テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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リオとトレイル、そして…

「ッなんて悪趣味なの!?」

 

カヤは苦虫を噛み潰したような顔で言った。ガットは彼らを見つめたまま動けない。

 

「彼らの顔が幼い。顔は20年前と同じと推定してまず間違いないでしょう」

 

ノインがゴーレム兵器を見て推測した。粋な計らい、とは卑劣、外道そのものだった。

 

「卑劣なやり方を……!」

 

クラリスがガットを心配そうに見つめながら言った。

 

「酷いよこんなの………!」

 

「小生、なんだか、こ、怖いぞ…!」

 

フィルはルーシェの後ろに隠れた。

 

「リオ……トレイル……!こんな、こんな姿にッ……!?」

 

ガットが絞り出すような声で、呟いた。

ゴーレムはゆっくり起動し始め、容赦なく攻撃を仕掛けてきた───────!

 

「ガット!危ないっ!」

 

「ッ!」

 

カヤがギリギリのところでガットに突っ込み、ゴーレムの拳から逃れさせた。

その拳の攻撃を放ったのはリオの方だ。

 

「ガット。貴様随分と身長が伸びたものだ。20年前なんてただのチビだったのに」

 

無機質な声だが、リオの声そのものだった。

 

「ッ!?しゃべっ……!?」

 

ガットは驚愕した。

 

「お前はいつも泣いてた。俺の後に隠れて、俺らが実験室行っちまう度にビービー泣いてやがった。お前は一番年下だったからな……。少し懐かしいよ…、あんなに可愛がってやったのに」

 

トレイルも口を開いた。ゆっくりと拳を振り上げながらカッと目を開き─────、

 

「だけど、俺らを見捨てた」

 

「そう、私達を見捨てた」

 

「!!」

 

同時に言う彼らの発言はガットの判断を鈍らすには十分過ぎる程突き刺さるものだった。

 

ドゴォッ!!とトレイルの拳がガットの腹に打ち込まれた。

 

「かはっ……!」

 

そのまま後方のガラスケースに向かって吹き飛び、ガシャァン!!と耳障りな音が響いた。

 

「キャァア!?ガット!!」

 

ルーシェは悲鳴を上げて彼に駆け寄った。

 

ガラスの破片は身体のあちこちを切り裂き、赤に染めていく。ケースの中の水が大量にドバッと溢れ出し、彼は全身ずぶ濡れになった。水の中に赤い血が生々しく交じる。

 

「ガット!しっかりして!癒しの力よ……ファーストエイドッ!」

 

ルーシェは慌てて治癒術をかけた。

 

「かはっ、ゴホッ!ゲホッゴホッ!ゴホッ!!」

 

腹部への打撃の次は水に濡れ、呼吸が出来ずガットは激しくむせ込んだ。同時にこの2人のゴーレム兵器に違和感を覚えた。

 

「はぁ………、ハァ………!違う……俺は……見捨てたんじゃない……!リオ。トレイルが、トレイルが俺を生かしてくれたんだろ……!生きろって、言ったじゃねぇか!」

 

体力を消耗し動けないガット。すかさずリオのゴーレム動き出し、術式が展開された。

 

「ディバインストリーク!!」

 

凄まじい光の光線が、無詠唱で放たれ追い討ちをかける!

 

「無詠唱っ!?ッ危ないっ!?」

 

ルーシェは咄嗟にガットを両腕で庇った。バァンッ!と音がし、ルーシェは光の光線を吸収した。

 

「ッ、間に合った!」

 

ロピアスで暴徒化した民衆にアルスと共に襲われかけた時と同じようにルーシェは術をまた無効化しガットを守った。

 

「ガット!大丈夫!?」

 

「あ、ああ……。すまねぇ…!」

 

自らの治癒術もかけ、ガットはなんとか全身の傷を回復させた。そこに2体目ゴーレム、トレイルの拳が振り下ろされた。

 

「ハッ!?」

 

「ッキャ!」

 

ガットは素早くルーシェを抱き抱えると横に回避した。

 

「っこのぉっ!」

 

カヤがナイフを振りかざし、トレイルの後ろから斬りかかった。

 

「十一文字ッ!」

 

横、縦、そしてまた横と切り裂く斬撃。ガガガッ!っと金属の擦れ合う、嫌な音が発生した。

 

「痛いぃぃいぁぁぁああ!!!やめろっ!!」

 

トレイルはぐりんと振り向き、カヤに殴りかかった。慌ててカヤは体制を立て直し、ナイフでガードする。

 

「ッキャ!ダメだッ!?アタシのじゃ全然歯がたたないよ!」

 

ゴーレムは外見のエヴィの塊。しかしそれは強固なものだった。物理攻撃が全く効かないと言ってもいいだろう。しかしノインは不思議に思った。

 

「変だな……果たしてゴーレムに痛覚があるのでしょうか……?」

 

ノインが目を細めて言った。確かに可笑しい。兵器というならば、痛覚など全く持って要らない機能だ。カヤは術が使えない。ここは引くしかない。

 

「クラリス!ノイン!術頼んだわよ!」

 

「ま、任せろ!」

 

「あ!はい!了解!」

 

クラリスとノインはギュッと武器を握りしめた。

 

「カヤ!僕達で時間稼ぎするヨッ!」

 

「分かってるっての!」

 

ラオとカヤが走り出し、それぞれ一体を引き付けた。

 

 

 

一方攻撃をギリギリの所で回避したガットは、ルーシェをゆっくりと腕から下ろした。

 

「ルーシェ!お前は下がってろ!」

 

「でもガット!2人はっ!この人達は貴方の大切な人なんでしょ!?」

 

ルーシェは立ち上がるガットを引き止めた。

 

「あぁ……そうだ……」

 

「だったら!皆に任せよう!?こんな酷くて辛い事なんてないよ!!」

 

彼女は純粋に自分の事を想って、心配して言っている。

 

「………違ぇよルーシェ。大切な人だからだよ!!だから許せねぇんだよ!!アイツらをこんなにしやがって!多分コイツら、誰かに操られてる!!俺の傷をわざと抉るような事ばかり言いやがる!本当のアイツらは、絶対あんな事を言わない!何か変だ!俺が!俺がこの手で直接葬る!でなきゃ2人に失礼だろ!」

 

「えッ……!?操られてる!?」

 

2人だからこそ自分でケリをつけなければならない。ガットは頷いた。

 

「ッガット!」

 

引き止めるルーシェの手を放し、走り出した。

 

「ッリオッ!」

 

「フリジットコフィン!」

 

(リオは光術が得意だった…、だがスヴィエートの雪が嫌いで、中でも氷の術は、大嫌いだった!!)

 

リオの術が展開された途端、床がバキバキと音をたて凍りついていく。これに足を取られたら、上空から降ってくる巨大な氷柱に貫かれて一巻の終わりだ。

 

しかし、ガットの抜刀はその速さを遥かに上回る。

 

「……許してくれッ…!」

 

「ッ!」

 

「葬刃っ!」

 

「い゛っぁあ゛あ゛あ゛あああああああっ!!」

 

それは一瞬の煌めき。目にも止まらぬ速さで太刀を抜刀し、遠方からの斬撃が強力な1発をかました。胴体のエヴィの塊一部の剥がれ、リオは絶叫した。

 

「まずいこっちは物理に……っ、あぁ痛いっ!!痛いぁぁぁあああ!!何で?なんで?ナンデ?ナンデコンナコトスルンダヨォオォオオォオォオオオオオ!?」

 

「ッ!」

 

耳をつんざくような金切り声。ガットは堪らず唇を噛み締めた。

 

「リオオオオォ!!」

 

トレイルの声が響いた。それに仲間を大切にする感情も。どこか可笑しい。ゴーレム兵器が仲間を心配するなど滑稽だ。

 

「待ちなさいッ!?」

 

カヤの静止を振り切りトレイルはリオを庇うように前へ出た。

 

「ガット!貴様リオに何て事するんだっ!?」

 

「トレイル……!」

 

「えと……コ、コイツは1番体が弱かったんだぞ!実験にもいつも耐えられなくて!いつも辛そうな顔してた!」

 

「…………!?」

 

ガットはそこでまた違和感を覚えた。

 

(俺の知ってるリオはッ!いつも辛い実験にもヘッチャラだって笑ってた!)

 

「やっぱり……お前……?」

 

近づき、様子を伺おうとしたが、

 

「下がれガット!」

 

「奏でよ不協和音、いでよ黒闇!切り裂け影!」

フィルの声が聞こえた。直後背後からクラリスの術が襲いかかった。

 

「クヴァル・シャーテンッ!!」

 

闇の帯が発生し左右から迫り、トレイルとリオを圧縮していった。

 

「ウッ、ぐぁあぁぁあああぁあ!」

 

不協和音と共にトレイルの悲鳴が上がった。しかしリオは平然としていた。

 

「リオの方には効いていない……?」

 

ラオは目敏くそこに気づいた。

 

「この約立たずが!!お前はどいてろ!なっ、動かない!?クソッ!このポンコツがッ!」

 

身体が一部欠損したからだろうか?動きがかなり鈍り、そして彼女の口調が更に荒くなった。ガットはもうここで確信した────。

 

リオはトレイルを無理やり退かせた。しかし身体がガットに斬られ本調子ではない。すぐに動きが緩んだ。チャンス、と思いラオは手で丸メガネを作り出した。

 

「浄天眼!」

 

そして能力を把握すると「ヤッパリ…」と、呟いた。

 

「皆!リオには術が効かない!その代わり物理攻撃がよく効く!トレイルはその逆だ!物理攻撃が効かないけど、術がよく効くよ!」

 

だからガットの攻撃に酷く痛がっていたのか、とラオは納得した。しかし、ゴーレムなのに痛覚があるのか?と同時に思った。単純に悪趣味の為だけか、ガットの精神を揺さぶるためだろうか?

 

「僕達後衛はトレイルを!前衛はリオを頼みますよ!」

 

ノインの言葉に皆頷いた。しかしそう上手くはいかない。

 

「万有我が手に、来い重力!彼の者を……」

 

「させるかぁ!!」

 

「ッうわ!」

 

ノインのエアプレッシャーの詠唱の隙を突き、トレイルは彼に突っ込んだ。詠唱を中止し、間一髪の所で避けたがまともにあのタックルを食らっていたらただでは済まなかっただろう。

 

「誰か!トレイルを止めて下さい!」

 

「無茶言うな!!物理が効かないんだよ!?」

 

ノインが前衛に言ったがカヤは首を振った。

 

「ならば音だ!!」

 

クラリスがリコーダーを取り出し、音階を奏ではじめた。

 

「圧壊!マジェステート!!」

 

「なにぃッ!?音だと!?」

 

次の瞬間、強烈な音波が発生しトレイルを吹き飛ばした。大きな音を立て先程デンナーが逃げた隠し扉にめり込み、ヒビが入る。

 

「そらっ!」

 

最後に大きな音符で身動きが取れないように動きを封じる。押しつぶされたトレイルはダウンした。その直後、あの隠し扉がガラガラと音をたてて崩れだしたではないか。

 

「あっ!?」

 

ガットは壁の向こうにいた2人の人物を指さした。その手にはリモコンが握られていた。2人共恐怖で固まり、動けなかった。同様に、リオとトレイルのゴーレムは全く動かなくなった。

 

「しまった!!」

 

「てめぇは……ローガンか!?それとデンナー!」

 

「ッヒ!」

 

デンナーともう1人、20年前の実験の一任者だったローガンが震えながら立っていた。

 

(やっぱり……誰かが操作してやがったのか!!)

 

ガットは太刀を握り締めた。

 

「フィル!奴等のリモコンを取り上げろ!」

 

「わ、分かった!」

 

フィルは素早く糸を伸ばして、リモコンに巻き付けリモコンを取り上げた。

 

「ああっ!」

 

「「か、返せ!」」

 

ダウンしているはずのトレイルが、デンナーと同じ言葉を発した。そう、つまり言葉も兵器も、操っていたのは彼らだったのだ。

 

「っぱしな……!おかしいと思ったんだよ。2人が喋る内容に僅かなズレがあった。そりゃ最初のヤツはかなり効いたけどよ……、俺は2人の願い、俺が生き延びる事を最も望んでいた!!」

 

「成程……!兵器なのに痛覚を感じさせるような演技。全部僕達の判断、そして思考能力、ひいては彼の心を揺さぶる為だったのですね!とんだ三文芝居だ!」

 

ノインが続けた。

 

「余計な事をペラペラ喋ったのが仇になったナ……。とことん悪趣味な奴共め……!」

 

ラオが目を開き、これでもかと怒りを露にしながらクナイを投げた。それは風を切りローガンの頬に一筋の傷をつけた。

 

「ヒッ、ヒィイィイイイイ!!」

 

ローガンは頬の傷を見るやいなや、腰を抜かした。

 

「クソッ!!」

 

デンナーはローガンを見捨て、逃げ出した。

 

「待てこのクソ野郎ッ!!」

 

ガットはすかさずデンナーを追いかけた。

 

「しょ、小生も加担するぞ!」

 

フィルもリモコンを後ろの腰リボンに仕舞うと急いで後を追った。

 

 

 

残ったラオはローガンをマビヅルで縛り上げた。彼はしゃがれた声で情けなく命乞いをした。

 

「たっ、頼む!命だけは!?私は命令されただけなんだ!デンナーや所長に!」

 

「ウルサイヨ!別にボクは何も言ってないヨ!」

 

「し、縛り上げといてよく言う!痛いッ!キツくするな!」

 

「オマエが騒ぐからだヨ!静かにしてな!」

 

ラオとローガンが言い合ってる中、糸でぐるぐる巻きにされているデンナーを担ぎあげたガットが戻ってきた。そしてローガンの横に無造作に下ろした。

 

「がっ!」

 

「手こずらせやがって……!」

 

「往生際の悪いヤツだ」

 

ガットとフィルが忌々しそうに言った。

 

「くそー!!離せー!?」

 

まだ抵抗心は残っているようで見苦しく彼は暴れた。

 

「おいデンナー!テメェッ!よくも2人を弄ぶような事をしたなっ!?」

 

「ハハハハハッ!弄ぶ?何言ってる!?むしろ感謝して欲しいな!お前に感動の再会を味合わせてやったではないか!2人の顔は20年前のままでな!?」

 

デンナーは顔を歪めて笑いだした。

 

「んのヤロォっ!」

 

ガットは彼の胸ぐらをつかみ拳を振り上げ思いっきり殴りつけた。

 

「ぐふっ!」

 

「答えろ!2人は!リオとトレイルは20年前何があった!?」

 

「ハハハハハッ……かはっ、ゴホッ。ハッ、知りたいのか?えぇ?2人を見捨てたお前が!」

 

未だギラついた目で抵抗するデンナー。ガットは歯軋りが止まらない。

 

「話をすり替えるなッ!」

 

もう1発、と拳が上がろうとした瞬間、

 

「──────ッ死んだよッ!」

 

ローガンが震えた声で言った。

 

「!?」

 

ガットの手が止まった。

 

「ローガン!貴様ッ!所長の命令を忘れたのか!?彼らの精神を存分に折れと…!」

 

ローガンはデンナーの言葉を無視して続けた。

 

「貴様だって、もう分かってるだろ……認めろガット。─────リオとトレイルはっ!……死んだんだ……」

 

デンナーの胸ぐらをつかむ手が、するりと解かれた。ガットは揺れた目でローガンを見た。

 

「20年前、彼らは研究所に戻された後、脱走した罰を与えられ、実験の日々に逆戻りだ。

 

その後2人の肉体はどんどん衰弱して行った。治癒術師開発として期待をかけられていた彼らだがそれは全て無駄になりつつあった。身体が使い物にならなくなった、だから改造されたんだ。研究所を別の場に移し、そして我々の研究最後の作品が出来上がったよ。改良には所長の手も加わり、あらゆる手であの特殊なイストエヴィを抑え、そして使い物になるようにした結果、あのような歪で醜く大きな身体へと出来上がった…。彼らの人格は既に崩壊し、凶暴以外の何者でもなかった。だから精神を奥底に封印し、我々で操れるように改造したのだ。アレでも良くなった方だ……。改造当時は暴れ周り、手がつけられなかったよ……」

 

「………死んだ、のか…………。2人は、死んだのか……」

 

ガットは下を俯き、小さな声で呟いた。耐えようもない虚無感が彼を襲った。

 

「やっと改造が済み、使い物になるレベルに到達した時、リュート・シチート作戦が決行されて、あっけなく戦争は終わった。それにスヴィエートの圧勝でな。つまり、コイツらは用済みになったのさ。だが莫大な資金と労力を使って開発された物だ。破棄などせず、保存されていた。しかしまぁ、この研究所を復活させる時に彼らは大いに役に立ったよ。操れて、人が立ち入れないエヴィ濃度にも耐えられる。そして侵入者対策用にまた保存されていたという訳さ…」

 

ローガンはふぅと息をついた。

 

「ハハハッ。あの2体は今後改良が加えられて、どこにだって召喚出来るようになる。しようと思えば、このクーデタターにだって参戦した筈だ。いや、その筈だった。ハッ、まぁ能力テストが出来たからよしとするか…」

 

「貴様はいい加減黙っていろ!!」

 

口の減らないデンナーにフィルが怒鳴り、胸ぐらに掴みかかった。

 

「フッ…ハハハッ!甘いなお嬢ちゃん……」

 

デンナーは不気味に笑った。

 

「なっ、何がおかしいっ……!?」

 

「ハハハハハッ!それはっ……、──────返して貰うぞ!」

 

ブチッと糸を切る音がし、デンナーを縛っていたフィルの糸が解かれた。複合光術を使う事が出来るデンナーは、エヴィの繊細な扱いに長けている。彼にとってはエヴィ糸で縛られた体を、エヴィの放出で解くなど、造作も無い事だった。

 

「あぁっ!しまった!?」

 

そのまま後ろに手を回され、フィルの後ろ腰のリボンの部分にしまわれていた2つのリモコンをかっさらった。

 

「ありがとよ!?仲間の為に怒ってあげたんだろうがァ!?それは私にィ!チャンスを明け渡すものとなった訳だよォ!?アッハハハハハハハ!!」

 

「デンナーっ!もうやめろ!?」

 

ローガンが必死に引き止めた。しかし彼は断固として食い下がった。

 

「うるさい臆病者がっ!研究者として!スヴィエート人として恥ずかしくないのか!?貴様は所長の命令に背き、ひいてはペラペラと機密事項を喋り裏切ったのだぞ!いいか!この国では裏切りは万死に値するっ!この売国奴がッ!」

 

デンナーはリオの方方リモコンを操作し、「まずはお前からだ!」と叫んだ。

 

突如動き出したリオのゴーレム兵器は瞬く間に術式を展開させた。

 

「「クリムゾンフレアッ!!」」

 

デンナーとリオが同時に叫び無詠唱の強力な術を発動させた。ローガンは一瞬のうちに紅蓮の炎に包まれた。

 

「ぎゃぁあぁああぁああぁああああああああああっ!!!」

 

肉の焦げる嫌な臭いが充満し、近くにいたルーシェとカヤは悲鳴を上げた。

 

「っきゃぁああ!?」

 

「いやぁあぁあぁッ!?」

 

「フィル!見ちゃダメだ!」

 

ノインは慌ててフィルの目に手を当てて隠した。

 

「やめろ!リオ!やめてくれ!」

 

ガットが、無駄と分かっていながらリオの方に語りかけた。

 

「無駄だよバカが!ソイツを操っているのは私なんだよ!そらこっちもだ!」

 

「「タダでは死なんぞアハハハハ!」」

 

次はトレイルの声がし、大きなゴーレムの手がクラリスに向けられた。

 

「クラリスッ!危ないっ!?」

 

「ラオ兄ッ!?」

 

ラオがクラリスを咄嗟に庇い、彼は手の内に捕まってしまった。

 

「う゛、あ゛ぁ゛ああぁああああっ!?」

 

ギリギリとそのまま握り潰され、堪らずラオは苦しげに声を漏らした。

 

「ラオ兄イイィ!?」

 

クラリスが悲痛な声で叫ぶ。

 

「トレイル!やめろッ!やめてくれ!2人共もう……やめてくれよぉおぉおお!!!」

 

ガットは涙を零し懇願した。滅茶苦茶になった研究室に響く声。突如、不思議な事が起こった。

 

「っ、な、何だ…?リモコンが効かないっ……!?」

 

デンナーが困惑した表情でリモコンを叩き始めた。操作が効かなくなったようだ。

 

「……ガッ………ト……」

 

「ガット………!」

 

「ッリオ!?トレイル!?意識があるのか!?」

 

何と彼らは自らの意思で喋った。誰にも操られる事なく。そしてデンナーの操作に反抗した。次の瞬間、

 

「なっ、がぁあっ!?ばっ、馬鹿な!?こんな事が!?」

 

リモコンがビリビリと雷のエヴィを発し爆発した────!

 

デンナーは思わず仰け反った。

 

「っと!助かった……」

 

トレイルの握りこぶしが開放され、ラオは地面に降り立った。

 

「デン……ナー……ッ!」

 

トレイルが怒り溢れる声でデンナーに向き直った。

 

「待てっ、やっ、やめろ!おいどうなってる!?くそっ!くそっ!?」

 

壊れたリモコンを必死に操作するデンナー。しかし、リオの術の体制が既に整っていた。

 

「グレアケイジ!!」

 

「……ぐわあぁぁぁぁぁァァッ………!!」

 

刹那、光の檻がデンナーを包み込み光のレーザーが彼を貫いた。その術が解かれた後、そこには彼の姿は跡形もなくなっていた。

 

皮肉にもこの術は20年前脱走して逃げる時にガット達がかけられた術であった──────。

 

「っ、終わった……のか…?」

 

ガットが静かに呟いた。


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