テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
ガットが注意を促し叫んだが、
「ギャアアアアア!?」
その大きな影はフィルの真正面を通った。
「フィルちゃん!?」
「あらまぁ」
フィルの姿がいきなり消えた。
「しまった!」
上を見上げるとフィルが大きな鳥型の魔物に捕まれて宙吊り状態になっている。
「食われるー!!!助けて!」
「大丈夫かフィル!」
「大丈夫じゃない!!」
魔物は絶好の餌だと言わんばかりに猛々しく鳴き上空へ上がっていく。
「このままだとホントに食われるぞ!ありゃ巣に持ち帰る気だ!大将!早く助けてやれよ!」
「師匠ー!!!」
「フフフ、まるで空中ブランコですわねぇ。楽しそうですわ」
「そんなこと言ってる場合ですか!?」
「ああ、でも空中ブランコは足に引っ掻けるモノでしたわねぇ。フィルは首根っこを捕まれて、まるで子猫のようですわ」
「フィルちゃーん!!力よ集え!エヴィブラスト!」
ルーシェは素早く詠唱を唱え光術を発動したが魔物は軽々とそれをよけると滑空し飛びさって行った。やがて森を抜け見晴らしが良くなった。しかし魔物が飛んでいくスピードは変わらない。
「フィルー!!」
「フィル!待て!」
アルスは銃を構え撃つが距離が離れすぎてなかなかとらえることができない。
「ダメだ!木が邪魔で照準があわない!それに万が一フィルに当たったら…」
「おや」
「師匠ーーーーー!」
魔物は山の方向へ向かっている。
「アイツ山の巣に持っていく気だ!狩りのために森に降りてきたんだ!」
「フィルを魔物の餌になんかさせませんよ」
「ロダリアさん?」
ルーシェは振り返った。ロダリアはアルスのより数倍は大きい銃を持ちスコープを覗いている。ルーシェにはそれが何か分からなかった。
「大将早く!!」
「無理だ!危険過ぎる!」
「そこをなんとか!!」
「無茶言わないでくださいよ!それにもう狙える距離じゃない!」
前方では男2人が言い争っていた。
「大丈夫ですよルーシェ。もうすぐで捕らえられますから」
「え?え?なんの事ですかロダリアさん?」
「シィー」
ロダリアは子供をあやすようにルーシェを黙らせた。
────その次の瞬間
パァン!という乾いた音が鳴った。ロダリアが引き金を引いたライフルから発砲された弾丸は真っ直ぐに魔物の頭を撃ち抜いた。
キエエエエ!と雄叫びをあげ墜落していく魔物。当然フィルも投げ出される。
「でかした大将!!」
「え?俺撃ってないぞ?」
最前線にいるガットには聞こえていないようで急いでフィルの所に駆け付ける。
「うわぁぁぁぁ!!」
「やべぇ!間に合うか!?」
「ふむ、あとは自分で何とかしなさい」
ロダリアはスコープを覗くのをやめると、ライフルを分解して折り畳みしまった。
フィルは急いで指からエヴィの糸を作り出し地面に蜘蛛の巣のようなクッションを作り出した。
「ぐえ!」
ガットはそのエヴィの糸に当たり仰け反った。
「ふー、助かったー。危うく小生は短い人生に終わりを告げるところだったぞ。アルスもなかなかやるな」
「な…、お前、ガキの癖になかなかやるな…、走って損したぜ…」
「うむ、ご苦労だったぞガット。小生の術がうまく発動してなかった場合のホケンだ」
「けっ、エラソーに」
ガットは素直にお礼を言わない生意気なフィルに悪態をつく。
「フィル!無事か!?」
「アルス!や、やればできるではないか!だ、だがお礼は言わんぞ。絶対にだ」
「お前が無事なら別にいい。お礼なんて期待していないからな」
「無事のようですねぇ」
「フィルちゃん!どこか怪我してない!?」
後方にいた女性群も合流する。ルーシェはフィルに駆け寄った。アルスはフィルを連れ去った魔物の死体の側へと行った。見事に脳天を貫いている。アルスは自分の銃を取りだし魔物の弾道痕と発射口を照らし合わせた。
(……明らか俺の弾とこいつの弾跡の大きさが合わない。これは、恐らく狙撃銃か何かだ。だけど一体誰が?)
「その魔物がどうかしたの?アルス。」
アルスの様子が気になったルーシェは声をかけた。
「ルーシェ…、いや別に何でもないよ。」
「でも、凄かったねロダリアさん。あっという間に仕留めちゃった」
アルスはその発言に反応した。
「ルーシェ、ロダリアさんは俺が前にいたとき何をしていた?」
アルスはルーシェに聞くと彼の予想どうりの答えが返ってきた。
「なんかね、アルスのよりも細長くて、先っぽが長かった銃で、何かを覗きこんでた。それで、撃ったら魔物が墜落したの。ロダリアさんが撃ったんだよきっと」
「…何だって……!?」
「撃ったあとは?なにか操作していたか?」
「えーっと、なんかガチャンって何かを捻ってたなぁ。私にはよく分からなかったけど」
アルスには分かった。
「ありがとうルーシェ。充分だよ」
「?なんだかよく分からないけどどういたしまして」
アルスは拳銃をしまうとルーシェに微笑みかけた。
「おーい、アルス!ルーシェ!」
「ガットさん、どうしたんですか?」
「あれ見ろよ」
「?」
ガットが指を指した方向には大きな大きな木が見えた。
「何あれ!大きな木!」
「あの大樹はリューランですわ。アジェスの首都、ヨウシャンの象徴的なものですわね」
「そそ、さ、いつの間にか首都は目前だせ?さっさと行って一息つこうぜ」
カルシン国境砦から首都はどうやら近場のようだ。
「そうですね。俺も走り疲れましたし」
「なぁ、その敬語なんとかなんないの?」
「は?」
ガットはいきなりな事を言った。
「いや、だから別に俺になんか敬語使わなくていいって。めんどくさいだろ?」
「……………そうです……いえ、ですが」
アルスは確かにこんな適当なヤツ、と内心思っていた相手だ。だが、仮にも、仮にも年上だった。
「おい、今変な間があった」
「いいんですか?」
「別にお前が困るわけでもねーだらうよ。こんな馴れ馴れしい万事屋なんだし」
ガットはくくく、と笑った。
「しかし何故このタイミングで?」
「いや、何回も言おうとしたけどそのたびに忘れてたからさ」
「そうか。では、よろしくガット。これからは遠慮なく色々なことを言わせてもらうぞ」
「お…おぉう…」
アルスの、愛想を振り撒くしゃべり方とはうってかわって声のトーンは低く、初対面の時の警戒心丸出しだった声色である。
「アルスって意外と声低いよね」
「使い分けてんだろそこんとこ。このご時世、世渡り上手にならないとな。一瞬ビビったけど」
「まぁ、そうゆうことだ。とりあえず、早くヨウシャンに向かうとしよう」