テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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アジェス首都、ヨウシャン

「小生の100倍はあるな、あの木!」

 

「でっけぇなー。あれがあの有名なリューランの木か」

 

「アルス!見たことのない花が咲いてるよ!スッゴく綺麗!」

 

「ここはアジェスだからな。そりゃ見たことのない花位咲いてるだろう。あれは桜だ」

 

「桜?」

 

「アジェスの国花だよ。満開時には桜吹雪というのが見れるらしいよ。桜の花びらが空を覆うらしい」

 

「よく知ってるね!アルス!フィルちゃん!もっと近くに行ってみよう?」

 

「大賛成だ!どっちが早く空中で花びらを掴めるか勝負といこうではないか!」

 

「女子共は元気だねぇー。面倒くせぇわ、そんな作業」

 

ガットは欠伸をするとあの女について聞き込みしてくるわー、と言ってルーシェ達とは別方向へ歩いていった。

 

 

 

アジェスの首都、ヨウシャン。

この都市の最大の特徴はなんと言っても中央の大樹だ。リューランの木と、呼ばれているらしい。

 

大陸のほとんどを腐海に覆われているアジェスにとってこの首都は正に楽園である。リューランから生み出される清浄な水が豊かな自然を育み人を集めるのだ。リューランから流れ出した清浄な水はやがて川になり、そして湿地が出来上がった。自然豊かな街だ。自然と調和し、共存して人々が暮らしている。フォルクスとはまた違った美しさがある。

 

さて、残るメンバーはというと…。

 

「お花に詳しいのですね。意外ですわね?アルス?」

 

「別に…。というかいつの間にか俺のこと呼び捨てになってますね」

 

「あら、私皆と仲良くしたいのです。堅苦しい呼び名は嫌でしょう?」

 

「俺は別に構いませんが、仲良くしたいというのは意外ですね」

 

「ふふ、仲間でいる以上、険悪な関係にはなりたくないでしょう?」

 

「仲間…ね。そうですね。その通りです」

 

(その言葉、どこまで本心なんだか……)

 

「でしょう?」

 

ロダリアは帽子を軽くあげウインクをするとクスリと笑った。アルスにはつくづくこの人は読めない人だ…、とため息をつく。

 

「まぁ。ため息をつくと幸せが逃げてしまいますわよ?」

 

「そんなの、ただの迷信ですよ…。それにもう大分幸せには逃げられてますので」

 

「お悩みでしたら、私が占ってさしあげましょうか?私、こう見えても占いができるのですわよ?」

 

(こう見えてって…、アンタは実に奇妙な占い事をしてそうな人だよ)

 

「いいえ。お断りしておきます。信憑性がないので」

 

アルスは即答するともう話すことはない、とでも言うように歩きだした。

 

「残念ですわねぇ。信じる者は救われる、という言葉がありますのに」

 

「信じても、裏切られたら?」

 

「おや、ということは占いを信じるのですか?」

 

「質問に答えてください」

 

アルスの視線はロダリアを逃がさなかった。アルスはロダリアを少々疑っている、それだけは事実だった。そう、あの薬莢といい、弾痕といい。だがそうなるとまるで動機が分からない。そもそもそれなら何故俺たちを引き止めてまで一緒に調査についてきた?証拠を隠滅するため?監視するため?それが理由だったらまるで成功していない。仮にもしロダリアが犯人だったとしたら、一体彼女は何がしたかったのだ。

 

「裏切られる、ねえ…。でもまあ所詮占いですから。裏切られるなんて多々あることだと私は思いますわ」

 

(うまくかわしたか…)

 

「そうですか。ご意見ありがとうございました」

 

「フフ、どういたしまして」

 

ロダリアはそう言うと、あの歩きにくそうなドレスで優雅に去っていった。恐らくルーシェ達と合流するのだろう。

 

(やはりどうも信用ならないな、あの人は。だがかなりの情報通だ、もしかしたら俺の正体にも気づいているとか?)

 

アルスは自嘲ぎみに笑うと

 

(いや、それはありえないか流石に…。スヴィエート人ならともかく、他国の者が知っているはずがない。名前位なら知っている人もいるかもしれないが、あだ名までは…流石に……な)

 

「俺もガットと合流するか…。」

 

女は女。男は男。しかし見知らぬ土地に一人でいるのはやはり不安ではある。だがアルスに女性陣と合流する勇気がない。ルーシェはともかく居心地的な意味で。

 

「適当にぶらついているだろう。探すか…」

 

アルスはそう言うとガットが進んでいった方向へ足を進めた。

 

 

 

「いた…。って何してるんだ?あの人?」

 

ガットは確か情報を集めると言っていたはずだ。だが目の前にはどう見ても女を口説いているとしか思えないチャラ男の姿がある。俺には見せないとびきりの笑顔で話している。

 

「あの野郎…!」

 

ガットが口説いている女性は黒髪に茶色い瞳。典型的なアジェス人顔の女性だった。無論、国民全員黒髪というわけではないが多いのは確かだ。女性は戸惑っているが明らかに迷惑そうだ。だが、一方的すぎて言い出せない状況、と言ったところか。

 

「何やってるんだ?お前は…?」

 

「よぉ、アルス!俺様こうして立派に情報集め…っ!」

 

アルスはガットの額に拳銃を突きつけた。目は完全に据わっている。汚物を見るような目で。

 

「…ちょ、冗談だって……、マジで」

 

ガットは思わず手を挙げる。

 

「そうか、ならいい。そこのお嬢さんもすいませんでしたね、この緑が迷惑をかけたようで」

 

「いっ、いえいえ…。では私この辺で…」

 

控えめに、だがそそくさと立ち去っていく女性。

 

「今度お茶でもしようグフッ!?」

 

今度はガットの溝に肘うちをした。

 

「ええ、俺と少しお茶でもしましょうか。集めた情報とやらをしっかりと聞かせてもらいますよ?ガットさん?」

 

アルスはあえて敬語で、敬称をつけて言った。

 

「野郎とお茶してもなんも嬉しくねえよ!!」

 

 

 

ナンパしていたガットだが、一応情報収集はしていたようで。とりあえず場所を変えて女性陣と合流するために先程の桜の広場まで歩きながら話す二人。

 

「盗賊団?」

 

「おう、最近のアジェスはなにかと物騒らしくてな。原因は主にその盗賊団らしい。なんでも川を渡る商人の乗った舟を襲っては強奪して、場合によっちゃ殺すらしいぞ」

 

「それは、シャレにならないな」

 

「な。殺しとなるとキツいな。でよ?何でもここから東にあるシャーリンっつー付近にあるこのバイヘイ湿地って所で、カヤと思わしき人物を目撃したって奴が船乗りにいたんだ」

 

「そうなるとその盗賊団、かなり怪しいな。盗賊団と言うからには、そこにカヤが入っている可能性は極めて高い。殺しまでする卑劣な奴だったとは」

 

「そそ。俺様情報集めちゃんとしてたってこと。あらかた集め終わったからナンパして暇つぶしてたんだよ……。とにかく、カヤを追いかけるにはシャーリンに行ってみるっきゃねぇ」

 

ガットはそう言うとおもろに地図を取り出した。アジェスの国土が示されている。

 

「ここが俺たちのいるヨウシャン。シャーリンに行くには、主に舟だ。このサンハラ川を下っていく」

 

ガットは川を指さした。ヨウシャンとシャーリンの間には、大きな川が通っていた。世界一長いと言われているサンハラ川だ。

 

「じゃあ、俺達もその舟ルートで行くべきか」

 

「俺もそう思ってさっき船着場に行ってみたんだけどよぉ、それが無理らしいんだよ」

 

「え?どうして?」

 

「さっき言っただろ?盗賊団だ。奴らはヨウシャンとシャーリンを結ぶこの川の航路に海賊の如く出没しては金品やら食物やら貿易品やらをかっぱらっていく。それと何でも今は川の水かさが増えてサンハラ川はちっとばかし氾濫気味らしいぞ。んな危険に危険を重ねた状態なのに舟なんか出せるかってな」

 

「……そうゆう事か…。アジェスの政府は何をしているんだ。全く」

 

「船着き場のオッチャンの話によると、政府は、まるで役にたってねぇそうだ。あたかも事件を黙認してるかのようにってな」

 

「黙認……?まさか、賄賂や買収、その手の汚い話がアジェスには蔓延(はびこ)っているのか?」

 

「……さぁな。何かなぁ、ロピアスの爆破事件と言い、このアジェスのタチの悪すぎる盗賊団といい、最近世の中物騒になってんなぁ…」

 

「さっさと女性陣と合流して話を伝えよう。物騒な世の中らしいからな」

 

「さんせー」

 

 

 

桜の広場までくるとフィルとロダリアがこちらに気づいたようでこちらに合図を送る。

 

「フィル、ルーシェはどうした?」

 

「ウム、さっきまでお花見していたのだが急にあのでっかい木に向かって走り出したぞ」

 

「?なんで木に?」

 

ガットは不思議そうに聞き返すとロダリアが答えた。

 

「何かに呼ばれているみたいでしたわね。あの子の不思議ワールドに私はついていけませんでしたが」

 

「呼んでる?誰に?」

 

「さぁ?そこまでは私も」

 

ガットは首をかしげた。

 

「俺が様子見てくる。ガットは先に2人に説明を頼む」

 

「えぇ〜、めんどくせぇなぁ。へいへい……」

 

アルスはリューランの木に向かって桜で囲まれた道を走っていった。

 

 

 

リューランの木の根本。根がいたるところにあり一体この木は樹齢何年なんだ、と疑問を持たざるおえない。ルーシェはすぐに見つかった。全身を木にもたれかけ片耳を当てている。

 

「何してるんだルーシェ?」

 

声をかけるとルーシェははっとしてこちらを振り返る。

 

「あ、アルス。えっと、なんかね声が聞こえたの。このリューランの木から聞こえたんだよ」

 

「はぁ?木が喋ったのか?」

 

「あ!その顔は信じてないでしょ!ホントなんだから!誰がなんと言おうと聞こえたの!」

 

「俺は聞こえないが」

 

「さっきは聞こえたの!おかえり、やっと帰ってきてくれたんだねってっ!」

 

「何か変な電波でも受信したんじゃないか?」

 

「何それー!?もぉー!ひっどーい!」

 

懸命に訴えるルーシェだがその手の類いの話は全くと言っていいほど信じないアルスは

 

(確かに彼女の不思議ワールドだな)

 

と、完全に信じずに適当に流していた。

 

「もうー!本当だよ?嘘なんかついてないからね?」

 

「分かった分かった。とにかく急にいなくならないでくれ。心配するだろ」

 

「あ、そうだよね、ごめんなさい」

 

しゅん、とルーシェは落ち込むが、さっきまでムキになっていた彼女は本当に感情豊かで見ていて飽きない。

 

「さ、戻ろうルーシェ」

 

「そうだね。わっ!」

 

足場が悪く、根から降りる際に体勢を崩したルーシェは倒れそうになる

 

「ッルーシェ!」

 

咄嗟に彼女を支えるアルス。が、彼の足元も根がいたるところにあり二人とも地面に倒れこんでしまった。

 

「ルーシェ!大丈夫かっ…てわぁ!?」

 

アルスは倒れる衝撃に思わず目をつぶったが、目を開いてみると。

 

「う、うん。なんとか」

 

端からみるとルーシェがアルスを押し倒しているように見える。しかも密着しているのでアルスに彼女の胸が当たっている、その影響でかなり動揺するアルス。自分の状況にやっと気づいたルーシェは急いで立ち上がる。

 

「ああっ!ごっごめんね!アルス!痛かったでしょ!?私の為なんかに!」

 

「いいや!むしろラッキ…、いや何でもない!!」

 

アルスは言いかけた言葉をしまうと立ち上がり、土ぼこりを払った。

 

「よ、よ、よし、俺は大丈夫だから。今度こそ戻ろうか」

 

動揺を隠しきれないアルスだったが、あのルーシェは案の定、気づくはずもない。

 

「うん!」

 

 

 

「んで……、舟が出せないとなるとどうすっかなぁってさっき俺ら話してたわけ……って、よぉ、遅かったな」

 

桜の広場まで戻るとガットが地図を片手広げこちらを見た。

 

「見つけるのに時間がかかりまして」

 

「ホントかぁ?」

 

「本当です」

 

きっぱりと言いのけるアルスにガットは「ふーん…」と、生返事をすると

 

「ガット!私、木の声が聞こえたの!凄いでしょ!?」

 

「は?」

 

「リューランの木の声がしたの!」

 

「…、アルス、通訳頼む」

 

「いや、俺もサッパリだ。言えるのは言葉通りとしか。でもさっきからこの言い様だと嘘ついている様子でもない……んだが」

 

「だから!嘘じゃないんだって!」

 

「分かってるよルーシェ」

 

「あら?随分と信憑性のない出来事にしては彼女を擁護するのですね。フフ、これも愛の力なのでしょうか?」

 

「ぐっ、うるさいですよロダリアさん!」

 

「まあ怖い、あなたも大概青いですねぇ」

 

青い、という単語にルーシェが反応する。

 

「青い?確かに青いけど、アルスは確かに青いけど……?」

 

「あ、いえ…、そのような意味で言ったのではないのですが…」

 

ルーシェの天然な巻き返しにロダリアは思わず詰まる。

 

「おい!なんでもいいから早く話を進めろガット。小生は早く冒険に出たいのだ!」

 

おいてけぼりを食らったフィルは飽きたとでも言うように訴える。

 

「冒険って…、そんな生半可な気持ちで行くとこの先後悔するぞ?」

 

ルーシェが首をかしげた。

 

「え?この先の予定ってもう決まったの?」

 

「ああ、大分決まった。よく聞いてくれ」

 

ロダリアとフィルは既に少しガットから話を聞いている。ルーシェだけは聞いていなかったのでアルスはあらかた話し出す。

 

「これから行くのはシャーリンという町だ。首都のリューランの大樹から流れるサンハラ川の下流に位置する」

 

「川?なら(いかだ)とか舟とかで下っていけないの?」

 

「それは俺達もすでに考えた。だが情報によると最近は川が氾濫し、まともに下れないらしい。盗賊団も出る話のせいもあり、誰も舟を出してくれない。普段はこの手段でシャーリンに行くらしい。シャーリンの住人も川を上って交易するそうだ。アジェスにとって、川が交易路なのだろう。そして、盗賊のカヤの件だが…」

 

アルスはガットの方を見た。

 

「船着場のオッサン達の情報によると、シャーリンの近くにあるバイヘイ湿地でカヤを目撃した奴がいた。予想だが、俺らはその盗賊団はバイヘイ湿地を根城にして陣取ってるのかもしれねぇっつー結論に至った。襲われた舟が多いのはシャーリン付近だからな。アジトがあるかもって話だ。カヤがそのメンバーとして入っているなら、シャーリンに行き、情報を集めるのが得策だ。何たって盗賊団…だからな」

 

「カヤを追いかけるいう事はまずバイヘイ湿地に近いシャーリンに行く事だ。勿論、川が使えないから、陸路でな………」

 

アルスはげっそりした。しかしフィルは不思議そうに聞いた。

 

「何だ?歩けばいい話だろう?それがどうした?」

 

「ハァ、子供はいいな。気楽で」

 

「何だとコラ!?勿体ぶってないできちんと子供にも分かるように説明しろ!」

 

ロダリアがフォローをいれた。

 

「地図によるとシャーリンに行くためには、まずホランの森、という所を通ります。この場所はアジェス人が死んだらここに埋める、という感じでして。つまり墓地と森が一緒になっていますの。森の中に墓地が沢山あるのでしょうね」

 

「「え…」」

 

ルーシェとフィルは固まった。

 

「そしてその森を抜け、またしばらくすると、バイヘイ湿地に到着します。ここが最も大変でしょうね。湿地、という言葉からして足場がかなり悪い事を想定しておいてくださいね?無論腐海が侵食している場所もありますわ。まぁとりあえずそこを抜ければ、シャーリンに到着、という訳ですわ。そこで情報収集した後、バイヘイ湿地を調査、といった所でしょうか。流石に森を抜けてまたそのすぐ後バイヘイ湿地を探索なんて、休憩がありませんからね」

 

「ロダリアさんの言った通りだ。冒険、は過酷になるぞフィル」

 

「うっへぇ…、墓地…!?聞いただけで萎えるぞ!」

 

「川に沿って地図を見ると見事に森を通っている。言っておくがこれは最短ルートだ。アジェスという国はこうなんだ。仕方がない。あと、腐海がある分、技術が発達しにくいのだろう。腐海や湿地の上にレールなんて引けないからな。スヴィエートとロピアスと違って」

 

「うう…、アルス!何でよりによって墓地と森一緒にするのかなぁ!?」

 

「俺に言わないでくれ。アジェスのしきたりなんだから」

 

「暗いしジメジメしてるぞ~?オバケとか出るかもな!」

 

ガットはにやけながらルーシェに言う。

 

「オ、オバケ!?ガットさん!!からかわないでくださいよ!」

 

「そそそそうだぞ!ガット!フン!オオオオバケなんているはずない!」

 

と、言いつつもフィルの足は震えている。

 

「まぁ、オバケに会えるなんて。人生初ですわ。是非ともお会いしてみたいですわね。オバケに」

 

「ロダリアさん…、そんな悪ノリ大人がしないでください。オバケなんていませんよ」

 

「何でもいいけどオバケって響き的に可愛いな。幽霊とか怨念とか呪いとかの方がおぞましい感じ出るな」

 

「お前、それすごくどうでもいい…」

 

──────目的地が決まった。当初はカヤを追いかけてここまで来るとは思いもよらなかったが。


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