「はーい、今晩は。どうだ、片付いてるか?ちなみに残りの二班はほとんど終わったぞ。まあ、風呂だけはやっぱり別のところに移設してもらったがな」
ばぁん。音を立てて勢いよくドアを開ければ、妖精さん達がびしっと敬礼を返してくる。うむうむ、良きかな。対して菊月は憮然そうな顔で此方を眺めており、何かしてしまったかと内心焦る。おおかた、顔だけだろうが。
「……司令官か。どうした?」
「どうしたもこうしたもあるかよ、進捗を見に来たんだ。っても、この様子じゃ大体片付いたのか?こっちはテーブルを重ねてあるし、こっちは椅子の纏まりか。おーい、妖精さん。ベッドや小さい机が無いみたいだが?」
妖精さんへと問いかければ、そのうち何人かが扉を開き残りが揃って向かいの部屋の扉を指差す。一糸乱れぬ……とは言い難いが、それなりには見ていて楽しさを感じる。とりあえず俺は、ちょこまかと走り回る妖精さんズを蹴とばさないようにしながら向かいの部屋のドアを開ける。
「あー、成る程ね。ちっさいのはこっちに集めてたって訳だ。よぉし、自分達で考えて仕事が出来た証だ、あとで秘蔵の黄金糖をやろうじゃないか」
一斉に歓声を上げる妖精さん。言葉はわからないが喜んでいることは分かる。なにせ、全員がひっくり返って暴れてるのだから。というか、嬉しいのは分かったから早く落ち着け。顔も身体もピクリとも動いてない菊月には、とりあえず信賞必罰ということで後で同じものをやることにする。飴の在庫は十分にあった筈だ。
「よぉし、そろそろ良いな!?整列だぁ!――うん、良し良し。反応が機敏なのは良いことだな。うし、それじゃ菊月分隊の妖精さん達は執務室の隣の部屋を片付けに行くぞ!あと、ここの長机を二つ、その執務室の隣の部屋へ運んでくれ!で、そこの、さっき猫を吊るしてたお前はついて来い。お前さんは俺と一緒に、食堂から調理器具を――いや、別に食堂でメシ作って持ってくりゃ良いな」
びっ、と指示を出せば、それに従う妖精さん。これでここが
「あ、そういや妖精さん。あんたらって飯食えんの?というか、飯を食う必要ってそもそもあるのか?好き嫌いなんかは――妙に多そうだな。まあいい、とりあえず飯が食えるのかどうか教えてくれ」
立て続けに口を回し妖精さんに質問すれば、肩に乗る小さなそれは両手を『びっ!』と丸にする。どうやら飯は問題無く食えるようだ。話しつつ、階段を降りる。
「よし次。妖精さんは飯は作れるのか?」
びっ。
次のジェスチャーはバツ。つまり、飯を作れる妖精さんは居ないようだ。なら普段何食ってんだこいつら。考えても仕方のない、やり場の無い突っ込みを内心で繰り返す。
「ん、お。着いたな食堂。妖精さん、ワゴンとか皿とか探して来てくれ、あと缶切り」
指示を出しつつ、備え付けの冷蔵庫の中を確認する。予想通り、そこには食材と呼べるものは一つとして存在してはいない。唯一転がっていたライダーグローブをなんと無く身につける。どれだけ冷やされていたのか分からないが、冷たい。なんだかパワーが上がった気もしたが、気のせいだろう。しかし気分が良い、暗い食堂の片隅でシャドーボクシングを始める。
「シュッ、シュッ!フッ、ハッ!――ダァーッ!」
華麗なアッパー。
――決まった。いい笑顔で横を見る。妖精さんがいた。我ながらクールに決めたと思ったのだが、ワゴンに乗ってきたその妖精さんは馬鹿を見るような目で俺を眺めている。
「いやいや、そのな。あー、なんだ。カッコよかったか?」
びっ。示されるバツ。冷や汗が一筋垂れる。
「そうか。飴玉二個で内緒にしておいてくれるか?」
バツがゆっくりと丸に変わってゆくのを見て、胸を撫で下ろす。
妖精さんの一挙手一投足に震えるというのも情けない話だが、彼女達にバカにされにでもしたら今後に響く。エアコンを頼んだのに扇風機しか出てこない、なんて事になればそれこそ命に関わる。クーラーも無しに生きて行けるほど、俺は頑丈に出来ていないのだ。
「よし、なら今からちゃっちゃと作っちまおう。サバ缶と鶏肉缶、米の缶詰に――おお、カレー缶。量は大丈夫だな、適当に混ぜてカレーにしよう。フルーツは適当に開けて、適当に食えば良いか」
カレー缶を適当に開けて鍋にぶち込み、火をかける。同時に鶏肉缶を開封し、汁を切り、適当な大きさに切って鍋へ。野菜は無いが、カレー缶にもともと入っているだけで充分だろう。白米缶は纏めて湯の中へ投入。サバ缶は保留だな。今度勝手に食おう。そのまま待つこと幾らか、匂いが変わったあたりで調理を切り上げる。
「あーい、愛情込めてでっきあっがりー。しっかし缶詰が多いな?いや、役に立つから良いんだが。さながら缶詰これくしょん――缶これ、ってな。あー、馬鹿馬鹿しいこと。ほれ、妖精さん。飴をやるから今のくだらない呟きも黙っといてくれよ」
飴玉の袋を開け、妖精さんへ向けて一粒放り投げる。それを両腕でキャッチし、至極満足そうに飴玉を口に含んだ妖精さんを尻目に白米缶を開けて、大きな器に無造作に放り込む。缶詰とはいえ、白米から昇る湯気と香りが腹を刺激する。唾が溢れそうだ。
「あれもこれも完了っと。皿も飯もワゴンに乗っけて――うし、飯にするか!」
ワゴンを押しながら、厨房を出る。がたがたと揺れるワゴンに乗った妖精さんは、御満悦のようだ。まあ良いか、どこか諦めのような感情を抱きながら、俺はワゴンに載せた晩飯を運ぶのだった。
料理をすると思った?缶詰をあっためるだけでした。