじゃあ、次で紹介する技は最後だな」

 

その言葉に、先ほどまでのフレイザードを馬鹿にするような視線はない。

皆、その言葉に聞き入っていた。

 

だが、精霊の女が止めに入る。

 

「フレイザード様。その技は、止められたほうが…」

 

「何でだ?魔力を使わず、周囲にベホマラーをかけられる技だぞ?」

 

なんと!伝説級のベホマラーを、魔力を使用せず出来るじゃと!?

 

「か、構わん!今すぐその技を見せてみるのじゃ!」

 

 

----クーラSide----

 

バーンを始め、六大軍団長へのお披露目は完了した。

 

『稲妻』や『グランドクルス』など、魔王軍では使用できる者が少ない技だったため、その評価はこちらの想像以上だった。

だがその主役のフレイザード様は、壁の隅でのの字を書いている。

 

「フレイザード様。そんな隅にいられると壁が焦げるか、湿ってカビが生えます。離れてください」

 

「お前冷酷だな!?魔軍司令に半日説教された俺にそういうこと言う!?」

 

フレイザード様が立ち上がる。

最後に見せた技については、自業自得だと思う。

 

「なんで『ハッスルダンス』は駄目なんだよ!超便利じゃん!」

 

説教された原因は、奇声をあげながら奇妙な踊りを舞う『ハッスルダンス』という技のせいだ。あんな技を魔王軍一同が使用した際は、魔王軍から大道芸人に変貌する。ハドラーの怒りも当然だ。

 

更に言うなら、ミストバーンに黙って配下のパペットマンにこの踊りを仕込んだせいで、闘魔傀儡掌を延々喰らって会議が長引いたこともハドラーが怒った原因だろう。

 

なお私がこの踊りを覚えるのは、断固拒否した。そもそも私には、ベホマがある。

 

「…それでしたら私が言った通り、『火柱』とか『爆裂拳』を紹介すれば良かったのでは?それに旅の扉を分析して作成した無限に物が入る『袋』、フレイザード様の体の石で作成した『吹雪の剣』や『炎の剣』も評価を得ることが出来たと思われますが」

 

「『火柱』は俺の体が炎だから出来ると思われるし、『爆裂拳』は習得した奴以外にはただ殴っているようにしか見えないじゃん。作った道具も、まだ量産できるものじゃないし」

 

あんな変な踊りが出来るセンスをしているくせに、言っていることはまともだ。

 

「まあ、バーンは愉快だと言ってましたし、研究費や場所も大きく増えて良かったじゃないですか」

 

「…ていうかクーラ。バーン様もそうだけど、俺以外に敬称付けないの?」

 

「私が協力を誓ったのはフレイザード様だけです。他は知りません」

 

ここに連れ込まれてから、何名かフレイザード様以外の六大軍団長にあったが、私を見る目はこれまでの奴らと同じだ。

結局私を頼ってくれるのは、ここでもフレイザード様だけだった。そしてただ記録するだけのつもりだったが、楽しそうなフレイザード様を見ているうちに我慢できずに研究を手伝うようになっていた。

 

共同で研究することになってますます、フレイザード様は私と同じ目線で話してくれる。

そんな人は、フレイザード様だけ。だから今、私が慕っているのはフレイザード様だけ。この世界で唯一の、大切な大切な私の仲間。

 

「ハドラー様とかと直接話す機会ないからいいけど、バレたら助手でいられなくなるからコッソリとしろよ」

 

人嫌いな私がこんなに思っているのに、唯の研究仲間としか扱ってくれないところは非常に不満だ。

 

「そういえばバーン様がくれた研究場所って、どこだっけ?」

 

「話を聞いてなかったんですか?…バルジ島。ホルキア大陸にある島らしいです。とっとと引っ越しの準備をしたいので、まだ手伝いが出来るブリザードあたりに命令してください」

 

 


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