テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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悪夢とロダリアの不審な行動

気がつくとまたあの夢を見ていた。自分はある部屋にいた。そこは見覚えがあった。そう、自分の住んでいるスヴィエート城だった。この鉄の塊のような、重苦しい雰囲気が漂う城。その城の部屋。

 

「またこの夢か…」

 

この夢。見たくもないのに毎度のこと見させられる。特に最近になってからだ。自分の意志で動いうているように錯覚させられるが、勝手に動くこともあったり、視点が変わったり。とにかくよく分からない。夢だから仕方ないか。

 

部屋にストーブはついていない。スヴィエートでストーブがついていない部屋なんてあっただろうか?だが部屋の温度的にこの気温は冬ではないはず。冬なら極寒の寒さが自身を貫いてくるはずだ。それは寒いというよりも痛い。突き刺さるような寒さの冬がスヴィエートの最大の特徴だ。

 

「とりあえず、ここはどこだ?スヴィエート城か?」

 

あたりを見回すと壁に窓がある。外は雪が降っておらず天気は晴れ。空には青い空が広がっている。

 

「でも…スヴィエートか」

 

窓の外を見るとあのグラキエス山が見えた。下には城下町。しかし自分がいつも見ている城下町とは全然風景が違った。何と言うか、一言で表せば、古い。

 

「……?」

 

一瞬何か黒い物体が空を横切った。港のオーフェンジーク、つまり海側から飛んできている。

 

「なんだあれ…?」

 

アルスは窓を開けた。途端、耳障りな音が耳をつんざいた。

 

「うわっ!?なんだこの音!?」

 

咄嗟に耳を塞ぎ、空を見上げるとそこには大量のあの黒い物体。

 

「あれって…戦闘機か…!?」

 

黒い戦闘機は耳障りな音をたてながらこちらに飛んでくる。アルスは耳を塞いだ。空に近い分音も馬鹿みたいに大きい。次々とやってきては空を滑空している。

 

「な、何で戦闘機が…?」

 

アルスは体が震えるのが分かった。おびただしい数、無数の戦闘機が海側からやってくる。戦闘機は機体から小さな物体を落としたかと思うとそれは一直線に地上に落ちていった。それが何なのかは次の瞬間すぐに分かった。

 

「うわっ!!?」

 

壮絶な熱と光が炸裂した。鼓膜が破れるような音があたり一面に響いた。アルスは眩しさにたまらず手で目と顔を覆った。まるで雷そのものが密集して落ちたみたいだった。そう、爆弾だ。空襲である。

 

「空襲…なんで…?まさか戦争…?」

 

アルスは状況が理解出来ずただただ混乱するばかりだった。今の時代、戦争はしていない。アルスは戦争のない時代に生まれたのだ。窓の下からは焦げ臭い匂いが漂ってきた。その匂いに堪らず目をあけ、手を顔からどけると信じられない光景が広がっていた。

 

火の海だった。

 

あちこちに火柱が上がり、モクモクと煙をたて燃えている民家。悲鳴、建物が崩れ落ちる音、メラメラ燃え盛る火の音。絶望を告げる音。火の熱気がここまで伝わってくる。

 

「なんだよこれ…なんだよ!?一体!?」

 

声が恐怖で震えた。窓の外でまたあの戦闘機が飛ぶ大きな音がした。戦闘機が旋回をしている。空中から地上の様子を伺っているようだ。アルスは堪らず部屋を飛び出した。

 

「ハァッ!ハァっ!……ハッ!」

 

アルスは無我夢中に足を動かした。城の構造は頭の中にある。階段をみつけ一気に駆け下りた。

 

「ハァ!ハァッ!」

 

長い長い階段を降り終わると、汗だくだった。アルスの額から汗がこぼれ落ち、地面にシミができる。

 

「はぁ…はぁ…。はぁぁぁぁ……」

 

呼吸を整え額の汗を拭った。再び走りだし正門から城の外へ出る。アルスのその目にうつった光景は、地獄だった。

 

さっきまでごく普通の城下町が赤でうめつくされている。まるで血のように赤い火。炎が発する熱気によって更に汗が出た。しかし、アルスは必死に探した。生存者を、まだ生きているかもしれない。

 

「誰かっ!!誰か!生存者は…?」

 

返事はない。ただ炎が燃える音だけ。そして人の姿など見えない。ただ赤のみ視界を埋め尽くす。

 

「早く…早く覚めろ!!こんな夢!!」

 

アルスは両手で頭を抱えて叫んだ。

 

「早く…、覚めてくれよ…!」

 

その声は炎の燃える音によってかき消されていく。目をつぶり、歯を食いしばり必死に恐怖に耐える。

 

────ふと、声が聞こえた。

 

「誰か…、たすけ…て…」

 

「ッ!!?」

 

アルスは目を見開いた。誰か生きている人がいるのだ!

 

「どこだ…?どこにいる!?」

 

アルスは耳をすまし声を探る。

 

「助けて…アツイ、あつい…!お母さん!」

 

「そこか!」

 

若い女性が瓦礫の下敷きになっているのを発見した。顔と手を上げて必死に助けを求める。15歳ぐらいだろうか?腰から下は瓦礫で埋もれており身動きが取れなくなっていて、アルスは瓦礫をどかそうとした。だがそれは凄まじく熱い。

 

「つ…!!」

 

思わず手を引っ込めた。瓦礫は炎で熱されてとても触ることは出来なかった。

 

「たすけ…て…」

 

「オイ、まだ生きてる奴がいるぞ!」

 

「っ!?」

 

アルスの肩がびくりと震えた。男の声がする。振り向くとそこには2つの人影が。アルスはその2つの人影を見て驚いた。旧ロピアス王国の軍服だ。

 

「あれ……、ちょっと…!」

 

しかし視界が勝手に動きだした。何故かどんどん女性より離れていく。夢なのに、自分の意思が効かなくなっている。自分の意思が効く時と、効かない時がある。

 

「誰かいるんですか!助けて下さい!」

 

アルスは必死に叫んだが、自分の意思とは関係なく、今アルスは瓦礫の隅に隠れ、女性を見守っている。

 

「オイ、お前…、治癒術使えるか?」

 

「えっ……?」

 

女性はいきなりの質問に困惑していた。

 

「俺らの兵に怪我人がいんだ。使えるって言うなら助けてやらないこともないぜ」

 

「つ、使えます!私!治癒術を使える事ができます!でしたら母も助けてください!母も使えるんです!」

 

「へぇ……そうか、オイ」

 

彼は顎で行ってこい、と合図した。

 

「ああ」

 

後ろにいたもう1人がそう答えると、別れた。そして、ロピアスの兵士はしゃがんみ、腰のホルスターに手をかけた。

 

「…?何して、お願い早く…たすけ…!」

 

「クッハハハハハハァ!助けてやるわけ無いだろバーカ!!」

 

バン!と銃声が響いた。

 

(──────!!!)

 

アルスは絶句した。その男は唐突に邪悪な高笑いをしたと思うと、拳銃で女性の額を撃ち抜いた。女性は声も上げられず、絶命した。

 

「ヒャハハハハハ!治癒術師は皆殺しなんだよォ!まんまと騙されやがって!ママもすぐお前の所にいかせてやるよ!」

 

「お前!!!何してるんだ!?」

 

「ヒャハハ!さぁーて次々ー!」

 

「おい!」

 

アルスは声を荒らげて呼ぶが、まるで聞こえていないようだ。それに、体もここから動かない。

 

「あっ!」

 

女性の上の瓦礫がついに崩れ落ちた。土埃がたち、メキメキと軋む音が鳴る。そして、女性がいた所から、じわじわと赤い液体が流れていた。血だ。

 

やっと体が動いた。死体となった女性の近くに行った。だが、大きな瓦礫が目の前に立ちふさがった。その衝撃でできた亀裂に血が割れ目にそってに流れ出てくるのがアルスの目に入った。嫌な匂いが立ち込めた。肉が焼ける匂い。思わず口と鼻を手で覆う。

 

赤い血は、じわじわと亀裂をたどり、ついには自分の足元まで広がってきた。

 

「あっ…ああっ…!」

 

アルスの目から一筋の涙が零れた。恐怖と罪悪感。あらゆる念が、押しつぶす様にアルスの心を侵食する。

 

「うわぁあああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

「あぁっ!ハァッ!?………ハァ、はぁ……!」

 

勢い良く体が起こした。アルスがいる所は紛れもなくあのロピアスの宿屋のベット。隣にはガットがいびきをかいて寝ていた。どうやら起こしてはいないようだ。

 

「はぁ…!!はぁ!!ゲホッゲホっ!」

 

息が苦しくなり激しく咳き込んだ。

 

「はぁ…。はぁ…」

 

アルスは大きく息を吸い吐いた。胸に手をあて自らを落ち着かせた。気がつくと自分は汗びっしょりだ。

 

「やっと覚めたのか…!」

 

アルスは手で頬を触った。涙が溢れている。

 

「なんつー夢だ…!」

 

叫びたくなる衝動を押さえ、最低限の声で呟く。

 

「とりあえず、シャワー浴びよう…」

 

アルスはベットから立ち上がり、荷物を持ちシャワー室へ向かった。シャワーを浴びている間、またあの光景を思い出し、嘔吐感が襲った。堪らず口を押さえた。

 

助けを求めて自分に差し伸べられたあの手。女性を助けられなった自分も情けないが、あの卑劣な行為。

 

「あの夢は一体何なんだよ…!」

 

ドン、と拳で壁を叩いた。

 

 

 

気持ちが落ち着いてきてシャワー室から出る。服に着替え気分転換に外を散歩することにした。濡れた頭をタオルで拭きながら宿屋から出るとこんな早朝にもかかわらずロダリアの姿が見えた。

 

(あれは……ロダリアさん?)

 

「オリガ…、こちらが書類ですわ」

 

「確かに受け取ったわ、で、カヤっていう女盗賊が盗んだらしいわね、その氷石。いつ見つかりそうなの?」

 

「これから探しに行きますのよ。少なくともまだまだです」

 

「早くしてよ?これ以上彼女の機嫌を損ねたら大変だわ」

 

「愛しの人の、ですからね」

 

「ちょっと、それ私の前では言わないでくれる?不愉快だわ」

 

「あら、失礼?」

 

ロダリアは誰かと話している様子だった。アルスにその会話の内容は聞こえなかった。相手は壁の向こうで、姿は見えない。

 

「ロダリアさん?」

 

アルスはロダリアに話しかけた。壁の近くに行き、話していた相手の姿を確認しようとしたが誰もいなかった。

 

「…!」

 

「なにしてるんです?こんな朝早くから」

 

「あら、私もその質問お返ししますわ。どうしたのです?」

 

「…俺は目が覚めてしまって。それでシャワー浴びた後です。散歩がてらに外に出たんです」

 

「あら、そうなのですか。私も先程パチリと目が覚めてしまって…」

 

「……さっき誰かと話していたようですけど?」

 

「あら、失礼、私の独り言ですわ。聞かれていたなんて、恥ずかしいですわね」

 

「独り言…?。残念ながら俺にはそんなふうには聞こえなかったのですが」

 

「まぁ、心外ですわ。信用してくださらないのかしら?」

 

「敵を騙すにはまず味方から…という言葉がありますからね」

 

「ふふ……、上手い切り返しですわね」

 

アルスは鋭い目付きでロダリアを睨んだ。

 

「では信用してくださるように良い情報をお教えいたしますわ。もちろんタダで」

 

「情報?」

 

「氷石を盗んだその盗賊は女性の方だったんですよね?」

 

「え?ええ。そうですよ?いきなりどうしたんですか?」

 

「その盗賊の出身はアジェス。地元では有名だそうです」

 

「アジェス?」

 

アルスは驚いた。

 

「ええ、赤みがかった淡い茶髪に瞳はキャラメル色。髪は短くてナイフを得意とするそうです。名前はカヤ…、だったかしら?」

 

「カヤ?」

 

「はい。手癖が相当悪い盗賊だそうで。スリの技術が凄まじく高いとか」

 

そういえばルーシェも気づけばスられていた、という感じだった。

 

「アジェスか…」

 

 

 

「そういやこれからどうすんの?」

 

仲間達は皆起きて宿屋のロビーに集まっていた。朝食を済ませ、ガットが質問する。その問にはアルスが答えた。

 

「あの女盗賊はアジェス出身だそうです。名前はカヤ。茶髪に目はキャラメル色。ロダリアさんが仕入れた情報です」

 

「うぇっ!?すげえな!一晩でもうそこまで調べあげたのかよ!?」

 

「私情報屋ですから」

 

ロダリアは目を細めて笑った。

 

「すごいですね!!ロダリアさん!じゃあ早速アジェスに行きましょうよ!」

 

ルーシェが言った。

 

「アジェスって何だ?」

 

「アジェスはロピアスの隣にある国だ。比較的温暖なところだがいかんせん湿気が強くて蒸し暑いと聞く」

 

フィルはアジェスという国があったこと自体知らなかった。

 

「ま、それと有名なのはなんといっても腐海だろ」

 

「フカイ?」

 

「いわゆる底なし沼みたいなもんだなぁ。入ったら…死ぬ」

 

ガットがニヤリと笑う。

 

「何っ!?死ぬのか!?」

 

「本当に死ぬかどうかは分からないが…。とりあえずその腐海は危険ということだ」

 

「腐海はアジェスにしかありませんわ。一体どうしてなのでしょうね?」

 

「へぇ〜…アジェスの土地は特別なんですかね?」

 

「いや…、確かエストケアラインの影響だと聞いているが…」

 

「まぁいいだろ。考えること自体めんどくせぇそんなこと。それよりどうやって行くんだ?」

 

ロダリア、ルーシェ、アルスの会話を流しガットは話を進める。

 

「鉄道が崩れてますからねぇ。まずここから隣のポワリオ駅まで行きます。そこから列車に乗り、国境近くのアンジエ駅で降ります。そして街道に出て歩いていけばもう国境砦です」

 

「へえー、詳しいなぁ。流石ロダリア」

 

「伊達にロピアス回っていませんから」

 

「確かに、フォルクスは無駄に長い街だからなぁ。だからこそ鉄道が進歩したんだろうが…」

 

「要塞みたいなオーフェングライスとは違うね、やっぱり」

 

「そうだなぁ。次の目的地はアジェスか……」


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