自分が読みたくてずっと探してたんですが、無かったので描いてみた。
初投稿ですので手厳しい意見も歓迎です。
もっと面白いの描ける人、お願いします。読みたいです・・`
※12/12 ガッツリ書き直しました。もう書き直しはしません。
「迷惑をかけると思うが、私を頼むぞ」
天都原学園を卒業してから5年
本当は進学するつもりだったが、莉都を放って置けなかった。
迷っていたタイミングで莉都からの誘いがあったので卒業と同時に秘書という立場で就職した。
当初は縁故採用という事もあり周りの目が厳しかったがどうにか認められるようになっていた。
職場から30分のアパートへ帰宅。1Kだが一人で暮らすには十分だ。
「ただいま」
一人暮らしの為もちろん返事は返ってこない。
「今日は莉都の家政婦さんまた辞めちゃったよ。せっかく良い人だったのにな。」
今日あったとりとめの無い事を語りながら着替えを済ませる。
はたと気づいて溜息をついた。
「自分で決めたのに愚痴ばっかりで情けねーよな。本当」
自宅で独り言をする癖がついていた。
変な癖だが、見聞きするやつが居るとすれば一人だから気にして無かった。
冷蔵庫からビールを取り出して一気に飲み切る。
莉都が個人的に調査している資料が手元に回ってきた時は全部コピーを取って目を通していた。
自分の目的に合うものは無かった。
個人で調べた物もあるが、そうそう見つかるものでもなかった。
あの時は莉都と対等な立場で付き合っていた。
能力を気にして一歩でも引けば昔のアイツならぶん殴ってくるだろう。
第三者的には今の関係の方が理解しやすい。
昔の俺はそうとう莉都に甘えていたと思うがそれでも…
今の莉都と生きるには疲れてきた。
小夜璃さんが辞めてから2年
きっかけは俺にとって些細な事だった。
提出した書類に不備があり、床にばら撒かれた後
飲みかけのお茶を引っ掛けられた。
ドアがノックされた時にいつもの調子で莉都が部屋へ招き入れる。
「進矢さん!?」
小夜璃さんがハンカチで丁寧に顔を拭っていく。
「進矢、さっさと仕事に戻れ」
小夜璃さんは挑むような視線を莉都に向けた。
「莉都様、何があったんですか?」
莉都は不機嫌な顔でこう言い放った。
「私が面白いからやった」
小夜璃さんは莉都を睨みつけながら近づき…平手打ちをした。
「…進矢さんに謝りなさい。謝れ!」
いきなり手を出すとは思って無かった。小夜璃さんの両肩を掴み距離を取る。
莉都は頬を軽くさすりながら気にした素振りも見せなかった。
「進矢、夕月を解雇する手続きをとれ。早い方がいいが詳細は任せる。」
莉都は何も無かったかのように部屋を出た。
小夜璃さんが莉都に掴みかからん勢いで睨みつけていたので手で押さえつける。
冷静な思考を取り戻したのだろう、眉を寄せた表情をこちらに向けた。
「申し訳ありません。もう大丈夫です…」
「いや、俺の方が悪いっていうか…」
「今日の夜、お時間はありますか?」
その夜、小夜璃さんが俺の家に来た。
昼間の件についてだろう。
招き入れてコーヒーを入れる。
小夜璃さんの表情は暗い。
「昼間は俺の為に怒ってくれてありがとうございました。」
「いえ…」
「無責任かもしれませんが、俺はちょうどいい機会だと思ってます。今の莉都に無理に付き合う必要ないですよ。」
「仕事の方も何件か心当たりあるんで、紹介します。まぁ小夜璃さん働き過ぎだし、すぐじゃなくても良いんで。」
何か思いつめたような表情は変わらずだ…
「そういえば何人かに小夜璃さんを紹介しろって言われてました。いい年だしソロソロ結婚…」
「進矢さん!」
「ごめんなさい」
セリフを途中で打ち切られた上に怒られた。
「いえ、それは構いません。」
小夜璃さんが溜息をつく、少しマシな表情に戻ってから言った。
「進矢さんにお願いがあります。莉都様を諦めてくださいませんか?」
これについては何となく予想出来ていた。だが…
「私達が莉都様に命を救われたのは知っています。タマさんに伺いました。」
これには驚いた。それとなく気づいてはいそうだが、確信を持ってるとは思って無かった。
「あの時…お二人の関係が素敵だと思ったからお節介をさせて頂きましたが…
私はこんな事望んでいませんでした。
進矢さんが凄い人だという事は十分に解りました。
もし進矢さんが莉都様から離れるのが心配と仰るなら私がなんとしてもお側を離れません。
ですからどうか進矢さんは距離を置いてください」
「もし進矢さんがお一人で生きるのが辛いと仰るのなら私が貴方を守ります。ですから…お願いします。」
自分は馬鹿だと思っていたが、この瞬間程自分の馬鹿さ加減に気づいた瞬間は無かった。
理由は分からないが俺は小夜璃さんに愛されているんだと。
「莉都が俺の親父の会社を追い込んだって話はしましたっけ?」
小夜璃さんが顔を上げるのを待ってから続けた。
「それはアイツが自分の意思でやった訳じゃないんだけど凄い後悔してて、
子供だった俺に言えなくて一人でずっと抱え込んでたんです。
こんな事になってなかったら多分、莉都と同じ仕事はしてなかったと思います。
汚い世界は見なくてイイって事あるごとに言ってましたから。
だから前の莉都だと誘いもしなかったんだろうけど
本当は一緒に仕事してくれて嬉しいと思ってるんじゃないかなって。
せめて今の莉都からもう必要無いって言われるまでは支えようかなって。」
小夜璃さんが視線を合わせてから言い始める
「少しズルかったですね。本当は莉都様の事より自分を優先したかったんです。私は進矢さんが…」
声を強くして打ち切った。
「だから…ごめんなさい。小夜璃さんのお願いは聞けません」
俺の方がもっとズルかった。最後まで聞いたらこの誘惑には耐えられないかもしれない。
「確かにアイツ変わっちゃったけど、本質は変わってないんです。
色々酷い事するけど俺の知ってる限り、俺にしかしませんね。俺の見てない場所で小夜璃さんにはしてそうですが…
幸御魂が無くなった莉都が唯一表現出来る甘えなんじゃないかな。あと莉都から伝言です。「世話になった」と。」
少しの沈黙はパキンという乾いた音に打ち破られた。
小夜璃さんが携帯電話につけていたストラップを取り出した。
どこかでみた勾玉だ。
「タマさんに頂いた物だったのですが…ヒビ入っちゃいましたね。」
それを見た瞬間、泣きそうな表情を一瞬見せたが振り向いて玄関へ向かう。
「今日は帰ります。」
「遅いですし…タクシー呼びますね」
流石に自分で送ってくなんて真似は出来ないので別の提案をしてみたがあっさり蹴られた。
「大丈夫です。電車まだありますし。」
声は震えていたが足取りはしっかりしていた。
カーテンの隙間から差し込む朝日で目が覚めた。
「ん…寝てたか」
懐かしい夢を見た。
あれだけ酷い事をしたんだ。自分から諦める事は出来ない。
昨夜の弱気は少し遠のいた。
(これで神凪に繋がってた連中はもう表舞台には戻って来れないだろう)
神凪莉都は自分の執務室で軽く溜息をついた。
休憩がてら私室に戻り冷蔵庫からカフェオレを取り出す。
5年前に天都原学園を卒業し本格的に事業を始めてから即座にビルの一部を住居スペースに改築した。
おかげでオフィスビルの一部だけが異空間になっていたが、知っているのはごく一部の人間だけだった。
仕事の合間を縫って、個人的に調査している資料を読み漁る。
私財を投じて調査している内容は御津上の歴史、見鬼の力、玉依の儀式についてだ。
(これで裏付けが取れたか…午後からは時間もあるな)
それなりに金が掛かっているだろう仕出し弁当。
普段は特別美味しいと感じ無かったが、上機嫌な莉都と一緒に食べていれば格別に美味しく感じた。
他の人から見たら機嫌が良いようにはとても見えない表情だが。
「今日は随分、上機嫌だな。」
「ふん、当然だな。神凪に繋がっていたクズ共を掃除出来たからな。」
二人きりの時は敬語を使う必要もない暗黙のルールは今でも破られてはいなかった。
「午後から出かけるぞ。例の井戸だ。必要な物を手配しろ。」
「井戸?なんでそんな所に?」
そんな話題、今まで一度も無かった。
「私は手配しろと言った。…後で話してやる。」
「…分かった」
探索に必要そうな物を一通り手配し車で現地に向かう。
あの時なかった鍵は莉都が全て持っている事は知っていた。
鍵を受け取り、人を使って梯子をかける。
「他の人間は付いてこなくていい、そうだな…事故が起こった時の対策をしておけ。進矢だけ来い。」
先に降りた莉都についていき、ライトを手渡すと奥へ行った。
記憶が曖昧だが、昔見た時と変わってはいなかった。
「なぁ、そろそろ教えてくれ。なんだって今更こんな場所に?」
「…私の人生を変えたシステムに復讐する為だ。玉依の儀式が二度と出来ないようにしてやる。」
「そんな事して大丈夫なのか?」
「私は『生きる』約束は守る。」
「俺が言っているのはそういう事じゃない」
御津上市を壊す気か?そんな事はさせられない。
「ただ平和を貪っている奴らなど知った事か。そんな事を気にする私がもう居ないのは進矢が良く知っているだろう。
私は自分の人生を身勝手に弄んだ神凪が憎い。私の人生が変わった玉依の儀式が憎い。」
「…復讐したいなら止めない。だけど…今、住んでる人達も復讐の対象なのか?他の手段は無いのか?」
莉都の暴挙を止められた回数は片手で足りる程度だが、
それでも『これが止めれ無かったら諦める』と思った時は必ず止めれた。
その程度には信頼されていると思っていた。
だが…
「…そんな目をしてもダメだ。今回ばかりは譲れない。」
「5分で終わる、少し待ってろ。」
--「迷惑をかけると思うが、私を頼むぞ」
くそっ、この場で力づくで止めても莉都は再び儀式を行うだろう。
本気になった莉都を止めるのは不可能だ。
---「一生のお願いだ、進矢」
こんな時でも莉都の力を借りないと上手く行きそうにないのは情けないが
それでも手段は選んでいられない。
「…莉都、たまには俺と遊ばないか?」
「ふん、その遊びの景品は儀式の中止か?
どうしても私に儀式を中止させたいらしいな、
だが、そんな約束守ると思っているのか?」
「いや、莉都は俺との約束を守る。嘘は付かない」
「ちっ、まぁいい遊んでやる。ルールはなんだ?」
「今から10分、俺は儀式を妨害する。妨害出来れば俺の勝ち。他は何をしてもOKだ。」
「ふん、女性を誘うゲームじゃないな。だが、私を甘く見すぎだ。後悔させてやる。」
投げ飛ばされた後にすぐさま莉都が迫ってくる。
みぞおちを踏み抜かれた後、首に腕が絡みつく。
「少し寝てろ。」
「っ」
首に痛みが走った。どうも落とされていたらしい。
何分寝てたか分からないが莉都は祝詞を唱え始めていた。
気づかれないように這って近づく。
ここならっ!懐に入れた手を伸ばす。
バリッ
脇腹に強烈な痛みが走る。
進矢の手にはスタンガンが握られている。
くそ、馬鹿進矢め。どこまで準備がいいんだ。
…だが良くやった。
「…儀式は中止する。」
驚いた表情を向けられた。
「そうか。すまん莉都、大丈夫か?」
「私は大丈夫だ。」
差し伸ばされた手を振り払う。
「進矢、御津上市に何が起きたか、調べろ。急げ。」
呆然としている進矢に更に声をかける。
「馬鹿進矢。早く行け。私は大丈夫だ。」
「分かった、そっちは任せろ。ここには誰か人を寄越す。」
進矢が居なくなった後、随分落ち着いた。
先ほど脳髄を通った『甘み』が私を狂わせている。
6年ぶりだ。
幸御魂を失ってから人の愛情も受け取る事が出来なくなっていた
私が感じた進矢の気遣いという『甘み』は格別だった。
安易に「私を頼む」と言った私を絞め殺してやりたくなる。
進矢の周りの友人たちが『呪い』から助けてくれると思って。
自分で『呪い』を振り払って自分の幸せを考えてくれると思って。
それは進矢に酷い事をした報いだと思っていたから。
だが現実はどうだ?
進矢は友人たちと袂を分かった上にまだ『呪い』に囚われたままだ。
6年だ。あれほど酷い事をした私に6年もだ。
まだ見ぬ素晴らしい友人を増やす事もなく、輝かしい青春の日々を過ごすわけでもなく
私を助け、諌め、ただただ私の『呪い』に6年も囚われてくれたのだ。
それを考えただけで、言いようもない『甘み』が全身を駆け巡った。
進矢の不幸な6年間をどうしようもなく嬉しいと感じてしまう。
「私は…なんて浅ましいんだ」
もし進矢が居なければ、幸御魂を元に戻す方法を探しただろう。
それも再び復讐に駆られた自分が絶対にシステムを破壊出来ない方法を考えた上でだ。
ここでこの『甘み』に溺れてしまっても進矢は私を許してくれるかもしれない。
だが自分が許せなくなってしまう事は疑いなかったし
そんな荷物を進矢に背負わせる事は出来ない。
進矢は6年耐えたんだ。
…私は見鬼だ。いや、見鬼の力も関係ない。進矢に負けたくはなかった。
井戸に行ってから1ヶ月後
ここ1ヶ月間の御津上市の事件・事故の分析データを見ながら莉都は確信していた。
「やはり、私が幸御魂に関する感情を発露すると…幸御魂の残りを呼び戻しているな」
膨大な資料の中から既に玉依の儀式を行うのが最善手だと分かってはいた。
既に幾人かの犠牲者は出ている。それでも『甘み』を忘れられない莉都はそれを実行には移さなかった。
あの時は手段を選ぶ時間が無かった。今、時間があるのは進矢のおかげだ。
「15年…いや10年…すまない、進矢…」
ここしばらく莉都の様子が昔に近いと進矢は感じていたが、
近寄りすぎると相変わらずだったので戸惑っていた。
携帯が鳴る。莉都からのメールだ。
「こんな時間に緊急とは珍しいな」
仕事の手を止め、中身をチェックする。
「あと10年待ってくれ。今はこれ以上話せない。」
随分久しぶりに笑った気がした。多分6年ぶりだろう。
「たった10年でいいのか。もっと掛かると思っていたよ」
返信はしなかった。
莉都は御津上市中心の経営方針を変更した。
当初は世間は神凪が御津上市を再開発すると考えていたようだが、そんなつもりはなかった。
ワンマン経営に拍車をかけた為何度も役員と揉め事になったが、莉都にとって些細な事だった。
莉都が第三の目標に到達した時、約束の10年の歳月が流れていた。
御津上市は無くなっていた。見渡す限りの荒地だ。そこは神凪莉都の私有地でもある。
建物は無残にも崩れ去り、幾人かの無法者が住む世界有数のスラムになっていたが
その無法者も今は強制退去させていた。
今の所予定に破綻は無い。進矢に声をかけた。
「午後から出かけるぞ。井戸だ。必要な物を手配しろ。」
「わかった。」
当日の準備は殆ど必要なかった。
街を荒廃させたが例の社が壊れてしまっては元も子もないので掘り起こして社を囲むように倉庫を建てていた。
不審者が破壊しかねないからと社の周りだけはコンクリートの壁で囲い強固な施錠をしてある。
この日の為に舗装された道路も3本用意した。
半日間、旧御津上市上空を通過する旅客機は全て抑えた。
一番の懸念は緩やかに崩壊する事だった。
長期的に旧御津上市を封鎖する事が難しいからだ。
程度はあるが、理想的には歪みが一気に吹き出して終わってくれる事だった。
あの時、最後まで唱えられなかった祝詞を最後まで唱えた。
「進矢、全部終わったぞ。」
「後は逃げるだけだな。」
今の所、何も起こってはいない。
だがもう少し旧御津上市に不幸が訪れるのが早かったらタダでは済まなかっただろう。
執務室に戻って来たがお互いに何か言いかけて、黙ってしまった。
地震?少しの揺れだけでコレは大きいと即座に分かった。
気づいた時には進矢に手を引かれて、机の下に押し込まれていた。
「進矢!」
「いいからお前そっから出るな、俺は俺でなんとかする」
商談用のテーブルの下に隠れたのが見えたので大人しく隠れておく。
ここの震度は5ぐらいか?頭をぶつけないように手で押さえる。
1分程度だろうか揺れは収まった。
テレビをつけると地震速報が流れていた。
自分のパソコンで地震情報をチェックする。
旧御津上市以外は震度5程度だった。これならそれほど被害は無いだろう。
「…凄いことになったな。はは」
「私は自分の為にこれだけの事をしてしまった。
今日の被害は少ないかもしれないが、10年間の被害者は何人になるかわからない。」
「でも…今、嬉しいんだ。ここに進矢が居てくれる事が。
これだけの人を不幸にして、
沢山の人々の思い出の残る街を壊して、
進矢の家族を犠牲にして、
進矢の人生を16年も犠牲にして、
それでも…どうしようもなく嬉しいんだ」
瞬間に莉都は嫌な想像をしてしまう。
今、この瞬間に進矢が復讐しにきたら?罵ってきたら?私の元から消えたら?
ひょっとしたら進矢はこの時を待っていたのでは?これ以上ないタイミングで復讐する為に。
胃がキリキリと痛む。口の中がカラカラになる。
さっきまでの自分はこんな思いはしていなかった。
失敗したら次の手を打つぐらいしか考えていなかった。
進矢が口を開くまでの数秒が数十分にも感じた。
莉都の表情が喜びから一転して真っ青になっている。
未だにこの相棒は時々何を考えているのか分からない事がある。
「せっかく上手くいったのになんて顔してるんだよ…」
「確かに何人かは不幸な人が出たかもしれないけど、
全部莉都が背負うのは変だし、それに放って置いたって何年後か知らねーけどまた選択を迫られるんだろ?」
そしてその時は見鬼もいなくなって、玉依の儀式も忘れ去られて考えられないぐらいの被害が発生しただろう。
「莉都が最善を尽くしたんだ、これ以上の結果はないだろ。お前はよく頑張ったよ。」
「自画自賛する程じゃないかもしれないが、互いが互いを褒めるぐらいしてもいいだろ?」
それは遠い昔に莉都が言った言葉だ。莉都の表情は不安げだ。
「進矢は私を恨んでいないのか?私は進矢のそばに居てもいいのか?」
「意味がわかんねーよ。今更振られたらそれこそ俺が何の為に頑張ったのかわかんねーよ。」
「進矢、生きろと言ってくれてありがとう、待ってくれてありがとう。」
進矢は莉都をそっと抱き寄せた。
初めてみた莉都の涙が消えるまで。莉都の震えが収まるまで。
お互いに落ち着いた頃に莉都に何気ない質問をした。
「これから何しようか?」
「そうだな。あの頃の…友達と会って仲直りがしたい。無理だろうか?」
難しいだろうな。もう子供じゃない、それぞれの生活があるだろう。
一言二言会話する程度なら出来るかもしれないが、莉都が考えているのはそうじゃなさそうだ。
「相変わらず、人付き合いが分かってないな。大丈夫だよ。きっと皆喜んでくれる。」
「そうか。進矢は優しいな。」
「進矢は何がしたい?」
「デートがしたい。買い物でも遊園地でも温泉もいいな。でも食事はマナーがあんまり煩くない所がいい」
「あまりイジメないでくれ…自分でやった事は覚えているんだが…何でそうしたかったのか今でもよく分からないんだ」
しおらしくなった莉都をみて進矢が慌てる
「すまん、そこまで言うつもりは…」
「冗談だ。」
もう莉都は笑顔になっていた。釣られて笑った。
これからはきっと楽しい毎日が待っている。二人はそう確信していた。
未曾有の大震災から5年。結局あの地震での直接的な死者は5年経過した現在でも0人だった。
元々経済的な恩恵のある地でも無かった為、殆ど被害は無かったと言っていい。
街の名前も規模も変わってしまったが、旧御津上市は今は人が住める環境になっていた。
天気は快晴。絶好のピクニック日和だった。
見晴らしのいい場所でお弁当を広げて摘んでいた。
何気なく街を眺めていると進矢が言った。
「それにしてもよく5年で人が住める状態に出来たな。」
「私の残りの人生でも終わる予定じゃ無かった。意思を継いでくれる人を見つけて後は任せるぐらいだった。
これほど予定通り行かなかった事は初めてだ。運が良かったんだ。」
進矢が不思議そうな顔を向けながら言った。
「なんか不満気だな。運が良かったって…まだ何かあるのか?」
「いや、進矢が気にしているような事態にはならない。少し思う所があっただけだ。」
「言いたそうな顔してるんだから、話せばいいのに」
ニヤニヤした顔を向けられたので少し腹が立った。
「絶対に言わない」
「そう言うなよ…」
「嫌だ」
「ごめんなさい。気になって仕方ないです。教えて下さい。」
ふざけたやり取りも何回目になるか分からないがこれはこれで楽しいモノだ。
「しょうが無いな…少し長くなるが…」
「玉依の儀式は誰が何の為創ったか考えた事はあるか?」
「無理やりやらせてたんだから…その時の為政者が自分自身の権力を守る為?
でも…普通の人が創ったんなら事態がもっと違う動きをしたような…」
「見鬼の為政者が創って、他の見鬼にやらせたという考えも出来るな。
だがそれだと自分自身の身が危うい。状況にもよるがその線は薄いだろう。」
「普通の人間であっても直感的に自分の死を予見出来る事があるらしい。
恐らく見鬼はもっと高い精度で自分の死を予見出来るだろう。」
「最初の見鬼は…自らを知り、人を愛して、真っ当な人生を歩み、
そしてその最後の時が見えたら…自らの意思で残していく家族の為に自分の人生のほんの数時間を捧げていたんじゃないかなと
少し違うな。自分の気が狂わないように自分の為にやったんだろう。
無為な死は恐ろしい物だが…誰かの為に死ねるならそれほど恐ろしい物じゃ無い事は進矢も分かるだろう?」
「そして私が行った儀式は…例えるなら幸御魂を閉じ込める扉を開くだけだ。ついでに閉じれなくしてやったが…」
「望んで玉依の儀式を行った幸御魂が出て行かなかった?」
「恐らくそうだろうな。何人が玉依の儀式の犠牲になったかしらないが、
追い詰められて儀式をした人、諦めて儀式をした人、強制された人の幸御魂は解放されただろう。」
「莉都、変なこと考えてないだろうな?」
進矢が少し怖い顔で言った。
「コレばっかりは約束は出来ない。だが…」
少し恥ずかしいが後を続ける。
「この考えに至ったのは、街の再建が早かったからだけじゃない、今が凄く幸せで死ぬ事が少し怖くなったからだ」
「そっか」
「しんやー、りとー」
奏(かな)が駆け寄ってきた。
「父さんと母さんだって言ってるだろ」
奏は幼い頃の莉都に似てきた。
髪の毛の色は真っ黒だし見鬼でも無かった。
俺はそれほど気にして居なかったが、その事は莉都が一番喜んでいた。
「かなだけ仲間外れはズルイよう」
「もうすぐこの街にお引越しだ。この街はどうだ?」
「んーわかんない。でも皆一緒だったらきっと楽しいよ」
何気ない一言でも嬉しいものだ。
「そっか。引越ししたら莉都は毎日家にいるからな」
「りとよりしんやが毎日家に居たほうがいい」
…時折、何気ない一言が鋭利なナイフの如く刺さる。主に莉都に。
「まぁこれからは、莉都のが奏と長い時間を過ごすし…頑張れ」
哀れみの視線を向けると脇腹を手で突かれた。
「五月蝿い、黙れ、その目をやめろ」
こういうのがダメなんだと思うんだけど…
「ほら、しんや、遊ぼう」
「いくから、押すな、コケる」
立ち上がってから莉都の手を引く。
「3人で遊んだ方が楽しいだろ?」
「うん」
今日は特別な日じゃなくてよくある休日の1日だった。
願わくばこの普通な日が長く続きますように。
ガッツリ書き直しました…また後悔しそうな予感はありますがもう書き直しはしない予定です。
こんなのでも楽しんで頂けたら幸いです。
子供の名前は本当は付けたく無かったんですがどうしても文章が変になっちゃうので、付けました。その物がむしろ無くてもいいのかと迷ったりもしてます。
その後とかその間とか色々脳内妄想はありますが…
読み物は書いてるより読んでる時or脳内妄想に留める方が楽しいと気づきました。
あらすじ部分にも書いてありますが、ぜひ黒莉都ルートのその後を誰か書いてください…