テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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ハドナ雪原

砕氷船オーロラは海面の氷を砕きながらヴァストパ大陸とヤーゼラ大陸の間の海峡、アズーラ海峡を進んで行く。甲板は極寒の寒さだ。とてもじゃないが居られない。しかし彼、ラオだけは1人甲板に立っていた。

 

「あの時と同じ景色……違うのは時代だけ…」

 

ラオはアズーラ海峡を見つめ、ハァッと息を吐いた。風に流されそれは消えていく。ラオはいつもの糸目ではなくなった。目を開き、憂いに満ちた表情で自らの両手を見つめた。

 

「サイラス……、ボクは、君を助けられなかった。そして君の孫も……、今は囚われの身だ。情けないヨ……およそ100年たってもボクは何一つ変わらない。何でボクがこうして生きているのかも分からない」

 

ラオは首をかいた。斬られて1度真っ二つになった首。

 

「あの時、君はボクに何をしたの。君の子孫、血が繋がっていたフレーリットやアルスとボクの間で同様の光の反応があった。あれは一体、何だったノ……」

 

その呟きは海風にかき消され空へと消えていった。

 

 

 

翌日、砕氷船オーロラは無事当初の到着地点へと辿り着いた。まだタラップが降ろされてはいないが、興味本位でガットは船の中から外へと出る扉を開いた。すると同時に猛吹雪が皆を襲った。

 

「うっぉ……!?」

 

「な、なんという寒さだ…!?風に切られてるようだ!」

 

ガットとクラリスは思わず怯んだ。

 

「オイ早く閉めろ!!小生を殺す気か!」

 

「イヤァァァアアアア寒い!!アンタ頭おかしいんじゃないの!?何開けてんのよ!?」

 

フィルとカヤが怒ってガットに抗議した。

 

「あっ!皆さん!待ってください!」

 

「えっ、何だ?」

 

クラリスが慌てて船の扉を閉め、中へと避難する。船員の1人が赤いマントを持ってきた。

 

「スベトラーナさんから差し入れです。着いたらこれを渡すように言われています。我が社最新のマントです。火のエヴィ結晶がきめ細かく織り込まれています。これが無いと1時間と持たずにハドナ雪原で凍死してしまいますよ!」

 

「へぇー色んなもの作ってんだなぁーあのオカマ野郎」

 

ガットはそれを羽織る。

 

「あったけぇー!!」

 

「凄い!まるでストーブの前にいるみたい!?」

 

ルーシェは感激した。こんな物がスヴィエートにあったとは。

 

「人数分ありますのでしっかりとコレを羽織っていってください。これがあっても、極寒の雪原です。厳しい旅になりますよ」

 

船員はタラップのスイッチを押した。すると外でガシャン、と音がしタラップが降りたというのが分かる。

 

「……………では、お気を付けて」

 

 

 

ハドナ雪原へ降り立つとごうごうと音を立て猛吹雪が彼らを襲った。まさに風に切られている感覚だ。寒いというよりもはや痛い。

 

「フレーリットさんが湖で出した吹雪より酷いですねこれ……寒すぎ……」

 

「まさに自然の驚異ってカンジね……」

 

ノインとカヤがガタガタと震えながら愚痴った。まだマントがある分マシである。

 

「ぶえーっくしょいっ!!」

 

「うわっフィル姉!?鼻水凍ったぞ!」

 

「ギャー!小生の鼻に氷柱が!」

 

フィルがくしゃみをした瞬間彼女の鼻に特大の氷柱が発生した。

 

ルーシェはマントのフードを押さえつつコンパスを取り出し方角を見つめた。

 

「ここから丁度北西の方向がオーフェングライスだよ……」

 

「よし……、くれぐれも迷わねぇようにしねぇとな……」

 

ガットは気を引き締めた。

 

「うん……、それと絶対にはぐれないようにしないと。ここ、一度はぐれたら終わりだと思ってね。周りは辺り一面真っ白だもの」

 

「流石、スヴィエート出身者の言うことは違うネ……」

 

いつもふわふわしたルーシェが神妙な面持ちで警告するという事は、余程の事なのだろう。それ程危険を伴う場所だ。

 

「アハハ、まぁ全部人から聞いた話なんだけどね……」

 

ただひたすらに白い雪原を迷わないように歩いて行った。ここは極寒の要塞。生命体自体少ないのだが、環境に適応して強くなった魔物は恐ろしく強い。加えて猛吹雪の中であり体力消耗が激しい。

 

特に狼の魔物、アイスウルフは極めて危険だった。群れで襲ってきて、しかも一体一体一筋縄では行かない。

 

「くっそ、強いな……。大丈夫か!ヒール!」

 

ガットは噛み付いてきたアイスウルフを斬り、カヤに治癒術を施した。

 

「ありがとガット!有芹ッ!」

 

「焔大蛇!!」

 

カヤの赤いレーザービームに、お次は大きな火の大蛇が口寄せされ体当たりをかます。

 

「ギャゥッ!?」

 

魔物達は案の定火の攻撃に弱い。カヤはナイフを振り払うと次の魔物へと走った。皆は優先的に火属性の技を出す。

 

「ノワードボム!おらっ!くれてやるっ!」

 

フィルは一体に赤い糸を巻き付け、他のアイスウルフへと投げつける。次の瞬間爆発が起こって周りを巻き込んでいった。

 

「ノワールインフェルノ!」

 

アイスウルフの群れの中心に黒い火柱が上がった。ノインの術だ。アイスウルフ達のうめき声が響いた。

 

「わっ、皆……凄いな……!」

 

後衛のルーシェとノインの近くにいたクラリスが感嘆の声を洩らした。彼女にこれ程の戦闘は初体験だ。

 

アイスウルフの数は減ったものの、サイズの大きいウルフが現れた。恐らくコイツが群れの親玉だろう。

 

「クラリス、君は下がって!」

 

「クラリスちゃん、危ないから私の後に!」

 

「えっ、あっ、ああ」

 

後衛2人に庇われたクラリスは、一度は下がった、が─────

 

「いや、違う。私だって戦う!皆に守られてた、昔とは違う!子供扱い禁止!」

 

「ックラリス!?」

 

クラリスはノインの制止の声を振り切り猛吹雪の中走り出した。

 

「ッオイ!?何で前出てきた!?」

 

「ガト兄!私は中衛だ!前線でも戦えるんだよ!下がって皆!!」

 

クラリスはリコーダーを出すとウインクした。そして魔物の中心に突っ込んでいく。当然そこには一番大きいアイスウルフがいる。

 

「ッ、まさか前のやつじゃ……!」

 

ガットは耳を塞ごうとした。

 

「前のやつは人間にも効くよう3倍にやっただけだ!とにかく、いくぞ! フィステルッ!」

 

思いっきり息を吸い、彼女はリコーダーを吹いた。ピィー!という超音波がアイスウルフ達の脳内に響き渡った。

 

「ガゥッ!?」

 

アイスウルフ達はたちまちフラフラと眩暈を起こした。

 

「よしっ!隙が出来た!今のうちだ!」

 

クラリスは音階を奏でて自分の周りに赤い炎の球体を作り出した。

 

「いっくぞぉおおお!!!」

 

そのままそれを保ちつつ彼女は一番大きなアイスウルフへと突っ込んでいく。

 

「チョッ!?何してッ……!」

 

ラオが言いかける瞬間、

 

「インポニレント!!!」

 

ドォオオォオオオォオン!!!

 

なんとアイスウルフに赤い球体をまとったクラリスがぶち当たった瞬間大きな火柱を上げて爆発を起こした。

 

「クッ、クラリス!?」

 

「す、すげー!!さすが小生の妹!」

 

「ちょっと!?燃えてる燃えてる!?あの子は大丈夫なワケ!?」

 

「炎上してるヨ!」

 

前衛のガット、フィル、カヤ、ラオはびっくりして思わず仰け反った。真っ白い空間に赤が派手に飛び散ったのだ。蒸気が漂い、彼女の姿が見えない。

 

「クラリスー!!!」

 

「クラリス返事してっ!あの子ッ、まさか捨て身の技じゃないでしょうね!?」

 

ガットとカヤが心配して駆け寄って行った。しかしクラリスはゆらりと立ち上がり、辺りを見回して叫んだ。

 

「ワァッ!?すごい!私もやれば出来るじゃないか!!今の我ながら凄かったな!100点満点だ!アッハハハハハ!」

 

魔物達の死体の中心で高々と笑っていた。捨て身の技に見えるが、どうやら炎の球体がバリアーの役割も果たしているらしい。敵に当たれば、の話だが。

 

「や、やるじゃねぇかお前」

 

「凄っ!?いやいやクラリスアンタ!怪我はない!?」

 

「大丈夫だよ〜!カヤ姉!私は凄く元気さ!」

 

カヤはそんなクラリスを見て呆れた。

 

「ハァッ、アンタ。性格変わったわねぇ〜」

 

「いや、逆に変わってないんじゃないノ?昔っから行動的でアグレッシブだったヨこの子。ボクの首で遊んだりさ」

 

「そういやそうだったわね……」

 

「アハハハハハ!!さっきのめっちゃ楽しかったなぁ!!もっかいやりたい!」

 

「アホな事言ってんな!魔物は出てこないに越したことはないんだよ!」

 

「そうだよなガト兄!でも!ホント面白かったんだ!アハハハハハハハ!」

 

クラリスの笑い声がハドナ雪原に響いたのだった。

 

 

 

厳しいハドナ雪原をだいぶ進んで行くと、吹雪が止み、目の前に森が見えてきた。

 

「あっ!ここまで来るともうすぐ首都だよ!」

 

ルーシェが森に指を指して言った。

 

「首都の東って森エリアがあるの!だから皆!もうすぐだよ!頑張ろう!?」

 

「おう!あと少しだぜ皆!」

 

ルーシェとガットに励まされ皆寒さに凍えながら無言でひたすら歩いた。森の中に入っると風が木々で和らげられるせいか、さっきよりも断然暖かいと感じる。

 

ルーシェとガットを先頭に一行は進むが、ルーシェがピタリと止まった。

 

「あ、あれ?」

 

「どうしたのガット?」

 

「コンパスが………狂っちまった…?」

 

「うそっ!?」

 

ルーシェはガットの手のひらの上のコンパスを見た。針はクルクルと回りだし、止まらない。

 

「クソッ!?まさか寒さでやられちまったのか!?このポンコツ!」

 

ガットはコンパスを振ってみたが依然として変わらない。

 

「待って、何かここら辺って……少し違った空気を感じない?」

 

「あ?」

 

ルーシェはガットの肩に手を置き静かに喋った。

 

「何か、神秘的なエヴィを感じるような……?エヴィが他の所より若干濃い…?」

 

「そうか?俺には全く…」

 

ガットは不思議そうに辺りを見回した。

 

「っちょっとかして?」

 

ルーシェはガットからコンパスを拝借するとゆっくり深呼吸し、手のひらの上で水平を保った。

 

「ねぇねぇ?距離的にはもうすぐなんでしょ?とりあえずさ、さっきまで北西の方向指してたんだから進んでみな……」

 

「ごめんカヤ。少しだけ待ってくれる?」

 

「え?」

 

愚痴を言うカヤをルーシェは真剣な表情で静止させた。カヤは思わずぽかんとする。

 

「あ……、う、動いた……!?」

 

コンパスの針はゆっくりと回転をやめ、やがて北の方角を指した。

 

「……こっち……?」

 

ルーシェが導かれるようにその方向へフラフラと進んでいった。まるでこの先に何かが絶対あると確信しているようだ。

 

「ちょ、ちょっと……!」

 

カヤは、いいのかなぁと思いつつ着いていくしかなかった。後ろの仲間達を振り返っても皆同じ反応のようだ。

 

やがて、目の前に不思議な結界のようなオーラが張ってある箇所にたどり着いた。ルーシェはそれを難なく通り抜けたが、他の仲間達は少し違和感を覚えながらそれを通り抜けた。

 

「なんか、変な感じがするな……」

 

「ああ、ルーシェは何も感じていないようだが……」

 

最後尾のクラリスとフィルがそれを通り過ぎると、信じられない光景が広がった。思わず一同は驚きの声を上げた。

 

「わぁ………!?」

 

「嘘!?さっき見た時ただの雪景色だったのに!?」

 

目の前に広がるのは一面の青。

スヴィエートの国花であるセルドレアの花畑だ。満開のシーズンを迎え花達は見事に咲き乱れている。

 

月明かりに照らされるセルドレアの花畑は、言葉で言い表せない程に美しく、幻想的な空間であった。

 

「………ここってまさか、スミラさんが言ってた……!」

 

「お、おいルーシェ!」

 

ルーシェは駆け出した。スミラと厨房で料理をしていた時に聞いた話とそっくりだったからだ。ガットは慌てて追いかけた。

 

「ここ……!スミラさんの家の階段の壁に張ってあった写真と同じ場所じゃないでしょうか?」

 

ノインは思い出した。スミラの家に行った時この風景と全く同じ写真写真が飾られていたのだ。

 

「なんて美しい場所なんだ……」

 

クラリスは月を仰ぎ見て深呼吸した。まるでここだけ別空間のように空気が澄んでいて、雪が降っていない。

 

「ここ……どんなお宝にも勝る価値があるわ……素晴らしいの一言しか出てこない…」

 

「小生、海以外でこれ程の青色を見たのは初めてだ。凄く綺麗だな…」

 

カヤとフィルは息を呑んで景色に見とれていた。スヴィエート城の中庭の花壇にも沢山のセルドレアがあるが、あれとはまるで比にはならない。一面青、青、青。青の絨毯だ。

 

「……………ッ!?」

 

「おいルーシェ、どうしたっ、て……」

 

ルーシェは花畑の中心で足を止めた。ガットもつられて止まる。

 

中心だけ花がない部分が気になり、そこに駆けつけてみれば──────

 

「墓…………!?」

 

ガットは唖然とした。地面に平たく斜めの墓石が埋め込まれ、小さな墓がポツンとそこにはあった。なぜこんな所に墓があるのだろうか。

 

「まさかっ……まさか…!」

 

ルーシェは急いでしゃがみこんで土埃を払った。しばらく誰も来ていないのだろう。少し汚れている。

 

「ッ!!」

 

ルーシェは墓の文字を読んでひゅっと息を呑んだ。予想していた事が的中してしてしまった。

 

『 スミラ・フローレンス ここに眠る 』

 

そう。そこはアルスの母、スミラの墓だった。裏切り者である彼女は皇族を追放され本来埋葬されるべき皇族専用の墓には埋められる事は無かった。

 

フレーリットの隣の墓は空白のまま、何も無い。あれ程仲睦まじく、おしどり夫婦であった彼らは死してなお、一緒にはなれなかった。20年間引き裂かれたまま、それぞれ別の地で眠っている。

 

「っスミラの墓!?どうしてこんなところにっ!?」

 

ガットはその文字を見て驚いた。やがて後方の仲間達も合流し、それを見て同様の反応を示す。

 

「……、関係者の誰かが気を利かせてここに埋葬したのでしょう。こればっかりはアルス君に聞かないと分かりませんが…」

 

ノインは経緯から察した答えを出した。彼女は花屋だった。そしてこの花畑も思い出深い場所だったに違いない。

 

「ッ多分、アルスは知らないと思う。スミラさんがここに埋葬されている事、そしてこの花畑の存在すらも」

 

ルーシェが答えた。

 

「そうなんですか?」

 

「う、うん。彼女は皇族を追放されているから……。アルスはスミラさんの話の事は全て拒絶してた。と言うか、全く彼女の事を知らないと思う。私は過去にスミラさんと会って、この場所は聞いたことがあったの。ここはね──────

 

フレーリットさんがスミラさんにプロポーズした場所なんだよ」

 

一同は無言に包まれた。彼ら亡くなった背景を知っていると、何と言っていいのか分からないのだ。

 

「そういやマーシャやハウエルが言ってたな……。スミラは中庭で死亡してたって……」

 

ガットがその沈黙を破った。

 

「ええ。そしてその中庭にもセルドレアの花がある」

 

ノインが続けた。

 

「彼女は……、セルドレアの花畑で幸せを迎えて、中庭のその花の上でに死に、ここで花と共に眠っている………」

 

「何だか、皮肉なんだか、いい話なんだか………分からないね……」

 

ルーシェは一筋の涙を流し、呟いた。

 

そして仲間達一人一人、周りのセルドレアの花を少し摘み、彼女の墓の前に置く。

 

「どうぞ、安らかにおねむり下さい…、スミラさん……」

 

アルスはこの墓を見たらどんな反応を示すだろうか。ルーシェは少し暗い気分になりながらも、墓に祈りを捧げ、その地を後にした─────。


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