テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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セルドレアの花と、平和条約

ルーシェは部屋を飛び出し、必死に走った。

 

(そうだ、女将、女将の所へ行こう。私の事を心配してるはず!)

 

だが、城は広く、ルーシェ達が待機していた部屋は1階だったが、どうやって外に出られるかも分からず迷ってしまった。適当に外に出る扉だと思い開けてみると、そこは中庭だった。

 

スヴィエート独特の明るい夜。雪が少し降っていた。月明かりは中庭を照らし、彼女の目に大きな花壇が入った。そこにはスヴィエート国花のセルドレアの花が青く、美しく咲き誇っていた。

 

「綺麗…………」

 

ルーシェは思わず息をのみ見とれた。凛として咲き、それはまるで花でできた青く澄み渡る海だ。

 

「ルーシェ!!」

 

ルーシェはびくりとした。アルスの声だ。

 

「ア、アルス…」

 

ルーシェが振り替えると、黒い戴冠式の衣装のままのアルスがいた。あの後そのまま追いかけてきたのだろう。

 

「はぁ、一体どうしたんた。いきなり飛び出すなんて…」

 

アルスは息を整えると、服装の乱れを直した。

 

「ごめんね、アルス…。やっぱり、私は一緒には行けないよ…」

 

「え…」

 

アルスはその言葉に目の前が真っ白になった。何故だ、彼女は今まで一緒に付いてきてくれたではないか。

 

「私、考えたの。私のこの治癒の力、これのせいでアルス達をまた危険に巻き込むんじゃないかって…、それに治癒の力を持つ者、皇族に関わるとろくな目に合わないって昔女将が言ってたの」

 

「…、だから俺達と一緒に行けないと?」

 

「うん、迷惑はかけたくないの。だから、私…」

 

アルスは溜め息をついた。吐いた息が真っ白になって風に乗る。

 

「はぁ~…、何かと思えばそんなことか…」

 

「そ、そんな事って…!」

 

「前にも同じような事があったな。あれは俺とルーシェとガットがエルゼ港行きの船に乗った時か」

 

「えっ?」

 

「そんな事だ。いいか?今の台詞、あの船での出来事と似ている。立場が逆になっただけだ。いいか、その力は確かに命を狙われるかもしれない。だが、その力のお陰で皆の傷が治せるし、事実俺は君に命を救われた。ガットの腕を治したのも君だ。そんな君の治癒の力どうこうしようなんて、絶対に俺はしない。むしろ皇帝になったのならそれを防ぐ事もできる。つまり、もうルーシェは俺達になくてはならない存在って事だ」

 

「…それって私の力が必要って事?」

 

ルーシェは恐る恐る聞いた。そうであって欲しい。そう期待したからこそ、聞いたのだ。

 

「そうだ。あ、いや。個人的に一緒にまた付いてきて欲しいってのも…。いやいや、何言ってるんだ俺は。つつっ、つまり、ルーシェは俺達の仲間というか、かかせないというか」

 

アルスは自分の大胆な発言に修正を入れたが、吃りはじめる。

 

「ホントにいいの…?信じていいの?」

 

「勿論。じゃあ命令しようか。俺と一緒に来いルーシェ。皇帝勅命だ」

 

アルスはルーシェにビシッと指を指して言った。ルーシェは彼の予想外の行動に思わず笑った。

 

「っぷ、ナニソレ!?似合わない~!アハハハ!」

 

「お、おい!笑うなっ!」

 

アルスは急に恥ずかしくなり顔を真っ赤にさせて言った。

 

「ありがと!アルス!な~んか悩んでたのが馬鹿馬鹿しくなってきちゃった!アルスの今の行動見たら」

 

「……それって、遠回しに俺の今の行動が馬鹿っぽかったと言いたいのか?」

 

「あはは!そうとも言うかも!」

 

「ぐぅ、失礼な…。皇帝になったんだぞ!俺は…!」

 

別にこうからかわれても嫌な気がしないのは、きっと彼女だからだろう。

 

「無理に皇帝になりきらなくてもいいんじゃない?アルスはアルスらしく。その方が息も詰まらないし、楽でしょ?」

 

ルーシェはお見通し、と言うように笑った。

 

「う…む、そうだな…」

 

「…でも、励ましてくれたってのは分かったよ!全然馬鹿っぽくないし、むしろかっこよかった!それに…、嬉しかったよ!」

 

「え、そ、そう?」

 

アルスは心底ホッとした。彼女はきっとこう言いたいのだろう。アルスなりだけど、励ましてくれて、一緒に来てくれ、と言ってくれてありがとう、と。

 

「えーと、じゃあ。一緒に来てくれるのか?ルーシェ」

 

「うん!皇帝勅命だもんね!」

 

ルーシェはにやける口元を手で押さえながら言った。

 

「だから、別にあれは冗談で言っただけで…!」

 

「分かってるって!アルスとまた旅が出来るのは嬉しいよ!私個人としても」

 

「そ、それは…良かった」

 

アルスは顔が熱くなるのが分かり、目をそらして返事をした。

 

「それにしても、綺麗だね。このセルドレアの花」

 

中庭にそよ風が吹きこみ、ルーシェは髪の毛を抑えつつ、アルスに微笑みかける。月夜に照らされた彼女の笑顔が眩しい。

 

「………あぁ……………」

 

アルスは思わず見とれて、生返事する。そしてふと、ルーシェの手を握った。

 

「……?アルス?」

 

「ルーシェ。俺は、君の事が────」

 

その時強い風が吹き、青い花片が空に舞った。ザァッとそれは吹き荒れ、幻想的な雰囲気が2人を包み込んだ。アルスは風に煽られて、ハッとした。

 

「………っさぁ!戻ろう!ここは冷える」

 

「うん?そうだね、そろそろ戻ろっか!」

 

パッと手を離し、照れながらアルスは後ろを向いた。今の自分の顔は最高に赤い。

 

そしてセルドレアが咲く花壇を抜け2人は各々の部屋へと戻ったのだった。

 

 

 

そして翌日。

 

「アルエンス様~、朝ですよ」

 

「う、ぐ…」

 

シャッとカーテンを開ける音が耳に入る。そしてマーシャの声だ。コーヒーの匂いが鼻をかすめた。アルスは重たい体を起こした。

 

「おはよう…」

 

ああ、日常だった頃の朝だ。

 

「おはようございます、陛下。さぁ朝食を取って。ご友人達も一緒ですよ、貴方様の命令通りに」

 

「分かった。コーヒー飲んだら行く」

 

「かしこまりました」

 

アルスは目覚めのコーヒーを飲むと顔を洗い衣服に着替えた。昨日ラオが、「朝食どんなものかなー!アルスも一緒に食べるんだよネ!?」と、さも当たり前のように元気はつらつにアルスに言った為アルスは仕方なく許可したのだ。

 

(本来は1人で取るものなんだが…)

 

少し肌寒い。アルスは腕をさすりながら支度を始めた。

 

 

 

「おはよう」

 

「よう、アルス。おはよ。昨日の説得はうまく言ったようだな。ルーシェの様子を見る限り」

 

ガットはにやにやしながらアルスに言った。ルーシェはフィルとあやとりをしながら遊んでいた。彼女はフィルと一緒に笑っている。

 

「ああ。…何にやついてる?気持ち悪い…」

 

「別にぃ~?で?どうすんだこれから」

 

「それは食後に説明する。まずは朝食だ」

 

「だな、俺様賛成。めちゃめちゃ料理うまそうだし」

 

広間には仲間全員が集まっていた。料理が運び込まれ皆席につく。ラオは異常な程の食欲で、おかわりを何度も所望していた。

 

「はぁ~、ゴチソウサマ!美味しかった~」

 

「食い過ぎたお前。どんだけ燃費悪いんだよ。流石はゾンビだな」

 

「ガットはボクよりもう少し食べた方がいいんじゃない?ホラ、ただでさえ脳筋なんだから頭の回転が遅くなるよ?しっかり朝食食べないと」

 

「オイ、喧嘩売ってんのかテメェ」

 

「短気は損気だヨー」

 

あの2人を隣に座らせるんじゃなかった。とアルスは後悔した。他のメンバーは朝食の美味しさに満足したようだ。

 

「さて、皆。これからの行動についてなんだが」

 

「ああ、確かロピアスに向かうのでしたわよね?」

 

ロダリアが口元をナプキンで吹きながら言った。

 

「そうだ。俺はこの通り生きてる。そして鉄道爆破事件もリザーガによるものだと言うことだ。俺の暗殺を企てた奴らもな。以上のことを踏まえると戦争を起こす意味がない。起こした所でアジェスやリザーガが独り勝ちするだけだ。それに、俺は戦争など断固反対だ」

 

「あら?珍しいですわね?スヴィエートと言えば戦争というイメージが強いのですけれど?私」

 

「フン、貴方の母国も言えた事じゃないだろう。ロダリアさん」

 

アルスは机の上に両手を組み、そこに顔を乗せるとロダリアを睨んだ。

 

「…そうでしたわね。戦争ですか…、あまりいい思い出はありませんねぇ。いい思い出もありますが」

 

「戦争でいい思い出なんかあっていい訳ありませんよ。何言ってるんですか貴方」

 

ノインは少々怒った様子でロダリアに言った。

 

「あら、失言でしたわね。ごめんなさい?」

 

「僕に謝られても…。ただ、戦争など絶対に良いわけがない。それは僕もアルスと同じです」

 

ガットも頷いた。

 

「そうだな、戦争なんて起こったら暮らしにくくてしょうがないもんな。仕事つーか、生活すらままならねぇ」

 

その様子を見たフィルも話に乗る。

 

「センソーは恐ろしいのだな、うむ」

 

「そうだよ、フィルちゃんは経験しなくていいんだから。私も経験したくないけど…」

 

ルーシェが言った。

 

「戦争を止めるために、そしてロピアスと平和条約を結ぶために、俺は今から動く。昨日、直筆で親書を作成した。ロピアスにも連絡はしてある。この親書をこれから届けに行く。俺の手でだ」

 

アルスは親書に結んである紐を解くと皆に見せた。

 

「なるほどな。俺らはその護衛ね。でもいいのか?普通そーゆうのって専門の護衛がいるもんじゃないのか?」

 

ガットは食後のデザートのプリンを食べながら言った。

 

「生憎俺は皇帝になったばかりで、皇帝を守る軍の特殊部隊の親衛隊とは顔馴染みじゃないんだ。それに緊張状態が続くロピアスだ。それを刺激するような親衛隊という本格的なスヴィエート軍は連れていくべきではない。罠と疑われても可笑しくないからな。無論ロピアスも最大限に警戒体制を取るはずだ。そこで、ロダリアさんが必要になる」

 

ロダリアはその意味が分かったようだ。

 

「なるほど、私は利用されるのですわね?貴方の外交に」

 

アルスはくすりと笑った。

 

「利用なんて、人聞きの悪い。交渉任として適役だと思っただけですよ。それに、貴方は国から鉄道爆破事件調査の依頼が来るほど信頼されている人物だった。俺の見る限り余程の情報を知っていると見る。それこそロピアスの極秘事項なんてものも、ね」

 

「まぁ、そんなに観察されていたなんて。コメントは差し控えさせてもらいますが。ふふふ、さしずめ私は捕虜と言った立場になるのかしら?」

 

「俺についていきたいと言ったのはロダリアさんの方だ。文句はないでしょう?それに、こうゆうの、お好きじゃないんですか?」

 

アルスはロダリアを一瞥した。

 

「ええ、大好きですわよ?だって、面白そうじゃないですか。捕虜ですか…、スヴィエート式拷問とかされてしまうのかしら。情報を吐かせる為に。恐ろしいですわぁ~」

 

扇子を口元に当て、クスリとロダリアは笑った。そのおちょくるような態度と目にアルスは苛ついた。思わず彼女を睨み付ける。自分は舐められているのだ、彼女に。だがアルスは毅然と、冷静な態度で接した。

 

「……冗談はよしてください。しませんよそんな事。貴方にそんな事をすればロピアスに対しての挑発行動以外の何物でもない」

 

「ふっ、なら拷問した後私を殺せばいい話だと思うのですが。情報は引き出せるし、ロピアスの弱点を知って和平を交渉しようとして奇襲など。寝首をかく事なんてもできますわよ?逆の立場としてもね…。私が貴方を殺す…とか」

 

ロダリアはその金色の瞳でアルスの銀色の瞳を見た。不穏な空気が2人の間に漂っている。

 

「………何が言いたいんですか?戦争が起これば貴方にとって暮らしにくい事この上ないと思うのですが。氷石を探すに至っても、カヤを探すに至っても。それとも、戦争を起こしたいんですか?俺にはそう聞こえますが。ただいつもの冗談ならやめていただきたいですね」

 

アルスはキッとロダリアを睨んだ。

 

「……戦争を起こしたい…ね。いやですわ陛下?私も戦争なんて起こしたくありませんわ。貴方の言う通り、住みにくくなりますからねぇ。私はだだ…」

 

ロダリアの発言がきれた。どこか遠い目で、その目は笑っているのか、そうでないのかは分からなかった。ただ黙っている。

 

「なんか、やーな雰囲気だネ、仲良く行こーヨ」

 

ラオは場の空気を和ませる為やれやれ、と手をお手上げ状態にし明るい声で言った。

 

「…そうだな。ラオの言う通りだ」

 

アルスはロダリアから視線を外すと、親書に紐を結び直した。

 

「師匠?どうしたのだ?」

 

フィルはロダリアの顔を覗き込んだ。

 

「あら、ごめんなさい。フィル。何でもないですわ」

 

「本当か?大丈夫か?」

 

「大丈夫ですわよ。ご心配有難う」

 

「そうか?ならいいが…」

 

フィルはそう言うと席に深く座りプリンを美味しそうに頬張った。

 

「船はもう用意してある。今から港に行くぞ。皆、準備してくれ。昨日の内に済ませたと思うが、もう一度確認するように」

 

「へーい」

 

「はーい」

 

「ほーい」

 

「了解しました」

 

「うぃーっ、あ!お菓子お菓子!お菓子の準備をせねば!」

 

「フィルちゃん…、遠足じゃないんだから…」

 

ガット、ルーシェ、ラオ、ノイン、フィル、皆それぞれ部屋を後にする。ロダリアが最後だ。アルスはロダリアが1人になったのを確認すると厳しい口調で警告した。

 

「…、貴方が私の立場を理解していないとは思いませんが、一応言っておきます」

 

「あら?何でしょうか?」

 

「口を謹め。先程の発言は貴方にとっては本当にただの冗談か?それか、自らの立場の確認か?本当に戦争を起こしたいとも思える挑発行為だ。それも、スヴィエート皇帝に対してな。貴方の立場はロピアス代表ではないでしょう?あまり自分の首を絞めるような事はしない方がいい。今、貴方の目の前にいるのは仲間であるアルスと同時に、スヴィエート皇帝だ。ロダリア、あまり俺を舐めるなよ」

 

アルスはギロリと彼女を睨んだ。始めてアルスはロダリアを呼び捨てにした。微妙な空間の間隔が2人の間にはある。静かにアルスは怒りをロダリアにぶつけた。

 

「肝に命じておきますわ。陛下?ふふ、怖いですわね。そんなに睨まなくても、私は貴方を殺したりしませんよ。ふぅ、全くロピアスとスヴィエートは相変わらず難しいですわね。先程は失礼いたしましたわ。私のお力でよければ協力いたします。本当ですわよ?」

 

ロダリアは早口で言った。

 

「…その言葉が聞きたかったんですよ。よろしくお願いしますね、平和条約の為に。それに、両国の利益の為にも…。リザーガ等に世界の覇権を握らせたくないでしょう?」

 

「……そうですわね。さて、私も皆と合流しますわ、では」

 

そう言うとロダリアは部屋を出ていった。


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