テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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ハイルカーク

「アルス!アルス!ついたよ!!」

 

体を揺さぶられ、嬉しそうな声が耳に聞こえてくる。

 

「ん゛…」

 

「アルス!起きてってば!」

 

さっきよりも勢い良く揺さぶられ、目が開いてきた。馬車に揺られている感覚はない。止まっているようだ。

 

「起きた?」

 

「うわぁっ!う゛ッ!?」

 

「いたぁっ!?」

 

勢い良く起き上がるとルーシェのアルスの額が正面衝突した。

 

「─────っ!!」

 

「いったー…」

 

2人共額を両手で押さえ額の痛を痛感する。アルスにいたっては声も出せない。

 

「ご…ごめん。ルーシェ。俺がいきなり起きたから…」

 

「…………」

 

「る、ルーシェ?」

 

怒らせたのか?さっきからピクリとも動かず額を抑え続けるルーシェに嫌な汗が流れる。

 

「ホントごめん!ルーシェ!ああ、えっと、その!ごめっ、じゃない!えーと、すいません?」

 

アルスは焦りすぎて何を言ったらいいのか分からなくなってしまい最終的に何故か敬語になる。

 

(女性って怒らせたらヤバイ気がしてならない。特に普段おとなしい人なら尚更…)

 

「ルーシェ…。その、わざとじゃないんだ。あー!言い訳になるな、これだと。ええーと……!」

 

「ふ…」

 

「ルーシェ?」

 

「アハハハハ!動揺しすぎだよアルス!大丈夫だよ!ちょっと面白かったからからかってみただけ!」

 

「え?」

 

いきなり顔を上げ笑うルーシェ。

 

「あはは!顔真っ赤だよアルス!ついでにおでこも!」

 

指をさされ、更に笑われるアルス。顔に熱が集まるのが分かる。

 

「なっ…!」

 

自分がからかわれていたのだと自覚すると一気に恥ずかしくなってくる。ルーシェの演技に踊らされていただけだったのだ。腹を抑えながら笑う彼女。思わず額に手を当て、隠した。

 

「お前…。笑いすぎだぞ!」

 

納得がいかない、こんな風にからかわれたのは初めてだ。いつもは俺がからかう側だったのに。

 

「あはっ…ふっふふふ…。ふー。ごめん!大丈夫!もう笑わないよ!フッ…!」

 

「普通に笑ってるじゃないか!」

 

未だに体を震わせている。

「そんなにおかしいか!?」とアルスが身を乗り出し反論すると

 

「はい、じっとしてね。」

 

額に手を当てられ軽い治癒術をかけるルーシェ。

 

「あ…」

 

「はい、終わり!もう痛くないでしょ?」

 

笑ったルーシェを見るとなにも言えなくなる自分が情けなく思えてくる。額に当てられた手が離れるのを名残惜しく感じてしまう。

 

「初々しいねー…」

 

この素晴らしいムードを壊す声が聞こえた。

 

「あ!ガット!アルス起きました!」

 

パッと手を離し方向転換するルーシェ。

 

「ああ、知ってる」

 

ニヤけた顔でこっちを見てくるガット。しかも屋根から下を覗いているのだから余計質が悪い。

 

「私先に降りてるね!」

 

「おう」

 

言葉の通り先に行ってしまうルーシェ。今の自分は最高にしかめっ面だ。

 

「…」

 

「お?どーした大将?寝起きは最高だっただろ?そんな顔する理由がどこにも見当たらないぜ?」

 

(こいつ絶対わざとだ)

 

アルスは嫌味の一つでも言ってやろうと、

 

「ああ、居たんですかガットさん。あまりに緑色だったのでただの葉っぱかと思いましたよ。失礼」

 

と、言ったが、

 

「あ?この髪のことか?葉っぱか。はは、そりゃいいね。若葉で若さに溢れてるってカンジ。いいね」

 

ホント嫌味がきかない人だな。コイツは。屋根から頭だけをぶら下げこちらを見て笑ってくる。

 

「俺も降ります。寝起き最高でしたよ。そりゃもう」

 

邪魔が入りましたが。と小声の嫌味も忘れずに。

 

「だろぉ?だからもう少しいい顔しろって、な?」

 

アルスが馬車から降りたと同時にガットも屋根から降りてきた。

 

「そうですね。ガットさんは空気がとても読める方で。」

 

「褒めても何も出ないぜ?」

 

(褒めてない)

 

「もういいです。もう寝起きがどうだとかそうゆうのは。とにかくおはようございます、ガットさん」

 

「あ?ああ、おはよう」

 

寝癖がついてないか頭を手で撫でながらアルスは言った。

 

「なんです?そのこの世の終わりを見たかのような顔は。」

 

「…いや挨拶してくれるなんて思ってなかったから。つか今までも挨拶なんかあったか?お前から」

 

「あ…挨拶ぐらいしますよ。挨拶がおかしいですか?」

 

「いやぁ?別に?」

 

ガットは両手で頭をかかえ、またにやけた。

 

「気持ち悪い顔しないでください。撃ちますよ」

 

「ちょっとは俺の事信用してくれたのかなーと」

 

「なっ…んなわけないじゃないですか。頭ぶち抜かれたれたいんですか?」

 

「いや、ぶち抜かれたくはねぇーかな」

 

そうこう話しているうちに壮大な門が見えてきた。門の前にルーシェとトラン、そしてエスナもいる。

 

「おはようアルスさん。よく眠れたかしら?」

 

エスナさんが微笑みながら話しかけてくる。幸い最近良く見るあの夢は見なかった。嬉しいこと極まりない。よく眠れるのだから。

 

「ええ、ぐっすり。ありがとうございました」

 

「いえいえ、礼を言うのはこちらの方ですよ。ガットさん、昨日はどうもありがとうございました」

 

トランがと頭を下げて言った。続けてエスナさんも頭を下げる。

 

「ああいえいえ、民間人を守るのが傭兵ですから」

 

「胡散臭…」

 

「なんか言ったかアルス」

 

「いいえ?何も?」

 

「この北凱旋門をくぐるとフォルクス、ハイルカーク地区ですね!首都が全部大陸横断して線路で繋がってるんですよ!それで地区ごとに分かれてるんです!」

 

誇らしげに手を門に差し出し紹介するトラン。アルスの他にも同様な人がたくさんおり、皆旅人や馬車関係の人が行き交っている。門の左右はレンガで固めてあり門から出ないと侵入は困難を極めるような作りになっている。

 

重そうな荷物を背負っている商人、いかにも旅人という格好をしている旅人、馬車のを引きながらゆっくりと帰路につく人。

 

「立派な門ですねー!」

 

「でしょう?ふふふ!」

 

ルーシェとエスナさんが2人で盛り上がっている。

 

「じゃあ、僕達はココらへんで」

 

「ああ、ありがとな」

 

「ありがとうございました」

 

ガットが手を振り、別れを告げる。心なしか彼の顔はなんだか悲しそうに、そして懐かしそうな顔だった。昨日の話を聞いたせいだろうか。アルスも軽く会釈をし、お礼を言う。

 

「ありがとうございましたー!またどこかでー!!」

 

ルーシェは大きな声でお礼とお辞儀を同時にしてして更に大きく手を降っていた。

 

「はぁー、やっとついたぜお二人さん。ここがロピアスの首都フォルクス、のハイルカーク地区」

 

壮大な門をくぐり抜けると、そこは想像を絶した感動する光景が広がっていた。

 

「すごい…」

 

それしか言葉が出てこない。自分の国とは全く違う光景。古いレンガ造りの建物が並ぶ街並み、そこを行き交う人々。建物の下には布を屋根とした店が所狭しと置かれている。果物屋、雑貨屋、野菜屋、魚屋…。

 

ゴーン…ゴーン…

 

と、遠くから鐘の音が聞こえ、上を見上げると向こうには大きな時計塔。バサバサと時計塔から飛び立つ白い鳥。時計塔の前には線路と思われる橋がずっとつながっていた。おそらくあそこを列車が走るのだろう。最も今は走っていないらしいが。すべての感覚を麻痺させられたかのように体が動かない。開いた口が塞がらないとはこの事か。

 

「綺麗だ…!」

 

すべてが新鮮だった。スヴィエートにも市場はあるがすべてがロピアス風、といったところか。

 

「すごーい!ここがフォルクス!!すごい!!」

 

ルーシェも同様かなり感動していた。

 

「やれやれ、ホント観光だなこりゃ。お前らフォルクスに来たことないのか?」

 

「無い!初めてだよ私!」

 

ルーシェは思わず飛び跳ねて嬉しさを表現する。

 

「俺も初めてです。すごいですね。こんな街並み…、雪降ったらどうなるんだ?」

 

「はぁ?雪?ロピアスに雪なんて降らねェよ。降ったとしても1年に1回ぐれぇーだろ」

 

(雪が降らないなんて、スヴィエートじゃありえない事だな……)

 

アルスは故郷の風景を思い出し、

 

「俺が見てきた世界は…こんなにも狭かったのか…」

 

と、ポツリと呟き、今までの感覚がすべて覆される感覚に陥る。これがカルチャーショックというものか。

 

「ガット!あれは何?」

 

彼女が指をさした先はさっきの時計塔。昔からあるこのフォルクスのハイルカーク地区を代表する有名な建物。本で見たことがある。

 

「ああアレ?時計塔な。ハイルカークってんだ。ちょうどセーレル広場らへんだな」

 

「ハイルカーク…。へぇー!」

 

「この地区の名前の由来の元だな。アーロン・ハイルカークって人があの時計塔を作ったんだと。って、すっかり俺ガイドじゃねぇか…」

 

ルーシェと仲よさそうに歩く二人組に若干腹立つアルス。2人の後ろで少し距離を置きつつも会話を盗み聞きしていた。ガットがよそ見をしていると前方からふらふらと歩いてくる女性がいた。ルーシェは周りのお店に興味津々で全く気づいていない。

 

「うおっ!?」

 

「い゛っ」

 

盛大な尻もちをつく女性。見事な正面衝突だ。

 

「やべ…。すまん!大丈夫かアンタ!」

 

「…へん…」

 

「え?」

 

「ぜんっぜんイケへん!どこ見て歩いてんじゃボケがァ!」

 

アルスは一瞬で悟った。めんどくさいタイプだ。

 

(ガットさんもご愁傷様です…)

 

「え?え?マジで?そんな大怪我させた?」

 

「帰れへん!!」

 

「は?」

 

「ラメントに帰れんのや!」

 

「ら…めんと?それとこれどうゆう関係がお有りで…?」

 

アルスも全く話についていけない。だが記憶を手繰らせると。

 

(確かラメントというのは街の名前じゃなかったか?先の戦争でかなりの被害があったところとして歴史の文献に書いてあったような)

 

「どうしたの?ガット」

 

いつの間に買ったのか、いやアレは試食だろう。ルーシェが大量の果物の一切を抱え戻ってくる。カゴ付きで。

 

「いや…、ちょっとぶつかっちまってな…」

 

「ええ!大変!ちょっとアルスこれ持ってて!」

 

「ちょ、ルーシェ!おわっ!?」

 

カゴを押し付けられ急いで女性へ駆け寄るルーシェ。これ少しぐらい食べてもバレないよな?なんのフルーツかわからないが匂いからしてまずいわけがない。食べてみると甘い果肉が口の中で広がり、すっごく美味しい。

 

「…って、ちゃっかり何してんだ俺…」

 

とりあえずそれは食べきり、目の前の光景を見守る。

 

「大丈夫ですか?すみません!」

 

「大丈夫や!アンタが謝る必要はないで!謝るんはコッチの緑や!」

 

緑と呼び指を指した相手はガット。

 

「いやーすいませんね。俺の不注意でしたよ。綺麗なお姉さん」

 

「貴方のそうゆう態度がこの方を納得させてないんですよ。なにナンパ紛いなこと言ってるんですか。セクハラですよ」

 

アルスはガットに言った。

 

「バッカ、お前。わかってねぇ~な。機嫌を治すために言ってるわけであってこれはナンパじゃないぜ?なんかわけの分からねえ言いがかりつけてくるしよ」

 

確かにラメントに帰れないとか言っていたがそれこれ関係ない。

 

「とにかく!」

 

スクッと立ち上がる女性。

 

「この落とし前はきっちり付けさせてもらうでぇ!」

 

「ほら!めんどくさい事になったじゃないですか!!なにしてるんです!?全く貴方は!」

 

「俺のせい?ねえこれ俺のせい?この女がちょっとおかしいだけだって!大体ぶつかっただけじゃねぇか!怪我もなさそうだし…」

 

「聞こえとるわ!!」

 

「「はいっ!?」」

 

「良かった~元気で。幸い怪我もないようですし!」

 

ルーシェの天然具合はホントに羨ましく思うときがある。今がまさにその時だ。


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