テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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初めて作中に挿絵が出てきます。苦手な方は注意。
(まぁただの書き足した雑な地図なんですけど)


砕氷船オーロラ

一方その頃ラオはと言うと──────

 

「懐かしいな、少し変わってる部分もあるけど、大部分は変わってないや…」

 

彼は夜のグランシェスクの街を1人歩いていた。迷う事は無い。自分には地の利がある。何故なら─────

 

(この街で初めてサイラスと出会ったんだっけ………。あの頃のシャーリン、いやアジェス全体が貧乏で、栄えてなくて…。産業発展著しかった当時のスヴィエートに出稼ぎに行くのは、一種のボク達若者の流行りみたいなものだった……)

 

ラオは当時働いていた工場へと足を運んだ。勿論この話を知る人は現時点で自分しかいないだろう。まだ仲間にさえ話していない。

 

「あの時はストーブ工場だったのに、今じゃ兵器工場になってる……。しかもこんなにでっかくなってるし……。これも時代かネ……」

 

ラオはその大きな工場の門にある看板を読んだ。しかしそれを読んだ瞬間驚いた。責任者の名前がなんと

 

「ス、スベトラーナ!?」

 

ラオはピクピクとと口角が上がりその場から一歩引いた。

 

「マ、マジで……。っていうかこんな大きな工場任されてたんだ……、案外凄い人なのかもネ……」

 

ラオは工場の周りも見ておこうとその場から立ち去ろうとした。しかし門の前でこんな夜だというのに作業員総出で何か作業をする声が漏れて聞こえる。

 

(……ん?)

 

ラオは耳をすませた。

 

「ったく、工場長も人使いが荒いな!あのオカマ野郎!」

 

「仕方ないだろ、あの人のお陰で俺らは食っていけてるんだし、文句言えねーよ。オカマだけど」

 

「優しくていい人なんだけど、1度決めた事となると頑固だよなぁ~、オカマだけど」

 

「なー。半日であの最新型砕氷船をアズーラ海岸まで運搬とか鬼畜だぜ。オカマのくせに」

 

門の鉄格子の隙間から覗いてみると、男達が寝間着から作業服に着替えながら歩き、どんどんと工場の中へと入っている。作業員用の寄宿舎方面からからゾロゾロ、次々と動員されていくではないか。

 

(アズーラ海岸って……確かヴァストパ大陸最西端の所だよネ。何でアズーラ港の方じゃないの?)

 

アズーラ港とはグランシェスク最寄りの港である。そこから首都へと出発する船や貿易島から送られた品物などが到着する。もちろん兵器もそこに運び込まれて運搬されるはずだ。しかし港から伸びている海岸に運ぶとは。

 

「まぁいいや……、ここにいたら邪魔になるかもだし…とりあえず帰ろ…」

 

不思議に思ったラオだが、この疑問は翌日に解決する事になったのである。

 

 

 

「あ゛っーよく寝た……!」

 

ガットは大あくびをした後、腕を上へと伸ばし、体を曲げたりして関節をポキポキと鳴らした。

 

昨日、1番早く寝床についたのはガットだ。ルーシェが治癒術を皆に施している以前に彼は既に夢の中にいた。

 

「体の疲れはとれました?」

 

「あぁ、たっぷり休養とったからな」

 

ノインの問いにガットはニッと笑って答える。ガットはルーシェが戦闘不能であった時に最大限の力を酷使して治癒にあたっていた。その疲労感は尋常ではなく牢屋から出た後でも倦怠感は続いていた。加えてあのスベトラーナの災難である。心身ともにげっそりと疲れていた彼は、宿につくなり泥のように眠ったのだった。

 

「流石に疲労感は治癒術で治せねぇからな。もう夢も見ずぐっすり寝させてもらったぜ」

 

「イビキチョーうるさかったからネ…」

 

ラオの小声はガットには聞こえず、その代わりあの男が無理やり女声を出しているが男だと分かってしまう声が宿屋のエントランス方面から聞こえた。

 

「みーんなー!!!待ったー?ごっめーん♪」

 

「あっ!スベトラーナさん!おはようございます!」

 

宿屋の2階、手すり付近にいる男性陣は1階のルーシェの明るい声とは正反対にこれでもかと顔をしかめ、低い声で呟く。

 

「うっわ………」

 

「ゲッ、来ましたよ……」

 

「めっちゃ手振ってるヨ……」

 

ガット、ノイン、ラオは顔を見合わせて溜め息をついた。

 

「この階段を降りたくねぇ……」

 

「分かりますよガットさんその気持ち」

 

「ハハ……でも多分、やる事はやってくれてたんだと思うヨ。昨日の言動と言い、あのハイテンションと言い」

 

全身から褒めて褒めて~、というオーラを出している。体をくねらせ既に1階にいる女性陣、特にクラリスと会話を弾ませている。

 

「気持ちワリーな、揺れんなよ」

 

「内股がまた更にウザいですね」

 

汚物を見るかのような目で2階から見下すガットとノイン。散々な言いようである。

 

「ま、まぁ気持ちはボクも大いに分かるけどサ。とりあえず降りようヨ」

 

「てめぇ昨日1人で逃げてたからんな悠長な事言ってられんだよ!!」

 

「そうですよ!!あの体を触られる感覚はもう2度と体験したくないですね……!貴方は体験してないからそんな事が言えるんですよ!!」

 

「な、なんかごめんヨ……」

 

2人に詰め寄られたラオは思わず苦笑いするしかなかった。

 

 

 

ともあれ無事に1階に降り、全員が揃った所でスベトラーナはエントランスの机を借り、地図を広げた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

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「いい?とりあえずこれからアズーラ海岸に一緒に行ってもらうわ。そこに昨日のうちに徹夜で運び込んだ最新型砕氷船、オーロラがあるの」

 

「砕氷船オーロラ?」

 

ルーシェが聞き返した。

 

「そう、チョット原始的なやり方だけどこれしか行く方法がないわ。説明するわね。

 

スヴィエートは2つの大陸に別れてるの。

ここグランシェスクとシューヘルゼ村があるのがヴァストパ大陸。

 

オーフェングライス首都、オーフェンジーク港、グラキエス山、レイリッツ湖があるのが、ヤーゼラ大陸よ。

 

この2つは陸続きじゃなくて別れてるのね。だから船や飛行モノじゃないと行けない。空は不可能ね。何でかって言うと、おそらく空の方は光軍が制空権を握っているから。リュート・シチートの時みたいに万が一空に光術の弾幕なんて張られてたりしたら一瞬であの世行きよ。

 

だから船なの。勿論オーフェンジーク港に直接行くわけじゃない。何故港からじゃないかって言うとね、アズーラ港にリザーガがいないとは限らないわ。だから海岸からなの。勿論出航する時は私達の社員が霧の光術をアズーラ港付近に展開させて援護するわ。そして砕氷船で大陸ギリギリのラインをついて海の氷を砕きつつ、無理やりヤーゼラ大陸のオーフェンジーク港の警備スレスレの場所に停泊させるわ。降りる場所は、整備もされていない極寒の大地………"ハドナ雪原"よ」

 

「えぇっ!?ハドナ雪原!?」

 

ルーシェは驚いて声をあげた。

 

「どうしたのだルーシェ」

 

「あ……そっか、スヴィエート出身じゃないと知らないよね……。ハドナ雪原って言うのは別名"極寒の要塞"って言われてる首都東に広大に広がる雪原のことだよ。

 

ほら地図見て、首都の東側って何も無いでしょ?ここにはとにかく何もなくて、寒いし水資源もないし平野だから凍結風がビュウビュウ吹き荒れる。人が住める場所じゃないの。どうしてオーフェングライスが厳重な守で有名な要塞の首都って言われてるのかって言うと。

 

この、東はハドナ雪原に、西はグラキエス山に、北はレイリッツ湖、南はオーフェンジーク港に守られてるからなの。オーフェンジークは一般的にはただの港に見えるけど、実は軍港で、漁民や商人の他にも軍人さんが隠れて沢山いるんだよ」

 

「へぇ~、確かに地図を見る限りそうだな。首都はほぼ自然の要塞に囲まれているという訳か」

 

フィルが地図を見てうんうんと頷いた。

 

「いい説明ねルーシェちゃん。完璧よ。という訳。さ、分かったかしらアンタ達!?」

 

スベトラーナは地図をしまい、全員に向かって声を張り上げた。

 

「イヤイヤイヤイヤ、ハドナ雪原の説明聞きました?極寒の要塞って!?」

 

ノインが勘弁してくれ、と体を震わせた。

 

「こんな方法しかないのー!?アタシ寒いのい~や~!!」

 

カヤはただでさえアジェスの暑い地方の出身である。普段の彼女の軽装からも、暑さには強いが寒さにはめっぽう弱い。

 

「グダグダ言ってられないぞカヤ姉ノイ兄!もうこれしか方法がないんだ!むしろこれだけ最善尽くしてくれてるスベトラーナさんに感謝すべきだ」

 

クラリスはアルスを助けるため全力を尽くす所存だ。決意は固く、もう既に覚悟も出来ている。

 

「極寒の地、ハドナ雪原……。そこを乗り越えれば首都に着くんだネ……?」

 

「ええ、無事にたどり着ければ……だけど?」

 

スベトラーナはニヤリと笑った。

 

 

 

スベトラーナと共にグランシェスクを後にし、アズーラ海岸へと到着した一行。海岸という名前の通り辺りには砂浜が広がり、波がザザン……ザザン……と打ち寄せられている。男性陣は潮の匂いに混じった、何か昨日のトラウマを呼び寄せる匂いがあることに気づいた。

 

「オイ……なんか、変な匂いしねーか……」

 

「は、はい…ガットさんも気づきました?」

 

海岸付近に綺麗な薄青色に咲く花があった。

 

「わぁっ、綺麗!これってアズーラハマナスじゃない!いい香りの香水で有名な!これ採って香水にすると高く売れんじゃないのー!?」

 

カヤは目ざとくそれに気づきしゃがんで花の香りを嗅いだ。

 

「………んん~いい匂い!!…………あれちょっと待ってこの匂い、なんか、スベトラーナさんの匂いに似てるんだけど…」

 

「あらカヤちゃん、当たり前じゃない。アズーラハマナスの花の香水は私の愛用品よ♡」

 

スベトラーナは青色の香水を取り出して見せた。

 

「あっ、だからか~。なるほどねー!キャー綺麗でお洒落な香水!ちょっと使ってみてもいい!?」

 

「いいわよ~♡」

 

カヤはそれを手首にシュッと付けた。ルーシェはそれを興味津々に見つめ、匂いを嗅いだ。

 

「わぁー、いい匂いですね~!」

 

「デショデショ~?」

 

男性陣はその香水の匂いが生理的にダメになったのは言うまでもない。

 

 

 

「さー!タラップを下ろしてちょうだい!」

 

スベトラーナが砕氷船の上の船員に大声で呼びかけると、タラップが海岸へと伸びてきた。かなりの高性能だ。流石最新型と言ったところか。

 

「いい?これから貴方達をこの砕氷船オーロラでハドナ雪原まで送り届けるわ。このご時世だワ。アタシは軍からの兵器生産の命令が連続で来てて工場を留守にできない、戦えないし、そんな力もない。ただ出来るのはこれしかない。だから無力なアタシの代わりに頑張って来て頂戴!必ずアルエンス陛下を救うのよ!!」

 

「ああ!!勿論だ!」

 

クラリスの大きな返事と共に皆も頷いた。

 

「よし皆!アルスを助けに行くぞ!!」

 

ガットの掛け声と共に、一行は砕氷船オーロラへ乗船するのだった。




ちょっとでも分かりやく……と、地図を追加。汚くてすみません。説明不足だったアジェスの腐海部分がどのへんなのかとかも一応付け足しておきました

あれ……?アルスがヒロインかな……?←

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