テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
俺は誰だ─────。
とある研究室。"彼"はキィイィン!!という耳障りな音で目を覚ました。今"彼"はベットの上に力なく横たわっている。ぼやける視界。周りは真っ白…。
ここは一体何処だ─────?
俺は誰だっけ───────?
何度も堂々巡りするこの疑問。虚ろげな目で自分の髪の毛を見る。
紫紺色…。あれ…こんな髪の色をしていただろうか…?そして横に首を向けるとガラスに写った自分の姿が見える。銀の瞳だ。けれど、変だ。右目が赤と銀が混ざってるように見える。どこからか、篭った怒鳴り声が聞こえた。
「…………達!……ぜ……こ……に!」
「誰………だ……………アル……ぇ!………ろ!」
何を言っているのか聞き取れない。
「……………ぁ」
ガラスの奥、ぼやけながらも微かに認識できる、オレンジの髪色の人影。何故だろう。酷く懐かしく、そして会いたいという感情が湧き出る。しかし声を出そうとしても、掠れてしまった。しばらく発していないからだ。
「ッアルス!!!」
ガラスに遮られ、篭もりながら呼ばれたのは、自分の名前だろうか────?
リオとトレイルは完全に機能を停止した。彼らの魂はこの世から開放され、天へと旅立っていった。そして2人の想いはガットに託されたのである。ガラス破片によって砕かれた2つの核────。
ガットはそれを、ハーシーの時と同様に形見として持ち帰る事にした。
事がすんだら、2人の墓を建ててこれを埋めよう。もちろん、ハーシーの形見も一緒に──────。
ガットは彼ら3人の想いを決して無駄にはしまいと胸に固く誓い、静かにその研究室を後にした。
(ありがとな…。安からに眠れよ……)
カヤはやはり自分の勘はよく当たるものだと痛感した。しかも悪い出来事ばかり当たりやすいというものだから困りものだ。
「ガット……、良かったわね。リオとトレイルと、その、和解できて…。っ、いやなんか和解っていう言葉はアレかな…、意味違うかなっ!?なっ、なんかごめんっ……!」
カヤはガットになんと声をかけていいのか分からなかった。出てきた言葉が我ながら無神経だったのではとすぐに後悔し謝罪する。しかしそれは杞憂に終わる。
「いや大丈夫だ。謝らなくていい。結果的に、アイツらと再会できて心から良かったと思ってるよ。和解ってのも、間違ってはいねぇ。皆、さっきは協力してくれて本当に感謝してる。ありがとうな」
ガットは礼儀正しく皆に礼をした。
「ウム、よいよい」
「ガト兄が元気になってよかったよ!」
「最初はどうなる事かと思いましたが、良かったです」
「困った時はお互い様だよ〜♪」
「良かったネガット。さっ!メンタル回復したならキビキビ働いてもらわないとネ!アルス探さなきゃいけないんだし!」
ラオはウインクし、グッと親指をたてて彼なりにガットを励ました。犬猿の仲の彼らの事だ。これぐらいが丁度いいのだろう。
「ケッ、わぁーってるよ!さっさと大将見つけて助けねぇとな!」
「オー!」
(なぁーんか……やっぱりまだ嫌な予感すんのよねぇ〜……)
カヤは気を取り直している皆を節目に、未だ拭えない胸のもやもやを抱えていた。
この広い研究所の探索もいよいよ佳境に入ってきた。虱潰しに探してきたが、いよいよ最深部まで来ていると空気で分かる。それに部屋数も少なくなってきている。
「もう……アルス、アルスどこ……!?」
ルーシェの焦りが徐々にイライラに変わってきている。彼女のこんな姿を見るのは皆初めてだ。落ち着きがない。
「ルーシェ。少しクールダウンだ。焦りは何も生まない。心配するな。もう少しだ。小生の勘がそう言っている」
「そうよ、アタシの勘もそう言ってる、アンタが倒れたら大変なんだから、ね?」
「…………………うん、うん、分かってる…。ふぅ〜……分かってる、分かってる!!!」
と、本人は言っているものの目は完全に据わっている。自分に言い聞かせるように言い放つその声は気迫に満ち溢れていた。
(ヒッ!)
(怖ッ…)
カヤとフィルはその眼光に耐えきれずすごすごと離れていった。
「ルシェ姉……、アル兄の事になるとマジになるのが恋だっていい加減気づけばいいのに……」
クラリスは触らぬ神に祟りなし、とルーシェから距離をとった。
たどり着いたとある研究室の一室。その中でも一際厳重に警備されてある部屋があった。一部のセキュリティを解除できるカードキーは研究員から発見された時に気絶させ、そしてそこから盗み出したものが使えていたものの、最後の厳重な扉は破ることが出来ない。
「チッ、ダメだ。こうなったら実力行使しか……」
ガットは腕まくりし、体当たりを仕掛けようとした。
「いやいや!こんな頑丈な扉アンタじゃ無理でしょ!?」
流石にカヤはツッこんだ。こんなのに体でぶつかったらただじゃ済まない。
「しかもこれ特別な術式が多分かけられてますよ。下手に触らない方が絶対いいと思います」
光術の専門のノインが扉を眺め分析した。明らかに扉に何か術式がかけられている。さてどうするか、と皆が唸りだそうとした時。
「どいて」
「え?」
ルーシェがガットの肩に手をやり、彼をどかせた。
「ル、ルーシェさん?何をなさるおつもりで………?」
ガットはそのドスのきいた低い声に思わず敬語になった。扉の前に悠然と立つルーシェ。ガットは彼女が恐らく、怖い程冷静に、静かに怒りと焦りを露にしている………気がした。
「元素、空間、時。全てを断ち斬る虚無の光…我に集結し、そして葬れ」
「ファ!?」
突如ルーシェが聞くだけで何か恐ろしい術だと分かる詠唱をしだした。いやルーシェだからなおさらだ。しかも淡々と言い放つものだから余計に怖い。ゆっくりと扉に焦点が合わされていく右手。
ガットはゾッと身の危険を感じとり急いで後ろに下がった。間違いない、マジギレしている。
「閃光、ニヒリティ・レイ」
キィイィィイィィイン!!
瞬間、ルーシェがかざした右手から眩い光が生み出された─────!
「うおっ眩しッ!?」
「何だッ!?」
「何してんのルーシェ!?」
思わず皆は目をつぶった。そして恐る恐る目を開くと、なんとあの頑丈な扉がなかった。そう、扉自体が消えたのだ!
「はぁ!?何だ今の!?」
「扉が跡形もなく……!」
ガットとカヤは扉があった場所をまじまじと見た。綺麗さっぱり扉だけ消えている。
「む……無の力……!?」
ノインが口をあんぐりと開けて言った。そして口に手を当て小声で言う。
「いやでもそれは大精霊オリジンだけが持つという力じゃ…?」
カタカタと震え、ルーシェを恐る恐る見た。彼女はどう見ても人間である。
「よし開いた!皆!!行くよ!」
「あっ、ああ〜!」
ガットはルーシェに言われハッとした。
「ルーシェ、今のはどうやっ………」
「ノインも早く!」
「は、ハイ!」
術について聞こうとしたノインだが、ルーシェに急かされ慌ててガットに続いた。
(あんな術……ホントいつの間に…!?)
「一番実力行使しないような人が……」
「彼女怒ると相当怖いネ……」
クラリスとラオが彼女を後ろから眺め身震いしながら言った。
その扉の向こう──────。
「貴方達!?何故ここに!?」
そこにいたのはサーチスではなかった。また別の女性だ。茶髪を肩まで伸ばし、黒い瞳の聡明そうな女性。心なしかロピアスで出会ったリザーガの女性、オリガに髪の色は違えど顔が似ていた。
「誰だテメェは?いやっ、何でもいいからアルスを返せ!ここにいるんだろ!」
「わっ、私はヴェロニカよっ…!って冗談じゃないわ!?早くここから出ていきなさいよ侵入者!!」
「ケッ、お前しかいないなら好都合だ!いっちょやるかぁ!?」
ガットがヴェロニカと対峙している最中、ルーシェはバシッと視界に入ったガラスの向こうの人物に駆け寄った。
「アルス!!!」
ルーシェは彼の名を呼んだ。虚ろな瞳が、こちらを静かに見つめている。瞬時に今やるべき事を判断したルーシェは振り返り、
「カヤ!ラオ!お願い!」
と2人に言った。
「了解!!」
「連携いくヨ!」
アイコンタクトをとり頷いた2人。ラオは床に手をつくとヴェロニカを影で縛り上げ、身動きをとれなくした。
「影縛り!」
「
「っな!?……に…………を……」
そしてカヤが隙だらけの獲物に狙いを定めると、ナイフの衝撃派でヴェロニカを眠らせた。戦うより今はアルスが最優先と考えたルーシェは彼女にかまってる暇はないと言わんばかりに、次はクラリスに指示を出した。
「クラリス!術でガラスを割って!私の術じゃ巻き込んじゃう心配がある!」
「分かったいくぞ!怒れ稲妻、シャル・ツォルニ!」
黄色の音符がガラスに当たると稲妻が放射線状に広がり、ガラスに亀裂が入った。
次に大きな雷が炸裂するとバリィィィイン!!と大きな音がしてガラスが割れた!
「アルス!!」
ルーシェは急いでベットに駆け寄った。しかし彼は変わり果てていた。まず、髪の色が違う。セルドレアと同じ髪の色をしていたあの澄んだ深い青は、黒く、紫紺色へと変わっていた。虚ろな目でまるで廃人だ。右目は銀と赤が混ざり歪で気持ち悪い色をしている。
「ぁ……、ル、………シェ……」
自然と出てきたその名前。何故なのかは分からないが、脳内に強く彼女の名前だけはこびり付いている。
「アルス!アルスしっかりして!!」
「おい大将!しっかりしろよ!」
「アルス、アンタ大丈夫!?」
「かなり衰弱していますね……!これでは自力で歩けない…」
「一体コイツの身に何があったんだ…!?」
「アル兄、今にも気絶しそうだよ……!」
心配そうに覗き込む彼らの隙をつき、フラフラと立ち上がる影が後ろにいた。
「く…………、させる………ものか…!」
目を必死に開け、最後の力を振り絞り壁のあるボタンをヴェロニカは押した。突如、館内全体と思われるブザーが鳴り出した。彼女はそのまま力尽き、ずるずると眠りについた。
「しまった!アイツまだ!」
フィルはハッと彼女を恨めしそうに見た。
「まずい!長居は無用だ!おい急いでここから脱出するぞ!ある程度地の利がある俺が先行する!ラオ!お前がアルスを担いでいけ!」
「オッケー!!」
「急いで脱出だ!」
「皆ガットに続いてネ!!」
ラオは急いでアルスをおぶると、ガットに続き出口に向かった──────。
研究所から脱出し、地下道に入りさぁ地上まであと少し、という所でラオの背中で眠っていたアルスが突如呻き出した。
「うっ……ぐぅっ……!?」
「アルス!?目が覚めたノ!?」
「マジか!?おぉい!大丈夫かアルス!」
先頭を走りながら、ガットはアルスに呼びかけた。しかし、アルスは突如ラオの背中で暴れだした。
「はっ!?離せ!離せ!!汚らわしいッ!汚い手で僕に触るな!」
アルスはラオを振り払うと、苦しそうに息を吐きながら彼を睨みつけた。
「アルス…!?どうしたの!大丈夫だヨ!ボクだヨ!ラオだよ!」
「この薄汚いアジェス人め!殺してやる、殺してやる!!皆殺しだ!裏切り者達め!!絶対に僕の手で殺してやる!!」
ラオはこの言葉に聞き覚えがある。そう、フレーリットだ──────!
「まさか、フレーリットの記憶が…!?」
「うっ、ぐっ!ぁあ゛ッ!」
アルスは右目を押さえ蹲った。
「アルス!ねぇアルス!どうしたの!?」
ルーシェが泣きそうな声で彼に駆け寄る────が、
「っ来るな!!」
彼女の手を振り払い、拳銃を取り出した。
「えっ……?」
ルーシェは息を呑んだ。彼に拳銃を向けられる日が来るなんて。
「皆殺してやる、父の敵……!スヴィエートの怨み…!僕の意思は、スヴィエートの意思だ!アジェス人もロピアス人も、全部皆殺しだ!!!」
アルスの銀と赤が混じった右目は完全に赤に染まり、ルーシェと全く同じ色になった。銀と赤のオッドアイ。
顔はアルス、髪はフレーリット、そして右目はスミラ──────。歪でしかない彼は、かつての仲間達に襲い掛かって来た────────!!
アルス何話ぶりでしょうねwwwwwwwwww
せっかく出てきたのにかなり悲惨な事になってます。
ハイ。ルーシェのマジギレも書いてて楽しかったですwww
もうルーシェ本当にチートですね(笑)
まぁでもあの力本人も何で出来たか気づいていない感じの術なんでっ(震え声)