アールの遭遇したミュータントの謎
Twitterでの企画により生まれたシェアワールド、「ガンダムバトルワールドフロンティア(GBWF)」を舞台にした小説。
異常強化されたNPCに終わりのない戦いを挑み続ける「スイーパー」を扱う。
GBWFはガンダムをモデルにした架空のオンラインゲーム。ログアウト不可能のデスゲームと化してしまった世界で繰り広げられる戦いの記録です。
ガンダムバトルワールドフロンティア"攻略"wiki
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いつも通りの漸減作戦のはずであったが……。
「ラン、ここでは無茶はイコールで死だ。損傷が20%を超えた時点で撤退だよ」
青年が被ったヘルメットに備え付けられたマイクへと叫ぶ。
『わかってますよアールさん。エンブレムに傷はつけられませんからね!』
通信機越しのノイズのかかった返答が同じくヘルメット内のスピーカーから響く。アールと呼ばれた青年はその返答を聞き、それでも心配だとため息を一つ吐いた。新人のお守りというのは、何度やっても慣れるということはないものである。ただ戦う、というのならば気を使うのは自分一人でいいが、他人の状況も把握しながらというのは戦闘とは別のプレッシャーがかかるものだ。こと、ゲーム内での死が現実の死であるこのGBWF内においてその責任の重大さは命の価値と同等なのだ。少し前を進む青いベルガ・ダラスに搭乗した、ランと呼ばれた若い女性パイロットは半月ほど前に戦闘クラン「三つ首龍の紋章」の一員となったパイロットであり、入団試験をパスしたことからその能力も申し分ないものであることは間違いない。しかし、彼らが戦っているこの宙域、「サンダーボルト宙域」は他のどのエリアと比較しても類を見ないほどの激戦地である。腕試しに来たレベル自慢のパイロットが初陣で撃墜などというのはよくある話で、出撃時には「ご安全を!」という冗談のような掛け声がかけられるような戦場である。今回は定期の漸減作戦に過ぎないが、それでも新人と同伴出撃というのだからたまったものではない。彼の適性によるものなので渋々引き受けているのだ。
「多くはないが……今日は一段と質がいいのが揃ってるな」
彼らが相手にするのはミュータント、異常強化されたNPC群である。ゲーム開始数か月後から発生が確認されたミュータントは瞬く間に各地へと広がり、スイーパーと呼ばれる専門の部隊が対処に当たっているものの、拮抗状態にするのがやっとという状況だ。アールは乗機、ゲルググ・ヘンカーの強化されたセンサーで既に敵の先陣を切るMS群の索敵を開始していた。モニターにはゲルググ、ジムカスタム、リックドムIIといった機体のデータが次々と流れていく。彼の取得したデータは随時僚機へと送信され、リアルタイムでの情報の共有を可能としている。
『アールさんのお友達みたいのがいますよ』
レーダーに映し出された無数の点のうち左翼に展開する一群が赤いマーカーで囲まれる。情報の共有は双方向で行われており、このようにマーカーで印をつけたりスポットで表示させることでより円滑に連携が行えるようになっている。マーカーで示された機体群は、彼の乗るのと同じくゲルググタイプのMSで構成されているものだった。本来高級量産機に当たるこれらの機体は一般のNPCが使うことはないのだが、ミュータントにそれは当てはまらない。こういった高価な機体の仕様、AIの強化など本来ゲーム内の雑魚として設定されていたはずのNPCには不釣り合いな性能を誇っている。
「友達は自分で選ぶもんだよ。特に押しの強い子は苦手なんだけどね」
『釣れないこと言ってないで遊んであげたらどうですか。ほら、元気いっぱい』
彼女が言い終わらないうちに、敵の射程圏内に入ったのか一斉に光弾が彼らめがけて一直線に迫る。しかし、それがわかってたと言わんばかりに発射と同時に散開した二機に攻撃が当たることは適わない。先行していたベルガ・ダラスは勢いを止めることなく敵の先頭を射程に捉えると、ビーム弾式に改造されたヘビーマシンガンを掃射した。軌道にばらつきのある弾丸は、中央に捉えられていた機体のみならずその周りの機体の全面装甲を抉り取る。最も被弾の多かった戦闘のゲルググの一体が爆炎へと変わるが、敵の陣形に乱れはない。爆炎越しに正確にベルガ・ダラスを狙ったビームが放たれる。
『冷徹な殺人マシーンってやっぱ不気味ですよね』
ベルガ・ダラスは背部に背負ったシェルフ・ノズルを左右で器用に出力を調整し、被弾しないギリギリの半径で円軌道を描き回避する。
「無駄口叩くくらいなら数減らすよ! どんどん来るんだから」
それまでは宙域に散開するように展開をしていた後方のNPC群が方向を変え、こちらへと向かってきているのがレーダーから見て取れた。ミュータントはプレイヤー毎に脅威度を設定し、上位にランキング付けされたプレイヤーを優先的に攻撃対象にする傾向がある。現在最も脅威度が高いのは一機を撃墜し数機に損傷を負わせたベルガ・ダラスであり、周辺のミュータントはこれを目指しているのだ。
『わかってますよー。ガガガッと平らげてやります』
「それはそれで困るんだけどね!」
ベルガ・ダラスがスラスターを
大きく吹かしマシンガンの掃射を続けながら敵集団へと一気に肉薄する。一撃一撃の威力や集団率の低いマシンガンであるが、吐き出される弾丸は一発一発が装甲を溶解させるビーム弾であり、常に多数の敵を相手にする対ミュータント戦においては非常に有用な兵器の一つである。さらに専属のビルダーによって徹底的にチューンナップされた彼女のそれは市販品と比べ装弾数が倍近くなっており、高い継戦能力を誇っていた。
『いただき!』
掛け声と同時にマシンガンを受けて動きの鈍っていたミュータントにショットランサーを構えたベルガ・ダラスが後ろから突撃し、腹部から串刺しにされる。お世辞にも取り回しがいいとはいえず、有用性の低いように思えるショットランサーであるが、ランは頑としてこれを手放すことはなかった。ベルガ・ダラスは敵の機能停止を確信した後ショットランサーを引き抜くと、マトリョーシカのように幾層にも重なったそれの最外殻を後方より迫っていたジムクゥエルへと打ち出した。ジムクゥエルは勢いよく飛び出したショットランサーをジムライフルで迎撃するものの破壊には至らず、胸部に突き刺さった後爆発へと姿を変えた。
「だから困るって言ってるんだが……」
アールがモニターに映る数字を見て呟く。彼が見ていたのは、ランの子の先頭での撃墜数であった。その数字が一増えるたびに、彼はゲルググ・ヘンカーのビームライフルで後続の敵の一機、狙撃していたのだ。一人の脅威度が極端に高いとき、敵の攻撃はその一人へと集中する。いくら相手がNPCでパイロットが手練れであったとしても、圧倒的すぎる数の差を埋めることはできない。退路を塞がれ、倒せど倒せど減らない敵に競り負けてしまう。特に新人はその調整をするのが難しく、随伴機はこのように脅威度を同程度に保つことで攻撃が一人に集中するのを防いでいる。「殺られる前に殺れ」を実行できるパイロットもいないわけではないが、新人にそれを押し付けるのはあまりにも無謀である。彼はこのように狙撃で後続のヘイトを引き受けることによってランへと支援射撃が行われるのを防いでいるのだった。
先頭の集団を片づけランが後続の、アールが狙撃を行っていたのとは違うMS群へと食らいつく。ルーチンワークのように狙撃を続けていたアールだったが、しばらくの後異変に気が付いた。
「ラン、ペースが落ちてるぞ。疲れてきたなら撤退するんだ」
『まだ大丈夫ですよ。ちょっと、敵が動き回るんで当て辛いだけです』
順調に増えていた撃墜数が、ペースを落とし始めていたのだ。ここではどんな不安要素も死へと繋がる可能性がある。持久力に秀でたランではあったが、もしもということもある。アールは彼女の声音に疲労がないことを確認すると、その動きのいいという敵群を望遠モードでモニターに捉えた。ショットランサーを構えたベルガ・ダラスはマシンガンを掃射しながら一機のジムカスタムを追うが、それが命中する前に他の機体からの援護射撃に阻まれてしまう。今度はそちらを撃破していくが、二機目を追い詰めるかというところで先ほどのジムカスタムがサーベルを手に切りかかり、そちらの対処に終われと繰り返している。少しずつではあるが数を減らせていることから苦戦しているわけではなさそうだが、彼はそのNPCの挙動に疑問を抱いていた。
「遊ばれている? いや、連携にうまくはまってしまったのか」
どちらにせよ、このままのペースでは最後尾の集団に追いつかれ、ジリ貧になってしまう。アールはそれまでいた狙撃ポイントを離れると、ランの相対している集団へと機体を走らせた。
『アールさん、なんかこいつらプレッシャーが』
ランが呟く。思うように戦えない焦りからかベルガ・ダラスの動きは精彩を欠いてきており、それが更に彼女の焦りを加速させていた。アールはマシンガンで牽制をするベルガ・ダラスと背中を合わせるようにゲルググ・ヘンカーを動かすと、迫ってきていた数発のミサイルをライフルの一射で撃ち落とし、指示を伝えた。
「前後衛交代だ。僕が前で戦うから、死角に回ってきた敵機の牽制をお願い」
『りょ、了解!』
ベルガ・ダラスが指示通り彼らを囲っていた敵機の外へ出たのを確認すると、ゲルググ・ヘンカーはビームライフルを数発放った。それは精密な予測射撃は精密すぎるがゆえミュータントには容易く回避されてしまう。しかし、それは彼の思い通りの行動でもあった。彼は各機の回避行動を観察すると、そのうちの一機のゲルググ・キャノンへ向かって二発、ビームライフルを発砲した。微妙な偏差で放たれた光弾は、一発目が回避されるものの二発目が的確にゲルググ・キャノンのコックピットブロックを貫いていた。彼は初撃で回避のパターンを把握、その後の偏差射撃によって確実に狙い撃っていた。超絶技巧といえるこの芸当を可能にするのはもちろん経験による所もあるのだが、それとは別に、もう一つの理由があった。強化人間、そう呼ばれるプレイヤーがGBWFには存在する。ある者はまるで先読みのようなことを、ある者は常人には耐えられないようなGに堪えることができる。ゲームシステムの穴を突いた処置を受けることにより、一般のプレイヤーをはるかに上回る能力を持つプレイヤーを、劇中のそれになぞらえて「強化人間」と呼ぶのだ。アールもまた強化処理を受けており、覚醒値こそないものの、その他の全ての能力値にブーストがかかっていた。そして、彼は強化措置の副産物によりある特殊な能力を備えていた。システム内で彼は二人分のIDを割り振られており、対応する演算能力も二人分が使用可能なのだ。常に一人分のマージンが発生した状態であり、一時的に二人分の演算能力を使用することにより1.4倍程度処理を加速させることができる。彼はこれをオーバークロックと呼んでいた。もっとも、神経接続式のゲームであるGBWFにおいて一人分に割り振られている演算能力はすなわち安全に使用できる限界の値であり、それを大きく超える使用は使用者の脳に少なからず影響を及ぼした。アールは突如自分を襲う高揚感と多幸感に身を震わせながら二機、三機と同様の偏差射撃で敵機を撃墜していく。
「躱せないよな? そういう風に撃ってるからな? ざまみろ!」
あらかじめ通信機のマイクを切っていたためこの絶叫がランに聞こえることはなかったが、それでも彼は独り言を叫び続ける。直上から迫っていたジムカスタムに気づくと彼はひときわ大きな叫び声をあげた。
「お前か、遊んでるやつは! 雑魚のクセに生意気だな!」
眼前に迫っていたビームサーベルをライフルに備え付けられた銃剣で受け止めると、力任せにそれを振り切った。サーベルに比べ出力の低いヒート剣の銃剣は競り合っていた部分がやや融解していたが、機体同士の出力では負けていたジムカスタムが後方へと流される。追撃を放たんとライフルを構えるものの、ジムカスタムはその勢いのまま機体を転進させ、他の敵機の援護射撃によってそれが阻まれてしまう。
「思い切りがいい! なおさら生意気だな!」
取り巻きを一気に削り取るが、遂に敵の後続が合流してしまい、その数は一向に減ることがない。ジムカスタムが再び突進を始めたことに気づき、ゲルググ・ヘンカーはライフルから腰部ラックの強化サーベルへと持ち変える。本体にケーブル接続されたそれは、任意でビーム出力の変更が可能なものであった。両機のビーム刃がぶつかり合い、鍔迫り合いとなる。先ほどとは違いジムカスタムが力負けをしており、徐々にビーム刃がジムカスタムへと迫る。状況の不利を認識したジムカスタムが仕切りなおそうと逆噴射をかけ距離を取ろうとするが、アールはそれを見逃さなかった。
「逃がすわけないだろ!」
ジムカスタムは、ゲルググ・ヘンカーの腰部から伸びるサーベルによって右大腿部を大きく貫かれていた。彼は、使用していなかった左側のサーベルをラックから取り出さず直接発振したのだった。ジムカスタムが大きく体勢を崩し、無防備な姿をさらす。まさに援護射撃をしようという敵機を真横からショットランサーが貫いたのを横目で見ながら、ゲルググ・ヘンカーは右のサーベルを振り抜きジムカスタムを両断した。宇宙ゴミと化したジムカスタムを尻目に残りに取り掛かろうというところで彼らの機体に通信が入る。母艦、「サングレ・アスル」からのものだ。
『全体での撃破数が目標値へ達したため作戦は終了です。回収ポイントまで撤退してください』
「了解」
『了解』
すでに落ち着きを取り戻していたアールは帰投途中ふと先ほどのジムカスタムのことを思い出す。あの挙動や連携にアールは覚えがあった。以前軌道上の基地での戦闘の際に、似たような戦術をとるエースパイロットがいたのだ。詳細に覚えているわけでもなく、似たような挙動をするNPCがいただけとも考えられるが、独特のプレッシャーが彼にあのときのパイロットを思い出させた。
「まさかな」
『何か言いました?』
思わず呟いてみるものの、ランの間の抜けた返答に考えていることが馬鹿馬鹿しく思え、今はとにかく生きて帰ってこれたことを喜ぼうと気持ちを切り替えたのだった。
読んでくださってありがとうございます。
wikiにキャラ紹介や他小説へのリンク等もありますので併せてご覧ください。
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