テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
「ごめんなさい…」
フィルはしゅんと目を伏せルーシェに謝った。ロダリアの隣に座り、うつむいている。
「いいよいいよ~!私は大丈夫だよ!ほら!怪我一つないし!」
あの後ロダリアに叱られ、素直に自分の間違いを認め謝ったフィル。そして3人はロダリアの向かいに座り、ルーシェ、ガット、アルスの順に座る。
「すみませんねぇ。前に泥棒が私達のテントに入りこみましてね。幸い大した被害ではなかったのですが…。そのせいかフィルの警戒心が随分と高くなってしまったようで」
ロダリアはソファに座り紅茶(?)とも思われない、黒い液体が入ったティーカップを4つに分け差し出す。
(うげっ…!?なんだこの色!?墨汁!?)
アルスはロダリアの話は半分半分に聞いていながらも目の前に差し出される紅茶ではない何かにげっそりしていた。もちろん表情には出さないが明らかに顔がひきつる。無表情ではあるが目が据わっていて、紅茶(?)を見つめたまま動かない。アルスお得意のポーカーフェイスが今にも崩れそうである。流石のルーシェも引き気味で、ガットに至ってはドン引きである。
「わ、わぁ〜。いただき…ます…」
と笑顔で言いつつ決して飲まないルーシェ。飲んだふりをしている。天然の彼女も流石にこれは直感でヤバイと感じ取れるのだろう。ロダリアは平気で飲んでいるがこれは一体どうゆうことなのだろうか。
「お…美味しー」
(おいルーシェ棒読みだぞ)
「でしょう?ふふふ、デネスで取れる茶葉を使ったデネスティーですわ。久しぶりのお客ですもの。腕によりをかけて入れさせて頂きましたわ」
「へ…へぇー!デネスってどこにあるんですか?」
「南です」
「へぇ〜、すごいですね…!」
ルーシェとロダリアは続けて話す。だが、2人が話しているときにアルスは思考を巡らせていた。会話が噛み合ってないことに決してツッコまないアルス。ツッコむ余裕がないほど焦っている。
(デネスって確かロピアス領フォスキア大陸の南側にある主に農業や牧場を中心としたところだよな…)
アルスは心の中で地理の本の内容を思い出しがら必死に思い出す。するとガットがアルスを肘で小突き、小声で話しかける。
「おい…、確かデネスっつたら有名な高級茶だぞ…!」
「そうらしいですね、俺も少し知っています。このような色とは聞いていませんでしたが…。そもそも匂いが紅茶でない気がするのは俺だけでしょうか?」
「いや、大将が言ってることは正しいぜ…。つか紅茶っつたら普通茶色っぽいなんかいい色してるだろ?それに焦げ臭いぞこの紅茶!」
「ですよね…!そうです!その匂いです!焦げ臭いというか何かが焼けたような匂い。まず紅茶の匂いではありません!」
「これデネスティーじゃなくてデスティーだろ!死の紅茶だ!」
小声で聞こえないように話すガットとアルス。幸いロダリアには気づかれてはいない。ルーシェの方はフィルと話し込んでいるようだ。
「うぅ…、よくよく思えば君はさっき小生にアイスを奢ってくれた人じゃないか…!早とちりしすぎだ!小生のアホ!本当にすまないことをした。頭に血がのぼりすぎた!あと片目で見えづらかった!うん!そう!」
「え!チケットくれたピエロさん!?じゃ…じゃああの最後の綱渡りをしていたピエロも君なの?すごい!!」
「左様、あれは小生だ。ふふん、因みに最後のほうぐらついたのもピエロ独自の道化師として演じたものだ。あんな綱渡りお茶の子さいさいだ!」
ルーシェに褒められフィルは嬉しそうに、得意げに話しだした。
「わぁー!小さいのに本当にすごいね!私あれすっごく感動したんだよ!」
「もっと褒めていいぞ」
先程の沈んだフィルはすっかり立ち直り腕組をし自慢げに話す。調子に乗りやすいタイプらしい。
「あら、アルスさんとガットさんは飲まないのですか?」
アルスはギクリと心臓がはねた。
「えっ!?あっいや俺コーヒー派なもんで…。紅茶苦手なんです…!アハハ…」
「俺も実は!いやぁすいません!」
ガットもすかさず便乗して言う。
「まぁそうでしたの。私としたことが。いますぐコーヒーを…」
「いいいいや!!いいです!!大丈夫です!!すいません!そんなお手数をかけさせるわけにはいかないのでっ!!」
(ナイスだァ!!アルス!!)
ガットはグッジョブ!と言うように小さく指を立てた。
5人の雰囲気もだいぶ和らいだところでフィルは自己紹介をした。
「小生はフィルだ。先程宣伝中にアイス売り場で会ったな。ピエロの格好をしていたからわからなかっただろうが」
真っ直ぐこちらを見てフィルは言う。自信に満ち溢れている。なんの自信か分からないが。
「私はルーシェ。ルーシェ・アンジェリークだよ!よろしくね!フィルちゃん!」
「フィッ、フィル………ちゃん!?」
フィルは驚きのあまり声が裏返った。
「あれ?どうかした?」
「い…いやなんでもない…」
ちゃん付けされた事に驚いたのか、フィルは顔を赤くした。
「俺はアルス。よろしく」
「俺はガット・メイスン。同じくよろしくな」
3人の自己紹介が終わるとフィルはアルスを睨みつけた。
「…俺の顔に何か?」
「……なんでもない。」
長い間が空きアルスはデジャヴを感じた。
(なんかさっきもこんなことが起きなかったか?)
「ああ、で。ロダリアさん」
ガットは自己紹介が終わると改まったようにロダリアに話しかける。
「はい、何ですか?」
「確かアンタは情報屋なんだよな?おっさんから聞いたぜ」
「ええ、そうですわ。ソレが何か?」
ロダリアは自分の飲み干した紅茶におかわりを継ぎ足しながら答える。
「俺達、まぁその氷石盗んだ盗賊も探してんだけどよ、もう一人探さなきゃいけない人がいるんだ」
「まぁ、万屋というのは大変ですわね」
紅茶を飲みロダリアは他人ごとのように言う。
「で…、俺らが探してるもう一人の奴ってのは、このハイルカークで起きた鉄道爆破事件を起こした犯人だ」
紅茶を飲むロダリアの手が止まった。
「アンタなんか情報持ってねーか?良かったら教えてくれないか?」
「………、その件については私もまだ情報不足ですわ。調査中といったところでしょうか」
「そうか。なんかある人が言うには、この漆黒の翼サーカス団の中に犯人がいるって話らしいぜ?」
「それはそれは……」
「何だと!?お前は小生たちを疑ってるのか!?この前なんかはウチに泥棒が入ったんだぞ!?」
フィルは勢い良く立ち上がりガットに激しく抗議する。
「フィル。おやめなさい」
ロダリアがフィルをなだめた。
「…確かに疑われるのは無理ないかもしれませんね。漆黒の翼は移動式のサーカス団。各地を周り、人も大勢いる」
「だが…!」
「人数が多い分疑われるのは無理ありませんわ。それに爆破事件が起きたのは3日前。丁度私達がこのフォルクスのセーレル広場に来た日です。セーレル広場の目の前にある鉄道橋が爆破されたのですから。少し疑いがかけられてもおかしくありません」
ロダリアは論理的に、かつ淡々と述べていった。
「ム…!」
「フィルちゃん!あくまでこれは私達の予想だから!絶対にこの漆黒の翼にいるってことじゃないよ?」
「む~…!」
フィルは頬を膨らませ怒っていたがルーシェに丸め込まれてしまった。
「まぁ、まだ疑っているです。これから現場検証に行こうと思います」
アルスは頭を掻きながらう言った。
「そうだな。まぁ事件の事知らないとその犯人を疑う資格ないもんな。んじゃ、疑って済まなかった。だがまた来るぜ」
「どうもありがとうございました」
ルーシェはお礼を言った。3人は立ち上がり部屋をでていこうとするが。
「お待ちください」
ロダリアの引き止める声がはっきりと聞こえた。
「何だ?」
「どうかしたんですか?」
ガットとアルスは振り向いた。
「私達も、その調査ご一緒させてもらえませんか?」
ロダリアもソファから立ち上がり、真っ直ぐこちらを見据える。
「え?」
「ですから、その情報についてはまだ調査中なのです。いい機会です。漆黒の翼の疑いを晴らす事、情報を仕入れる事。これ以上私にとって良いことはありませんわ。」
「え…、でもいいのか?アンタ。サーカスの仕事は?」
「私は裏方ですから。大道芸をサポートしたりプロデュースするお仕事ですの。大丈夫ですわ。」
「そうなんですか?」
「ええ、それに爆破事件については貴方方と同じく依頼を受けましたの。国から直々の命令ですわ。協力させてもらえないでしょうか?」
ロダリアはこちらを真っ直ぐ見続け返答を待つ。アルスはその発言に顔を曇らせた。
(国から……?)
「いいじゃないですか!仲間が増えることは良いことです!」
ルーシェがガットとアルスの間に入り言う。
「そうだな、協力者がいるのは心強いな。それにアンタは情報屋だからいろいろ知ってそうだしコネもききそうだ」
「まぁ、では同行させてもらっていいのですか?」
「ええ、もちろんですよ」
アルスはそう答えるとルーシェも満足そうに笑った。が、それに納得しない人物が1人。
「おい!小生抜きで勝手に話を進めないでくれ師匠!小生も行く!!」
「フィル…。貴方はサーカスの一番最後を飾る役です。それに皆さんのご迷惑です。ここに残りなさい」
「嫌だ!!やだやだ!!小生も一緒に行く!!」
「まったく子供ですね…」と、ロダリアはそう呟き困った表情を見せた。見かねたアルスもロダリア側をフォローした。
「しかし、子供は…」
「子供扱いするな!!」
「ダダをこねているところでまだまだお前は子供だろう?」
「っうううるさい!連れて行かないなら勝手についていく!!」
次第にアルスとフィルは言い争いになってしまった。
「ちょっと、少し落ち着こう?2人共?」
ルーシェが仲介に入り、2人を止めた。ルーシェはフィルへ近づき、しゃがんで視線を合わせる。
「フィルちゃんはどうして一緒に来たいの?」
ルーシェは優しく話しかけた。
「しょ…小生は…、師匠についていくのが当たり前だからだ。師弟関係とはそうゆうモノだ」
「んー、でもね。ロダリアさんはここにいなさいって言ってるよ?師匠のいうこと聞かないの?」
「そっそれとこれは別だ!それにっ!小生一人だと…!」
フィルは言葉に詰まった。泣きそうになりながらうつむいている。
「ん?なあに?」
「1人は嫌だ…」
「フィルちゃん…」
ソレはルーシェにしか聞こえない小さな声であったが、彼女にははっきりと聞こえた。
「……?」
アルスは怪訝そうに2人を見た。
「あの…フィルちゃんも一緒に連れて行ってあげませんか?」
「ええ!?」
アルスはてっきりルーシェが言い聞かせあきらめさせると思ったが予想とかなり反した言葉が帰ってきて驚いた。
「あ…えっと、女の子が増えるのはいいなぁーと。だって今まで私1人だったじゃない?だから!お願い!!」
「ルーシェ…!」
フィルは顔を明るくさせた。
「んー…。まぁいいんじゃね? ルーシェのいうことにも一理あるぜ?」
「ですが…!」
アルスはまだ納得出来ず抗議する。
「お願いアルス!ロダリアさんも!」
ルーシェは手を合わせ懇願した。
「ダメ…?」
アルスはルーシェに上目遣いに見つめられた。
「ぐ…。……………………はぁ。分かったよルーシェ…」
「本当!?」
「だが、ロダリアさんは?」
アルスは不安になりロダリアの方へ視線を向ける。
「あら、皆様が了承するなんて。私悪者扱いですわ。皆さんがいいなら私はいいですわよ?ただし、迷惑はかけないこと、それときちんとサーカスの仲間に断ってからですわ」
「やった!!」
「やったねフィルちゃん!!一緒に行こうね!」
「うん!」
こうして一気に女2人の仲間が増えたのだった。