駆逐艦と軽空母の一瞬の触れ合い

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夕日に染まる海

 夕日が空を赤く染めていた。空だけでなく海もまた茜色に輝いている。

 時の移り変わりを映した水面に桟橋が伸びている。桟橋に吹く海風はどこか肌寒いものになりつつあった。

 そこで1人の艦娘が彼方の水平線へと視線を向けていた。その姿は夕闇の迫る海辺に自然と溶け込み風景の一つであるかのようだった。

 夕雲型駆逐艦の早霜である。

 彼女は、時折、この場所にやってきては海を眺めていた。

「やはり、ここでしたか」

 突然、後ろから声をかけられた早霜は少し驚いたように振り返った。

 声の主は夕日に照らされ、すぐに判別がついた。

「……鳳翔さんでしたか」

 海軍の栄光から衰退を見届け、母国の復興の礎となった空母鳳翔。彼女もまた物言わぬ鋼鉄の艦だった。

 しかし、艦娘となり共に平穏な海を求めて奮戦している。

「提督がさがしていらっしゃいます。 相談したいことがあるそうですよ」

 こんな時間に鳳翔が訪ねてくるのだから、秘書艦としての仕事であろうことは察することが出来た。

「そうですか、分かりました。 すぐに行きます」

 風に乱された髪を軽く整え、執務室を目指し歩みを進めようとした。

 そこで、ある疑問が湧いて出た。

「それにしても、『やはり』、というのはどういうことですか?」

 正直なところ解きほぐしたいものではなかったが、なんとなくに言葉を交わそうと思った。

「この時間になると、ここでよく海を眺めているみたいだったので」

 そう話す鳳翔の表情はいつにも増して柔らかなものに感じられた。それがこの景色が生み出したのかは分からない。

 心の奥底を見られているような気がした。

「特に意味はないのですが、足が向いてしまいます。いつの時代も変わらない景色なのに」

 意味がないとは言ったが、そんなことはなかった。突如として巻き上がる心のざわつきを鎮められないかと来ることがあるからだ。

 今の風景だけでなく、色々な表情の海を見てきた。

 仲間との別れ。邂逅。

 様々な想いが水面に複雑に結びついている。

 そのせいか、ざわつきが治ることもないまま無為に時間が過ぎるばかりだった。

「変わらないからこそ、大切なものなのかもしれませんよ。 この風も同じ」

 鳳翔の表情は変わらない。優し気なままだ。

 ただの海風であっても慈しんでいるかのように思えた。

「……」

 早霜は何か答えようとも思ったが、適当な言葉を見つけられなかった。

「でも、今はあの時ではありません。全てが違います」

 やはり、そうだったようだ。

 早霜がこれまで口に出すことなくいた部分が見えているようだ。

 しかし、繊細な場所に触れられているはずだが不思議と嫌な感情が湧き上がることはなかった。

「……そうですね」

 意図せず自然と微笑んでいた。

「さぁ、戻りましょうか」

 早霜は再び歩み始めた。

 過去から変わらぬもののため、新しい現在のため。

 

(了)


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