テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
「お世話になりましたー!!」
「さようなら!カイラさん!」
ルーシェとアルスは船の手すりに掴まり、港で見送る彼女に別れを告げた。
「ノイーン!!しっかりやらな殺すで!?」
「おっそろし…。はーい!了解でーす!」
アルスとルーシェが母国から逃げてきて色々なことがあった。だが、まだやり残していることはある。仲間達もそうだ。今だラオは成り行きの仲間だが、彼に居場所などあるのだろうか。仮にも今まで墓の中で眠って来た奴だ。彼の明るくムードメーカーっぷりな性格で、あまり気にはしていないようだが恐らく彼自身も分かっているのだろう。アルスと自身に何らかの関係があると。
「ハァ、女将元気かなぁ…ねぇアルス────」
アルスはルーシェのつぶやきを聞き流しながら思いにふけった。
自分が出張途中、槍を持った刺客に狙われ危うく殺されそうになった。そう、このときの刺客が恐ろしいのなんの。とにかく話が通じなくてただ自分を殺そうとする。殺気だけはものすごく、だが言動はまるで滅茶苦茶。槍という重い装備のくせしてちょこまかと器用に動き、飛び回り、人生最大の危機だった。刺し違えはしたものの彼から逃れ街へ引き返した。
常人から見れば自分は確実に致死量の血は流れていたはずだ。いくら急所は免れたとはいえ脇腹半分は抉られたのではないだろうか。にも関わらずしぶとく自分は生き抜いた。ルーシェの手によって。
偶然自分を見つけてくれた彼女はすぐさま応急措置をし、看病してくれた。だが、疑問に思った。なぜこれ程まで半日で完治するのか。彼女の治癒術は余程素晴らしく、そして、誰にも見せてはならない禁断の術だった。あの槍の男の仲間と思われる暗殺者共が、ルーシェの家までにもやって来た。
今思うと、
(アレはリザーガだったのではないだろうか?)
と思った。どうも自分の居場所は感知されるらしい。彼女は仮リザーガによって怪我をさせられた女将を治癒するために使ってしまったのだ。彼らの目の前であの禁断の術を。このまま自分は、城に逃げ込めば助かったのだろう。ルーシェやシューラ女将を置き去りにして。だが、それをしなかった。彼女は、ルーシェはこの国にいてはいけない。何故なら、治癒術師は貴重な実験体だったのだから。
行く宛もない、逃げるしかない。今彼女を守るためには…、この国から出るしかない─────
「…ルス?アルス!」
まるで走馬灯のように昔の事を思い出していた。ルーシェが何度も呼び掛けていたにも関わらずアルスはただひたすらに海を眺めていたのだ。
「私の話聞いてる?」
「ご、ごめん。聞いてなかった」
「もうっ!だから、久々のスヴィエートでしょ?女将は元気かなぁって。アルスにもそうゆう人はいないの?って聞いたの!」
「あ、ああ。やっぱりハウエルとマーシャかな。それより、シェーラさんは大丈夫だろうか…」
「でも私、大丈夫だと思ってるんだよね。そりゃ女将が怪我をしたときは心配したけど、女将って強いし!それにね、貧民街ってすごく噂が広がりやすいの。だから女将の事を心配してくれる人が助けにいってるよ、きっと。私はそう信じてる」
「…、下町の人脈か…」
確かに、徴兵制度のおかげでスヴィエートという国は伊達ではない。一般人の男でさえ鍛えているし、それをサポートする女達だってそうだ。それに、リザーガだってあんな戦争勃発計画はじめの段階から、自ら墓穴を掘る事もするまい。
「ルーシェ、国に帰っても、俺は責任を放棄するつもりはない。君がこうなったのも、全ては巻き込んだ俺の責任だ。形見のナイフの件だって、本当に申し訳ないと思っている」
アルスは目を伏せた。ルーシェは一般人として育ってきた。だが、彼女はいつも前向きだった。アルスにとってそれが良い方にも悪い方にも転がりはするが、彼女の笑顔を見ているとどうでもよくなってくる。
「大丈夫だよ?そんな気にしないで?アルスのせいじゃないから」
ほら、またその笑顔だ。アルスはルーシェに何かをを言おうとした。
「ルーシェ…、スヴィエートに帰っても…、俺と一緒に…」
「ぐぁああああ!!」
その言葉は打ち止められた。男の断末魔が海上に響いたのだ。ルーシェとアルスは急いで振り返った。その悲鳴が聞こえた方を見ると乗組員が倒れていた。しかも体を斜めに一直線に斬られている。
「っ大丈夫ですか!?」
ルーシェは急いで乗組員に近づいた。
「一体何が…!?しっかり!今手当てをしますね!」
ルーシェは彼の深い傷に手をかざした。痛みのショックで気絶している乗組員の傷はみるみるうちに彼女の力で塞がっていった。
「何だ今の悲鳴は!?」
船室にいたガット達も合流する。
(…!この感じ!どこかで!)
アルスは初めてではない殺気を感じた。この感じ。この状況。アルスは急いで上を見上げた。
そこにはやはり槍を持ったあの男がいた。槍を突き立て降下してくる。
「─────ッ!」
アルスは急いでそれを避けると体勢を立て直した。
「ふん、やっぱ前みたいにはいかないか、まあいいや、よう久しぶり!会いたかったよメッチャ。お前に撃たれた傷が疼くよー、なぁーんちゃって」
男は槍をくるくると両手で背に回す。黒いコートを羽織り、赤黒い髪を揺らす。サングラスのようなゴーグルをかけ、目は全く見えない。
「お前…、どうしてこの船に乗っている…。いや、聞いたところで無駄か。生憎だが俺は会いたくなかったな」
「なーんて寂しい事言うの!あそうだー、覚えてるー?俺だよベクターだよ!趣味は人殺しかなぁ!」
「……ベクター、それがお前の名前か…」
アルスの会いたくない人物ランキング1位にベクターという名前がインプットされた。
「なにコイツ…、頭イっちゃってんじゃないの?」
ラオが率直すぎる感想を述べた。
「どっから来やがったこいつ…、タダ者じゃねーな」
「貴様、よく分からんが可笑しい奴だということは小生にも理解できた!」
「血気盛んなお人…。私そのような話の通じないタイプ嫌いですわ」
「っ!よくもうちの乗組員を!許しませんよ!」
ノインが言った。ベクターは首を傾げると舌を出してにやりと笑う。
「おー?何だお前ら。おいおい随分とお仲間が増えてんじゃねーかアルスクンよぉ」
「お前には関係ない話だろう」
アルスはとにかくコイツと話すのは嫌だった。ロダリアの言う通り話の通じる奴ではいのだ。
「まぁ、仲間なんてどうでもいいんですよねぇ~、はい。というわけで死ね!!」
突拍子もなく戦闘体勢に入ったベクターは迷いもなくアルスに突っ込んでくる。
「凍結せよ!オールザウェイ!」
アルスは素早く詠晶を唱えた。アルスの目の前から氷の壁が現れた。
「チッ!」
ベクター思わずはスピードを緩めた。
「走れ影の刃!シャドウエッジ!」
ラオは術を発動するがベクターはなんなくジャンプで避けた。しかしその避けた先に追い討ちを仕掛けんとフィルが糸を手にかけた。
「キルッシュクロス!」
手を交差させ糸でV字型の衝撃波を放つ。ベクターはすかさず着地地点に槍を突き立てた。
「
衝撃波と槍から放たれる衝撃波で相殺されてしまった。
「影縫い!」
チャンス、と言わんばかりにラオは手を床につけ一時的にベクターの動きを止めた。
「あ?」
ベクターはさも気にせずいたが、
「炎の刻印よ、敵を薙ぎ払え!フラムルージュ!」
ノインの術が発動しベクターを襲う。しかし、
「あっつ。危ないなぁ…。糞が。お前らは眼中にねーってのに…」
術はよけられてしまった。
「ン!?術を強制的に解かれた!?」
ラオは自分の両手を見つめた。
「僕の術もかすっただけですか…」
ベクターは目をギョロりとアルスに向かって向けた。彼の目標はどうやらアルスのようだ。
「くっ…」
アルスは銃を構えると唇を噛んだ。ベクターはまたもやアルスに向かっていくが、
「おーっと?俺がいることを忘れてねーか?アンタ」
ガットはベクターに斬りかかった。
ガキィン!と刃同士が重なる音が響く。
「へー、なにその武器。なかなかオモシロイネ。でっかい剣だこと」
「へっ、褒めてもらうのは嬉しいがこの状況じゃあね…!」
ギリギリと刃の鈍い音がし攻防戦がしばらく続いたと思った矢先、二人は同時に離れ、
「
「
2人は己の武器を突きだした。またもやこれは相殺され、金属が擦れ合う音が響く。
「クソッ、やりやがったなテメエ…」
「うわ最悪。僕ちんの自慢の槍がぁ…」
ベクターは槍の先端を見つめた。
「ガット!どいてくださいな!」
「え?」
「パライオ!」
「うおおおおお!?」
ロダリアはライフルを変形させ、大きなバズーカにしてそれを構えたかと思うと強烈な一発撃ち込んだ。ズガガガガッと音をたてベクターに向かっていく。ガットはギリギリ避けたようだ。ベクターは一瞬で反応すると高いジャンプでそれを避けた。
「あら、避けられるとは。せっかくガットを囮がわりにしたというのに…」
「あっぶね!マジアブねー!!おいロダリア!」
「貴方なら避けられると私確信しておりました」
ロダリアの砲弾を避けたベクターはいよいよアルスと対峙した。ベクターは槍を振りかざし衝撃波を放つ。
「
とっさにアルスは防御体勢に移った。しかし、思ったより早い。
(ガードしきれるか────!?)
「危ないアルス!」
ルーシェが叫ぶ声が聞こえたかと思うとアルスの目の前にバリアーが出現しアルスを守った。見ると隣にはルーシェがアルスに向かって手をかざしている。乗組員の治療は素でに完了したようで戦闘に参加してくれている。
「邪魔ばっかりしがって…!」
「ルーシェ!助かった!」
「お前か!」
ベクターは標的を変えた。ルーシェである。
「えっ…」
「ルーシェ!」
アルスは急いで彼女を助けるために向かった。彼女が怪我をするのだけはごめんだ。
だが一直線にルーシェに向かってベクターは向かって行く────!
と、思われた。
「ウッソぴょーん。お前だよ」
「え…?」
ベクターはニィッと口角を上げ不気味に笑った。方向転換したベクターの槍がアルスの腹目掛けて一直線に突き立てられようとした
─────その時。
「ッサイラス!!!」
放心状態だったアルスにラオが突っ込んだ。間一髪の所で槍を避けたのだ。
しかしその瞬間、何か強い光が彼らを包み込んだ。
「んだこりゃ!?」
ベクターは驚きを隠せない。凄まじい光のエネルギーだ。ベクターは思わず怯む。
アルスはまたあの光景に襲われた。夢に見るあの様子とよく似ている。視界がぼやけ、工場のような所になった。そして誰かとラオの声が頭に響いた。途切れ途切れの声だ。
「へー、もうすぐ……もが産………るんダ!オメデトー!え、男の子?女の子?」
「あ……う、………子だよ。名前は…………ットっていう名前に………」
「今………来た…………はその……………って子も…………いでネ!早く…………たいヨ!」
「ああ、今度は…………も一緒にな、不………だな。お前と………は……はず……」
「僕会話…上手……ヨ!きっと……」
「はは、そうに……………いな。そうだ、言い忘……たけど…の正体は視察団幹部の1人じゃなくて……………」
そこで声は途切れた。視界もぼやけ、空が映った。そして、そのまま重力にともない甲板の床にドサッと叩きつけられる。
「青き生命の水よ、球体と化し彼の者を葬りされ!ラージハイドレード!」
「っ!?」
ノインは光に怯んだベクターに水属性の光術を放った。ベクターは水球の中に閉じ込められ海に放り投げ出された。ようやくベクターを撃退したのであった。
「よし!!」
ノインは武器であるビリヤードで使うキューをしまうと2人に駆け寄った。
「2人共!大丈夫ですか!?」
見ると、2人は無傷のようだがアルスの頬はラオに庇われ床に衝突した時だろう。頬が少しかすれ、血が滲んでいた。
「ン?ああ僕は大丈夫だヨ。アルスは?」
しかしアルスはそんなことは気にしていなかった。頭に手をやり、状況についていけず混乱する。
「何だ…、今の。またこれだ。ラオ!お前は俺に何をした!?」
「何をしたって、ヒドイなぁ。助けたんだヨ。僕がアルスを──」
「しかもサイラスって…………。サイラスってお前知っているのか!?」
アルスはラオの言葉を遮り、噛み付くように問う。
「え?え?何のこっちゃ?サイラスなんての言ったっけ?」
ラオは困惑した。
「言った!お前、何故その名前を知っている!?それにあの光景は……?」
「ゴメーン、僕必死すぎてサ、何言ったか覚えてないんだよネ。ほら無我夢中ってヤツ」
ラオは本当に覚えていなかった。しかし、アルスは信じられない。
「そんな事に騙されるか!大体貴方は…!うっ…」
アルスの言葉はそこで途切れた。両手で頭を抱え苦しみ出す。また例の頭痛だ。
「ぐっあ…!」
「…!アルス!大丈夫!?」
ルーシェも駆けつけ、彼の頭に手をやった。
「アララ?どうしたノ、アルス。頭痛いの?」
ラオもアルスの顔をのぞき込んだ。彼の額には汗がにじみ出ている。
「…っ分からない、くそっ、あのやつだ。大丈夫……だ…」
「ホントに?何かスゴい汗かいてるケド…?」
「また頭痛?前にもこんなことあったけど…」
ルーシェは訊ねた。しかしその直後アルスはまた苦しみ出す。
「うっぐぁ…!」
尋常ではない痛みが頭に流れる。何だ、何かが流れ込むこうな感じで波のように痛みがガンガンと押し寄せてくる。以前ラオと触れたときは視界だけが変わったが今度はご丁寧にに声まで聞こえた。それと同時にこの凄まじい頭痛。
アルスは痛みに耐えかね、ついに意識を失ってしまった。
ルーシェやラオ、ノインの声を遠くに聞こえながら。