【2017/07/07 追記】
今回の話で、1名から誤字脱字のご指摘をいただきました。
いつもありがとうございます。
----ミストバーンSide----
フレイザードの『氷炎結界呪法』を発動して敵わないと判断したらしく、勇者たちは人質を置き去りにして逃走した。
氷漬けになった女を見捨てるはずがないと判断したハドラーが、女の命が尽きる日を決戦として、超竜軍団を除いた現魔王軍の総攻撃を決定する。
必勝の陣と判断していたが、百獣魔団・不死騎団の両軍団長の裏切りもあって炎魔塔と氷魔塔は崩され、ハドラー達も敗れた。
まもなく中央塔にも敵が集結するだろう。
そして私はバーン様の命により、両心臓を貫かれたハドラーを蘇生しようとしていた。
「…」
しかし、私は思いとどまった。
以前よりフレイザードは、人間達に攻め込むのに消極的だ。
だが今の奴はハドラーからの魔力提供が断たれ、自身の魔力で体を維持していることだろう。
もしその状態が続けば、フレイザードはハドラー以外に魔力提供をしてもらえる人物を探すはず。
現在地上にいる人物でそんなことをできるのは、バーン様のみである。
ならばこのまま魔力を断っていれば、バーン様に助けを請うために、必死に勇者達と戦うはずだ。
もとより、ハドラーの蘇生に関しては私に任されている。
少し遅れたとしても、問題ないだろう。
----クーラSide----
「フレイザード様。日課のベホマが終わり、私の戦闘準備も完了しました」
人質の体力が尽きて死なぬようにと、私はフレイザード様の命令で女に毎日ベホマをかけることが義務付けられていた。
これまでは『氷炎結界呪法』で効果が薄いベホマを何時間もかけていたが、それがなくなった今すぐに終えることが出来たため、炎の剣・吹雪の剣・水の羽衣など作っていただいた装備を身にまとう。
格闘の才能があると思っていた私だが、どうやら剣の才能もあったらしく、フレイザード様が教えてくれた剣技は全てマスターできた。
不死騎団の元軍団長は剣の達人と聞いているが、フレイザード様と私さえいれば、誰にも負けない自負がある。
「これで私達が勝てば、よりバーンの評価を得られるでしょう。もっとも、この島や研究に必要な物は既にあるため、望むものなどありませんが」
冗談交じりに言うが、返ってきた答えは予想と違うものだった。
「…いや。ハドラー様が亡くなった今、俺への魔力の提供が断たれ、自分に残っている魔力をコアに回してる状態だ。だからこそ勇者に勝って、バーン様に魔力の提供をしてもらわないといけない」
「な…!?そ、それでしたら私に『マホトラ踊り』を使ってください!」
「マホトラで取れる量と、コアの維持に必要な量に差がありすぎて焼け石に水だよ。この体が保てるのは、もって今日1日ってとこだな」
手が凍傷と火傷になるのも関わらず、フレイザード様にしがみつく。
「私の命や魔力なら、幾らでも差し出します!だから、何か方法はないのですか!?」
問い詰める私に向かって、フレイザード様が何かを吹きかける。
これは…『やけつく息』!?
「フレイザードとしての最後の命令だ。…生き残って塔に上がった方に従え。そしてどんなことがあっても、俺とお前で一緒に作った、この技を後世に残すんだ」
痺れで床に崩れ落ちる私は、もう舌も回らない状態になっていた。
----ヒュンケルSide----
「…どうやら間に合ったようだな」
ハドラーとの戦いで一時気を失っていたオレだが、ダイ達も稲妻など妙な技を覚えた氷炎魔団に苦戦していた。
しかしザボエラが言っていた通り、フレイザードの技を覚えるには一定以上頭が切れる必要があるらしく、大した技を使えるものはいなかったため、無事中央塔にたどり着く前に合流できた。
自分で使ってみてわかったが、あのグランドクルスを使える敵がいないことに心から安堵する。
塔に向かいながらポップからは相変わらず憎まれ口をたたかれるが、クロコダインも含めて戦線離脱したメンバーはいないようだ。
また見たことのない女性がいたが、マァム曰くあのパプニカ王国の王女らしい。
…この戦いが終わった後、覚悟を決めなければならないようだ。
しかし塔への入り口にたどり着いたとき、頂上にいると思っていたフレイザードが既にこちらを待ち構えていた。
「堂々と姿を現すとは、どういうつもりだ!?それに部下の精霊はどうした!?」
クロコダインもそれを予想していなかったらしく、会話をしながら周囲を警戒する。
「どうもこうもない。あんたらがハドラー様をやっちまったせいで、こっちはコアの魔力提供が途絶えたんだ。このままじゃあ、人質より先にこっちが死んじまう」
今まで見たことのない、闘気に溢れた目でこちらを睨みつける。
「俺が生き残れる唯一の方法は、俺自身の手で勇者の首をバーン様に献上し、恩賞を得ることだけだ!…もう話すこともない!さっさと来やがれ!!」
そのあまりの迫力に、ポップは怯む。
地底魔城で対面した時と、似ても似つかない雰囲気からだろう。
「そうか…!なら、即行で終わらせてもらうぞ!」
有無を言わさず、奴の体にブラッディースクライドを放つ。
「『大防御』!…そして『まねまね』!」
渾身の一撃を、手の平だけで受け止められる。
更に氷で刃を作ったと思うと、オレのと寸分たがわぬブラッディースクライドを返される。
攻撃をしたことで無防備となっていたオレはその攻撃を避けれず、鎧が砕けながら地面を転がる。
「ならばこの獣王の一撃!同じように防げるか!?」
斧を振りかぶってフレイザードに襲いかかるが、フレイザードは自らその胸に飛び込む。
「そんな馬鹿力、正面から受けてられるか!『正拳突き』!」
「ポップ!私の魔弾銃に続いて!『ギラ』!」
「あぁ!『ベギラマ』!」
クロコダインが後方に飛ばされて巻き込まれないことを確認して、ポップ達が呪文で攻撃する。
さすがにこれは防げないと判断したらしく、フレイザードは舌打ちする。
「貴重な魔力だってのに…!『フィンガー・フレア・ボムズ』!」
ギラ系の同時攻撃を打ち消しながら、なお威力が衰えないフレイザードの呪文がポップ達を吹き飛ばす。
だが発生した爆風を利用して、ダイが一気にフレイザードに迫る。
使用する技は、今ダイが使える最速の剣だ。
「海波斬!」
「ただで当たってやるか!『捨て身』!」
ほぼ同時に、ダイの剣とフレイザードの拳がお互いの体に当たった。
ダイは防具を壊され、オレと同じように激しく地面を転がる。一方のフレイザードは、メダルを繋ぐチェーンが切れただけだった。
「つ、強い…」
習得している技が多いことはわかっていたが、まさか元軍団長とアバンの使徒を正面から相手にできるほどとは思わなかった。
こちらが倒されている間にレオナ王女がダイにベホマをかけるが、フレイザードも自身に呪文を唱える。
「魔力を温存しようとしたのが悪かったか…。『マホカンタ』!」
「嘘だろ!?あの野郎、あんな呪文まで使えるのかよ!」
ポップが悲鳴を上げる。
これで奴に呪文が効かなくなってしまった。
次の一手を考えようとするが、フレイザードは攻撃の手を緩めない。
「回復タイムをやると思ったか!『地響き』!!」
激しく地面を踏みつけると、周囲に激しい揺れが起こる。
更にひび割れた地面から、巨大な岩をえぐり出す。
「喰らいな!『岩石落とし』!」
「獣王の前で力比べとは、良い度胸だ!」
オレ達をかばうように、クロコダインが前に出る。
その隙に、オレはダイにアドバイスをする。
「ダイ!奴に勝つためには、コアを狙うんだ!…空裂斬。今のお前ならできるはずだ!」
本当はカットするつもりの話だったのですが、フレイザードの貴重な真面目な戦闘シーンのため入れました。