テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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テイルズシリーズ初!ゾンビの仲間!(笑)


ラオ

可笑しな奴が仲間になりかかっている。そう、とても可笑しな奴。まず出会いからして普通じゃない。

 

「僕ラオ!よろしくネ!」

 

もう仲間になりました、とでも言わんばかりの口ぶりのラオ。彼はゾンビである。墓から出てきた人間、で、あった。

 

「よろしくネ!、じゃねーよ!何勝手に甦ってんだ!成仏しろよ!」

 

ガットがツッコミを入れた。

 

「甦った理由なんて僕にも分からないんだよネ。でもなんか、ナンカ呼ばれたような気がして」

 

「呼んでねーよ!誰一人お前なんか指名しちゃいねぇ!」

 

「そ、そうだぞ!ゾンビ!黄泉に帰れ!ナンマンダブナンマンダブ…」

 

「わ、私もそう思います…よ?ゾゾ、ゾンビなんて…!」

 

「何か成仏出来ない理由でもあるのでしょうか?」

 

と、ロダリアが問う。

 

「あー、そうかもしれないネ。でも僕自身もそんなの分からないや」

 

「全く、とんでもないのに出会ったな俺は…、城を出てからといいロクな目に合わん…」

 

アルスがそう小声で呟くとラオが近づいてきた。

 

「ネェネェ、君。ホントに僕と会ったことない?」

 

アルスにとってそれは意味の分からないただのゾンビの戯れ事だった。

 

「会ったことありません。分かりやすく言って差し上げましょうか?ゾンビなんぞと関わりたくもないです!」

 

ラオは不思議そうに首を傾げた。

 

「ンー?あ、ちょっと待ってヨー」

 

ラオは背を向けたアルスの手を掴んだ。

 

「なん…だ!?」

 

するとラオの手とアルスの手が光った。それは何かが繋がったように見えた。

 

「お?」

 

「なっ!」

 

アルスはまたあの頭痛に襲われた。だがそれと同時に視界がホランの森から全く違う風景になった。

 

──────船の上、自分を取り囲む人々、その向こうに見える…、大きな刀を手に持ちフードをかぶった恐ろしい人物…。フラッシュバックのように場面が切り替わっていった。

 

視界が閉じていき、森の風景に戻る。ほんの一瞬の出来事だった。

 

「何だ、何なんだ今の…?」

 

「アララ?潔癖症?ゴメンネー」

 

「お前今俺に何をした!?」

 

アルスは思わず声と口調をキツくした。

 

「え?いやいや、ただ触っただけだヨ?ホントにそれだけだヨ?怒った?」

 

「何だったんだ?今のは…」

 

アルスもラオも、理解できない現象が起こったことは事実だった。

 

と、

 

「見て!森の出口!やっとここから出られる!」

 

ルーシェが指を指し叫んだ。森の景色が開け、草原に出た。その横にはサンハラ川が見える。この川の先には今度はバイヘイ湿地がある。

 

「君たちこの森を抜けてきたの?なかなか凄いネェ、ここアジェス人でも墓参り以外は絶対に来ないヨ?それに来ても1年に1回か来ないかのカンジ」

 

「貴方はアジェス人なのですか?」

 

ロダリアが聞くと元気良くラオは答えた。

 

「ウン!バリバリのアジェス人だヨ。出身はシャーリン!」

 

「シャーリン!?」

 

ガットは驚いた。なぜなら自分達の目的地だからだ。

 

「ンー、アジェス人として忠告してあげるけどこの先のバイヘイ湿地は通らない方が懸命だヨ、昔からあそこは底無し沼があったり、なんせ腐海もあるからネ。まず素人が切り抜けられる環境じゃないヨ」

 

「え、ええ?またまたご冗談を…、ゾンビさん…、アハハ…」

 

ルーシェは顔面蒼白になる。

 

「せっかくここまで来たのに!小生は戻るなんて反対する!なぁ!師匠?」

 

「私はアジェス人ではありませんからねぇ…、さてさて、どうしたものでしょうか」

 

「…、おいゾンビ」

 

ガットはラオに向かってドスの効いた声で言う。

 

「さっきの話、嘘じゃねぇだろうな?」

 

「嘘ついてどうすんのサ」

 

ガットはアルスを見ると、彼は頷いて言った。これはもうある一種の賭けだ。

 

「どうやったらシャーリンに行ける?」

 

「そりゃーもちろん!筏でゴーだヨ!」

 

「イカダデゴー?」

 

ルーシェは返す。

 

「そーそー。イカダで川を下るんだヨー、川はリューランの木から流れてる訳だし、それはシャーリンに続いてるってワケ」

 

「だが、それは無理なはずでは?あのサンハラ川は今水かさが増し、氾濫状態なはず…」

 

アルスはそう言った。 そう、このホランの森陸路でを抜けてきたのは舟を出してくる人がいないのと、川の氾濫のためだった。

 

「エ~?そう?この程度なら渡れるっショ?」

 

ラオはサンハラ川を見て言った。アルスにはとてもそうは思えない。流れはかなり急で、しかも早い。

 

「おい、ゾンビ、お前はは川下る技術知ってるのか?」

 

ガットが言った。

 

「あったりまえジャーン、こんなのシャーリンでは普通の教養だったヨ?」

 

「…、ホントにホントに大丈夫なんだろうな?」

 

「ホントのホントに大丈夫だってー」

 

「じゃあ俺達をシャーリンにつれていけ」

 

「お安いご用~って言いたいんだけど、筏がないヨ。作らないと」

 

「確かにそうですわね」

 

「え?そんなホイホイ作れんのか?」

 

「材料さえあれば作れるよ~」

 

「で?その材料ってのは?」

 

ガットが訪ねると、

 

「えっ~と、神木(しんぼく)魔美蔓(マビヅル)だヨ。昔から材料はコレって決まってるんだよネ」

 

「マビ…ヅル…?何ですかそれ?」

 

「マビチュラルっていう魔物から採れるツルで、メチャクチャ丈夫な紐って思ってくれればいいよ、因みに神木はトレントっていう魔物から採れる」

 

「俺は神木は聞いたことがある、アジェス産の高級木で質がいい。マビチュラルは初耳だが…」

 

ロダリアは何かを思い出したように言った。

 

「そういえばマビチュラルという魔物はツルを自在に操り餌を捕まえると、聞いたことがありますわ」

 

「え、師匠それ大丈夫なのか?」

 

「人間も食べるかもしれませんねー?ウフフ」

 

「エエエエエエ!小生そんなの嫌だ~!!」

 

「そんなこと言ったってしょうがねぇだろ!」

 

「早く材料集めしましょう!こんなところもう早く出ていきたいのに…!」

 

「ルーシェ、本音がだだもれだぞ…」

 

「でもそんなに簡単に見つかるのか?」

 

「あーえっとネ、トレントはそこらへんにいる魔物だけどマビチュラルはちょっ~と厄介かなぁ」

 

確かにロダリアの言い分といい一筋縄では行かない魔物そうだ。だがこのまま立ち往生していては時間の無駄である。

 

「理由はともあれさっさと済ませないと日が暮れてしまう、急ぐぞ」

 

「お兄さんいいリーダーシップ!そうと決まればまずは皆の名前教えてほしいな!ボク仲間になったばかりだし!」

 

得意気にラオは言うが仲間にした気はない、そうアルスは言いたかったがあの現象といい今の状況といい、もう仲間でいいか、と思った。

 

「俺ガット」

 

「アルス」

 

「わ、私はルーシェです。ゾンビさん…、あ、いえラオさん」

 

「小生は小生だ!」

 

「私はロダリアですわ。この子はフィル」

 

「オッケー!よろしくネ皆!じゃ!まずはトレントから!」

 

 

 

トレントの神木とやらは皆の力をあわせて倒せば楽な魔物だった。だが驚いたのはラオの戦闘力だ。アルスもそれには目を見張った。素早い身のこなし、近距離タイプの術、アジェス独特の武器を用いた格闘技。どれも実力は高い。

 

「これだけあれぼ大丈夫だろ。神木は集まったな」

 

集まった神木をまじまじと眺めてガットは言う。

 

「うん!バッチリだヨ!あとはマビチュラルだネ」

 

「で?その魔物はどこにいるんですか?」

 

「マビチュラルは基本何でも食べる植物系の魔物でネ。それこそ人間も食べちゃう。でもそいつには好物があって…」

 

「好物?」

 

アルスは少し予想が着いた。だがそれと同時にその予想が当たってほしくないと願った。

 

「ま、まさか…」

 

「そのまさかなんだよネ~、そう、この神木だヨ~」

 

「ナニィ!?」

 

フィルは自らのエヴィ糸で縛っていた神木を驚きのあまりぶちまけた。

 

「ああ、フィル、せっかくまとめあげたと言うのに…」

 

ロダリアは嘆いた。だがそれどころじゃない。地響きが聞こえる。それと同時に、何かを叩きつけるような音も聞こえる。

 

「あ、この音、来たヨ~、マビチュラルだネ」

 

ラオの言う通り、マビチュラルがザッと茂みをかき分け現れた。

 

「うぉっ!?なんだこいつ!?」

 

「キモチワルっ!」

 

「く、蜘蛛!?」

 

形容するならば蜘蛛、だが蜘蛛最大の特徴のあの足は木の根で構成されており、吐き出す糸はツル。木と蜘蛛が融合したような魔物だ。

 

「うげっ、これは…」

 

「面白い魔物ですわねぇ」

 

マビチュラルはアルス達には目もくれず集めてある神木へと一直線に進行している。

 

「させないヨー!それっ!」

 

ラオはマビチュラルの進行方向に向かって札がくくりつけてあるクナイを地面に向かって投げた。すると落下点は爆発を引き起こしマビチュラルは仰け反った。

 

「おいっ!火事になったらどうすんだ!?」

 

「ならないヨーに気を付けてるけどサ、弱点炎なんだヨ、ツルも火じゃないと焼き切れないし」

 

「マジかよ…、俺炎系使えねぇし…」

 

「ガットは下がってろ、邪魔だ」

 

「おいコラ!邪魔はねぇだろよ大将、俺様の剣技なら炎使えないなんてちょうどいいハンデだぜ?って無視すんな!」

 

アルスは喋っているガットを無視し戦闘に向かう。

 

(炎が弱点か…)

 

アルスは神経を拳銃に集中させた。

 

(ここだ!)

 

「追尾せよ炎弾、エイミングヒート!」

 

短い詠唱を唱え、銃口から出されたのは炎のエヴィ弾。アルスの拳銃は切り替え式で鉛弾、エヴィどちらとも撃てる。能力を決めるのは銃を持つ本人のエヴィ操作の実力と射撃能力だ。炎が弱点、マビチュラルは奇声を発し、炎から逃れようとする。だがそれと同時に反撃のツルの攻撃が飛び交う。

 

「わっ、すごいねアルス…」

 

「ルーシェ、お前も下がってろ、危険だ」

 

「うん、分かった、でも怪我したらすぐに治すからね!」

 

「ああ、ありがとう」

 

ルーシェも自分の役割は分かっていた。自らの非力な力では到底役に立てない。役に立つ最大限の事で自分に出来ること、傷を癒すことだ。

 

「かー、あんな見事に見せつけてくれちゃって~、すごいねぇ大将は」

 

頭をボリボリかきながらガットをはマビチュラルに近づく。

 

「ま、そゆことで俺も負けてられないっつーか、別に力合わせりゃ使えるって事を見せつけてやりますか〜、おいルーシェ!例の合技いくぞ!」

 

「あ!うん!分かった!」

 

太刀を構え、一気に突っ込む、動き回るツルを華麗にかわし近づいて行った。

 

「焔よ!彼の者に眠りし力を引き出したまえ!フレイムオフェンス!」

 

ガットはルーシェの火のエヴィの補助技の恩恵を受けるのを感じた。そして飛び上がり、

 

「獅吼爆炎陣!!」

 

それは獅子戦哮《ししせんこう》を強力化した炎技だった。太刀から生み出された強烈な爆炎は足に燃え移る。悲鳴をあげバランスを崩したマビチュラルは倒れこんだ。

 

「チャンスですわね、私も参加いたしますわ」

 

ロダリアの足元に光陣が浮かび上がった。

 

「力を封じよ、リブレット!」

 

ロダリアが唱えた光術、リブレットの効果でマビチュラルの厄介なツル攻撃が止まった。

 

「よっしゃ!あとは小生に任せろ!」

 

ツルの攻撃がやみ、待ってましたと言わんばかりにフィルは飛び上がった。自身のエヴィ操作でうみだしたエヴィ糸でトランポリンのようなモノを作り出してはそれに乗っかり、跳ねてマビチュラルの回りを飛び交う。

 

「何してるの?アノ子」

 

不思議に思ったラオはロダリアに訪ねると

 

「フィナーレへの前準備ってところですかね、まぁ見てれば分かります」

 

「フィナーレ?」

 

「よし!こんなものか」

 

飛び跳ね回る作業をやめ、地面に降り立った。マビチュラルの正面に立つフィル。マビチュラルは最後の力を振り絞った。一本の太いツルがフィルに降りかかる。

 

────危ない!

 

誰もがそう思うはずだ。そしてルーシェがそれを口に出した。

 

「フィルちゃん!危ない!」

 

それと同時だった。コツン、と何かを大叩く乾いた音が響いた直後、

 

「キュイーーール!!」

 

そうフィルが言い放つと、マビチュラルは燃え上がった。正確に言うと足をすべて焼き切られた、と言ったところか。

 

フィルが糸トランポリンで跳ね回っている際に地面に糸を打ち付け陣を描く。そうして囲み終わったあと、術式展開の合図として杖を強く地面に叩きつけそれに反応し術が発動したのだ。

 

グオオオオオオ!!と咆哮しマビチュラルは戦闘不能になった。

 

「すっ、すごーい!フィルちゃん!流石!」

 

「フッ、それほどでもあるがな!!なはは!」

 

「あいつ、すげぇーな、糸で術を発動しやがった」

 

「彼女なりに努力してうみだしたのだろう、すごいな」

 

「フハハハ!これであの鳥に捕まれて危うくお役御免になるところだった時の汚名は挽回したな!」

 

「汚名挽回してどうするんです、汚名返上でしょう?」

 

「ハッ!ちっ、違うぞ師匠!今のはわざと間違えてつっこまれるのを待ってたんだ!皆の言葉力が鈍ってないか確かめるためにな!」

 

「ナニソレ…、でもすごいネ、素直に。これでイカダが作れるヨ」

 

ラオは戦闘不能に陥ったマビチュラルのツルを赤い札をくくりつけたクナイで切った。

 

「これだけあれば大丈夫カナー、このツル面白いんだヨ、火にはめっぽう弱いけど水に対して完全に耐性を持ってるんだ、しかも水があればるほど頑丈になるというイカダにとってこれ以上最善の材料はないネ!」

 

「で、ラオさん、イカダはどれ位で作れますか?」

 

「頑張れば一晩あればできるネ。ボク別に寝なくていいし」

 

「…、では俺たちも手伝うとしたら?」

 

「素人にはムリムリ、専門にまっかせなさーい!」

 

「だが、俺たちあまり時間がないんだ、何か手伝えることは…」

 

アルスは引かなかった。時間がないのは事実なのだ。だがそれと同時に疲労がもうかなり溜まっている。ロピアスからアジェス首都まで一日。首都からここまでまた一日。かなりハイペースだ。

 

しかもこの森を抜けてきたのだ、無理もない。もう時刻は夕方だ。アルスが知るスヴィエートとは全く違う感覚で、暗くなるのが早い。

 

「あのネー、アジェス人からまたアドバイスなんだけど。アジェスは夜が来るのが早いの。それに夜はまーっくら。月明かりなんて役にたたないし、それに急がば回れっていうアジェスの言葉があるのサ」

 

「アルス、私もラオに賛成ですわ。皆疲労困憊です。今日はここら辺で休んで明日に備えてみては?」

 

「…、そうですね。貴女の言うとおりです。休みましょうか」

 

「えー!野宿~!?小生やだなぁー…」

 

「あ、その事なんだけど、さっき森の出口に小屋があったのを私見たよ」

 

「あー、それ俺様も見た。多分墓を管理するとかそんな感じの小屋じゃね?」

 

「なら今日はそこに泊まろう、確かに俺も疲れた、頭痛も気になるし…」

 

「決まりだネー、じゃあ行きますか!」

 

 

 

小屋は意外と片付いていて、パーティ一行は安心して泊まることができた。だがラオだけは眠らなかった。イカダを作っていたという理由もあるし、ゾンビだから眠らないというのもあるかもしれないが、理由は不明だ。

 

「何だろ…、ナニか突っかかってるんだよネ…。アルスって言ってたよネ…」

 

イカダを作りながらブツブツと呟きながら。

 

 

 

ルーシェの料理を食べたあと皆、それぞれの行動に移っている。ガットは眠そうに欠伸をしながら刀磨き。ロダリアは占い。フィルとルーシェは既に就寝。ラオはイカダ作り。そしてアルスはというとなんとなく小屋の外にでた。

 

「あるす?」

 

その様子に気づいたルーシェは少しを眠気を我慢してアルスを追いかけた。アルスは座って空を眺めていた。黄昏るように。

 

「何してるの?アルス」

 

「!ルーシェか…、どうしたんだ、こんな時間に」

 

「アルスが出ていくのが気になって…、フィルちゃん以外皆まだ起きてるけどね」

 

クスリと笑いアルスの隣に立つ。

 

「フッ、よく追いかけてきたな。怖かったんじゃないのか?こんな暗いのに」

 

「そ、そんなのお互い様だし…。そんなことよりもう頭痛は平気?」

 

「ああ、大丈夫だよありがとう」

 

「よかった…、怪我とかはない?痛いとこある?」

 

「ないよ。大丈夫大丈夫」

 

心配性な彼女は深く聞いてくる。アルスはそれが嬉しいし愛しくなって自然と笑顔になる。

 

「アジェスとスヴィエートってこんなにも違うんだね…、それにロピアスだって。あんなに穏やかなんて。冬と夏しかないスヴィエートじゃ嘘みたい」

 

「スヴィエートの夏なんてほんの2ヶ月程度だからな。だけどアジェスと違って暗くなるのは遅いし月明かりはとても明るい」

 

「異国なんだなぁー、って思うよ。あ、でもねスヴィエートは明るいのはね!ルナとアスカの仲がいいからなんだよ!」

 

「…、何の話だ?」

 

アルスは怪訝な顔になった。またあの木が喋ったとかそのような類いなのでは?

 

「アルス知らないの?おとぎ話であるじゃない!月に住んでいるルナっていう女神様が地上にいる友達のアスカと仲良くお話しているから月が明るいんだよ。それでスヴィエートは日が沈んでも明るいの!」

 

「おとぎ話…、へー。そんな話があったのか…」

 

「やっぱり、皇子様とかだと、知らない…?」

 

ルーシェは遠慮しながらも恐る恐る聞いた。だが返答は複雑なものだった。

 

「そうだな、俺は母親も父親も死んでいる。親といえばハウエルっていう執事だった。あとは身の回りを世話するメイド。メイド長のマーシャっていう人が俺の母みたいな感じだ。父親がハウエル。年齢的には祖父母に近いが」

 

「その人達に、本とか読んでもらえなかったの?」

 

「うーん、なかったな。読む本といったら帝王学系や知識に関する本だったな。もちろん、俺がおとぎ話なんて存在知らなかったからっていう理由もあるけど」

 

「お母さんとお父さんの事知りたくなったりしない?」

 

「……父の事はあらかた知ってる。俺の尊敬する人だからな。顔も写真で見たことがある」

 

「お母さんは?」

 

「…、母がどんな人物だったのかという事は知らない。ただ残っている真実はスミラ・フローレンスという名。父を殺したこと、そして俺をも殺されかけたことだ。赤ん坊の時だけどね」

 

アルスは虚空をまっすぐ見つめ淡々と言い放った。その様子だけで彼は母を激しく軽蔑していると分かる。ルーシェは殺す、という言葉が出てきて息を飲んだ。続けて言うことには、

 

「母の事なんて知りたくもないし顔も見たくない。ハウエルに聞いても貴方様の母上に関しては何もお答えできません、ってさ。つまりそんな人だったんだよ。言葉にも言い表せない狂ってた人だと。ま、唯一疑問なのはその人と結婚した父だけど」

 

「…、ちょっとだけアルスの事が分かったよ。でもなんだか羨ましいな、両親の事が分かるって。私にとって女将が家族だけど、所詮捨て子だし…、でも。でもね、やっぱり両親のことは知りたいって思うよ」

 

「捨て子だったのか?ルーシェは?」

 

アルスは目を丸くした。そんな真実があったとは。

 

「うん。だけどね下町はあんな環境だったし、一概に両親を恨んだり、軽蔑したりはしてないの。もちろん何で捨てたのっていう疑問はあるけど。もっと知りたいのは、私が何故あの治癒術を使えるのか。それと捨てたことに関係があるのか、とかね」

 

「…俺もルーシェのこと今少し分かったよ。話してくれてありがとう。辛かっただろ」

 

ルーシェは目をぱちくりさせ首を激しく横にふった。

 

「ううん!そんなことないよ!それに、アルスの話だって辛いことだったでしょう?私、こんなこと話せる友達いなかったから…」

 

「ああ、俺もだ…」

 

友達扱いされていることに若干に少し落ち込んだアルスだが、表情には出さない。

 

「さ!話し込んじゃったね!そろそろ帰ろ?」

 

「そうだな」

 

2人は立ち上がると小屋のある方へ歩きだした。

 

 

 

「定時報告、ターゲット…、の現在地を送りマス……。ターゲット、はアジェス国、ホランの森付近…、測定するに目的地はシャーリンと、オモワレマス。ガ、ガガ」

 

不審な機械の音と共に幼い男の子が、木の陰に隠れて言った。その声は真っ暗な暗闇のアジェスの森の中へ吸い込まれていった。


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