クラスには複数の仲良しグループが存在する。俺も例に漏れず、グループに所属……というか、筆頭みたいな感じに祭り上げられている。
「なあなあ、昨日のテレビ見た?あれマジ興奮したわ!やっぱあの瞬間最高じゃね?」
この現代DQNっぽい喋り方をしてるのが戸部翔。見た目はチャラチャラしてて不真面目そうだが、意外と勤勉な奴だ。特に国語の成績が凄まじく良く、テストでは学年三位以下になった事が無いという。何でお前みたいな喋り方の奴が国語の成績良いんだ、とツッコミたくなるが、本人曰く、
『よく俺らが使う”ウザい”とか、最近辞書に登録されたっしょ?でもさ、この事ってあんまり受け入れられてる感じ無いじゃん?それってさ、こういう言葉使う奴が総じて頭悪いって思われてるからだと思うんだよね~。だからさ、国語とか日本語とかメッチャ勉強してさ、ちゃんとした言葉使える奴が”ウザい”とか使ってれば、受け入れやすくなるんじゃないかな~、とか思ったんだよね』
との事だ。言葉は年々進化していく。これまでだって同じだった筈なのに、俺らの時だけ受け入れられないなんておかしいじゃないか。というのが戸部の考えらしい。金髪の俺が言えた義理じゃないが、見た目とか他にも原因があるだろ…。
とはいえ、戸部の言葉に掛ける情熱は本物であるのは確かだ。初めて喋った時も、俺が「そのチャラい喋り方が気に食わないから止めてくれないかな?」と言ったらキレた。そのキレ方がもう本気と言わざるを得ない。人目があるから殴り合いにこそ発展しなかったが、休み時間に丁寧な文章で書かれた果たし状なる物を渡され、放課後に河原でタイマンという漫画やドラマの様な展開になった。一般的な不良なら、仲間を呼んで袋叩きというのが鉄板なので、こいつはどうやら不良ではないというのがその時分かった。
いやあ、戸部強かったわ。戸部は見た目はチャラいし、喧嘩慣れしてるような雰囲気を出しているから強いだろうとは覚悟してたけど、想像以上だったわ。なんでも、自校の生徒が他校の生徒にからまれてたら進んで助けに行ってたらしく、それで殴り合いになることも多かったからここまで強いようだ。俺も合気道やジークンドーかじってたり、北斗神拳や木原神拳の真似事してたからどうにか勝てたけど、油断してたらやられてたよ。
そんでお互い全力を出し合った後、戸部のこだわりとか色々聞いて、俺も言い過ぎたと謝って、夕日をバックに握手を交わして友達になった。嘘みたいな本当の話だ。
「ああ、それ俺も見たよ!あの瞬間は無くてはならないって感じだよな!でも、今回は入浴シーンが無かったのが俺的に残念だわ」
「お前はそればっかだな。あの瞬間も確かに良かったけど、俺はヤバい局面で風車が飛んできたとこが一番良かったな」
この二人は大岡と阿部……あっ、間違えた大和だ。二人とも戸部の友達で、戸部経由で俺とも友達になった。戸部や俺よりも体格のいい大和は、戸部が他校の生徒と殴り合いになった時によく加勢していた。しかも暴れぶりが尋常でなく、タックル一発で五人いっぺんに吹っ飛ばした時は本気でビビった。普段は冷静でマイペース、滅多に怒ったり声を荒げたりしない落ち着いた奴だが、ひとたび箍が外れると猛牛のごとく暴れまわる。所属しているラグビー部でもその暴れぶりは健在らしく、他校から”総武のバッファロー”と呼ばれて恐れられているらしい。
大岡は自他ともに認めるスケベである。とは言ってもハードではなくソフトなスケベだ。せいぜい修学旅行で女子風呂覗くとか、それくらいのスケベだ。一回姫菜にスカートめくりしようとしたが、俺にボコボコにされたからもう二度としない程度のスケベだ。でもそんなスケベでも、俺たちに快くエロ本を貸してくれる良い奴なのだ。ありがとう大岡。一生友達でいような。
「大和は弥七好きだよね~。あーしは飛猿がイケてると思うんだけど」
この派手な金髪縦ロールは三浦優美子。このクラスでは俺と対をなす上位カースト女子陣営として認識されている。女王様気質な性格とキツイ口調から恐い印象を受けるが、意外と面倒見が良い一面もある。
実は俺は一度彼女に告白されている。と、いっても彼女は本気ではなかったようだけどな。ある日、下駄箱にラブレターと思わしき物が入っていて、それに指定されていた通りの場所へ行くと、三浦優美子が複数の女友達を侍らせて待っていた。そして一言、
『あんた、顔も良いし性格も良さそうだからあーしが付き合ってあげる。光栄に思いなし!』
と言った。これは告白なのだろうか?何故か優美子が決まったと言わんばかりのドヤ顔を披露していて、周りがキャーキャー騒ぎ立てる。それに対して俺は、
『そう。俺は君のそのギャルっぽい外面嫌いだし、その自己中な性格も嫌いだから断るよ』
と返した。騒いでいた女友達が静まりかえり、優美子のドヤ顔が驚愕の表情に変わる。しばらく固まった後に優美子がいち早く復活し、怒りか羞恥か顔を真っ赤にして喚き出した。
『は、はあ?意味分かんねーし!あーしが付き合うって言ってんだから、あんたは大人しく付き合えばいーんだし!』
拒否されるとは思っていなかったのか、少し動揺しながらも怒鳴りながら詰め寄ってくる。この時の俺は、優美子の身勝手さと断ったのにそれを認めないしつこさに苛立ち、真顔で青筋を浮かべて優美子を見下した目で睨みつけていた。それに気づいて怯えた優美子が涙目で後ずさった所に、
『…なら、告白ぐらい一人でできるようになれよ』
そう言って俺は立ち去った。
……それで終わりだと思っていたが、次の日に優美子が俺の所に来て、
『……昨日は悪かったし。でも、あーし諦める気無いから。いつかちゃんとあんたに告って、OKって返事貰うから』
謝ったと同時に宣戦布告に近い事を言われた。いや、ごめん…君は俺のタイプじゃないんだけど…。
俺としてはOKを出すつもりは無いのだが、本人が諦めないならどうしようもない。とりあえずは友達から始めようという事で一緒にいる。
「いや~、昨日は濃厚な助☓格が見れて良かったよ!」
姫菜は俺と会うまでは、腐女子である事をひた隠しでいたらしい。俺が彼女が腐女子である事を知ったのは、席が隣同士だった時に姫菜の独り言を聞いたからである。
『幸×正、正×幸……ぐふ、ぐふふふふふふ…』
『……あんまりそういう事を人前で言うのは良くないんじゃないかな?』
気味の悪い笑い声を上げながら、男の名前を呟いていた彼女に苦言を呈すると、彼女はみるみるうちに真っ青になっていった。放課後に彼女から、何でもするから皆にはばらさないでと言われたが、そもそも何故俺がばらすという結論に至ったのかが分からない。別に人の趣味嗜好に口出しする気は無いし、言いふらす気も無いと伝えると、彼女は本当に安心した表情になった。
どうやら過去に自分の趣味嗜好を学校中に広められ、相当辛い目にあったようだ。確かに彼女の思考は一般とはかけ離れているが、だからといって排除する程の事でもあるまいに。親切心というか、余計なお世話というか、安心している彼女に、
『俺は君のBL趣味は理解できないけど、だからって否定はしないよ。恥ずかしがらずにおおっぴらにしろとは言わない。隠しているのが辛くなったら、俺の前でなら思う存分はっちゃけていいよ』
と言った。それからだ、姫菜が俺に懐いたのは。家は近いわけではないが、学校に行く道がほぼ重なっているので登下校が一緒になり、毎日姫菜の妄想を受け止めている。正直きつい。でもやめられないじゃん。喋ってる時のこいつの顔、本当に輝いてるんだからさ…。
「えっ、みんな何の話してるの!?分からないの私だけ!?」
話についていけてないこの子は由比ヶ浜結衣。まあ、この反応からでも分かる通りアホの子だ。結構な頻度で皆の話題が理解できていない。ちなみに今こそ髪の色はピンクだが、元々は茶髪だった。俺は茶髪の方が好きだったんだけどな。ピンクなんていかにもギャルっぽくて嫌いだ。結衣はいい子だから好きだけど。あ、もちろん友達としてだけどな。優美子とは中学からの友達であるらしく、優美子経由で俺達とも友達になった。だが、俺達の顔色を窺って自分の言いたい事を抑えている所を見ると、あと一歩踏み込めていないようだな。まあ、しょうがないか。こればっかりは時間に任せるしかない。その内慣れてくるだろう。
「え~?結衣もしかして見てないわけ?面白いから見た方が良いって、マジで!」
「そうだな。これを見ずに日本人は語れないぞ」
「えっ?うん…日本人?」
「勧善懲悪!この世に悪は栄えない!最近こういうの少ないからねぇ~」
「ほんとほんと。俺、なんでこれがハリウッド映画にならないのか分かんねーよ」
「は、はりうっど?」
「な?隼人君もそう思うべ?」
「ああ、そうだな。特に印籠出して悪者全員総土下座させるのがたまんねえわ」
「……え?」
……ま、結局何が言いたいかと言うと、
「結衣も見た方が良いよ?”水戸黄門・リターンズ”」
「水戸黄門っ!?」
水戸黄門って面白いよね。
かなり設定ぶっこみました。賛否両論あるかと思いますが…。