テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
「えーと、港、港…。港ってどこだろう?」
カイラに言われ港に行くように指示されたアルス達だが、港はどこにあるのだろうか。ルーシェは辺りを見渡しながらウロウロしている。海は見えるのだがどうやって降りるのかが分からない。
「しっかし複雑な街だなー…、入り組んでる所なんて行ったらすぐに迷っちまいそうだぜ」
ガットがラメントの街並みを見て言った。
「海が見えるんだからサ、海目指せばいつかつくっショ!」
「なんだそのド低脳すぎる発想は…」
「アレ?僕もしかして喧嘩売られちゃってル?」
「おう、そう捉らえてくれてもかまわねーぜ?所詮はその程度の言語力っつーワケだ」
「おっかしいなぁー、僕は自分の故郷の教えに従ったまでだヨ?その程度で言語力とか言われたらたまらないネ」
2人の間にまた険悪なムードが流れ出した。
「あいつら、またやっているのか…。懲りないな…」
遠目で犬猿同士の罵倒試合を見ていたアルスは呆れた。
「でもよく言うじゃない?喧嘩するほど仲がいいって!だからアルスとフィルちゃんもよく喧嘩するんだよ、仲がいいから!」
ルーシェは純粋に眩しい笑顔で言ったのだが、
「冗談!誰がこいつと!!」
「いっ!?」
フィルは否定の台詞と共にアルスの脛を思い切り蹴っ飛ばした。
「こ、こいつ…」
アルスは苦痛の声をあげて脛を押さえた。
「お?何だ?丁度蹴りやすい位置にあったものだったのでな。つい」
「フィルちゃん!ダメだよそんなことしちゃ!」
ルーシェは注意したが、アルスはある悪戯を思いつきフィルの目線に合わせしゃがむと両耳をおもむろに掴む。
「おっとこんなところに丁度引っ張れるものが」
「うぎゃあああああああ!?」
「アルス!?」
仕返しに、と言わんばかりにアルスはフィルの両耳を横に引っ張りあげた。ルーシェは「何やってるの!?」と講義した。
「もげるうううう!」
「ルーシェの言いつけをよく聞き取れるようにしてやってるんだ、感謝しろ。マセガキ」
「伸びるううううう!」
「フン」
アルスはパッと耳を離すとスクッと立ち上がった。
「皆さーん!!」
「ん?」
すると後ろから声が聞こえた。振りかえると先程別れたノインがこちらへやって来ているのが見える。
「ノイン!アルスが小生を虐める!!」
素早く身を翻しフィルはノインのマントの中に隠れた。
「あら?微笑ましかったですわよ?まるで親子のようでしたわ」
ロダリアが言った。
「は?ロダリアさん?」
「ルーシェが母親で貴方が父親。そんな風にね」
「ルーシェと俺が!?」
アルスの顔は一気に赤くなった。
「私、フィルちゃんが子供なら自慢の娘だね!サーカスのエースだもんね!」
ルーシェはずれた方向に注目したようだが。フィルは拗ねたようにそっぽを向いた。
「ふん、師匠まで何を言うか。ルーシェは小生のものだ。こやつはオハライバコというものだ」
ビシッとアルスに指を指すとフィルはノインからルーシェへと移動し抱きついた。
「あの、僕の存在…」
「あ、ごめんなさい!」
ルーシェは慌てて頭を下げ謝った。
ノインは誤魔化すように咳払いをした。
「ゴ、ゴホン!で、話なんですが───」
彼の話によるとなんと港まで案内してくれるらしい。興味深い話も聞けることができた。この街はわざと複雑な作りにしているらしい。海洋都市で、海からの侵入にはめっぽう強い地形だが陸から攻められて占拠されないように工夫したらしい。
「とまあ、こんな具合でして。住んでる人でも迷うことがあります。観光客が迷って道を尋ねるなんてよくある話ですよ」
「よかった、ノインが来てくれて。助かるよ」
「いえいえ、お気になさらず」
心底ノインの道案内に感謝してはいるが、内心では格好のせいか、胡散臭い。というイメージしかアルスには抱けなかった。だがフィルがなついているということはある程度の信用はあるのだろう。勿論、子供を騙すなんて簡単な事だが、ノインにそれが出来るようには思えない。なんというか、本当にフィルを大切に思っているかのようだ、兄妹のように。
「まあそんな街の作りだけど、スヴィエートにあっさり占拠されたらしいんですけどね」
「あ、はは。それは…」
「きっと高を括っていたんでしょう。まさか攻めてくるなんて…ってね。油断大敵とはこうゆう事を言うのでしょうね」
アルスには心当たりがあった。第2次世界対戦時、確かにここはスヴィエート軍によって陥落した。原因は明白。そう、油断だ。スヴィエートのスパイの工作活動や飛行偵察部隊が着々と手引きを進める中、この街はスヴィエートなんぞに負けるはずがない、そう言っていつものように賭けをしていたのだろう。
(まさか陸から攻められるとは思いもしなかったのだろうな、彼らは…)
海に接している為、防御ラインを海に引き過ぎた。陸の守りは油断していて手薄だったのだ。アルスは昔習った歴史の事を軽く思い出しながら、街並みを眺めていった。
「着きました、ここが港です」
坂を下り視界が開けると海が広がっていた。
「わー、近くで見ると更に綺麗!」
「ホントだ!ルーシェ!海が光っているぞ!」
「あ!おーいこっちやこっち!」
カイラの声がし、アルスは目を向けた。
「これやこれー。この船!コネの力はええなぁ!」
「あの人…、確か店長がカジノでムグッ!?」
ノインが言おうとした言葉をカイラは塞いだ。
(…、まあ大方彼がカジノで何かをやらかして、それをネタにゆすられたんだろう…)
アルスはそう予想した。
「でもな、流石に直通は無理や。やっぱスターナー島行かなアカン、燃料の問題もあるんやけど、それ以前に領海侵犯で木っ端微塵にされてまう」
「大丈夫です。ありがとうございます。そこまでして頂いているんですから」
「話が分かるなぁ、皇子様は」
ケラケラと笑いながらカイラは船長の背中をバン!と叩いた。彼は痛そうに、恨めしそうにカイラを見る。
「任せたで!」
と、言い去っていくカイラ、だったが
「あー、忘れとった!こいつやこいつ!このノインも一緒に連れてってやってくれや!」
突然ドンッとノインを突き飛ばした。
「え?ノインさん着いてきてくれるんですか!?」
ルーシェは目を輝かせた。フィルも期待の眼差しで見つめている。
「ヤッター!!ノインと一緒だ!」
「ええっ、カイラさん。それはまた、何で…」
アルスは問いかけた。
「当たり前やろ!この子の保護者はノインやねん!」
「…いや、ロダリアさんがいるじゃないですか」
アルスはいまいち納得がいかない。
「や、そ〜言わずに!ホンマこいつ役に立つで?光術の腕はアタシが保証する!足手まといにはならん!」
「あはは…、どうも…」
こんなにヒョロっとした男が役に立つのか?と思ったアルスだが、やはり戦力やフィルの事を考えると、
「…、分かりました。よろしくお願いします」
「あっ、ハイ。では、改めてよろしくお願いします」
ノインはペコリとお辞儀をして皆に挨拶をした。印象薄いな、と思ったのが第一印象のノインだ。カイラの差金とは言え、「いきなりだな」と、アルスは思った。