今回の話で、1名から誤字脱字のご指摘をいただきました。
いつもありがとうございます。
----フレイザードSide----
バルジ島に引きこもって研究を続けていた俺たちだが、緊急事態とのことで鬼岩城に出頭すると、状況は思っていたよりも激変していた。
ハドラー様が宿敵アバンを倒したが、その弟子である『アバンの使徒』によってクロコダインが敗れたらしい。
目の前の蘇生液にはその敗れたクロコダインが入れられているが、致命傷となったと思われる傷跡は大きく、物理だけではありえない、何か強大な力で攻撃されたようだった。
「ヒッヒッヒッ…。クロコダインの傷跡に注目するとは、相変わらず着眼点が違うの、フレイザード。…それよりもお前さんから提出された技だが、多少『稲妻』ができる者がいるだけで、後はさっぱりじゃ。もっと他の、覚えやすいのはないんかのぅ?」
どうやら口に出していたのを、ザボエラに聞かれていたらしい。
というよりおじいちゃん、資料ならこの前渡したでしょう?
「踊り系以外を寄こさんか!ハドラー様より、妖魔士団は技の検閲も任されておる。ワシの目が黒いうちは、絶対に踊る技は認めんぞ!」
ハッスルダンスやメダパニダンスの素晴らしさがわからないとは、この世界の考えは解せぬ。
数少ない話し相手と近況を話しているうちに、他軍団長が揃っていく。
だがヒュンケル以外が揃ったところ、ハドラー様からヒュンケルはバーン様の勅命でアバンの使徒抹殺を与えたと伝えられる。
念のためと数日待機を命じられているものの、ここでは出来ることはなく、退屈だった。
仲間に合流する呪文、『リリルーラ』を使ってクーラのとこに帰ろうと思ったが、なぜか自分だけハドラー様に呼び出される。
「先ほどヒュンケルの奴に会ってきたが、アバンの使徒ダイと決闘を行うつもりらしい。お前はその決闘を見届けてこい。…そして万が一ヒュンケルが裏切るようなら、始末しろ」
ハドラー様、あんた自身がヒュンケルの裏切りフラグ立ててないか?
----ダイSide----
「オレの負けだ…!」
正直何があったのか、俺にもわからない。気がついたときには魔鎧は粉々に砕け、ヒュンケルは負けを宣言した。
ただ一つ理解できたのは、アバン先生の一番弟子を殺さず勝てたということだ。
「あーあ。ハドラー様の予想通りになっちまったか」
勝利の余韻に浸る間もなく、闘技場の座席から声がかかる。
そこにいたのは体の半分が氷。もう半分が炎となっている初めて見るモンスターだった。
ヒュンケルは半死半生の体を無理やり起こす。
「くっ…!何の用だ!氷炎将軍フレイザード!!」
名前を呼ばれると、フレイザードは面倒そうに闘技場の座席から立ち上がり、こちらに下りてくる。
…なぜか激しく踊りながら。
「…ねぇ、ヒュンケル。アレ、貴方の知り合いなの?」
「…認めたくないが、そうだ」
魂の貝殻で父の言葉を聞いた以上に、渋々同意する。
「はじめまして、アバンの使徒さん。氷炎魔団をまとめてる、フレイザードだ」
「…俺には遊び人か、踊り子にしか見えねぇよ」
ぼやくようにポップが言う。
その言葉にフレイザードはなぜか嬉しそうだ。
「お…本当か?」
腕を高く上げる。
「たしかにこれは元々その二つの職業を合わせた技だが」
片足を上げて一回転。
「この外見だから」
地面から足を離さず、「ぽぅ」と叫びながら後ずさりする。
「そう言われたのは初めてだよ」
全身で雨を受けるかのように、体を大きく反らす。
「何でもいいから、とりあえず踊らないでくれるかしら?」
いい加減マァムが切れそうだ。
「遠慮すんな。これから話をするんだ。回復はしといたほうがいいぞ」
何を言ってるかわからない俺達に代わって、ヒュンケルが答えてくれる。
「…不条理な話だが、あの踊りにはベホマラーの効果があるんだ」
ベホマラー。
勇者の冒険記にさえ出てこない、伝説上の呪文だ。
疑おうにも俺自身の体は軽くなり、ヒュンケルも立てるほどまでに回復している。
ポップはその効果に驚きながら、フレイザードを問い詰める。
「は、話をするって…。そもそもお前は何しに来たんだよ!?」
「ハドラー様からの命令さ。ヒュンケルが負けたならこれまででかい口叩いた罰として、ヒュンケルを殺せ。そして裏切るようなら、アバンの使徒ごとまとめて殺せ。…要するに、勝つ以外の結果だったらヒュンケルを殺せってことだよ」
見た目こそモンスターでその動作はともかく、目はデルムリン島にいる俺の友達と同じで、邪悪な感じはしない。
だからこそ、先ほどハドラーに命令されたという内容が信じられなかった。
「お前は、俺たちを殺しに来たのか…!?」
「…とりあえず、ヒュンケルだけはこっちに渡してくれないか?ヒュンケル以外はハドラー様の手柄を残したとか適当言って、見逃すからさ」
フレイザードの言葉に、マァムが激高する。
「ふざけないで!私達に仲間を売れというの!?」
その気持ちは俺も同じだ。同じ先生から学んだ仲間を渡して、生き延びる気なんかない。
剣を構えようとするが、その前にヒュンケルがフレイザードに剣を投げつける。
「オレなんか見捨てて早く逃げろ!こいつはさっきの踊り以外にも奇妙な技を研究している、手数の多さなら魔王軍一の怪物だ!まともに戦ってはその技の数に押し負けるぞ!」
ヒュンケルが叫ぶが、どう言われようと意見を変える気はない。その意思がポップにも伝わったのか、ようやくポップも杖を構える。
俺達が戦闘態勢に入ってもなぜかフレイザードは構えず、困惑した表情を浮かべる。
「いや。何か誤解してるけど、そのつもりは…!?」
最後まで言い終わる前に、フレイザードの足元に大きな穴が空く。
その地面から伸びた巨大な手がフレイザードの足をつかむと、強引にその穴に放り投げた。
突然現れたその姿に、ヒュンケルが叫ぶ。
「クロコダイン!」
「話は今度だ!俺とヒュンケルはこのままガルーダで逃げ去る!お前たちも急いでここから離れろ!」
有無を言わさず、クロコダインはヒュンケルを担ぐとガルーダと共に飛び去ってしまった。
「お、おい!俺たちもさっきの化け物が戻ってくる前に逃げるぞ!」
ポップが呆然とする俺とマァムを引っ張る。
あの二人とはきっとまた会える。そしてその時は、俺たちの仲間になってくれるだろう。
不思議とそう確信して、俺はポップの言う通りにすることにした。
----フレイザードSide----
「珍しいお客様ですな…」
よくわからないうちに穴に放り捨てられた俺は、瓦礫に埋まっているところをくさった死体みたいな執事に助けられていた。
モルグさんというらしい。
「なんか、すみません。お宅の軍団長をかくまう交渉してるつもりだったんですが、どうしてこうなったのか…」
元々はこの世界の勇者と思われるアバンの使徒に、正義の心に目覚めた戦士を保護する、素敵でダンディな魔王軍の理解者をアピールするつもりだった。
その結果である第一印象は、もしかしなくても最悪だろう。