テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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この話は、本編に出てくるアルスとアロイスの世話役兼、育ての親、じぃじことハウエルの過去の話となります。もちろん妹のマーシャも出てきます。例のごとくネタバレ注意なので本編を読んでない人は読まない事を強く推奨します。


番外編 ハウエルの追憶編
ハウエルの追憶 1


いつも思ってた。

 

この子は昔の俺に似ているな、と。勿論生まれも育ってきた環境も違う。けれど愛されないと分かっていても、母親の愛を求めてしまう。それは同じだった。少なくとも幼い子供時代は多分そういうモノなんだ。母の愛が欲しい。愛情が欲しい、愛されたい。誰かに愛されたい。

 

誰かに必要とされたい。

 

そう思うのは、罪ではないはずだ。

 

すぐムキになって突っかかってしまう所も、10代の自分にそっくりだった。俺は妹とは違って素直じゃないし、不器用だったし、愛を知らない。自分には妹がいたから救われた。妹が俺を愛してくれた。だから俺も妹は愛したし、大事にした。

 

なら自分も、あの子(アロイス)の救われる存在でありたい。人は、温もりを求めずにはいられない。それは一番よく分かってる。母親に対する想いは少し違うが、ちょっと似ているとは思う。我ながら、いい人生だったとは他人からは言われないかもしれないが、死に際もこれでは、と言われるかもしれないが知ったこっちゃない。言えるさ。

 

(おれ)の人生は、いい人生だった。

 

 

俺、ハウエルこと、”ハーヴァン・フェリンシカ”はスヴィエート、発展途上の首都の街、オーフェングライスで生まれた。

 

これは想像だが物心の付く前は多分、両親に愛されていたのだろう…だろうか?いや、そうと信じたい。正確には覚えていないが物心の付いた3、4歳ころには、既に父親はいなかったと思う、というかいたんだろうが、めったに帰ってはこなかったな。俗にいう蒸発というやつだ。俺が5歳の頃、母親が獣のような雄たけびと、恐らく浮気して消えた父への呪いの言葉を吐きながら、苦しみながら妹をたった1人で産んでいたのを強烈な光景だったので、これはかすかに覚えている。

 

 

妹のマイヤ・フェリンシカが生まれる。母親似でとても可愛い妹だった。人形のようだった。プラチナブロンドの髪に、空色の淡い瞳。瞳は妹と同じ色だが、黒髪で顔もほぼ全て父親似の自分とは大違いだ。

 

俺にとっちゃ、母親なんてただ一緒にいなければならない頻繁のヒステリックを起こす厄介で意味不明な大人、でしかなかった。母親が()()()()()()()()()()、幼かった俺は愛情を求めずにはいられなかった。

 

「成長するにつれてあの男にそっくり!吐き気がするわ!」

 

これは何回も言われた。もはや口癖に近かった。怖くて怖くて、母親が恐ろしくて仕方がないのに、愛を求めてはこんなことを毎回言われたものだ。

 

「うるさいっ!!来ないで!!今母さん忙しいの!分かるでしょ!?」

 

お腹が減っても食べさせて貰えない事が多かったので、いつも空腹だった。妹の粉ミルクを盗んで飲んだことなんて日常茶飯事だ。

 

「妹なんだから兄のアンタが世話しなさいよ!私は今日男と約束があるの!アンタに構ってられないの!邪魔!どきなさいこの屑!!」

 

それが母親との覚えている最後の会話らしい会話だった。

 

母が家に新しい男を連れてきて、俺の存在がほぼ無視されるようになってしばらくして、腹違いの弟ラヴェイとかいう赤ん坊が生まれた。そいつは俺の母親の愛情を一心に受けていた。新しい男と母親の両方をバランスよく受け継いだのか知らないが、よく構われ、寵愛されていた。俺は最高に面白くなかった。

 

──────なんでそいつが愛されるんだ。どうして俺を愛してくれないんだ。

何故俺を無視するんだ。ふつふつと湧き上がる嫉妬と母親に対する疑問と複雑な感情は、少なくとも俺の性格を歪めた。ラヴェイに対する憎悪だけが募っていた。マイヤもそんなピリピリした俺の雰囲気と弟の話題になると必ず冷たい態度になるのを感じたのか、まだ4歳の妹に弟の世話はほとんど任せていた。

 

でもそんな生活はスヴィエートの短い夏のはじまりのある日、突然終わりを迎えた。

 

空から爆音が聞こえたかと思えば、今までいた家はあっという間に火の海に包まれた。新しい男は瓦礫に押しつぶされ、身動きすら取れなかった。母親はラヴェイを庇い、妹にその子を頼む、と託して間もなく死んだ。ロピアスからの空襲だった。厄介な雪が降る冬が終わるのを、今か今かと待っていたのだろう。当然、その時に今でいう治癒術師掃討作戦も行われていた。

 

1歳のラヴェイを連れた4歳の妹、マイヤを俺は連れ、小さな体を生かして瓦礫の隙間からするりともぐりこませ必死にその場から逃れた。無我夢中で逃げて、逃げて、隠れて、その時の事はよく覚えていない。ただ泣き叫ぶ事しかできない幼い弟に対してうるさい、とか、頼むから泣き止んでくれ、という感情しかなかった。泣きたいのはこっちだ。

 

夜、路地裏の瓦礫の下になんとかスペースを作り、寝床にした。腹が空いて仕方がなかったが、食べるものなんてどこにもない。僅かにある雪解け水で餓えを凌いだ。問題は弟だった。訳もわからずただ泣くだけの幼子の弟におろおろとマイヤは困っていた。

 

どうしたらいいのお兄ちゃん、なんて聞かれたりもした覚えがあるが、知るか、と答えた気がする。何でこいつを連れてきたんだマイヤ。馬鹿じゃないのか。こいつに食べ物や水を割いてたら、俺達はどうなる?しかもこいつは、俺達に与えられるはずだった愛情をほとんどかっさらっていった奴だ。マイヤは新しい男にそれなりに可愛がられていたとは言え、俺はゼロ。コイツは俺の敵だ。いや、俺達の目の上のたん瘤でしかない。そんな物、いらない。

 

俺達兄妹が生きていくためには、こうするしかないんだ。

 

――――――――その夜、疲れてぐっすりと夢の中のマイヤを確認した後、寝ている弟ラヴェイの首を締めて殺した。

 

どうしてあんな事をしてしまったのだろうと、考えると後悔と贖罪の念しかない。一般人は一度人を明確な殺意の元、殺してしまった経験は、決して消えない。いつまでもあの日の事がフラッシュバックする。老いても、たまに思い出す。決して忘れられないのだ。殺しが当たり前になってしまえば忘れられるが、俺は軍人だの、そっちの道にはいかなかったから。だが当時の心境としては、やってやった、これで邪魔者がいなくなったんだ、と喜んでいた。コイツを殺したところで、誰から愛されるわけでもないのに。ましてや、マイヤにバレたら軽蔑されるに決まっている。それでも、俺はラヴェイに明確な殺意を抱いていた事は事実だ。そして殺した後に気づいた。やってしまった、と。物凄い冷や汗をかいたのを覚えている。でもその首をしめている時の感情はこうだ。

 

母親からの愛情を横取りされて、こいつを生かしておけば食料も今後一人分多く取られることになる。血が少ししか繋がっていない腹違いの弟なんていらない!いらない!!

 

いらないんだ!!!

 

翌日、目を覚まさない弟の異常に気付いたマイヤに病気か空腹かで死んだと説明したが、まだ理解できてないみたいだった。弟を持って、大人達が囲んでが集って祈りを捧げてた()()の中に放り込んだ。軍人達だって、2人がかりになって頭と足を持って死んだ大人をせーのっ、なんていいながら焚火の中に放り投げてたから、これで多分合っているはずだ。

 

しばらくして街の風景が少し変わった。あちこちで大人達が泣きながら焚火をしているみたいだったし、なにより地面にバラまかれた大量のチラシ。その時は言葉が難しくて分からなかったし、地面に落ちているチラシの文字なんて読めやしなかった。けど幼いながらも、ただ感じとった。多分これは敵国ロピアスからだろうと。

 

誰がこんな不平等な講和条約を受けるものか!と蜂起を起こした人達は城の前で、騒いでいたみたいだったけど、難しい言葉ばかりで当時は何を話しているかよく分からなかった。でもこれだけは分かった。皆今、悲しみに包まれているんだな、と。両親は死んだ。そしてスヴィエートは戦争に負けたのだ。

 

俺達、ハウエルとマーシャ兄妹は第一次世界大戦の戦争孤児だった。

 

その時、これからどうやって生きていけばいいのだろう、と、虚無感しかなかった。

 

 

 

荒廃した首都でストリートチルドレンがいた。治安も衛生環境も最悪。あちこちで店の商品を盗んだ子供が追いかけられ、それを首尾よく撒いては、かっぱらったものを分け合い貪る。俺達兄妹がそれだ。働き口なんてない。せいぜいあったとしても、軍人になるにしても幼すぎた。俺達が生きてこれたのはほぼ奇跡に近かった。一緒に過ごしてきたストリートチルドレンが翌日冷たくなっていた、なんてよくあったものだ。スリ、かっぱらい、汚れ仕事、金をもらえるなら、生きるためなら何でもやった。

 

路地裏、木の下、かまくらの中、マンホールの下、瓦礫の山の近く、ドブネズミのように転々としながら、小さな体を生かして大人からうまい具合に逃げてきた。たった1人の家族の妹を守りながら、必死に生きた。マイヤも、ほぼ育ての親の俺の言う事を従順に聞き、素直で聞き分けもよくて。運よく瓦礫の山から拾ってきた分厚い本を抱えて妹は文字の読める博識なチルドレンの仲間に必死に聞いて、自力で文字が読めるようになっていたのには驚いた。多分、幼い子供だから吸収力が尋常じゃないのだろう。本や文字、知識について好奇心旺盛な妹、喧嘩っ早くてすぐ他の仲間と衝突する俺とは大違いで、大人しくて温厚で。いつの間にか目が悪くなっていたので捨てられていたゴミの山からひびの入った度の合っていない眼鏡をかけ、薄汚れてぱっと見冴えないみすぼらしい少女だったが、本当に可愛い妹だった。妹の為に、俺は生きていける。親がいなくても、子供は成長するのだ。いつのまにか俺は15歳、妹は10歳になっていた。

 

 

 

倉庫の中から大量のパンとリンゴ、野菜の入った麻袋をナイフで開け、詰められるだけ自分たちの袋に詰めて見張りは見張りに徹底する。俺は足を生かして囮チームだ。囮が一番技術と頭を使うし、逃亡術は経験則、イーストエリアの街並みの地図が完全に頭に入っている奴じゃないとだめだ、

 

「おいっ!お前たち何をしている!?」

 

そしてバレそうになったら俺らのチームが走り、あっちはまんまとねぐらに戻るというわけだ。

 

「くそ!!やられた!!」

 

「まてこのクソガキ!おい!あいつがイーストスラムの黒髪のガキだ!!」

 

「へっ、誰が捕まるかよっ、のろまっ!」

 

俺の方が有名だし、わざと盗んだたったひとつだけのリンゴをチラつかせて挑発してやれば、そりゃあもう食いつく食いつく。

 

「ハーヴァン、今日もやったな!成功だ!これなら1週間は生き残れる!」

 

囮仲間とハイタッチし、一仕事を終えた。いつもの調子で、中央(センター)商店街の倉庫に侵入し、約一週間分の量を他の仲間と連携し盗んでやった。量が多いのは、まだ幼くてかっぱらいもまともにできない自分より10も下のガキどもに分け与えるためだ。こうやって助け合って生きるのが、このストリートチルドレンの中で生き残るコツだ。

 

ストリートチルドレン5~6年目ともなれば、俺のスリもかなり板についてきたみたいで、いつの間にかちょっとした有名人になっていた。かっぱらいだってもうお手の物。足の速さはちょっとした自慢だ。騙しや詐欺だっておちゃのこさいさい。嘘をついている大人なんてすぐに分かるし、妹の嘘もすぐに見抜ける。ウエストスラムの奴らが縄張りを荒らされたとかで最近やけに突っかかって喧嘩を吹っ掛けられたが、勝って全部ねじ伏せてやった。勝利の味とコツを覚えたハーヴァンは、吹っ掛けられた喧嘩はほぼ買うようになり、経験もそのせいで積まれてどんどん強くなり、向かう所敵なしになっていた。

 

しかもそれを鼻にかけていたわけでもないし、妹想いで、弱いものには慈悲深くて優しいといった不器用な面もあるため、ストリートチルドレンの他の皆に信用され、ハーヴァンはいつしかイーストスラムのチルドレンのリーダーの立場になっていた。

 

ある日ホレスが、きな臭い噂話を聞きつけてきた。ホレスは仲間の1人でこの前のかっぱらいも一緒にやって仲のいい。2コ上年上で、信頼出来て頼れる奴だ。

 

「なぁハーヴァン、聞いたか?最近、ウエストスラムのストチルの奴らがどんどんいなくなってるんだってよ」

 

「あぁ?いなくなってる?住処を変えてるだけじゃないか?それかヘマして捕まったか、だろ?」

 

ストチルは様々なところに逃げ込む用のアジトを構えている。一か所にとどまらないし、引っ越しだってしないわけでもない。いつまでも同じ所に暮らしていたら軍人や警察に捕まるからだ。

 

「それが違うみたいなんだ。朝起きると消えてるんだ。そのウエストスラムのアジトごとに住んでるストチルの奴らがな、まるで神隠しにあったみたいに。なんでも、今じゃこの前喧嘩した一番強いチームしか残ってないみたいだぜ。ウエストの連中は、俺達みたいに全体的に組まないからな。異変に気づくのが遅れたらしい。でもどんどん消えてるんだってさ。マジだって。ウエストで仲のいい奴から聞いたから間違いないぜ」

 

「そっか、お前はウエストに友達のガスパールいたな」

 

「あぁ、ガスの野郎が怖がって俺に相談してくるなんてよっぽどだぜ。あんなに腕っぷしいいくせに、カルト関係にはまるっきしダメだ」

 

「カルト関係…、で片付くのかねぇ…」

 

「どういう事だ?」

 

「うーん…、これはちょっと調べてみた方がよさそうだな…。本当の話となれば、いずれこっちのイーストスラムに来るって事が高い。あまり放っておける話題じゃなさそうだな。おい、しばらく留守にするからホレス、俺の代わりの年下のガキどもを頼んだぜ」

 

「そうか、分かった。無理はするなよ。お前に万が一何かあれば、マイヤが悲しむからな」

 

「分かってるよ」

 

ハーヴァンはイーストスラムのアジトの寝床を後にすると、ウエストスラムの方へ走っていった。

 

 

 

「うわっ、ホントに誰もいねぇな…」

 

ハーヴァンはあまりウエストスラムのストチルの連中の事は知らないが、地図は頭に入ってるし、住処もなんとなく把握している。俺達ストチルの最大の敵、雪と風をいかに凌ぐかが、生きていく上での最大の要なので、まずそれを凌げる場所を考えればいいのだ。1回喧嘩して逃げた奴を途中まで追いかけて特定した事がある奴らのチームの寝床、ウエストスラム、放置コンテナがたくさんあるエリアの所に行けば、そこはもぬけの殻だった。ストチル達がいた形跡はあるのに、誰一人いないのだ。普通は1人か2人は、住処の見張り、火の見張りでいるはずだ。一年の大半が雪で覆われるこの厳しいオーフェングライスだから、全員が出かける時はそれは、仲間を助けに行くときか、大きな盗み作戦をやる時だ。あとは引っ越ししか考えられない。でもそれは考えられなかった。

 

「食べ物や衣服、寝床も全部残ってる…。しかも数日前の食べ残しが腐ってやがる…」

 

火は消えているが、飯盒の中には腐った米と野菜で炊いた炊き込みご飯だったものが枝にぶら下がっている。洗濯物だって乾いたまんま。これで放置するなんて普通あり得ない。食べ物は貴重なのだ。それを無駄にするとはよっぽど何か異常な事が起きたとしか考えられない。本当に誰もいないのか、それを確かめる為に一通り寝床をハーヴァンはうろついて辺りを見回した。そして、ガタン!と、青いコンテナの中から何か物音をしたのを、聞き逃さなかった。

 

「…っ」

 

息を潜め、その音が鳴ったコンテナの前で、飯盒の下にあった大きな石を構え、じっと息を殺す。もし、ここの連中が本当に誘拐でも何でもされて、それの残りを探している奴だとすれば…?それか、おこぼれを貰いに来た他のウエスト連中だとすれば俺は見つかったらやば―――――――――

 

「あーー!耐えられん!臭くてたまらん!随分劣悪な環境で暮らしてるみたいだな!!げっほごほ!一刻も早く社会問題の彼らを救わなければ国がいつまでたっても立ち直らん!ううっ!臭い!それにしても鼻が曲がりそうだ!!」

 

バァン!とコンテナの扉が空き、中から出てきたのはおおよそスラムで暮らしていた連中とはかけ離れ、小奇麗な恰好をしている、コバルトブルーの髪をした自分よりは多分、年下の少年だった。被っていた帽子でパタパタと鼻の前を仰いでいる。運悪く隠れる前に鉢合わせしてしまい、目の前に鼻を摘んだ奴の綺麗な銀の瞳とばっちり目が合った。

 

「…!?」

 

「うわっ何だ君!?」

 

思いがけない不思議な人物だったので思わずハーヴァンは固まり、その場で石を構えたまま直立不動になってしまった。

 

「ちょっとちょっと、その大きな石を置いてくれよ、危ないなぁ。君は僕が危ない人に見えるのかい?」

 

青髪の少年は両手を上げて勘弁してくれよ、と一歩下がった。ハーヴァンは、じーっとその少年を上から下、舐めまわすように観察した。ふかふかとした耳あてつきの鹿打帽を被り、そこからはみ出した短髪の青い髪。寒さから身を守るコートとマフラーは上質で暖かそうな毛皮だろうか。何故だかわざとむしった様に、毛が逆立ち、みっともないがそれが逆に不自然だった。わざとらしいというか。みすぼらしさは微塵もないそれなりの恰好だ。対して俺は防寒具はぼろっぼろのコートに、ほつれまくったマフラー。穴の開いたシャープカ、そろそろサイズの合わなくなってきた長靴雪用裏起毛、しかもその裏起毛はほぼボサボサでつぶれているときたブーツ。そろそろ履きつぶしそうだ。

 

こいつはどこをどう見ても、ストチルじゃないし、しかもおそらくいいとこの子供なので何か危険はあり得ないか、と少し安心した。

 

「…………、少なくともお前、ストチルじゃねぇだろ」

 

「ストチル?ストチルって何だい?あっ、ストリートチルドレン、の略か!なるほど!僕もそれ使おう!いちいちストリートチルドレンって言うのめんどくさいし!ありがとうとてもいい案だね!うぇっ!?ちょっと待って!?ストチルに見られるような恰好してきたのに!見られてないの!?どうしよう!あーもう!僕のバカ!」

 

何だこいつ、とハーヴァンは思った。このぽややんとして、フレンドリーでアホな雰囲気を全身から醸し出すコイツに、自然と緊張はとけた。石を地面に落とし、話しかけた。

 

「おい、何1人でぎゃーぎゃ―騒いでんだ」

 

「ハッ!ごめんごめん!君の存在を無視してしまった!えっと、とりあえず自己紹介!僕はサ…じゃない!えっと、イラス!!イラスっていうんだ!僕の名前はサ…、じゃなくてイラス!!よろしく!!」

 

「ハァ?名前なんて聞いてねぇよ。まぁいいや、イラス…だっけ?お前ここで何してんの?」

 

「ちょっと、僕も名乗ったんだから君の名前を教えてくれよ少年!」

 

グッと親指を立てウインクするお前に少年って言われたくないぞ、と思ったが、

 

「………ハーヴァン」

 

若干イラっとして、間が空いたが何か言うとまた言われそうなので正直に名乗った。

 

「ハーヴァンだね!じゃあハー君って呼ぼうか!」

 

「あぁ!?てめぇ今なんつった!?」

 

「え?だからハー君。ハーヴァンだろ?君は今何歳?」

 

「15…だけど、ハー君ってその呼び方やめろ!!」

 

「なんだ!だったら僕の3つも年下じゃないか!ハー君でいいよ!」

 

「はぁ!?ちょっまっ!お前より3つ年下っつーことは…!」

 

「うん?僕は18歳だよ!もうすぐ19だがね。君より年上ってことだ」

 

「…………見えね~…」

 

身長も自分と同じ165㎝程度。しかも自分はまだ成長期なので伸びている途中だ。満足にまんべんなく栄養が取れているわけではないので身長が伸びるか不安でしかなかったが、いまのところ18歳でその身長のコイツと変わらないと知ると、凄く安心した。

 

「ははっ、よく言われる。僕、弟がいるんだがね、それにも身長抜かされているし、しかも童顔だから僕の方が弟に見られるんだ」

 

「童顔って自覚はあるのかよ、まぁ確かにすげー童顔だな。俺と同じ位かと思ったぜ」

 

「やめてくれ…、あらためて他の人に言われると傷つく…」

 

ズーン…と、あからさまに落ち込み目を反らしたイラス。

 

「よし!それはそうと握手だはーく…、じゃなくてハーヴァン君!ほら握手!よろしくな!」

 

「うぉっ、なんだよ!?」

 

無理矢理右手を握られ、ぶんぶんと上下に振り回す。握手なんてそうそうしないし、皆薄汚いからといって大体は触りたがらないのに。不思議な奴だな、と思った。そしてそんな態度の奴にいつのまにか結構心を許してしまっていた自分がいた。

 

 

 

イラスの自己紹介は続き、曰くストチルではないがウエストスラムのストチル達が次々に失踪しているという事件を聞き、独自に調査をしに来た探偵見習い…らしい。

 

「将来探偵にでもなるのか?」

 

「うん?えーとまぁそうだね!あぁそうそう。うんそういうこと!!弟子入りしている探偵?かなんかの師匠に命令されて、で、子供に見えてストチルに扮して調査しているってわけさ!」

 

「探偵かなんかってなんだよ」

 

「ほらほら!僕の自己紹介はこれぐらいにして!君の事も教えてくれたまえよ!」

 

「なるほどね。だからさっきストチルに見えねぇって言ったら慌ててたのか。まぁいいや。俺はウエストスラムのストチルじゃねぇ。イーストスラムのストチルなんだ。仲間からウエストの連中がどんどん消えてるって話を聞いてお前と同じく調べに来たんだよ。いつこっちにこの事件の火の粉が降りかかるかもわからねぇからな。それにしても実際見に来てみれば不思議で不気味だからな。チーム全員が検挙されたりでもしたのか?誰も逃げることはできなかったのか?ガキの方が逃げ足も隠れる場所だって優れてる事だってある。それなのにこんなにごっそりと…」

 

「あっ、あのね。軍に問い合わせたけどそれはなかったんだ。捕まっているストチルの子たちは誰一人いない。捕まえた子は、ちゃんと更生するように道を導いてあげたり、仕事を紹介してあげたりして対策を進めているからね。大体の子は軍に入るか、極寒環境でもできる雪の下栽培農業開発を進めたり、グランシェスクの街やシューヘルゼ周辺を開拓させたりしてるよ。シューヘルゼの近くの山脈、クロウカシス山脈は良質な光のエヴィ結晶が採れるって最近分かったんだ!これを年中月明りの暗いアジェスに売れば、そして厄介な氷結晶だって使い道を見出せば…。フフフ、スヴィエートの産業革命の日も近いぞ!」

 

つらつらと自分にとってわけのわからない単語ばかりを語られては、ハーヴァンは前半以外すっかり置き去りだ。

 

「はぁ?何だそれ?何言ってんのかさっぱり分かんねぇよ。ってそうなのか?ってか何でそんな事知ってるんだ?全然よく分からなかったけどすげーな」

 

「えっ!えっと、調査で分かったというか…、いや!新聞にも載せたはずだ!新聞読まないのか君!」

 

「俺、字読めねぇし新聞買う金があったら食い物買うわ」

 

「何っ!?字が読めない!?なっなるほどそうか……」

 

そう言うとサラサラとメモ帳に綺麗なのか分からないが、多分綺麗なんだろう。文字を白紙に書き、俺に見せた。

 

「ほら!これが今現在僕達惑星イストラスで暮らす人間全て共通の世界言語の文字、フォスフィ語だ!他にもエストケアライン前に使われていたプロトスアル語とかいうのもあるけど、それは置いておいて。今はフォスフィ語さえ書ければ、全世界通じるぞ!」

 

「…読めねぇ~。……なんて書いてんだ?」

 

そういえば妹も、お兄ちゃんもフォスフィ語が書けるようになろうよどーの、言ってきた気がする。いつか、といってそのままにしてしまっているがただ単純にめんどくさいだけだ。別に書けなくても生きていけるし。

 

「ハー君とイラスは今日から友達!と書いてあるのだ!」

 

「死ね」

 

 

 

すっかり打ち解けてしまったので、しぶしぶ行動を共にしたいというイラスの提案を受け入れ、ウエストスラムエリアを案内した。他のストチル達の住処を回ったが、最初に回った所と同じく、どこももぬけの殻だった。

 

「ったくなんでお前と…」

 

「何を言うんだハー君、僕たちはもう友達じゃないか。それに目的は一緒。逆に行動を共にして協力しない理由がどこにある?」

 

「そのハー君てのマジでやめろ。妹に真似されたらどうすんだ…」

 

「何ッ?ほぉ~。ハー君には妹がいるのか?仲はいいのか?」

 

「チッ、言うんじゃなかった…、あぁいるよ。5歳年下のマイヤっていう妹がいるんだ。仲はいいぜ。共に苦楽を生きてきたたった一人の家族だからな」

 

「妹かぁ~!いいなぁ~!僕は弟がいてねぇ。昔は仲良かったんだけども、父が皇位けいしょ…んんんじゃない!!えっと、弟と兄の僕がいたんだけど、僕の方ばっかり可愛がって贔屓しちゃってね。それでグレてしまったんだ。ギスギスしてて、他人行儀でねぇ。僕は仲良くしようとしているのに、嫌味や同情はやめろクソ兄貴、と言われちゃって。母上にもそれで余計叱られてしまって。僕とどうにもソリが合わなくてね。弟の性格すっかり歪んじゃって中々これが上手くいかないんだ。だから兄弟仲は最低なんだ、悲しいことにね。なんだか君が羨ましいな」

 

「へぇ…貧しくないってのも大変なんだな。ま、俺は逆にお前が心底羨ましいけどな」

 

「どうして?貧しくないから…と言いたいのかい?」

 

ハーヴァンは昔のトラウマが頭の中でフラッシュバックした。首にくっきりと跡が残り、動かなくなった腹違いの弟ラヴェイ。それをしたのは―――――。

 

「………それもあるけど…。まぁいいや。この話はよそうぜ。それより、そろそろ互いの情報交換しようぜ。俺は大方のウエストスラムの地図書くからさ、絵なら書ける。文字はお前に任せる。まとめてみようぜ」

 

「うん、そうだね、そうしよう。早くこの不可解な怪事件を解決しなきゃだし!」

 




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