新学年になってそうそう佐藤にめんどくさそうな話を持ってきたウッちゃん。
──これはそんな彼女の物語。



このお話はベン・トー最終巻になかったウッちゃんの短編です。
最終巻同様甘い展開があります。

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どうも、たま紺というものです。
最近一気読みしたベン・トーの短編を書きました。

ここからは本作品を読んでいただく際の注意点です。飛ばしていただいても結構です。
まず佐藤らは高二になります。
そして佐藤の先輩への気持ちは恋慕ではありません。信頼やら親愛的な感じです。
ウィザードとの決戦時も恋慕は抱いておりません。ただ元気になってほしいと思っただけです。
つまり佐藤は誰に対しても恋慕は抱いていないという設定です。
それ故佐藤の葛藤等はありません。
こんなにだらだら書いてても邪魔ですね。

それではどうぞ。


ベン・トーif ~追加注文!デザートバイキングプライスレス~

 チャンス、それは思いもよらない場面で訪れる。それをものにできる場合もあれば、逆にピンチにもなる。今の僕はまさにそんな状態だろう。

 ことの発端は新年度が始まり幾日か経った昼飯の最中のことだった。奇跡的にまた同じクラスになった内本君は新学期早々風邪で休みなので一人で黙々とソ○ジョイ(アップル味)を食べていたときに、別クラスであるウルフヘアことウっちゃんから急に話しかけられたのだ。というか話しかけに来たのだ。

 ……まあ同じ学年だし、話しかけられたこと自体は問題じゃない。話しかけに来たということもさることながら、一番は内容が問題なのだ。

 ……そう、彼女は私と一緒に帰ろうと、そのまま少しの間家にいてほしい、と言ってきたのだ!! これはもう勝ったも同然! このまま家へ→ベッドインという最高の流れをやれという神のお告げでしかない! しかも相手は誰がどう見ても誘ってきている、確定事項といっていいだろう。……完璧だ、そのまま少子化問題へ終止符を打ってやろうじゃないかウっちゃんよ!

 僕はこれまでに無いくらい爽やかな笑みを浮かべて了承した。若干ウっちゃんが引いてたような気がするけど気のせいだよね!

 しかしこのチャンスが今はピンチになりそうだ。彼ら──高段位桜桃少年団(ハイクラスチェリーボーイズ)が眼力で僕を殺さんがごとく睨んでいたのだ。

 ──今日は長くなりそうだな。──ぶちのめしてやる。──なんで佐藤ばっかなんだよ。──狙ってたのに……。──白梅様の件があってもまだ懲りないとは。──派手な地下になりそうだぜ。

 最後のはちょっと意味わかんなかったけど狙われている、ということだけはわかった。

 だが本当のピンチはこのあとだった。約束通り帰ろうと思い校門付近で待っていると、頭に紙袋を被ったやつらが待ち構えていたのだ。

 そして追いかけてきたんだけど……うん。めっちゃ怖い。だって紙袋被った同級生に追いかけられるとか、聞いたことねぇよ。もうアレに耐えれる人はこの世にいないと思う。だって死神と変わらないもん。顔はわからないはずなのに必死の形相で追いかけているのが手に取るようにわかるとか。が、完璧なタイミングでのウっちゃんの登場&白梅レベルの冷めた視線により一瞬にして退散した時にはさすがに同情したよ。そこまでして好感度だけでも保ちたいのか……。

 そんなこんなで今はウっちゃんと一緒に彼女の家へ向かっている。だがウっちゃんはずっとうつむいているため話しかけにくく、無言の時間が続いている。

 彼女の家は先輩の隣なので過ぎ去る景色には目新しさを感じない……んだけど誰かの視線は感じるんだよね。なんでだろうか。

 

「ねえ、なんでいきなり僕と帰ろうなんて言ったの?」

 

 唐突に話しかけたため驚いたのかサッと顔をあげるが、またうつむく。

 

「……家で話すよ」

 

 とてつもなく重苦しい雰囲気での返答だったのでこちらも黙ってしまう。しかし、やっぱり脈ありなんじゃないか? 家について急に「抱いて!」なんて発言できないから今からイメトレしてるとか。ふふふ、なんだろうか……興奮してきたぜ!

 そのときは僕がリードして……やめよう。公衆の面前でアレを立たせながら女の子と帰るとか、通報される気がする。というよりそんなの見たら僕でもぶん殴ってから通報するね。

 僕が誰も得しない妄想をしていると、ウっちゃんの家に着いた。彼女が鍵でガチャガチャしている間景色を見る。晴れ渡った空は見慣れた景色であっても美しく感じた。

 

「入って」

 

 どこかそっけない彼女に言われて入る家。正式にお邪魔させていただいたのは初めてだ……一度不法侵入はしたんだけどね。いや、アレは事故なんだってマジで。本気で謝ったし。朝っぱらから先輩に呼び出されて、僕のスパコン並の頭脳を用いて考えた結果急いできた方がいいと思って……それで、えぇと、って僕は誰に言い訳してるんだ?

 彼女は居間のテーブルにカバンを置くと、座った。僕も習うようにする。

 

「……ふう。重い雰囲気だし続けるって難しいもんだね。佐藤くん」

「……え? どういうこと?」

 

 マジで意味わかんないんだけど。元気無かったのはイメトレしてたんじゃなかったの?

 

「どんなイメトレか想像つくんだけど、やっぱり通報するよ? この変態」

 

 いつものペースが戻ってきたためとりあえず安心する。

 想像つく時点で君も相当……あ! また心の中で思ったことを声に出していたようだ。いい加減治さないとな……取り返しのつかないことをしてしまいそうだ。

 

「まあ、いいけど。今日は相談があってここに呼んだの」

 

 相談? あぁ、わかった。自分の女としての欲求が抑えられなくなったから相──

 

「違う! あの筋肉ジャージのこと。最近スーパー以外でも近くにいる気がして……」

 

 ウっちゃんが見るからにしょんぼりした様子で言う。彼女の特徴的な髪の毛もへにゃん、てなってるし。

 ……でもそれは自意識過剰ってやつじゃないのかな?

 

「ううん、佐藤くんも感じたでしょ? 帰ってる途中の視線」

 

 ああ! あれか。まさかジョニーめ。ストーキングしてでもウっちゃんを……やるな。今度ストーキング技術を継がせてもらいにいこう。

 

「さ、佐藤くんまで……」

 

 彼女が非難するような目で見てきているが、気にせず会話を続ける。

 白梅の日本刀のような視線に比べると果物ナイフ程度のものだ。僕には効かんよ、そんな攻撃。

 

「それで、ウっちゃん。相談って?」

「ナンちゃんっていう相方を探しに……じゃなくて! あのジャージのマッチョを撃退するにはどうしたらいいのか……と思って」

 

 おお、ノリツッコミとは中々やるのう。やっぱりイジりがいがあるね、この子は。

 しかし最初は迷惑がってただけなのに、本気で嫌がられているじゃないか。なんかジョニーが哀れだ。

 そういえば、あの過去最大規模で部室に人が集まったときも、ジョニーに一緒に桜を見ながら帰ろうやらなんやら言われて怖くなったから来たんだったよな……。

 

「やっぱり彼氏がいるっていうのを伝えたら諦めるんじゃない?」

「うーん、やっぱりそうなるよね……だから今日だけでも、お願い」

 

 若干の上目遣いでお願いしてくるウっちゃん。なんか……かわいい。

 アレ? これ僕が彼氏役になったらそのまま押し倒すということを合理的に……デュフフフ、じゅるり。いや、さっきの彼女の口振り的に半額弁当争奪戦前で見せつけるって感じだから……その前にジョニーにおもっきりやられそうだけど……その戦いに勝ったあとは弁当もろとも美味しく……ふふふ、笑いが止まらないぜ!

 これはもう彼女の計画に完璧に乗るしかないだろう。

 

「わかった。とりあえず付き合ってますアピールすればいいんだよね?」

 

 すると彼女はパアッと顔を輝かせた。誰の目から見ても嬉しそうだ。

 

「んー、佐藤くんは何もしなくていいよ。私が好きだっていうことを見せつければいいんだから」

 

 なるほど、それでジョニーに対して僕は優越感を得る、と。うーん殺意しかこもってない攻撃をされる気が……まあ、私怨での攻撃は狼にとって効かないからいいけど。っていうかどうやってジョニーと会うつもりなんだろう。

 そのことを伝えると、「大丈夫、ここ最近ず───っと一緒だから」と返ってきた。

 本格的にストーカーじゃないか……。呆れを通り越して褒め称えれるね。

 色々質問をした結果ウっちゃんが重苦しい雰囲気を放ち続けていたのは、告白などの大事な話をしているように見せるためということがわかった。

 彼女と喋ったりボードゲームしたりして数時間。そろそろアブラ神の店の半値印証時刻(ハーフプライスラベリングタイム)が始まるため家を出る。……鞄をおいたまま。もう一回帰ってくることを前提とした行動にドキがムネムネする。

 もう春とはいえさすがに夜は寒い。スカジャンを持ってくればよかったという若干の後悔を感じながら歩いた。

 最近は少なくなったとはいえ、まだ最強越えをした僕に突っかかって来るやつはいるので、いくら付き合ってるふりでも完全な共闘はできないよ、と隣を歩く彼女に伝える。

 すると、大丈夫無理やりついていくから、となんとも不安な答えが返ってきた。

 しばらく歩くと暗い闇夜の中に淡い幻想的な灯りが見えてくる。アブラ神の店だ。

 よし、と気合いを入れ自動ドアを潜る。

 ピリピリとした空気、こちらを見つめる狼の視線。その数およそ九。その中には見知った顎髭や坊主、その他馴染みの視線ばかりではあったが二つだけ知らないものがあった。おそらく今日僕を狙ってくるだろう。もちろんジョニーもいる。

 いつも通り青果コーナーから回っていこうとすると、僕の左手をぎゅっと握る手が。隣にいるウっちゃんが手を握ってきたのだ、それもジョニーが見ている前で。指と指を絡ませる恋人繋ぎで。

 いつもならテンションマックスになるのだが、ゾクッとした嫌な雰囲気と小刻みに震えるウっちゃんを見ているとそんな気分にはなれない。原因はジョニーが嫉妬と殺意のこもった視線で「……アイツ、今度はオレのマイ・スウィート・ハニー・エンジェル・ガールの手を握るだと……? ぶち殺す……跡形もなく消してやる……!」という謎の呪詛と共に……というより殺人予告をしながら僕を見てきているのだ。それがウっちゃんにまで伝搬して、普段彼女とは縁のない感情に恐怖を感じたのだろう。

 そんな彼女を元気付けるためと安心させるために、ぎゅっと握り返す。その行為に驚いたのか顔をあげてこちらを見てきた。その瞳には溢れんばかりの雫があり──嫌われすぎでしょジョニー──これはやりすぎだと思い軽く睨み返す。

 少しむすっとした様子でウっちゃんの手を引っ張る。ぐるっと回って弁当・総菜コーナーへ。

 今宵の弁当は四つ。アブラ神らしいとんでもないボリュームを感じさせる特大のカツ丼、春野菜をふんだんに使った弁当、茶色い成分多めの懐かしい弁当、そしていつだか食べたロールキャベツ弁当があった。どれもが僕の心を揺さぶり食欲をそそる。

 僕の腹の虫が唸りをあげ、準備運動を始めているのを感じつつ、本日の夕餉を決める。

 島棚へと移動し懐かしさを感じる駄菓子を見やりつつ、ウっちゃんへと話しかけた。

 

「『ホームシックになってねぇか!? 新入生! そんなときはこの弁当だ! お袋の味を思い出せ……味わい深い豚のしょうが焼き弁当!!』にしようと思うんだけど、ウっちゃんはどうする?」

「何を言い出したかと思えば……うーん私は『蠢く虫たちを払いのけ、ここに見参! まだまだ間に合うぞ! 春野菜弁当!』にするよ」

 

 僕はお袋の味というものに弱い。何せうちの家には、三次元(リアル)にいる時間より二次元(パソコンの中)にいる時間の方が長い母親(ネネ♀・十四歳)がいるだけなので、最近は特にそういうものにめっぽう縁がない。そのためこういったものに心引かれるのは当たり前なのだ。

 この弁当にはメインが豚のしょうが焼きで、周りにはきんぴらごぼう、切り干し大根、豆の煮物っていうお袋というよりはおばあちゃんを思い出すラインナップになっている。その中でも特にメインであるしょうが焼きの存在感がヤバい。絶対に食べたかった。

 しかし、相変わらずアブラ神のネーミングセンスには耳を疑う。僕の狙うやつの弁当名なんて新入生目当ての名前だし、ウっちゃんのに至っては『蠢く虫』なんていう食欲を減退されるようなワードが入ってる。……美味しいから誰も文句は言わないんだけどね。

 ぐだぐだ喋りつつ会話に花を咲かせていると、後ろからよう、と声をかけられた。

 誰かと思い振り返るとそこには顎髭がいた。

 

「いつになくイチャイチャしてるじゃねぇか」

 

 皮肉ぶった言い方で言われて、ずっと手を繋いでいたことに気づく。だけどウっちゃんが離してくれなさそうだったので驚く。……まさかホントに僕のことを!? とか思ってたら睨まれた。その目を見やりつつ小声で理由を言った。

 

「いや、彼氏役をやってるだけだよ。……あのジョニーに諦めさせるために」

 

 顎でくいっとジョニーのいる方向を指す。向こうでぶつぶつと唱え続けるジョニーを見るとなにかを察したのかはわからないが、大変だな、と声をかけてくれたあと逃げるようにして去っていった。

 入れ違えるようにしてバタンと音がしてアブラ神が出てきた。僕は慌てて目を瞑り腹の虫との対話をする。ウっちゃんもわかってくれたのか、手を離してくれた。全身に加護を行き渡らせ、もう一度あの弁当を渇望すると、身体中から力が溢れてくる。

 きゅっきゅっと弁当を並べ直す音、バサッという半額シールを取り出した音が聞こえ、アブラ神は呼吸をするかのごとく当たり前に、そして滑らかにそれを行っていた。

 ちらっと横を見ると、同じように集中しているウっちゃんがいた。……僕は彼女を守りきれるだろうか。おそらくジョニーを含む三人は僕狙い、そして残りの狼も隙を見て狙ってくるだろう。ウっちゃんは無理やりついていくから、と言っていたので彼らの攻撃の流れ弾みたいなのが飛んでいくはずだ。

 そんな不安が僕の腹の虫の力を弱めるものの、彼女はあり得ないほど打たれ強いのだ。大丈夫だろう……多分。

 コツコツコツとアブラ神の歩く音が聞こえる。そろそろだ。 店内のBGMが不自然なほど大きく聞こえるぐらい緊張感が高まる。

 バタン、開戦の合図が店内へ響き渡る。

 瞬間僕らは飛び出した。比較的弁当から近い位置にいたのでもしかしたら先行奪取ができるかも、と思ったのだがやはりというかなんというかたどり着く前にジョニーが攻撃してきた。並走している状態に持ってきてからの左手でのボディブロー。これを急ブレーキする反動で前宙に繋げてかわす。

 チイッ、とあからさまな舌打ちがうしろから聞こえるが狼たるもの弁当を求める気持ち以外不要だ。

 すでに前線では乱戦が形成されており、出遅れているようだ。顎髭と坊主、そしてウルフヘアが乱戦の中心で戦っている。もう一度強く床を蹴って駆けるとやっと外周へたどり着くことができた。

 顎髭らの動きに気をとられこちらに全く気づいていない巨漢の狼へ、より気配を消しつつ後ろから蹴りを放った。脇腹を狙ったそれはきれいに、吸い込まれるようにして決まるが、吹き飛ばすまでは至らない。

 巨漢はようやく僕に気付き振り返るが、その動きの一瞬をつきそいつの頭に足をかけ天井へ飛んだ。空中で体勢を作り天井に着地。そこで乱戦の様子を見る。

 上から見ることで気づいたことがあった。それはほとんどタイマンで戦っているということだ。そのため一人が場を崩せばドミノ倒しのごとく崩れていくような緊張した戦いだった。……ジョニーがいないことにいささか不安を感じるが、いないならいないで気にしない。

 そして弁当前では二人の見知らぬ狼がタッグを組んでいるのがわかる。そいつらへと対抗しているのが顎髭・坊主ペア。こちらもタイマンのようになっていた。しかし、ただ一人ウルフヘアは激戦の中心であるはずなのに僕の目を見てきていた。

 その瞳から感じれることは、共闘の誘いだ。僕はその誘いに乗るため軽く首を縦に振る。

 天井をタンッと蹴り、ウルフヘアの後ろから迫ってきていた細身の狼を殴り飛ばす。殴り付けた反動で体勢を立て直しスタッと着地。そのままウルフヘアと背中合わせに構える。誰も攻撃してくることはないので探すのはもちろんジョニー。

 中々見つからないのでその場から動けずにいると、僕らがタッグを組んだことに危機感を得たちっこい方の知らない狼が突撃してきた。共闘していたもう一人の方は顎髭らと共に弁当奪取へ向かい戦いを繰り広げている。

 ちっこいのは白粉さながらの動きで僕を狙いに来た。正面からちっこいのは攻撃すると思いきや視界から、消える。だがそれも一瞬、されど一瞬。奴はしゃがむことで僕の視界から消え、スピードだけに重点を置いた右の拳を鳩尾目掛けて放ってくる。それをなんとか腕で防ぐが、威力がないために相手はすぐさま狙いを変えて足払いをかけてきた。僕はジャンプしできるだけ高く飛び、かわしつつ状況を整理する。

 敵はそのスピードとまだ続いてきそうだったからおそらく無尽蔵なスタミナを最大限に活用し、僕をあらゆる方向から攻撃してくるはずだが……攻略法は、ある。ちなみに僕のうしろにいたウルフヘアは自分の正面、つまり僕の背後から来る敵を対処してくれていた。

 ありがたいなと感じつつ目を閉じる。今一度あの弁当を思い出す。

 まだ少し寒いこの時期にぴったりのしょうが焼き、たしかあれには少し多めにタレが入っていたな……艶めかしいご飯をがっつけるだろう。ご飯も温めればより……。そして周りには鮮やかではないがそれが余計に懐かしさと食欲をそそるきんぴらごぼうに切り干し大根。ああ、喰いたい……あの弁当が、喰いたい!

 目を開けるとすぐそこに地面があり、ウルフヘアの後ろへ着地する。爆発的に増えた僕の力にちっこいのが顔を歪ませているが、それを抑えて駆けてきた。

 先程と同じようなコンボで来るが、その攻撃を()()()()()()

 この戦法は《サラマンダー》の腹の虫を暴走状態まで活性化させて、攻撃を無視するのに似ているが、敵の攻撃は威力重視ではないためあそこまでする必要はないし、そもそもそんなことはできないので腹の虫の力を出来る限り防御へ持ってきただけだ。

 それにより相手は我が術中。懐で無防備になっている敵など勝ち目はない。僕は膝蹴りを顔面にお見舞いし、のけぞったところへ渾身の掌底。面白いぐらいに吹っ飛んだ。

 精肉コーナーまで飛んでいくだろうと見ていると、そいつを飛び越えて今までどこにいたのか、ジョニーが上から殴り付けてきた。掌底を放ったことにより、固まっていると考えた末の結果だろうがいささか遅い。掌底を放った直後ならまだしも、放ったあとでなおかつ腹の虫の加護があまり効いていない私怨をまとった攻撃。それを僕は、()()()()()()()。うしろにウルフヘアがいるのに、だ。彼女は避けることなく僕の背後の攻撃に対処してくれていたのに避けてしまった。

 それが意味することは何か。ジョニーの空ぶった攻撃がウルフヘアの側頭部へ吸い込まれる。運の悪いことに彼女は攻撃される寸前にジョニーの必死の形相を見てしまっており、恐怖してしまったことにより、狼としてではなくただの一般人として攻撃を受けてしまった。ジョニーもジョニーで自分の腕を出来る限り止めようとしていたのだが、狼の本能を人の理性で止められるはずもなく、放ってしまったようだ。

 僕は乱戦から弾き出されたウっちゃんを追いかけて、ぐったりしていた彼女を抱き上げる。すでに意識はなく時折苦しそうに顔を歪ませているだけだった。

 ──僕は彼女を守れなかった。

 その事実が僕を苦しめた。まだ彼女が勝手にやられていたのなら、気にしなかっただろう。僕は……自分のせいで、彼女の恩を仇で返してしまった。

 悔しかった。けど、もうなにもできない。せめてもの償いとして、彼女の看病だけでもしようと思い行動に移す。……拒絶されるならそれで構わない、ただこのままでいることが嫌だった。

 弁当争奪戦を横目に見ながら──ウっちゃんを殴ったことにより放心状態になったジョニーが袋叩きにされていた──必要な材料をカゴに入れていく。卵、鶏のササミ、ど○兵衛、市販のご飯に三つ葉。……調味料はさすがにおいてあるだろうと思い買わなかった。

 一度レジを通し、ウっちゃんのもとへ戻って彼女を担ぎ上げ今宵のスーパーを後にした。

 人一人をおんぶしながら結構な距離を歩くのはかなりしんどい。それでも罪悪感によって僕が足を止めることはなかった。

 やがて彼女の部屋の前についたのだが鍵はウっちゃんが持っていることに気付きどうしたもんかと考える。

 カバンを持っていないようだったのでポケットに入ってるはずなんだけど……。僕のなかで天使と悪魔の壮絶な戦いが始まった。

 ──こいつは意識を失っているんだぜ? まさぐるついでにいろんな所を触っちまえ。──ダメだ! 僕のせいで体を傷つけたのに心にまでなんて……。──なに言ってんだ。鍵を探すっていう正当な理由があるんだぜ? ──そ、そうかもしれないけど……。

 うーん、悪魔が優勢だけど、今回は天使を選ばせてもらおう。

 僕はウっちゃんを下ろしポケットを漁っているとすぐに見つけることができた。羽織っていた上着の胸ポケットに入っていたらどうなっていたかわからなかったが、フツーに入ってた。

 ガチャガチャやったあと彼女の靴を謎の背徳感と共に脱がしてベッドに寝かせる。わずかだが顔の歪みが和らいだ気がした。

 そのままずっと顔を見ていたい衝動に駆られたが、それを抑え、キッチンの方へ向かう。

 電気ケトルに水を入れスイッチオン。その間ど○兵衛の蓋を開けて袋をを取っておく。何もすることがない時間が一秒、また一秒と過ぎていき、カチッというお湯のわいた音が聞こえる。

 お湯をいれて待つこと五分、蓋をちぎらず半開きの状態にして開けると湯気と共に汁のいい香りが顔全体を覆う。

 

「いただきます」

 

 小さい声で呟き割り箸を汁の中へ。少しかき混ぜたあと口へと持っていく。いつもならただのど○兵衛でも美味しく感じるが、今日のそれはただのインスタント麺だった。

 他に何も買っていなかったのでものの数分で完食し、洗う。その時に半開きにしてある蓋を剥がさないように……とはいっても水ですすげばある程度洗えるから慎重にしなくてもいいんだけどね。

 洗い終わりウっちゃんのもとへ戻る。彼女は安らかな寝顔をしていて、少しだけ安心する。そしていつもなら若干尖っている髪の毛をそっと撫でると汗ばんでいるのが感じれたので、タオル……は無いからティッシュで拭ってあげる。

 そんな動きをすること数十分そろそろ飽きて、きた……Zzzzzz

 

 ハッ! 僕が寝ちゃダメでしょ! ってこのくだり茉莉花の時もやった気がする。でもあれだね、人間って満腹、暗い場所、ふかふかのものがあり、それにやる気のなさと眠気が加わると一瞬で寝れるんだね。人の神秘だよ、うん。

 それにしてもどれくらい寝たんだろう。もう一度ウっちゃんの顔を見るために覗き込むと目を開ける寸前で……その後バッチリ目があった。

 

「きゃああああ! 痛っ!」

 

 ウっちゃんは目を開けたあとビックリしたのか素晴らしいスピードでのけぞり、ゴンッという音と共におもいっきし頭を壁にぶつけていた。

 壁にめり込んだんじゃないかと思わせるスピードにウっちゃんはゴロゴロとベッドの上をのたうち回っている。

 ねぇねぇウっちゃん、そんなに動き回っていたらどんなに頑張っても服がはだけてくるんだよ? 今はまだお腹が見えてるだけだけどね、そのうちブラやパンツ、果てはその先まで、ね。

 そんな最低な願望を実現するためにジーっと見つめようと視線を頭の中からウっちゃんへ動かすと、彼女もこっちを見ていた。

 

「佐藤くん、なに考えているの?」

 

 おっといけない、ニヤニヤしてたのがばれたようだ。

 

「それより何でここに佐藤くんが……私スーパーから記憶ないんだよね」

「そりゃ、僕がスーパーからここに運んできたからね」

「ということは……ま、まさか!」

 

 ウっちゃんは自分の服で胸を隠すようにし、怯えた目で見てくる。

 

「断固そんなことはしてない! 今回は天使が勝ったから──」

「悪魔が勝ったらしようとしてたってことじゃない! この変態!」

 

 今にも枕を投げてきそうな勢いで迫ってくるウっちゃんをなだめる。

 まあこの件は置いといて、とりあえず──

 

「ごめん!」

「な、何が?」

「僕があのとき避けなかったら君は攻撃されなかったのに……」

「いいよ、私が勝手に共闘しただけだから。……ただ、怖かったけど……でも気にしてないから」

 

 さっきまでのコメディな雰囲気から百八十度転換しシリアスな雰囲気になった。

 しかし……それならよかった。これでトラウマにでもなってたらどう責任とろうか。

 

「それよりもさウっちゃん、お腹すいてない?」

「空いたに決まってるよ。まだ晩ごはん食べてないし」

 

 よしきた、僕の好感度がうなぎ登りになるイベント発生だ!

 

「だったら僕が作るよ。……もとよりその予定だったけどね」

「佐藤くん作れるの!?」

「簡単なものだけだけどね。キッチン借りるよ」

 

 キッチンへと向かい必要なものを置いていく。さっき買ってきたものと調味料……あったあった。

 今から作るのは紫華先輩直伝の雑炊だ。さらっとしていて食べやすい、茉莉花用に作られたものだけど美味しいので関係ない。

 ど○兵衛の空き容器で温泉卵を作り、その間鶏のササミをゆでておく。ご飯を温めて、味付けと盛り付けをして完成させる。

 

「よしできた」

 

 それをウっちゃんのもとへ持っていく。彼女はダメージが大きいのか、いまだにベッドから出ていなかった。

 僕は近くにおいてあったミニテーブルを出し、その上に雑炊を置く。香りにつられてのそのそとベッドから出ようとしているが両腕を痛めたようで、なかなか体を起こせていなかった。

 僕はそんな彼女の背中へ手を入れて起こしてあげる。

 

「あ、ありがと」

 

 顔を赤らめて言う彼女は破壊力抜群であると共にフラグ建築の成功を意味していた。

 ……つまり、僕がこの後押し倒しても合法でありお咎めもなし。完璧じゃん。だがまだ足りない、まだあと一歩が必要だ。

 お皿に盛ってある雑炊を渡そうとすると、ウっちゃんはなにやらもじもじとしている。

 

「あの、さ。佐藤くん……その、食べさせてくれない?」

 

 僕はポカンとした様子で固まってしまった。

 だってですぜ? 女の子からの食べさせて、なんて世の中リア充でも言われるかわからない言葉を僕は受け取ったんだぜ? 固まったって誰も文句は言わないだろう。

 

「ち、違うからね。その……手が動かないから」

 

 む、否定されてしまったか。だが言われた事実に変わりはないのでスプーンに少しだけ掬うとふうふうしてから、ウっちゃんの口へ運ぶ。

 

「じゃあ、あーん」

「あ、あーん」

 

 なんでこれ食べる方もあーんって言っちゃうんだろうね。という疑問を抱きながら口へ運んであげる。

 口に含むととろけそうな表情をしたあと、期待するような目で見てくる。恐らくもっとと急かしてきているのだろうが、ずっと見ていたいぐらいかわいい。

 答えるようにしてスプーンで掬うと、周りから光輝くエフェクトが出てきそうなぐらいの笑みを浮かべる。

 ……僕、将来半額神でも何でもいいから人に食べさせる仕事につこうかな?

 どんどん食べてくれるからすぐになくなってしまったが、満足感に僕の心は逆に満ちていく。

 

「ごちそうさまでした。佐藤くんすごいね、スッゴく美味しかったよ!」

「お粗末さまでした。まあ、先輩の友達直伝なんだけどね。なんにしてもよかった」

 

 ふう、ここまで好感度を上げきったのなら多少変なことをしてもマイナスに至ることはないだろう。

 だがここで変なことをすると掛け算的にマイナスになることはあるからやめよう。うん。

 何気なく時間が気になり見てみるとすでに十時を回っていた。そろそろ帰らないとなに言われるかわからないな。

 

「それじゃ、僕そろそろ帰るね」

「うん、ここからであれだけど……バイバイ」

「じゃあね」

 

  それだけ言うと僕はウッちゃん家から出ようとして後ろから声をかけられる。

 

「また、ご飯つくってね」

 

 その声にうん、とだけ答え今度こそ家を出る。外は肌寒かったが無理して帰る。

 ──心にもやっとしたやけに暖かいものを抱えながら。

 

 

 

 寮に帰ったあと案の定神田くんたちに地下への扉を開かれたのは言うまでもなかった……。

 

 

 

 

 




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