三流提督と菊月   作:ディム

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修行その三で犯したミスの個人的罰ゲーム。

こっちでも書いてることは、要するに菊月かわいい。


三流提督と初期艦『菊月』

『貴官ヲ、トラック泊地提督トスル』

 

端的に要約すれぼたったそれだけの内容になる長ったらしい文書を片手に、俺はそこに立っていた。気分は最悪。当然だ、軍人の墓場(艦娘の鎮守府)へ今から着任せねばならないと言うのに、気分がノッている奴などそう居まい。いるとすれば、それは件の『艦娘』とやらに欲情している馬鹿か、マゾヒストか、真性の阿保だけだろう。

 

『深海棲艦』。海という海を我が物顔で航行する、青い光を纏った黒ずくめの悪魔。現代兵器は効かず、総数も不明。おまけに、『艦娘』などという馬鹿げた存在でしか斃せないと言う。『艦娘』も含め、俺たちを馬鹿にしているとしか思えない。

 

「施設は新しいが、こりゃ狭いな。工廠がふったつにー、ドックもふったつー、っと。どうせ時間稼ぎの使い捨てってか、クソが」

 

天下の横須賀、その次が呉。次は佐世保、だったか。その辺りまでで深海棲艦を食い止められていた頃は問題無かったのだが。物量にじりじり押される三鎮守府を見兼ねて新しく艦娘を運用させる為に大本営が設けたのが舞鶴と大湊。これでようやく、贔屓目に見て五分まで押し戻した。

 

「あーっついんだからぁー、っとぉ。南国南国、こんな制服着てじゃなく、バカンスで来たかったねぇ」

 

俺は、此処に来る直前まで大本営の内勤だった。各地の鎮守府の様子を纏めて上に上げて、適当に仕事をこなすだけ。五つの鎮守府の五人の提督、そいつらのするべき仕事を見ては気の毒だねぇと漏らしている、それだけの仕事。

 

「それがどうして、本土からこんな離れた狭い鎮守府へ押し込められなきゃならないんだ、クソめ」

 

『鎮守府に配属された軍人は、死ぬまでそこの提督のまま』。深海棲艦に対して戦果を挙げられるなら、奴らが滅ぶまで永遠に前線。挙げられずに死ぬんならどうぞお休み。内勤の俺には全く関係のない筈が、大本営からの一枚の紙切れでこうまで変化するものか。皆に哀れまれながら船に乗り、辿り着いたのがこの『トラック島』と言うわけだ。施設は新しいながらも小さく、手伝いの人員は『妖精さん』とかいう訳の分からない存在だけ。

 

「鎮守府の中の警備も空っぽ、と。妖精さんとやらはそこらにいるみたいだが、何の慰めにもなりはしないな―――っと、ここが執務室のようだな」

 

鎮守府に入ってから有る程度歩き、容易く執務室の扉へ辿り着く。しかし今時、学校ですらこれより警備が厳しいぞ。

 

「っと、受領してる鍵はーっと。こいつじゃないし、こいつでもない。―――お、こいつだ」

 

かちり、という小気味好い音を立てて鍵が開き、ドアノブが回るようになる。せめてそれなりに上等な部屋であってくれ、と思いながらドアを開く。

 

 

―――そうして、俺の目に飛び込んできたのは一人の少女だった。

 

肩口より少し下まで伸びた白い髪、白い肌。

対照的な黒い服には黄色い月の意匠の飾りが付いている。

背は小柄、というか幼いと言っても良いレベルで小さい。

 

「―――お前は?」

 

「……睦月型駆逐艦、九番艦。私が、提督の秘書艦となった『菊月』だ」

 

目の前の、恐らく艦娘であろう少女の言葉に思わず顔を押さえる。いや、勝手な、それも悪い方向に勝手な期待をしていた俺が悪いのだ。艦種の差はあれど、全てが名を馳せた艦揃い。それはもうゴツくてデカい、ゴリラのような女が現れるものだと思っていたが、色んな意味で拍子抜けだ。

 

「―――不服か。まあ、そうだろうな……。他の提督に与えられたパートナーは、駆逐艦だとしても皆吹雪型のような新型ばかり。こんな僻地で、睦月型を充てがわれてはそうもなる……」

 

こいつ、俺が頭を抱えたことを勘違いしてるのか。あ、ちょっと拗ねてる。落ち込んでもいるのか。なんだこいつ、ちょっとかわいいじゃないか。

 

「―――あー、菊月だったか。違う、少し予想が外れてな。『艦の現し身』なんて言うから、てっきりこう、ムキムキでゴリラみたいな女が出てくるものだと思っていたからな」

 

「面白いことを言う。……だが、私の性能が他の艦娘より劣っていることは事実だ。旧式だし、な。良い所と言えば、燃費の良さくらいか……」

 

気丈そうに見えて、案外そうでもない奴だ。ネガティヴなように見える……が、どちらかと言うと否定されるのが苦手なタイプか?もしくは寂しがり屋か。雰囲気も、どことなくしょぼんとしている。

 

「あー、あー。菊月?別に、俺は性能云々はどうでもいい。どだい戦争、力でゴリ押しすれば良いという訳じゃないだろう。性能が悪いからポイ、なんてナンセンス、戦いようなんて幾らでもある」

 

菊月は……こっちをじっと見ているな。良い良い、もっと話を聞け。

 

「燃費が良い、ってのも俺にとっては最高だ。見てみろこの鎮守府?資源どころか人員さえ空っぽ。本国からちょっとずつ送られてくる雀の涙みたいな資源でやりくりしなきゃならないんだ。むしろ睦月型で良かったね」

 

とりあえず思いつくだけ理由を言ってみると、菊月は上目遣いでこちらに問いかけてくる。ええい、仕草がいちいち可愛い。

 

「……そ、そうか?いや、良いならそれで良いのだ、うむ。……まあ、見る目がある、ということか……」

 

言葉とは裏腹に、あからさまにホッとした表情を浮かべる菊月。必死に仏頂面を維持しようとしているが、緩んだ頬をもっと隠せ。

 

「と言うわけで、だ。歴戦の睦月型には申し訳ないが、俺も新米でな。軍歴はともかく、提督業なんて分からんことばかりだ。それでも、一緒に戦ってくれるか?」

 

「―――無論だ。共に行こう、提督」




菊月の、『共に行こう』って台詞。

今もひとりぼっちの菊月からすれば、誰かと一緒にいたいって気持ちの現れなんじゃないかと思うんです。あの態度の下は寂しがり屋だと思います。

かわいいですね。
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