あれは嘘だ。
「ふん、ふふーん、ふー、ふんふふーん、ふーふふふ、ふーん」
「……提督。なんだその、形容しがたい音は」
「あ?これ?これはあれだよ、本土で流行ってる歌。どこかの誰かの未来のためにってな」
ぼちぼち廊下を歩きながら菊月に答える。いちいち細かい奴だ、歌なんぞ好きに歌えば良いだろうに。音痴?知るか、気分が良くなりゃそれで良いんだよ。
「それにしても
「生憎だが、これは私の一張羅でな。こんな形でも艦娘だ、着替えなど持っておらぬよ……」
「え?お前本気か?本土の鎮守府じゃ、艦娘向けのファッション雑誌だってあるんだぞ?」
俺が言い放つと菊月はピシリと固まる。こいつが建造されてどれだけ経つのか知らんし、むしろ建造されたとこかも知れん。それでも、色気が全くないと言うのは驚きや呆れを通り越して可哀想にすら思えてくる。
「おーっと、そうこう言ってる間に着いたなっと。ほれ、しゃっきりしろ菊月。今から作業だ」
「……はっ。私とした事が、提督なんぞの嘘に騙されるとは……」
「いや嘘じゃ無いんだが。いい加減に不憫だなお前さんも。―――よぉーし、進捗どうだぁ、妖精さん達ぃ!!」
ドアを開け放ち大声で問いかければ、妖精さん達がわっと寄ってくる。そのうち一人が何やら紙を持っている。見れば先程渡したこの建物の見取り図のようで、ここ二階の部屋の半分程にバツがついてある。
「ふーむ。このバツの着いてる部屋は終わったってことか?」
妖精さんに問えば、全員が一斉に首を縦に振る。作業を開始してからまだ余り時間も経っていないと言うのにこの進み具合、流石は妖精さんと言ったところか。
「正直、予想外の進捗だな。いやはや恐れ入った、後で俺の持ってきた飴ちゃんをやろうではないか」
俺の言葉に沸き立つ妖精さん軍団。愛い奴ではないか。ついでに、俺の隣で思い切り膨れ面をしている菊月にも後で何かやろう。
「よーっし。この調子なら、ここ本館は全部終わりそうだな。別館の方にも手を伸ばせる、か。……ごほん、妖精さん、傾聴っ!!」
背筋を正して号令すれば、作業をしていた妖精さん軍団がその場でびしっと直立不動の姿勢を取る。うむ、何やら提督らしくなってきた。号令を出す相手が艦娘でないことと、俺が今タンクトップ姿だということを除けばだが。
「うむ、そうだな。そこと、そこの妖精さん二人はここに残れ!残りの妖精さんは次の部屋へ行き、作業を続けろ。なお、これまでの部屋で出した不要な資材や使っていない家具は一番端の部屋に集めておくこと。其方の指揮は菊月、お前に任せる」
「……了解した……。行くぞ、妖精さんは付いて来い」
部屋を出る菊月の後にわらわらと追随する妖精さん達。こうして見ると、何やら無性に微笑ましくなってきてしまう。
「おっと、お前達に指示を出していなかったな。ここで話すのもなんだ、一度執務室まで戻るぞ」
そう言えば、俺は妖精さん二人を持ち上げて肩に乗せる。最初は驚いたようだが、そのあとはきゃっきゃとはしゃいでいる。少し耳元でうるさいが、まあ癒しではある。こうして辺境に飛ばされた俺の癒しはこいつらと菊月以外に無いとも言うが。
「えーっと、どこにあったかなーっと。こいつは違うし、これは秘蔵の……っと、あったあった」
執務室へ入り、三つほどある俺の持ってきた荷物の中から衣類を取り出す。よく着ているものからそうでないものまで、全部引っくるめて持ってきたから相当な量だ。今回はこいつを使う。
「はい、妖精さんズは少し話を聞こう。ごほん、君達に頼みたいのは他でもない。この中から俺が不要なものを幾つか見繕って君達に預ける。君達には、それを寝間着に改造して欲しい」
そう言うと、俺はついでに引っ張り出した雑誌の一ページを指差す。写真には、可愛らしいピンク色の寝間着が写ってある。
「こらそこ、笑うな。勿論俺のじゃない、菊月のに決まってるだろうが。あいつ、今着てる服を一張羅だとか言ってたからな。寝間着を持ってるかすら怪しい。お前ら知ってる?」
俺の問いに、片方の妖精さんがこくんと頷く。どうやら俺の予想は当たっていたらしく、本当にあれ一着しか持っていないようだ。
「だろうな。ま、そんな訳で寝間着ぐらい拵えてやっても良いんじゃないかと思ってな。出来るか?」
びしっ、と敬礼を返してくる妖精さんズ。分野を選ばないとは、もう妖精さんだけ居れば問題無いような気がしてきた。
「よし、なら頼んだ。材料はそうだな、セールで大量に買い込んだは良いが使ってないスウェットが結構ある。こいつで大丈夫だな?」
もう一度敬礼をする妖精さんを床に降ろし、スウェット三着を畳んで渡す。これでまあ、当面はどうにかなってくれると有難い。
「さーて、俺は菊月の方を見に行くかっと」
そう独りごち、執務室を後にする。またしても猫さんを持ってくるのを忘れた俺であった。
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「執務室へ行こう」←提案コマンド