テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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回復技を使えるのはルーシェとガットのみです。実際にゲームして一週目プレイしたら多分この2人とアルスが殆どスタメンでしょうね。


女盗賊を追って

「私、ガットさんと行きたい……!」

 

ルーシェは決心したように言った。アルスは彼女の気持ちを尊重したかった。それに、彼女を巻き込んでしまったのは他でもない自分自身だ。何時までもこの貿易島にいても、何も意味はない。ならば、彼女のしたい行動をさせるべきではないのか。それに、どの道2人は帰れないのだ。もう後戻りはできない。

 

「………そっちのお兄さんは?」

 

自分も覚悟を決めなくてはならない。

 

「……分かりました。貴方の依頼の任務について行きます。ルーシェの為ですからね」

 

あくまでも、ルーシェの為。

 

「話しは変わるのですが、これからあの盗賊を追ってロピアス王国へ向かうのですよね?」

 

「そうなるだろうな。奴の足取りを掴めるのは奴の行き先のロピアス王国の港くらいしかない。あ、それと船もだな」

 

ガットは「それがなんだよ?」と向き直る。アルスは彼に耳打ちする形で言う。

 

「はい。その船の事で。……実は俺達半端スヴィエートを追われるようにこの島に来たんです。乗船する際に何か検査されるかもしれません。俺達の行動を記録されても困りますし、何か、誰にも気付かれないような方法はないでしょうか」

 

それにまず、旅券を持っていない。ルーシェもだ。アルスの場合、持ってるには持ってるが、この旅の最初のきっかけだった出張の行き先は国内のグランシェスクだったのだ。旅券は必要ない。しかしガットは変な解釈をしたようで。

 

「…ははぁーん?分かったぞ?さてはルーシェと駆け落ちしてきたんだな?」

 

「んなっ!?何言ってるんですか!?そんなわけ無いでしょう!」

 

アルスは顔を真っ赤にした。そもそも、彼女は恋人でも何でもないのだ、今のところ。

 

「冗談冗談。ロピアス港行きの船か…。そうだな、俺のツテでロピアス行きの貨物船の乗組員がいる。前、ここの酒場で酔っ払いに絡まれてた気弱な野郎だ。その時の借りとして言えばもしかしたら乗せてくれるかもしれねぇな」

 

「貨物船か…。密航するにはうってつけというわけか……」

 

(実際やったし)

 

アルスは心の中で付け加えた。しかしアレは本当にラッキーだったとしか言い様がない。ただでさえ少ない国内便だ。閉鎖的なスヴィエートに、他国の直行便はない。ここに来れただけでも不幸中の幸いだ。

 

「今日中に島を出たいなら足はこれだけだ。どうする大将?」

 

「大将って何ですか。俺はリーダーになった覚えはありませんよ」

 

「その場のノリだよ。一番それっぽいんだからいいだろ?」

 

かけらも詫びることなく言う。それっぽいとは一体。

 

「ルーシェも、それでいいよな?」

 

「はい!おっけーです!じゃあ早速、その乗組員さんに会いに行ってみましょう!」

 

「仕事がなけりゃ大体奴は酒場に入り浸ってやがる。酒場にいくぞー」

 

 

 

「畜生……!皆でよってたかって馬鹿にしやがって……!覚えてろよ……グスン」

 

酒場に行き、ガットはその知り合いの乗組員を探した。だがすぐに見つかった。どうやら泣き上戸のようで、机に突っ伏してシクシク泣いている。

 

「おいヒース」

 

「うわっ!?何だ!?」

 

パシンと、ガットがその頭を叩くと彼はバッと起き上がった。

 

「ガ、ガットさん!」

 

「まーた飲んでんのか。しかもこんなに……」

 

ガットは机にある空き瓶を見て呆れる。

 

「……ヤケ酒か?」

 

アルスが言った。

 

「あん?アンタ誰?」

 

「あ、失礼。このガットさんとの知り合いです」

 

と、自己紹介したが彼は微塵にも興味がないらしい。

 

「ふーん……。男はなぁ……泣きたい程つれえことが山程あんだよ……!」

 

「お前酒飲むたび泣いてるだろ」

 

「おわぁぁぁああああ!ガットさぁん!またフラれたんすよ!俺!もうそれで皆にバカにされて……!腕相撲も勝てないし、いつまでも信号係りだし、出世はしないし、俺が歩みたかった人生はこんなんじゃないんじゃ!!もう何回旗振りすればいいんだ!俺はスヴィエートとか!アジェスにも直接行ってみたい!貿易島とロピアスの航路にはもう飽き飽きダァ!ふっふへれれれれへへ」

 

最後はもう意味不明だが、どうやら己の人生に不満が溜まっているようである。酔っているせいもあり爆発したように愚痴を零す。

 

「オメーの愚痴聞きに来たんじゃねーっつーの。前お前がこの酒場でガタイのいい酔っ払いに絡まれてるとこ、俺が助けたことあったよな?忘れたとは言わせねぇぜ?お前一生の恩人とか言ってたぞ」

 

「……………そ、そ、そこまで言いましたっけ?」

 

「言ったぞ」

 

「ちょっと!そうやって俺の弱みに付け込んで利用するつもりでしょう!?」

 

「その通りだ」

 

「なんて清々とした態度なんだ!直球にも程がある!だがそれが羨ましい!」

 

「頼むよー、な?」

 

彼の性格上、あまりガツンと言えないタイプのようだ。酒が入っている今はグイグイと来るが。ヒースはうんざり、と言った様子で立ち上がり拒否した。

 

「嫌ですよ!何ですか!俺に身売りしろとでも!?金が必要なんですか!?生憎俺はそんな持ち合わせは………」

 

そして勘定しようとカウンターに向かう途中。

 

「あ。こ、こんにちは。大変なんですね、海の男の人って……。お話聞いてて、何だか申し訳ない気持ちになってしまいます。いつもお疲れ様です」

 

ルーシェとバッチリ目が合う。ルーシェはさすが救世主と言ったところか、男のツボを確実に付いた口説き文句を言い放つ。アレを素でやっているのだから天然とは恐ろしい。それとも、宿屋経営で自然と身につけたリップサービスだろうか?ヒースの心臓に、トスッと愛の矢が刺さった。

 

「…………ガ!ガットさん!この人は!?」

 

「ん?あぁ俺のもう1人の連れだけど」

 

ガットは「お?」と、そこで何かを思いついたようだ。悪い表情になる。

 

「あ、お、お名前は?」

 

「ルーシェです。ヒースさん、でしたよね?」

 

「な、名前を知ってくれているなんて……!感激です!」

 

ガットの会話を横耳で聞いてただけなのに、彼の今の状態では何でも嬉しいらしい。

 

「い〜やぁ〜?ヒース君!ちょっと、ちょっといぃかぁい?」

 

ガットはヒースの肩を掴むと引き寄せた。そして耳元に小声でそう囁く。アルスは嫌な予感がして、その会話を聞きに行く。

 

「俺がさぁ、サポートしてやんよ?ほらぁ、船乗ってさぁ、こう?ロマンチックに、な?いい感じなそうした様子を、お仲間の乗組員に見せつけりゃ、もうお前の株は急上昇ってわけよ?」

 

「ちょっと!何勝手に言って……ぐっ!?」

 

「しー!だぁってろ!」

 

アルスはその考えを聞いて大反対だ。何だそれは。まるでルーシェがこれから汚される宣言をしているようなものではないか。しかしガットは素早くアルスの口を手で塞いだ。

 

「な、なるほど…!それはいい案だな!」

 

単純な奴、とガットは心の中で思ったが、これなら確実にうまく行きそうだ。振り返り、ルーシェに問う。

 

「おいルーシェ!お前料理は出来るか?」

 

「はい!得意です!」

 

首をぐるんと戻して。

 

「よし来た。聞いたな?お前はあのルーシェの手料理を食べる大チャンスも手に入れかけているわけだ。どうする?俺ら3人を、なんかバイトとしてでも何でもいいからロピアスの貿易貨物船に乗せてくんね?あ、俺、気変わるの早いから。3秒以内で決めろよ?3、2、いー」

 

「わぁあぁぁあっ!分かった分かった!ガットさん!やるよ!俺やってやるよ!やる!やるぞ!俺はできる!うおおおおお!」

 

「よぉーし!ヒース、それでこそ男だ!」

 

「………?」

 

置いてけぼりのルーシェが不思議そうな顔をした。アルスにとってはとても不愉快は船旅の始まりだった。


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