テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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やっとアロイスの出番来たよ!!やったね!!!


愛が欲しい、ただそれだけなのに

「何で……何で出ないのよッ……!もう予定時刻どれだけオーバーしてるのよ……っ!」

 

サーチスは謁見の間の中央をひっきりなしにコツコツと足のヒールで叩いている。静かに謁見の間という広い空間に響くその音と母の声はアロイスを更に震え上がらせた。そのイライラは真骨頂に達し、手に持っている無線機を握りつぶしてしまうのではないか、と彼は思った。

突如、ザザッ、と音がし無線の相手と繋がったようだ。サーチスは堰を切るようにまくし立てた。

 

「っ!ヴェロニカ!?一体何をしている?!予定ではもう彼は完成している筈よ!早くフレーリットを連れてきなさい!?」

 

「…………ックッ……やられたわ…サーチス…」

 

相手のヴェロニカは辛そうな声でサーチスに答えた。

 

(ヴェロニカ…。今のアイツ…、アルスの管理を任されている人物だ…。ロピアスでアルスを拐ったオリガの姉で、この2人は内戦関係に忙しい母のサポート役…、いわば右腕と左腕…)

 

「やられた……!?まさか、彼を盗まれたの!?」

 

「えっ、ええ…。まさか光術最高峰の貴方が作り出したあの最強の防壁光術が突破されるなんて夢にも思わないでしょうよ…」

 

「と、突破された…!?誰に!?」

 

サーチスは驚愕した。あの防壁を破れるのは、せいぜい自分より上の光術を扱える人物、精霊や、または無の力を持つものだけである。

 

「オレンジ色の髪の女や、緑の髪の男よ…。赤い髪の女や子供もいたわ…」

 

「まさか……!?そんなはずは…!彼らはオリガとエチルエーテル、それにロダリアが完全にロピアスで始末した筈……!?生きていたっていうの!?それにあの防壁を破れるなんて……!?」

 

この謁見の間にはいない3人だが、サーチスは思わず振り返った。バッチリとアロイスと目が合う。その母のなんと恐ろしい形相か。アロイスはヒュッと息を飲み込んだ。

 

「フンッ…、そうじゃないみたいね……。あの研究室には私しかいなかったし、多勢に無勢、それに奇襲同然に入ってきて私は眠らされて…あっという間に彼は奪われたわよ…」

 

「っ、この役立たずッ!!!今すぐに城に来なさい!!でないと殺すわよ!?」

 

バキンッ!と音を立てて無線機が無残にも真っ二つに折られた。アロイスはその無線機がまるで自分の体のように重ねてしまい、腹を抑えた。

 

「あぁもうっ!?どうして!あとちょっとだったのに!それに、何故場所が分かったのよ!?有り得ないわ!」

 

冷静な母がここまで取り乱すのは稀だ。

いや、ここ最近はよく見ていた。もうすぐね、と心を踊らせ感情を顕にはしていた。だが、怒りの感情がここまで爆発しているといつか自分にも飛び火する。アロイスはじりじり後ろに下がり、彼女と距離をとった。

 

(今は絶対に関わらない方がいい……、早くここを出よう…、近くにいるだけでも…)

 

「アロイスッ!!」

 

「ッ!!」

 

遅かった────────!

 

アロイスはビクリと肩を揺らし、自分と同じ黄土色の瞳に吸い込まれた。普段はタレ目にメガネで落ち着いて、物静かそうな外見の母なのに、今はまるで別人だ。メガネは外してあり、ポニーテールに結んである髪の毛は下ろされ、母というより、1人の年上の女性にしか見れなかった。だが、正真正銘、自分の血の繋がった母親である。

 

「は、はい…」

 

催促が来ないうちにアロイスは恐る恐る返事をした。サーチスは射殺すような目つきで睨み、トーンの低い声で言った。

 

「貴方、情報を漏らしていないでしょうね?」

 

自分には心当たりのない事だった。だが、この目つきは完全に疑われている。

 

「じょ、情報……?漏らす…?」

 

「彼……アルスが隠してある場所を知ってる人物なんてたかが知れているわ。そう多くはないし、極秘よ。それがバレているという事は誰かがバラしたと言うことよ」

 

「なっ……ぼ、僕じゃないッ!!信じて下さい母上!息子の僕を疑うの!?」

 

アロイスは必死に弁明した。

 

「…………………。逆に言えば、息子であろうと、貴方がもし仮にそれをしていたとしたら私に対する裏切り行為よね?裏切りがこの国でどういう意味を持つかは、教えたはずよね?」

 

淡々と言い放つ母に恐怖しかなかった。アロイスは彼女に教えられた通りに言葉を紡いだ。

 

「スヴィエートで裏切り行為……とは、即ち死である……」

 

大量に冷や汗が吹き出した。

 

「そうよ。まさかアルスに情が移ったんじゃないでしょうね?」

 

「っ、ちっ、違う!!断じて違う!僕は情報を漏らしていない!裏切ってない!?情なんかも移っていない!」

 

本当に僕ではない。何故信じてくれないのか。

 

「なら誰がバラしたって言うのっ!?」

 

ヒステリックに叫んだサーチスは無意識に光術を発動させ、ビリビリと地をはう電撃を発生させた。

 

「どこかで情報が漏れたに違いないわ…。オリガやヴェロニカ、それにロダリアがバラすとは思えないし、消去法、それに1番情が移りやすい…もう残るのはアロイス、貴方しかいないのよ」

 

「僕じゃない!!お願いだ!!信じてくれよ母さん!!!僕は裏切ってなんかない!」

 

「詰めの甘い貴方の事……意図せず情報が漏れた、無意識にバラしていた…なんて事もあり得るわ……。でもそうじゃないとしても、今において、そんなに頭のキレる人物なんていないは………、ッ!!!」

 

サーチスはハッとした。ハウエルとマーシャを牢に連れていったのはアロイスだ──────!

 

「ハウエルだわ………!!」

 

「ハウエル……爺さん……?」

 

アロイスは彼の事を思い出した。だが、ここ最近の辛く苦い思い出ばかりだった。執事ハウエルとメイドのマーシャ。2人の兄妹は世話を焼くのが大好きで、アイツ同様、僕にもしょっちゅう話しかけてきた。無駄に世話を焼かれ、うっとおしいと思う反面彼らに見てもらえている、少なくとも愛されていると分かっていたからこそ、あの時、彼らが拷問され痛めつけられているのはとても見ていられなかった。

 

「貴方!彼らを牢に連れていく時何か話さなかった?!」

 

「は………、話したって……、そりゃ少しは話したけど……、大したことは……!それに何を話したかなんて1ヶ月も前の事だからハッキリ覚えてなんか………ッ!」

 

アロイスはハッとした。あの時、確かこう聞かれた─────!!

 

 

 

「私はどこに連れていかれるですか?アードロイス様」

 

「…………牢屋だよ…、っ僕に話しかけないでくれ」

 

「待ってください、マーシャは?妹は?せめてそれだけでも…」

 

「マーシャも牢屋だ。あっちはメイド達と一緒に捕らえられてる」

 

「そうですか……よかった。すみません、あともう一つだけ」

 

「何だよッ!」

 

ガチャン!とハウエルの手首に巻かれている鎖を引っ張ると彼は呻いた。まだ傷が全く癒えていない。傷口に響いたようだ。

 

「あっ………!……チッ!さっさと歩かないからだよ!」

 

「うぅっ…、も、申し訳ありません…。ですが気になる事を以前から風の噂で小耳に挟みまして…。貴方の母上様の事なのですが…」

 

ハウエルはまっすぐにアロイスを見つめた。

 

「………な、何だよ?」

 

ぶっきらぼうに答えたが、母上の事となれば、内容がかなり気になった。

 

「貴方の母上様、の旧姓はシュタイナーで合っていますよね?」

 

「え?あ、あぁ。母上の出身は貴族のシュタイナー家だと聞いた」

 

「そうですか…。最近、シュタイナー研究所が稼働していると噂に聞いたものですから…。いやはや、年寄りの悪い癖で少し気になったことは分かっておかないと済まないものでして。アードロイス様、ご存知でしたか?」

 

ガシャン、と鎖を引っ張りアロイスは目をそらした。ハウエルは注意深くその様子を観察した。

 

「ハ…、ハァ?知るわけないじゃん!その研究所がどうしたって言うのさ?何そんな事気になっちゃってんの?バッカバカしいッ!そんな下らないこと聞かないでよ!ボケてるワケ?!ほらさっさと行くよ!」

 

アロイスは内心酷く焦った。何故その事を知っているのか。そこは、奴の護送先だ…。一瞬表情が引きつった。

 

ハウエルはそれを見逃さなかった──────。

 

「…………………………………。

 

そうですね…、些細な事でした…。妹が無事であれば私はそれでいいのです…。妹は無事ですか?」

 

長い沈黙の後、ハウエルは自嘲気味に笑い、首を振った。

 

「あぁっ!マーシャも無事だよッ!」

 

「そうですか。()()()()()()、ありがとうございます」

 

その後最初の方はぐいぐい聞いてきたのに、妙にしおらしくなり、素直に言う事を聞いたの不思議に思ったのをよく覚えている。あの時だ、あの時に違いない─────!!

 

 

 

「まさか────────!!」

 

絶望の表情に染まるアロイスを見てサーチスは確信した。情報はアロイスから漏れたのだ。サーチスはゆっくりと彼の背後に周り、耳元で囁いた。

 

「心当たりが……………あるようね?」

 

「ヒィッ!!」

 

両肩に手を置かれ、アロイスは恐怖で引きつった声を上げた。

 

「これだからアロイス…、貴方は未熟なのよ……。ほらね?私の言ったとおりでしょう?貴方が無意識に、自覚なしに情報をバラした」

 

「そ、そんな……、僕、僕、そんなつもりじゃ!?待ってください!殺さないでくださいッ!」

 

「あら、何も殺すなんて言ってないわ」

 

サーチスはアロイスの頭を撫で、優しく言った。

 

「で、ですよ……ね?母さん……僕は、貴方の息子でっ……!」

 

「息子だから許すなんて事も、一言も言ってないわ」

 

「ッ!」

 

絶望のどん底にいる気分だった。絶体絶命である。

 

「ぼ、僕は一体どうすればぁ……………!」

 

アロイスの目に、焦りと恐怖から涙が滲んできた。不敵な笑みを浮かべたサーチスは、こう言った。

 

「ハウエルを今ここに連れてきなさい。その後どうするかは、私が教えてあげる、導いてあげる」

 

この後の事は、想像出来たはずだった。でも、今のアロイスにそんな余裕は微塵にもなかった。ただ母の機嫌を損ねてしまったという事、それを直すためにはハウエルをここに連れてくるという事しか頭にはなかった。

 

 

 

「つ、連れてきました……!」

 

顔面蒼白のアロイスにいいから来いと言われ連れてこられたのは謁見の間。途中何かあったのか、何故そんなにも余裕が無いのか、とハウエルは聞いたが今の彼に何を言っても無駄であった。

 

ハウエルは目線の先にサーチスがいた時点でこの先に起こる事が大方予想がついた。

 

(アロイスぼっちゃまは、母上様のサーチスには一切逆らえない…。途中に何一つ喋らなかったのも、命令か…。と、言うことは…)

 

アロイスの身に何があったのかはもう容易に想像出来ることだった。幼い頃からずっと見てきて、世話をしてきた孫のような存在だ。アルスやアロイスの事など、もう手に取るようにわかる。恐らく自分は殺される。

 

ハウエルは覚悟を決めた。

 

「2人共、こちらへ」

 

サーチスは静かに手招きをした。アロイスは言われるがままに鎖に繋いだハウエルをサーチスの目の前に差し出し、横に並んだ。

 

「いい?アロイス?自分の犯したミスの責任は、自分で取るのよ。貴方は今までそんな経験がなかったから、いい機会ね。教育の一環だわ」

 

「え……………?」

 

アロイスは、サーチスが何を言ってるのか理解するのに時間がかかった。ハウエルはサーチスを睨みつけ、糾弾した。

 

「何言ってる?!これが教育!?彼にこんな事をさせたら、彼がどうなるか目に見えてるじゃないか!」

 

「何……なに?母さん……?僕は次に何をすれば………!?」

 

視線をサーチス、ハウエルと右往左往させ、混乱するアロイスは完全に思考停止していた。

 

「フンッ、ハウエル。貴方は昔から鋭かったわね。目障りだから、いい機会ね。むしろ感謝して欲しいわ。今まで生かしてきた事を。私の可愛い可愛い息子に、情報漏洩という、こんな重罪をきせて…」

 

サーチスはアロイスの頬を愛おしそうに撫でた。美しく、白い髪に黄土色。アロイスはまさに母親似である。恵まれた外見であるのに、育った環境は地獄そのものだ。ハウエルは吐き気がした。

 

「っぬけぬけと!貴様それでも母親か!!」

 

「何?何なの母さん……?」

 

アロイスは不安そうに頬をなでる母親の手をとった。サーチスはそれを優しく誘導し、顔の下に落とした。

 

首、胸、腹、腰、ゆっくりと降下していき手が止まった位置は、

 

「アロイス、貴方がハウエルを殺しなさい」

 

左腰に刺さっているレイピアだった───────。

 

「──────────!!!」

 

アロイスはやっと悟った。恐ろしい母の要求に、母の願いに。

 

命令に、ただただ戦慄した。

 

「何をしているの?さぁ早く。ハウエルをそのレイピアで突き刺すのよ。簡単でしょう?」

 

アロイスは首をふるふると振った。

 

「で…………できない………」

 

「え?」

 

「出来ないよ母さんッ!?そんな事!僕には─────」

 

アロイスの言葉を容赦なくサーチスは切った。

 

「なら貴方が責任を負って死ぬ事ね。言ったでしょう?裏切り行為とは、即ち、死である、と」

 

「む、むりだよかあさん……っ!ぼくにはできなっ……あ、あぁっ!」

 

サーチスはアロイスの手をレイピアの柄に掴ませると、無理やり引き抜かせた。キラリと光る剣先。偽物なんかじゃない。本物のレイピアだ。

 

(それで私を殺せというのか、ましてや顔見知りで、今までずっと一緒に過ごしてきた私を!)

 

ハウエルはレイピアを見つめた。そして、サーチスに視線を移す。

 

「サーチス!貴様は外道か!いや鬼畜だ!母親失格だ!!アロイス!言う事を聞いてはいけない!!もうこの人はお前の母じゃ───────」

 

「黙りなさいこの老害!!アロイス!!何しているの!早く殺しなさい!」

 

「アロイス!やめろ!お前は自分の身を一生滅ぼすことになるぞ!!」

 

「命乞いはもう少し上手くしたら?!醜いわね!さぁ早く!!」

 

「か、かあさんっ………!はうえるっ……」

 

アロイスのレイピアを持った右手はガタガタと震え、極限状態までに追い込まれた。

 

「違う!命乞いなんかじゃない!アロイス!お前は母の言う事を一生聞くのか!よく考え直せ!アロイス、お前はまだ若い!答えが出ずに苦しむときもあるだろう!答えがわかった気になって、間違えることもあるだろう!

 

だがこれからお前に何があろうとも、お前はこの国、スヴィエートの意志と共にある!お前はその立場にいる人間なのだ!それをよく考えろ!自分の意思でな!」

 

「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁあっ!!嫌だ!いやだいやだいやだいやだ!!!何も聞きたくない!!その立場にいるのはアルスだろうっ!?」

 

アロイスはサーチスとハウエルの板挟みで、もう何がなんだか、どうすればいいのか、分からなかった。

 

「馬鹿をいうな!確かに、血筋や継承権ではそうなのかもしれないがお前はそういう風に、国のトップに立つ人間として育てられた事には一分の狂いもない!

 

国を想え!スヴィエートという国は私が最初に使えたサイラス様より代々受け継がれた、もっとよりよく国を良くしたい意思の元成長してきた!お前のやるべき事は何だ!アロイス!私の声に耳を──────────」

 

 

 

ザシュッ!!っと音が響き、アロイスの頬に血が飛び散った。

 

「………ホント、年寄りはよく喋る口だこと」

 

サーチスは事切れたハウエルにかざした手を下ろした。無詠唱で発動した風の刃は鋭くハウエルの全身を切り刻み、心臓を貫いた。

 

アロイスは目の前に血まみれになって倒れるハウエルを見つめた。

 

「じぃ……じ……?」

 

アロイスはかつてそう呼んでいた名を静かに呟いた。

 

「はぁ、全く、貴方がさっさと手を下さないから。また私が尻拭いするはめになったじゃない」

 

サーチスは手に飛び散った血をハンカチで拭くと、アロイスに囁いた。

 

「2度目はないわ。貴方が私の息子だから、許したのよ。今度しくじったら彼と同じ目にあうわよ。よく理解することね。しばらくの間、頭を冷やしなさい。指示はまた後に連絡するわ」

 

コツ、コツ、とヒールを鳴らしサーチスは謁見の間を後にした。

 

じわりじわりと広がっていく床の血液。アロイスはお構い無しにドサッと膝をつき、崩れ落ちた。膝に染み込む真新しい血液は先程まで生きていたハウエルのものだった。ツーっと涙がこぼれ落ちた。

 

「あ、あぁ、ああああぁぁぁぁぁあぁぁあ…………………、ぁぁぁあぁぁあァァァ、ァハハハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハ!!!ははっ、ハハハ!アハハッ!ハハッ!ハハハハハハハ!!!」

 

最初に瞼から涙が溢れ、その後はもう、何故だか笑いが止まらなかった。

 

アロイスは狂ったように笑い続けた。

 

もうどうしようもできない。もう引き返せない。

 

僕は母の右腕でも左腕でもない。

 

もう、サーチスの手駒だ。

 

一生、母の愛に飢えて縛られて生きていくしかない─────────。




今まででも群を抜いて鬱展開かもしれないテヘペロ(๑>؂<๑)♪

ハウエル爺さんはここで死亡します。妹のマーシャはまだ生存していますけど。

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