テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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故郷へ

ルーシェはアルスが眠る船室に入った。彼はベットの上で静かに眠っていた。そう、あのベクターとの戦闘の時、ラオに助けられた直後、またあの例の頭痛に襲われたらしく、そのまま痛みで気絶してしまったのだ。

 

(でも、たかが頭痛で、こんなに痛がる事なんて…)

 

ルーシェは不思議に思っていた。確かに尋常ではない痛がり方で見ていたこちらがハラハラした。ルーシェはラオが助けた時に彼が頬を擦りむいていたのを思いだし、こうして船室に来たのであった。

 

「アルスー。って、起きてるワケないか」

 

ガチャリとドアを開け、中に入るが当然返事はない。

 

「ちょっと、顔見せてね」

 

ルーシェは彼の顔を覗き混んだ。頬の付近を擦りむいていた筈だ。

 

「あ、あれ?」

 

ルーシェは驚いた。頬の傷がないのだ。

 

「見間違えたのかなぁ…?」

 

ルーシェはアルスの顔から手を離すと椅子に座った。しばらく彼の顔を見ていると、

 

「う…ん…?」

 

「あ!アルス!目覚めたの!?」

 

「…、俺は一体…」

 

「大丈夫?どこか痛むところはない?あ、頭は平気?頭痛しない?」

 

ルーシェはアルスに近づくと体をペタペタと触った。

 

「だ、大丈夫だよ、ルーシェ…、ありがと…」

 

少々照れたアルスは慌てて手で制す。

 

「はぁ、よかったぁ。いきなり倒れるんだもん…。びっくりしちゃった…」

 

アルスは部屋を見回した。丸い窓の外には激しく水が打ち付けられていた。

 

「外、雨降っているのか?」

 

「あ、うん。アルスが気絶した後いきなり降りだして。ガットとラオさんが急いで運んでくれたんだよ。どしゃ降りだよ。船もすごく揺れてる」

 

彼女の言うとうり、船は左右に大きく降られ、時折雷の音が聞こえる。

 

「本当だ、しかし、よくある事なのか?」

 

「ううん、それが違うんだって。船長さん長い間やってるみたいだけどここ20年はこんな天気が頻繁にあるみたいだよ」

 

「20年?船長が若かった頃はなかったという事か?」

 

「うん。ロダリアさんは変化したのでは?言ってたけど船長は納得してないみたい。何か人為的な事なんじゃないかって言ってた」

 

「人為的?そんな馬鹿な。天候を誰かが操っているとでも言うのか?無理に決まってる」

 

「だよねぇ。私もそう思う」

 

ルーシェの発言と共に、部屋のドアが開きガットが入ってきた。

 

「お、目覚めたのか。大丈夫か?」

 

「ああ。世話をかけたな」

 

「まーた変な頭痛か?しかし気を失うとはねぇ…。しかもあのゾンビ野郎と何か関係ありそうだし…」

 

「俺も気になっているんだが、ラオは本当に覚えていないようだ。とぼけているだけかもしれないが」

 

ルーシェは唸り、顎に手を当てて言う。

 

「うーん、私はそうには見えなかったなぁ…。本当に知らなそうで、アルスに問い詰められて困ってたもん」

 

「一体何なんだろうな…」

 

会話が途切れると、船内放送が流れた。

 

「えー、お疲れ様でした。まもなくスターナー貿易島です」

 

「っと、中間に来たか…」

 

ガットの言葉にアルスは続けた。

 

「よし、船を降りよう」

 

 

 

船から降り船長に別れを告げると既に仲間の皆は降りていた。

 

「アルス君!目覚めたんだネ!」

 

「ああ、お礼を言っていませんでしたね。あの時はありがとうございました」

 

アルスは礼儀正しくラオにお辞儀をして感謝する。

 

「んな堅い事言わなくていいってー、無事で良かったヨー」

 

ラオは気にしていないようで。しかしアルスはまだ納得していない気になることがある。

 

「貴方、本当にサイラスという名前は知らないんですね?」

 

「サイラス?うん、知らない。誰?」

 

嘘をついて、とぼけている様子はない。アルスは溜息をついて「もうこの話はいいか」と、流した。

 

「…知らないならいいです。少し気になったので」

 

「ソウ?お役にたてなくてごめんネ?」

 

(あの光の正体も、ラオの術だったんだろうか…?人に幻覚を見せる術?いや、そんなのあっても、何の為に?)

 

アルスは記憶を辿り思い出しているとラオが言いにくそうに言った。

 

「えーと、でネ?まぁ〜、何と言うか。ボクの事はラオって呼び捨てにしていいヨ?ボクの方はタメ口だし、敬語もナシ!」

 

「え?どうしたんですかいきなり?」

 

「んーいや、まぁネ。なんか違和感あるんだよネ。さん付けだと。アルスは特に。だから、お願い。ネ?」

 

「分かった……ラオさん…、あ、いや、ラオ」

 

「うん!その方がしっくりくるヨ!」

 

「良かった……2人の仲が変なことにならなくて…」

 

ルーシェはあの出来事の後だから険悪な関係になるのでは、と不安を抱いていたが大丈夫だったようだ。「話は終わったようですわね」と、アルスは背後から話しかけられた。

 

「で?ここからは貴方の出番ですわ、皇子様?」

 

「ロダリアさん…。いつからそこに…」

 

アルスはいつのまにか背後に立っていたロダリアに驚いた。

 

「あらおかしいですわね?私はずっとここに居ましたわよ?」

 

「そうですか、失礼しました」

 

「貴方の事が心配で心配で、堪りませんでしたわ」

 

アルスは本当かよ……と、思いつつも礼を言う。

 

「お気遣いどうもありがとうございます。で、船の手配ですよね…」

 

「ええ、お願いしますわ」

 

「分かりました。皆を集めて付いてきて下さい。俺に考えがあります。上手くいくといいが……」

 

 

 

ふぅっと息を吐き、自分を落ち着かせた。

 

(面倒な事にならず、上手くいってくれよ……?)

 

覚悟を決めると、アルスはスヴィエート地区港の軍人に話しかけた。

 

「すまない、スヴィエートまでの船を手配してほしい」

 

「何だ貴様は?」

 

軍人は訝しげに答えた。

 

「俺はアルエンス・フレーリット・レックス・スヴィエートだ。俺の身柄はスヴィエート皇族が保証する」

 

「はぁ!?ア、アルエンス様だと…!?嘘をつくな!殿下は死亡したはず…!っ!?だが……言われてみれば確かに…、読んだ新聞記事の写真と……」

 

軍人は酷く驚いた顔をしたが、アルスの顔を見ると顔色を変えていった。

 

「俺は生きてる。あれはデマだ。信じられないと言うならこの時計を見ろ」

 

アルスのは懐中時計を差し出した。出張で出かけた時から持っている物だ。古く、年期が入っているが蓋にはスヴィエートの国花、セルドレアの花が青く美しく装飾されている。このように、神聖な国花を身に付けたり、持てるのはスヴィエート皇族のみなのだ。アルスはそれを利用した。スヴィエート人でこれを知らない人はいない。軍人ならなおさらだ。

 

「こ、これは8代皇帝フレーリット様が持っていた…!」

 

8代皇帝フレーリット。アルスの名前にも入っているそれは、自分の父親の名前だった。アルスはその言葉を聞き少し眉を潜めたが、

 

「………そうゆう事だ」

 

と、言った。

 

「わ、分かりました。少々お待ちください…!」

 

スヴィエート兵士は小走りでその場から移動する。その様子を見たガットは感心した。

 

「へぇ、本当に皇子なんだな。凄いわ、いやホント」

 

「これで恐らく大丈夫だろう」

 

「これがうまくけば、いよいよスヴィエートに行くんだね…」

 

ルーシェは不安げな表情を浮かべた。

 

「ああ、ルーシェは何も心配しなくていい。俺が君を守る」

 

「うん…。あの力の事だよね…」

 

あの力、治癒術の事だ。

 

「ああ、だから極力俺達以外の前では力は使わないように、いいな?」

 

「うん、分かってる……!」

 

しばらくして先程の軍人が上司らしき人を連れて戻ってきた。

 

「おぉ、そのお姿……!まさしく貴方はあのスヴィエートの英雄、フレーリット様の息子、アルエンス様!よくぞご無事で…、お喜び申し上げます」

 

この軍人はアルスの姿を確認した途端、スヴィエート式の最上級の敬礼をした。しかし、また出されたその名前にアルスは少し不機嫌になった。

 

"フレーリットの息子"

 

自分を語られる時は必ず父の名前が出される。もはや恒例だ。もう慣れたが。

 

「今すぐ本国へ帰還したい。船を手配しろ」

 

「御意。ただちに用意させます」

 

「殿下、先程の御無礼をお許し下さい。申し訳ありませんでした!」

 

最初に話しかけた軍人がアルスに謝る。

 

「別に、気にしてない」

 

フイっと顔を背けぶっきらぼうに言う。しかし言い終わって少し後悔した。彼は自分のこの勝手な事情など知るはずもなく。真摯に謝る彼に対して露骨というか、態度が機嫌にあらわれ過ぎた。

 

「大丈夫、そんなの些細な事だ。心配しないで下さい。案内してもらえますか」

 

「はい!ありがとうございます…」

 

軍人は心底安心した表情を見せるとアルス達を船へと案内した。

 

「はぁー、スゴイ権力…。流石ですねぇ…」

 

「ホントに皇子だったのかアイツ…」

 

ノインとフィルは彼の絶大な権力に舌を巻いた。

 

 

 

翌日、船は首都の入り口、オーフェンジーク港へ到着した。船を降りると冷たい冷気が漂っていた。空からはしきりに白い雪が降っていて、吐く息は真っ白だ。

 

(ああ、スヴィエートだ…)

 

アルスはしみじみと実感した。この銀景色、白い雪、吐息の色。3国の中で最も気温の低い国、スヴィエートである。

 

「さっむ!!!」

 

「はぁっ…、スゴイ寒さですわね…」

 

凍えるフィルを横目にロダリアは腕をさすった。

 

「かっ、風が。風に斬られてるような気分です…」

 

ノインも体を震わせている。

 

「うひぃ、この寒さ。昔を思い出すねぇ…」

 

ガットは手を額にやり空を仰ぎ見ながら小声で言った。

 

「寒いネー」

 

「お前ホントに寒さ感じてるのかよ…?」

 

「感じてるよ、タブン…」

 

「嘘くさ…」

 

アルスはその仲間達をを見た。スヴィエート出身ではない人は皆こんな反応なのだ。実に新鮮な気分だ。アルスは軍人にまた命令を下した。

 

「すまない。全員分、何か羽織るものを用意してくれないか。この人達は俺を助けてくれた人達なんだ」

 

「御意。マントでよろしいでしょうか?」

 

「ああ、かまわない」

 

「かしこまりました。馬車を用意してあります。こちらへ」

 

 

 

馬車は城の前で停車するようだ。流れる懐かしの故郷の景色、頬杖をつきオーフェングライスの街並みを眺めながらアルスは思いにふけった。

 

(ここまで来るのに色んな事があったな……)

 

いつの間にかこんなに仲間が増えた。自分の気持ちに新たな感情が生まれた。仲間を大切に思う気持ち、だ。だが、それでいて、まだ信頼できない人物も少なからずはいるということ。

 

(この旅が、終わるのか?)

 

何を、考えていたいるんだ俺は。あの日常に戻るだけ。ただ、それだけだ。でもこの気持ちはきっと、"寂しい" そうゆう感情なのだろう。

 

アルスはそこで思考を停止した。馬車が止まったのだ。到着したようだった。


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